駿府茶蔵スプリット――結花、茶箱の隙間を撃ち抜く
静岡市駿河区。
県都・静岡市の中心部にほど近く、駿府城公園や官公庁、商業地、住宅地がまとまりよく広がる、まさに静岡の心臓部である。山も海も近く、どこか落ち着いた空気が流れる街。さらに東へ向かえば清水区。港町として栄え、サッカーの街として知られ、国民的アニメの舞台としても親しまれている、明るく人情味のあるエリアだ。
杉山ひかりは、いつもより少し声が弾んでいた。
「駿河区は静岡の中心で、落ち着いとって暮らしやすいんです。清水は港があって、サッカーの街で、昔から人もあったかいんですよ。今日は、静岡のいいところ、いっぱい見てってくださいね」
穏やかな駿河弁。
けれど、言葉の奥には珍しく熱があった。
この日のイベントは、静岡茶のPRイベント。
会場では、ひかりが茶葉の香り、湯温、甘みと渋みの違いを丁寧に説明していた。
「静岡茶は、ただ苦いだけじゃないんです。香りがあって、あとから甘みが来るんですよ。急がず、ゆっくり味わってほしいです」
みのりは隣で微笑む。
「ひかり、今日はいつもより饒舌だね」
「地元だから、ちゃんと伝えたいんです」
結花も上品に頷いた。
「まあ、素晴らしい情熱ですわ。那須の高原紅茶も負けておりませんけれど」
小春がすかさず突っ込む。
「上品に張り合うなよ」
澪は茶まんじゅうを見つめていた。
「……お茶、まんじゅうに合う」
沙羅は優雅に茶を飲む。
「悪くありませんね。都会の午後にも合います」
エミリーは外国人観光客に英語で説明し、美音は清水港へ向かう物流ルートの話に妙に食いついていた。
イベント後、一行は駿府城公園近くで静岡茶を飲みながら談笑していた。
その時、小春の目が鋭くなる。
「……あいつら、変だな」
茶問屋の関係者に紛れた男たちが、箱の搬出経路を不自然に確認していた。小春はすぐにすみれコーチへ連絡。情報を照合すると、ジェネラス・リンク工作員が茶箱に小型通信装置を隠し、清水港へ運び出そうとしている可能性が高いと分かった。
ひかりの顔が静かに曇る。
「静岡のお茶を、そんなことに使わないでほしいです」
みのりが手を握る。
「ひかり、大丈夫。止めよう」
清水港へ向かうため、一行は地元の有力物流企業の協力車両に分乗した。港湾、倉庫、輸送で静岡を支えてきた名門企業の車両である。美音だけは自身の大型二輪で先行した。
「港への道は私が見ます」
清水港の倉庫街。
海風が吹き、クレーンとコンテナが並ぶ中、工作員たちは茶箱を積み替えようとしていた。
最初に動いたのは美音だった。大型二輪で倉庫前へ滑り込み、逃走車両の前を塞ぐ。
「ここから先は通しません」
続いてエミリーが外国人作業員に紛れた工作員を英語で撹乱する。
「Wrong gate. Wrong cargo. And very wrong plan.」
一瞬の隙を突き、グレースフォースが動いた。
みのりが全体を読む。
「ひかり、左を閉じて。茶箱の列を使えば中央へ流せる」
ひかりは頷く。
「分かった。みのり、合わせるね」
二人の動きは美しいほど息が合っていた。
小春は裏口へ回り、威勢よく逃走路を塞ぐ。
「そっちは行き止まりだ!」
沙羅は観光案内のような涼しい顔で、関係者を安全な側へ誘導する。
「皆さん、こちらへ。危ないので少しお下がりください」
澪は茶箱の間に立って、ぼーっと言う。
「……そっち通れないよ」
ただそれだけ。
しかし、なぜか工作員は本当に通れない。
小春が笑う。
「澪、やる気なさそうなのに効いてるな」
そして最後。
結花が前へ出た。
倉庫内には茶箱が規則的に並ぶ。通路は狭く、敵は左右に分かれて逃げようとしている。普通なら投てきには難しい配置。
だが、結花の目にはそれがレーンに見えていた。
「まあ……これは難しいスプリットですわね」
茶箱の角。
床の傾き。
金具の位置。
敵の足運び。
すべてを読む。
「拾えますわ」
結花は低く踏み込み、制圧球を放つ。
球は茶箱の隙間を抜け、右側の金具に当たって角度を変え、一人目の足元を崩す。さらに反射した球は、反対側へ逃げた二人目の進路を塞いだ。
「まず一本」
最後の敵が奥へ逃げる。
みのりとひかりが同時に追い込み、結花の二投目のラインを作る。
ひかりが叫ぶ。
「結花さん、お願いします!」
結花は上品に微笑む。
「承知いたしました」
二投目。
球は茶箱の脚元をかすめ、鋭く曲がり、最後の工作員の足元へ滑り込む。
完全制圧。
「スペアメイク、完了ですわ」
任務後、清水港の岸壁で、一行は海を眺めていた。
ひかりはみのりと手を取り合い、結花へ深く頭を下げる。
「結花さん、ありがとうございます。静岡のお茶を守ってくれて」
みのりも続ける。
「グレースフォースだけでは、あの角度は拾えませんでした」
結花は潮風に髪をなびかせ、優雅に微笑んだ。
「お二人が美しいレーンを作ってくださったからですわ」
澪は茶まんじゅうを食べながら呟く。
「……お茶、守れてよかった」
小春が突っ込む。
「お前は最後まで食ってるな」
ひかりは笑った。
静岡の茶、清水の港、仲間の連携。
駿府茶蔵スプリットは、美しく、少し騒がしく、完璧に決まった。




