那須塩原のストライク令嬢――塩原結花、ピンも敵もまとめて倒す
栃木県那須塩原市出身の塩原結花は、戦隊ヒロインの中でもかなり異色だった。
地元リゾート会社の令嬢。
上品なお嬢様言葉。
しかし、気を抜くと栃木弁が混じる。
さらに肩書きは、現役女子プロボウラー兼戦隊ヒロイン。
同期の山口唯奈は、隣県・茨城県出身。ドリームトラクター蒼牙2000・改を自在に操る豪快なドライバー型ヒロインとして、現場でもイベントでも目立っていた。
一方の結花は、当初かなり地味だった。
乗馬とスキーで鍛えた足腰は強い。
体幹も良い。
集中力もある。
ただ、戦隊ヒロインとして何を武器にするのかが見えなかった。
そこで助言したのが、るみねぇだった。
「結花ちゃんよ、あんた足腰しっかりしてっぺ? だったらボウリング、やってみっせ。体の軸がぶれねぇ人は、球筋もぶれねぇんだわ」
結花は上品に微笑んだ。
「まあ、ボウリングですの? 少々、庶民的ではございますけれど……面白そうですわね」
「庶民的とか言ってっと、ピンに笑われっぞ」
るみねぇの浜通り訛り混じりの助言を、結花はなぜか真に受けた。
そして、深夜の低視聴率番組**『スーパースターボウリング』**に出演した日、事件が起きる。
誰も期待していなかった。
番組スタッフも、戦隊ヒロインの話題性目当てだった。
ところが結花は、静かに立ち、流れるように助走し、第一投目からストライク。
二投目もストライク。
三投目もストライク。
解説者がざわつき、眠そうだった司会者が目を覚まし、深夜の視聴者がSNSで騒ぎ始める。
そして最終フレーム。
結花は涼しい顔で言った。
「レーンが少し荒れてまいりましたわ。でも、那須塩原の雪道よりは読みやすいですの」
最後の一投。
十本のピンが、乾いた音で弾け飛んだ。
パーフェクト。
翌朝、世間は騒然となった。
「戦隊ヒロイン令嬢、深夜番組で300点」
「那須塩原のストライク令嬢、誕生」
そこから一気に流れが変わる。
結花はプロテストに合格。
現役女子プロボウラーとして活動を始める。
さらに、高原のそよ風のような爽やかな容姿が注目され、シャンプーCMにも起用された。
CMでは、風に髪をなびかせながら、結花が微笑む。
「投げるたび、髪まで軽やかに」
世間では彼女を**「さわやか結花さん」**と呼ぶようになった。
イベントステージでは、名物企画が生まれる。
「結花お嬢様のストライク・エチュード――今日から曲がる、明日から倒せるワンポイントレッスン」
結花はステージ上で優雅に一礼する。
「皆さま、ボウリングは力任せではございませんの。大切なのは、目線、軸、そして最後までボールを信じる心ですわ」
そして実演に入ると、急に栃木弁が混じる。
「そごで焦っちゃダメだべ。ピンばっか見て力むと、腕が固まっちまいますのよ」
子どもは笑い、高齢者はうなずき、ボウリング経験者は妙に納得する。
結花が投げると、球は美しく曲がり、十本のピンをまとめて倒す。
「まあ。少し外へ膨らませましたの。レーンも人生も、真っすぐだけでは面白くございませんわ」
だが、結花の本領はイベントだけではない。
戦闘任務でも、ボウリングで鍛えた投てき能力は異様に強かった。
ある倉庫街での任務。
敵は細い通路を使って逃げ回り、遮蔽物の裏へ隠れていた。正面から追えば時間がかかる。
唯奈が蒼牙2000・改の運転席から叫ぶ。
「結花、そっち回り込めるか!」
結花は床を見た。
油膜。
傾斜。
鉄くず。
敵の足運び。
「少々、荒れたレーンですわね」
専用の制圧球を手にする。
低い重心。
美しい助走。
しなやかな腕の振り。
「失礼いたしますわ。ここは七番ピンを取る要領ですの」
放たれた球は床を走り、柱の根元に当たって角度を変え、遮蔽物の裏にいた敵の足元へ滑り込む。
一人が転倒。
二人目も巻き込まれる。
唯奈が笑う。
「やるっぺ結花! 北関東ライン、効いてるっぺ!」
結花は髪を整えながら言った。
「唯奈さん、次は中央を開けてくださいませ。まとめて倒しますわ」
蒼牙2000・改が唸り、唯奈が敵の動線を塞ぐ。
結花が次の球を構える。
「ピンも敵も、並んでいれば倒しやすいものですわ」
投げる。
球は低く走り、敵の足元を一気に崩した。
現場指揮のヒロインが思わず呟く。
「……あれ、ボウリングって戦闘技術だったっけ?」
結花は涼しい顔。
「使い方次第ですの」
那須塩原の令嬢。
さわやか結花さん。
現役女子プロボウラー。
そして、戦隊ヒロインきっての投てき戦闘の異才。
彼女の物語は、ここからさらに広がっていく。
次に待つのは、プロボウリング大会か。
シャンプーCMの撮影か。
それとも、唯奈との北関東ラインが炸裂する本格任務か。
いずれにせよ、塩原結花は今日も美しいフォームで立つ。
「さあ、参りますわ。次はストライクを取りに行きますの」




