ヒロヒロクエスト第16話 私道25キロ、誰が考えた――宇部メガロードクエスト、日本一の私道を走り抜けろ!
宇部の朝は、妙にスケールが大きかった。
ヒロヒロ一行は、年季の入ったビジネス旅館を出て、日本一長い私道の入口に立っていた。目の前には、一般道とはまるで違う巨大な道。大型車両が通るためだけに整えられた、工業都市・宇部らしい異様な迫力があった。
ノムさんは両手を広げる。
「見よ! これが宇部の大動脈じゃ! 産業の血管、石灰の道、工業のロマン!」
のどかが眉をひそめる。
「結局、何するんですか」
ノムさんはさらに胸を張る。
「日本一の私道を使って、ヒロヒロ史上最大の知力・体力・運・根性・絵面の総合決戦を行う!」
梨乃が首をかしげる。
「つまり遠足?」
「違うわ!」
説明が大げさすぎて誰にも伝わらないので、真帆が前に出た。
「簡単に言います。全五ステージのクイズイベントです。各ステージの得点最下位者は脱落。第三ステージでは大型車両を使った私道横断スタンプラリーを行います。安全最優先。爆破は禁止。ノムさんの独断演出も禁止です」
のどかが頷く。
「最初から真帆さんが説明すればよかったんよ」
澪はすでに眠そうだった。
「……長い道」
梨乃はまだ分かっていない。
「負けたら帰るん?」
真帆は冷静に言った。
「脱落者は応援席です」
第一ステージは、宇部工業〇×クイズ。
工業都市・宇部の歴史、石灰石、化学工業、港湾物流に関する問題が出される。真帆は地元無双。みーちゃんも歴史知識で強い。のどかは勘で粘る。
沙羅は優雅に答えていたが、内容が全然分かっていなかった。
「工業都市という響きは美しいですけど、問題が無骨すぎます」
結果、第一ステージ脱落は沙羅。
「私が最初に落ちるなんて、番組構成としてどうなんですか」
ノムさんが言う。
「構成より点数じゃ」
第二ステージは、大型車両積載量当てクイズ。
巨大ダンプ、トレーラー、石灰運搬車を見て、どれだけ運べるかを当てる。結月はアスリートらしく車両の動きや重心を見て分析。真帆は資料で推理。澪は「いっぱい」と答えて意外に近い。
結衣は静かに目を閉じていたが、今回は神秘が外れた。
「今日は少し、鉄の気配が強すぎます」
第二ステージ脱落は結衣。
のどかが言う。
「出雲の静謐、工業問題には弱かったね」
結衣は静かに微笑んだ。
「次は神社仏閣でお願いします」
第三ステージは、いよいよ私道横断スタンプラリー。
第一・第二ステージの得点上位者から、使用車両を選べる。用意されたのは、ミキサー車、ダンプ、トレーラー、石灰運搬車、ヒロヒロバス、ノムさんの自家用車、そして農業機械メーカー井坂農装の大型トラクター《蒼牙》。
真帆は石灰運搬車。地元らしく一番強そうな車両を選ぶ。
のどかはダンプ。勢い重視。
みーちゃんはヒロヒロバス。安全第一。
梨乃はなぜかトラクター《蒼牙》。理由は「名前がかっこいい」。
澪はノムさんの自家用車。寝られそうだから。
ゆりえはミキサー車。配信映え重視。
そして結月。
「私の車両は?」
ノムさんが笑顔で折りたたみ自転車を指す。
「これじゃ」
結月は固まった。
「いや、私だけ人力ですか?」
「元競輪選手じゃろ」
「私道25キロですよ」
「映える」
「理由になってません」
謎の役職、マッチコミッショナーを自認するノムさんが厳かに宣言した。
「文句を言ったので、結月は減点1」
結月は目を見開く。
「理不尽すぎます」
「さらに抗議したので減点2」
のどかが叫ぶ。
「独裁じゃ!」
こうして、巨大車両が並ぶ中、結月だけが折りたたみ自転車でスタートする異様な光景が完成した。
コメント欄は爆発。
これが見たかった
結月だけ罰ゲーム
自転車速すぎる
梨乃がトラクター乗ってるの怖い
ヒロヒロ史上最大の絵面
第三ステージは大波乱だった。
優勝候補だったみーちゃんが、ヒロヒロバスの車内で出された「宇部の工業史早押し問題」に慎重になりすぎ、時間切れ。まさかの脱落となる。
「私がここで落ちるとは……」
のどかが慰める。
「知識ありすぎて迷ったパターンじゃね」
第四ステージは、工場夜景判定&私道記憶クイズ。
移動中に見た景色や施設名を答える問題だった。澪はやる気がなさそうに見えたが、ぼーっと見ていた景色を妙に覚えていた。
「……さっきの煙突、右」
「……黄色い看板、あった」
意外と粘る。
しかし最後の問題で、
「……眠い」
と集中力が切れ、脱落。
のどかは拍手した。
「澪、よう頑張った!」
澪はぼんやり言う。
「……寝たい」
そして第五ステージ。
残ったのは、真帆、のどか、結月、ゆりえ、そして誰も予想していなかった梨乃。
のどかが目を丸くする。
「なんで梨乃が残っとるん」
梨乃はにこにこしている。
「分からん」
真帆は冷静に言った。
「ここまで来た以上、全員本気でいきます」
最終ステージは、宇部市、工業、ヒロヒロ旅の総まとめクイズ。
のどかは広島代表として意地を見せる。
結月は自転車で疲労困憊ながらも驚異の集中力。
梨乃は意味不明な勘で正解を拾う。
ゆりえは妙に色っぽくカメラを意識する。
だが、最後は真帆だった。
宇部の地理、産業、私道の役割、地域振興まで完璧に答え、圧勝。
ノムさんが叫ぶ。
「優勝、安岡真帆!」
真帆は当然のように立ち上がった。
「優勝は私です」
のどかと梨乃がわざとらしくズッコケる。
「また自分で言うんじゃ!」
表彰式。
ノムさんが得意げに言う。
「優勝賞品は、宇部らしくセメント製の特製トロフィーじゃ!」
しかし、係員が慌てて戻ってくる。
「……トロフィーが見当たりません」
広場が静まり返る。
真帆が目を細める。
「見当たらない?」
ノムさんが焦る。
「さっきまであったじゃろ!」
のどかが深く息を吸った。
「……クエスト発生じゃね」
日本一長い私道を舞台に、ヒロヒロ史上最大イベントは終わった。
はずだった。
だが、ここから本当の宇部クエストが始まる。
消えたセメント製トロフィーを探すため、ヒロヒロ一行は再び巨大私道へ散ることになる。
そして配信コメント欄は、当然のように沸き立っていた。
ここから本編
トロフィー消失きた
ヒロヒロは期待を裏切らない
私道レンタル時間大丈夫?
梨乃が見つけそう
・・・トロフィー捜索編へと続く。




