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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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ヒロヒロクエスト第17話 優勝トロフィーが消えた――ヒロヒロ史上最大の生配信クエスト

宇部メガロードクエストは、安岡真帆の優勝で終わるはずだった。


だが、ノムさん謹製、宇部産セメントをふんだんに使用した特製優勝トロフィーが、ない。


「……ない?」


真帆が涼しい顔のまま目だけを細めた。


ノムさんは青ざめる。


「ワシのセメント魂が……!」


のどかが即座に叫んだ。


「クエスト発生じゃ!」


しかも生配信中である。コメント欄は一気に沸いた。


ここから本編

ヒロヒロらしい展開

トロフィー消失は草

私道返還時間あるのに大丈夫か

結月だけは休ませてあげて


真帆は腕時計を見る。


「私道の返還時間まで、あまり余裕がありません。すぐ戻りながら捜索します」


復路は、第三ステージで使った車両でスタート地点へ戻ることになった。


真帆は石灰運搬車。

のどかはダンプ。

梨乃は大型トラクター《蒼牙》。

澪はノムさんの自家用車。

ゆりえはミキサー車。

みーちゃんはヒロヒロバス。

第二ステージまでに脱落していた沙羅と結衣は、石灰運搬車に同乗する。


そして結月。


ノムさんが、折りたたみ自転車を指差した。


「結月は復路もこれじゃ」


結月は笑顔を作った。


「……また、これですか」


「往路で使ったんじゃけぇ、復路も自然じゃろ」


「自然ではありません。私道を往復で五十キロです」


「元競輪選手じゃろ」


「元です」


「映える」


結月はにっこりした。


「分かりました。走ります」


目はまったく笑っていなかった。


コメント欄は温かかった。


結月さん無理しないで

折りたたみ自転車で私道往復は伝説

今日のMVPもう結月でいい

誰かスポドリ渡して

ノムさん、結月に謝って

結月さんの脚に拍手


結月はそのコメントを聞いて、少しだけ表情を緩めた。


「ありがとうございます。……でもノムさんはあとで反省してください」


ノムさんは聞こえないふりをした。


捜索が始まった。


巨大私道を、大型車両、ヒロヒロバス、ノムさんの車、そして折りたたみ自転車が戻っていく。

宇部の工業地帯を背景にしたその光景は、異様で、馬鹿馬鹿しくて、妙に壮大だった。


のどかはダンプの助手席から身を乗り出す。


「灰色のトロフィーじゃけぇ、見つけにくいんよ!」


澪はぼーっと無線に入る。


「……道も灰色」


「嫌なこと言うな!」


沙羅は石灰運搬車の中で髪を直している。


「こういう時こそ冷静さが必要ですね」


のどかが無線で返す。


「沙羅も探しんさい」


「見ています。気品を保ちながら」


「気品はいらん!」


結衣は静かに目を閉じた。


「悪意は感じません。盗難ではないと思います」


真帆は頷く。


「行き違いか、設営ミスの可能性が高いですね」


一方、結月は黙々とペダルを踏んでいた。


往路二十五キロ。

復路も二十五キロ。

合計五十キロ。


折りたたみ自転車で走る距離ではない。


それでも、フォームは美しかった。背筋は崩れず、脚は一定のリズムで回り続ける。元女子競輪選手の意地だった。


ゆりえが無線で励ます。


「結月さん、すごいです! ほんとにかっこいい!」


梨乃もトラクターから言った。


「結月ちゃん、脚すごいなぁ。自転車の人みたい」


のどかが突っ込む。


「元自転車の人なんよ!」


コメント欄も止まらない。


結月さん頑張れ

これはスポーツドキュメンタリー

トロフィーより結月を映して

折りたたみ自転車メーカー案件来るぞ

ヒロヒロ史上いちばん応援したくなる人


だが、トロフィーは見つからない。


返還時間が迫る。


真帆の声が少しだけ鋭くなる。


「残り十分です。発見できなければ、表彰式は中止します」


ノムさんが叫ぶ。


「中止は困る! ワシのセメントトロフィーが日の目を見ん!」


のどかは額を押さえた。


「セメントにそこまで感情移入せんでええ!」


その時だった。


スタート地点へ戻ってきた梨乃が、トラクター《蒼牙》の上から、ぼんやりとテント裏を指差した。


「あれ、トロフィーちゃう?」


全員が一斉に固まった。


スタート地点のテント裏。

長机の下。

灰色の、妙に重そうな塊が置かれていた。


スタッフが駆け寄る。


「あ、ありました!」


のどかが叫ぶ。


「なんでそこにあるん!?」


設営スタッフが真っ青になって説明した。


「すみません。表彰式はスタート地点でやるものだと思っていて……最初からゴール地点へ持って行っていませんでした」


沈黙。


そして全員、見事にズッコケた。


「最初から来てなかったんかい!」


真帆ですら額を押さえる。


「これは盲点でした」


梨乃はにこにこしている。


「うち、見つけた?」


のどかは笑うしかない。


「見つけた。今日も妙なところで役に立った」


そこへ、結月が折りたたみ自転車でようやく戻ってきた。


「見つかったんですね」


「スタート地点にあった」


結月は一瞬だけ沈黙した。


「……私は往復したんですけど」


ノムさんが笑って言う。


「良いトレーニングになったじゃろ」


結月はにっこりした。


「そうですね。とても良いトレーニングでした」


やはり目は笑っていなかった。


コメント欄は結月へのねぎらいで埋まった。


結月さん本当にお疲れ様

今日のMVPは結月

トロフィーより結月に拍手

往復50キロは普通に偉業

ノムさん土下座案件

結月さんにれんこんチップス贈りたい


返還時間、残り数分。


表彰式が急いで行われた。


ノムさんがセメント製トロフィーを両手で抱えて登場する。


「これが、世界でもここにしかない、宇部産セメントをふんだんに使用した優勝トロフィーじゃ!」


見た目は、灰色。

重い。

無骨。

そして正直、あまり映えない。


ゆりえが小声で言う。


「……渋いですね」


沙羅が言う。


「飾る場所をかなり選びますね」


澪はぼーっと言う。


「……重そう」


真帆は涼しい顔で受け取った。


「ありがとうございます。宇部市の実家に送ります」


のどかが小声で言う。


「要するに要らんってことじゃね」


真帆は微笑んだ。


「記念品ですから」


「答えになっとらん」


それでも、表彰式は成立した。


最後に全員で並ぶ。


真帆が前に出て、短く言った。


「今日、この私道を貸してくださった皆さま、運営に協力してくださった皆さま、そして見てくださった皆さま、本当にありがとうございました。馬鹿馬鹿しい企画ではありましたが、宇部のスケールと、この町を支える産業の力を少しでも感じてもらえたなら嬉しいです」


のどかも頷く。


「ヒロヒロらしく騒がしかったけど、宇部のすごさはよう分かったね」


そして全員で声をそろえた。


「ご安全に!」


その直後、私道の返還時間を迎えた。


イベント車両が退き、スタッフが撤収し、ヒロヒロのオンボロバスもゆっくり脇へ下がる。


夕暮れの私道に、いつもの景色が戻ってくる。


大型車両が、低いエンジン音とともに動き出す。

石灰を運ぶ車列が、巨大な道を淡々と進む。

遠くには工場の灯り。

空は赤く染まり、無骨な道路が夕陽を受けて鈍く光る。


さっきまでの笑い声も、配信の歓声も、トロフィー騒動も、少しずつ遠ざかっていく。


そこに残ったのは、工業都市・宇部の本来の鼓動だった。


のどかは窓の外を見つめて言った。


「宇部、すごい町じゃね」


真帆は静かに頷いた。


「そうでしょう」


結月は座席で脚を伸ばし、ようやく息を吐いた。


「……いいトレーニングでした」


梨乃がにこにこ言う。


「結月ちゃん、また走る?」


「しばらくいいです」


オンボロのヒロヒロバスは、夕暮れの工業道路を後にした。


馬鹿馬鹿しくて、壮大で、少しだけ誇らしい。

それが、ヒロヒロ宇部編の締めくくりだった。

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