表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
977/1043

房総の風は曲げて倒す――鴨川港、ストライク令嬢と千葉愛暴走グレースフォース

千葉県鴨川市。


太平洋を望む南房総の観光都市であり、海、山、温暖な気候、新鮮な魚介、そして全国的に有名な大型水族館を抱える、千葉県屈指の観光地である。海岸線は明るく、港には潮の匂いがあり、観光客の足取りまでどこか軽い。


この日、鴨川港では海産物イベントが開かれていた。


参加する戦隊ヒロインは、塩原結花、館山みのり・杉山ひかりのグレースフォース、月島小春、森川美里、水無瀬澪、金城伊織、高城彩芽。


特にみのりは、地元千葉でのイベントだけに朝から鼻息が荒かった。


「皆さん、ここが鴨川です。南房総の海、観光、水族館、海産物。千葉県の魅力が凝縮されています」


ひかりが笑う。


「みのり、もう演説始まってるよ」


「まだ序章です」


千葉県流山市出身の美里も、いつも以上に華やかだった。イベントコンパニオンとして完璧な笑顔で来場者を迎える。


「本日は鴨川の海の幸を楽しんでいってくださいね。千葉は本当に良いところですから」


小春が呆れる。


「千葉勢、圧が強ぇな」


結花も上品に微笑む。


「海の景色は素晴らしいですわね。ただ、那須高原の爽やかな風も負けておりませんの」


ひかりも静かに参戦する。


「静岡も海と山がありますよ。富士山もありますし」


みのりの目が光る。


「富士山は認めます。でも房総の海風も唯一無二です」


澪はぼーっとしていた。


「……何の勝負?」


彩芽も首をかしげる。


「県の強さ比べだべか?」


伊織がため息をつく。


「任務前から脱線しないでください」


イベントは大盛況だった。


みのりは地元代表のような勢いで鴨川を紹介し、ひかりは柔らかく進行を支え、美里は抜群の笑顔で客を引き寄せる。結花は海産物を上品に食レポした。


「脂の乗りが大変上品ですわ。潮の香りがふわりと広がりますの」


澪は試食コーナーでアジを食べていた。


「……おいしい」


小春が突っ込む。


「それしか言ってねぇけど、妙に説得力あるな」


イベント後、一行は休憩所で南房総名物のびわゼリーを食べることになった。


みのりはここでも止まらない。


「南房総はびわの産地としても有名です。温暖な気候、海からの風、山の斜面。これが上品な甘みを生むんです」


澪は一口食べる。


「……おいしい。ぷるぷる」


彩芽も感動する。


「これ、果物の温泉みたいだべさ!」


伊織が首を傾げる。


「意味は分かりませんが、美味しいのは分かります」


結花は上品に頷く。


「爽やかな甘みですわね。那須の乳製品とも合いそうですの」


みのりが即座に反応する。


「千葉のびわです。まず千葉単体で褒めてください」


ひかりが笑う。


「みのり、細かい」


その時だった。


伊織の表情が変わった。


港の冷蔵コンテナの陰。

荷役作業員のように見える男たちが、同じ場所を不自然に行き来している。荷物を見る目ではない。通路と通信設備を確認している。


伊織は静かに言った。


「……怪しいですね」


小春がすぐ反応する。


「どれだ?」


「右奥の三人です。観光客でも作業員でもありません」


みのりの顔が一気に引き締まった。


「千葉で妙な真似はさせません」


ひかりも隣で頷く。


「みのり、行こう」


美里は笑顔を消さずに観客を誘導する。


「皆さん、こちらで試食の続きがありますよ」


自然に人の流れを安全側へ逃がした。イベントコンパニオンとしての経験が生きる。


ジェネラス・リンクの工作員たちは気づかれたと悟り、港から海岸沿いへ逃走を始めた。


みのりが即座に指揮を執る。


「小春さんは右から。伊織さんは中央。彩芽さんは前に出すぎないで。澪ちゃんは……見ていてください」


澪は頷く。


「……見てる」


小春が笑う。


「扱い雑だけど、まあ澪はそれで役に立つからな」


彩芽は走り出そうとする。


「捕まえるべさ!」


伊織が制止する。


「待ちなさい。みのりさんの指示を聞いてください」


「また止められたべ!」


「毎度のことです」


海岸沿いへ追い込まれた工作員たちは、潮風の強い道へ逃げ込む。濡れた舗装、砂、低い防波堤。普通なら足場が悪く、追跡には向かない。


しかし、結花にとっては違った。


結花は一歩前へ出る。


「少々、風の強いレーンですわね」


潮風が、艶やかな長い黒髪を揺らす。


「けんど、読めねぇほどじゃございません」


みのりが振り返る。


「結花さん、お願いします」


ひかりも微笑む。


「結花さんなら、曲げられます」


結花は制圧球を構えた。


海風。

砂の流れ。

路面の湿り。

敵の足幅。

逃げる角度。


すべてを読む。


低い助走。

美しい踏み込み。

そして、しなやかなリリース。


放たれた球は、風を受けながらわずかに曲がった。まるで房総の海風そのものを味方につけたように、滑るように敵の足元へ向かう。


一人目が転倒。


二人目が避けようとして防波堤側へ逃げる。

だが、球は防波堤の縁で角度を変え、その足元を崩した。


最後の一人は小春が追い込み、伊織が退路を塞ぐ。


結花は二投目を手にする。


「残りピン、一本。きちんと拾いますわ」


球が低く走り、最後の工作員の逃げ道を断った。


完全制圧。


海岸に静けさが戻る。

聞こえるのは潮騒だけだった。


みのりは大きく息を吐いた。


「南房総の平和は守られました」


そして、結花へ深く頭を下げる。


「ありがとうございます。愛する千葉を守ってくれて」


結花は潮風に艶々の長い黒髪をなびかせ、上品に微笑んだ。


「当然のことしたまでですわ」


美里が拍手する。


「今の、すごく絵になってました」


澪はびわゼリーの容器を持ったまま言う。


「……映画みたい」


彩芽も目を輝かせる。


「結花さん、球が海風で曲がったべさ!」


小春は笑う。


「房総ライン、ほんとに曲がりすぎだな」


ひかりはみのりの隣で微笑む。


「よかったね、みのり」


みのりは少し照れながらも、胸を張った。


「はい。千葉は今日も美しいです」


その日の鴨川港は、海産物イベントとしても、戦隊ヒロインの任務としても大成功だった。


そして観光客の間では、しばらくこう語られることになる。


「鴨川で見たんだよ。潮風に髪をなびかせたボウリング令嬢が、海風で球を曲げて敵を倒したんだ」


房総の海は穏やかだった。

だが、その日の潮風は確かに、結花の味方をした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ