ヒロヒロクエスト第14話 白狐の都で迷子になるな――山陰コンビ、瑠璃光寺の風を追う
防府バンクで、結月と先輩レーサーの感動的な再会を見届けたヒロヒロ一行は、オンボロバスに揺られて県都・山口市へ向かった。
山口市は「西の京」とも呼ばれる、落ち着いた歴史文化都市である。大内氏が京都文化を取り入れて栄えた町で、瑠璃光寺五重塔、湯田温泉、古い町並み、豊かな自然が静かに息づいている。派手さはないが、歩けば歩くほど味が出る。ヒロヒロのような騒がしい集団が来るには、少し品が良すぎる町だった。
のどかは車窓を眺めながら言った。
「山口市、落ち着いとるねぇ」
みーちゃんが頷く。
「大内文化の名残がある町ですからね。京都的な品の良さがあります」
梨乃が首をかしげる。
「京都なん? 山口なん?」
結衣が静かに答えた。
「山口です。でも“西の京”と呼ばれます」
「なるほど。山口の京都なんやな」
「……だいたい合っています」
この日のイベントは、地元観光協会との共同企画、西の京スタンプラリー。
瑠璃光寺、湯田温泉周辺、商店街、大内文化ゆかりのスポットを巡る観光イベントだった。
この日、主役になったのは山陰コンビ。
出雲の静謐・神門結衣。
そして、鳥取の天然爆弾・山根梨乃。
まず結衣は、静かなガイドとして大活躍した。
「大内氏は京都文化を積極的に取り入れ、この地に独自の文化を築きました。山口市は、派手な観光地というより、歴史の積み重なりを歩いて感じる町です」
参加者たちは聞き入った。
「分かりやすいですね」
「声が落ち着いていていい」
のどかも感心する。
「結衣、こういう町に合うねぇ」
一方の梨乃。
普通に考えれば、観光案内には向かない。
知識はない。
説明もできない。
さっきまで「瑠璃光寺」を「るりこうじさん」と読んでいた。
だが、子どもたち相手には妙に強かった。
「スタンプどこー?」
「梨乃お姉ちゃん、次どこ行くの?」
梨乃は地図を逆さに持ちながら言った。
「こっちや!」
全員が不安になった。
しかし、なぜか正解だった。
子どもたちは梨乃の後ろについて歩く。
梨乃は完全に子ども軍団の隊長になっていた。
のどかが呆れる。
「梨乃、子どもと同じ目線すぎるんよ」
みーちゃんが苦笑する。
「知識ではなく、本能で案内してますね」
結衣は微笑む。
「梨乃さんは、子どもたちを緊張させないんです」
梨乃は胸を張る。
「うち、賢い?」
のどかが即答する。
「そこまでは言うてない」
スタンプラリーは大盛況だった。
結衣の落ち着いた解説。
梨乃の謎の子ども統率力。
のどかの司会。
ゆりえの写真対応。
澪の「……たぶん、こっち」で当たる案内。
沙羅の「私は見守ります」という実質何もしない姿勢。
いつものヒロヒロだった。
だが、イベント終盤、クエストが発生した。
スタンプラリーの目玉として用意されていた、大内氏ゆかりの宝箱風レプリカが消えたのだ。
もちろん本物ではない。
だが、子どもたち向けのゴール演出で使う大切な小道具だった。
観光協会の担当者が慌てる。
「これがないと最後の記念撮影ができません!」
のどかの顔が引き締まる。
「クエストじゃね」
真帆が即座に確認する。
「最後に見たのは?」
「商店街側の休憩所です」
結衣は静かに目を閉じた。
「……悪意は感じません」
梨乃が隣で言う。
「宝箱、冒険っぽいもんな」
全員が梨乃を見る。
結衣が小さく頷く。
「たぶん、誰かが“宝探し”だと思ったんでしょう」
その時、梨乃が突然歩き出した。
「こっちや」
のどかが慌てる。
「何で分かるん?」
「なんか、子どもらが好きそうな道やから」
理由になっていない。
だが、梨乃の後ろには、イベント参加中の子どもたちが自然についていく。
「梨乃お姉ちゃん、どこ行くの?」
「宝探しや!」
「やったー!」
のどかは叫ぶ。
「勝手に新企画にするな!」
しかし梨乃は止まらない。
商店街の路地を抜け、古い店の横を通り、小さな広場へ出る。
そこには、子どもたちが作った“秘密基地”のような段ボールの囲いがあった。
その中央に、消えた宝箱が置かれていた。
観光協会担当者が叫ぶ。
「あった!」
どうやら、参加していた子どもたちの一部が「宝探しの続き」だと思い込み、宝箱を秘密基地へ運んでいたらしい。
子どもたちは申し訳なさそうに謝った。
「ごめんなさい。使っていいと思った」
結衣が優しく言う。
「悪いことをしようとしたわけじゃないですね。でも、みんなで使うものは勝手に持っていかないようにしましょう」
梨乃も真面目な顔で言った。
「宝箱は持って帰ったらあかん。みんなで見るやつや」
子どもたちは素直に頷いた。
のどかは小声で言う。
「梨乃がまともなこと言うとる……」
澪がぼーっと返す。
「今日は雨かな」
宝箱は無事に戻り、スタンプラリーのゴール演出も予定通り行われた。
子どもたちは宝箱を囲んで記念撮影。
結衣は静かに案内し、梨乃は子どもたちと一緒に満面の笑顔で写っていた。
観光協会の担当者は深々と頭を下げた。
「助かりました。結衣さんの落ち着いた判断と、梨乃さんの子ども対応のおかげです」
梨乃は首をかしげる。
「うち、何かした?」
のどかは笑った。
「したんよ。自覚ないだけで」
イベント後、瑠璃光寺五重塔を眺めながら、結衣は静かに言った。
「山口市は、落ち着きますね」
梨乃は横で言う。
「うちは宝箱見つけたから楽しかった」
のどかは笑う。
「山陰コンビ、今日は大活躍じゃね」
結衣は少し照れ、梨乃は何も分かっていない顔で笑っていた。
こうして、県都山口市でのクエストは無事解決。
オンボロのヒロヒロバスは夕暮れの県都を後にし、ついに旅の最終目的地へ向かう。
安岡真帆のお膝元、宇部へ。
梨乃は窓の外を見ながら言った。
「宇部って何があるん?」
真帆が静かに答える。
「いろいろあります」
のどかはその表情を見て、少しだけ身構えた。
最終目的地。
ヒロヒロクエスト山口編は、いよいよ締めに入ろうとしていた。




