表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
964/1043

ヒロヒロクエスト第13話 帰ってきた脚の記憶――防府バンク、結月と先輩レーサーの熱い一日

徳山ボートレース場で、山根梨乃が本人も理解しないまま高配当を的中させ、“徳山の女神”扱いされた翌日。ヒロヒロのオンボロバスは、防府市へ向かった。


防府市は、山口県の中央部にある落ち着いた町である。防府天満宮をはじめとする歴史ある名所、瀬戸内に近い穏やかな空気、そして交通の要衝としての実用性。派手に騒ぐ町ではないが、暮らしと歴史がきちんと積み重なった、芯のある町だった。


この日の舞台は、防府市の競輪場。


近年の施設改修で明るく綺麗になり、昔ながらの競輪ファンだけでなく、家族連れや初心者も入りやすい空間になっていた。バンクの迫力、客席の熱、場内グルメ、そして選手との距離の近さ。公営競技場でありながら、どこか地域の社交場のような温かさがある。


のどかは会場を見回して言った。


「ええ雰囲気じゃね。昨日の徳山とはまた違う熱があるわ」


梨乃は真顔で聞く。


「競輪って、自転車速い人が勝つん?」


結月が笑った。


「大雑把には合ってるけど、それだけじゃないよ」


のどかが突っ込む。


「梨乃に説明するには、そこからでええかもしれん」


イベント広場では、ヒロヒロのトークショーが始まった。


司会ののどかがマイクを握る。


「昨日は徳山で梨乃が神扱いされましたけど、今日は防府バンクじゃ! 今日は本物の脚力を持っとる人がおるけぇね!」


拍手の中で紹介されたのは、大西結月。


元女子競輪選手である彼女にとって、防府バンクは特別な場所だった。


結月は少し緊張した顔でマイクを持った。


「私は現役時代、この防府で勝ったことがあります。ここは、苦しかったことも、嬉しかったことも、たくさん思い出す場所です」


その言葉に、客席の年配ファンがすぐ反応した。


「覚えとるぞー!」


「結月ちゃん、よう来た!」


「ええ走りしよった!」


結月は目を潤ませた。


「ありがとうございます。覚えていてくださって、本当に嬉しいです」


場内を練り歩く時間になると、ヒロヒロらしさも戻ってきた。


澪は場内グルメの匂いに反応する。


「……焼きそば、いい匂い」


ゆりえは売店を見てはしゃぐ。


「競輪場って、もっと怖い場所かと思ってましたけど、明るくて楽しいですね!」


のどかはベテラン競輪ファンに捕まっていた。


「お嬢ちゃん、競輪はラインを見るんじゃ、ラインを!」


「ライン?」


「人間関係じゃ。脚力だけじゃないんよ」


「奥深いですね……」


ゆりえも横で真剣に頷く。


「勉強になります!」


梨乃はまた首をかしげる。


「ラインって、スマホの?」


のどかが言う。


「今その話じゃない」


そこで、結月の前に一人の男性が立った。


六十代に近い、日焼けした顔のベテランファンだった。


「あんた、大西結月ちゃんじゃろ。昔、あんたから車券買ったことあるんよ」


結月は嬉しそうに頭を下げる。


「ありがとうございます」


男性は笑った。


「外れたけどな」


結月は一瞬固まり、それから深々と頭を下げた。


「すみませんでした」


周囲が笑う。


「謝らんでええ、謝らんでええ! あれも競輪じゃ!」


結月は少し照れながら、色紙にとても丁寧にサインした。


「その分、今日は丁寧に書きます」


「ええ子じゃのう」


ファンは大喜びだった。


そしてこの日、結月にはもう一人、会いたい人がいた。


決勝戦に出場する、四国支部時代の先輩レーサー、三谷修平。


結月が現役時代、練習やレースへの向き合い方を教えてくれた男性選手である。派手なスターではないが、真面目で面倒見が良く、後輩の相談にもよく乗るタイプだった。


結月が落車で悩んだ時も、三谷は言った。


「怖くなるのは悪いことじゃない。怖さを知ってから、どう踏むかが選手の本当の強さや」


その言葉を、結月は今も覚えていた。


メインイベントは、決勝戦の優勝予想検討会。


のどかが堅実に展開を読む。

ゆりえは選手紹介を見ながら素直に応援。

梨乃は「赤い車番がかわいい」と言い出して場をざわつかせる。

真帆は資料を見て冷静に数字を語る。

結衣は「今日は風が静かです」と神秘的なコメント。


そして結月は、出走表を見つめて言った。


「三谷修平選手は、私が四国支部でお世話になった先輩です。本当に良い人で、走りも誠実な人です。今日は頑張ってほしいです」


のどかが聞く。


「強い人なん?」


結月は頷いた。


「強いです。でも、それ以上に、最後まで諦めない人です」


レースが始まった。


決勝戦らしい緊張感。

スタートから場内の空気が変わる。


三谷は序盤、無理に前へ出なかった。ラインの動きを見ながら、冷静に位置を取る。最終周回、前が踏み合う。その隙を逃さず、三谷は外へ持ち出した。


結月が思わず立ち上がる。


「先輩……!」


最後の直線。


三谷が伸びる。

伸びる。

差す。


ゴール。


三谷修平、優勝。


場内が大きく沸いた。


「来た!」


「三谷、差した!」


「結月ちゃんの先輩、勝ったぞ!」


結月は目に涙を浮かべていた。


「先輩……すごい」


表彰式。


プレゼンターとして結月が呼ばれた。


彼女は花束と記念品を手に、三谷の前に立つ。三谷は少し照れた顔で笑った。


「久しぶりやな、結月」


「優勝、おめでとうございます」


「ありがとう。見に来てくれて嬉しかったわ」


二人は短く言葉を交わしただけだったが、そこに長い時間があった。


インタビュアーが三谷にマイクを向ける。


「今日は大西結月さんが来場されていました。意識はされましたか?」


三谷は笑った。


「もちろん。結月が来ていることは知っていました。昔、一緒に練習した後輩ですからね。いいところを見せたいとは思っていましたけど、一番いいところを見せられました」


会場から大きな拍手が起きた。


さらに三谷は続けた。


「結月は現役を離れても、自転車への気持ちは絶対に残っていると思います。今日はその前で勝てて、本当に良かったです」


結月は涙をこらえきれず、深く頭を下げた。


のどかも、ゆりえも、真帆も、珍しく黙って拍手していた。


梨乃だけが小声で言った。


「ええ話やなぁ。で、場内グルメもう一回行ける?」


のどかが涙目のまま突っ込む。


「空気読め!」


それでも場は笑いに包まれた。


イベント終了後、三谷は結月のところへ来た。


「元気そうで安心した」


「先輩も、相変わらず強かったです」


「いや、今日はたまたまや」


「たまたまじゃないです」


三谷は少し照れたように笑った。


「競輪はな、勝っても負けても、誰かが見てくれてる。それがありがたいんよ。今日は結月が見てくれてた。それだけで、もう一踏みできた」


結月は何度も頷いた。


「私も、今日ここに来て良かったです」


その夜、ヒロヒロのオンボロバスの中で、結月は静かだった。


のどかが声をかける。


「結月、大丈夫?」


結月は笑った。


「はい。すごく、嬉しいです」


澪がぼーっと言う。


「いい日だったね」


「うん」


梨乃が聞く。


「結月ちゃん、また競輪したくなった?」


結月は少し考えた。


「走る場所は変わったけど、自転車はずっと好きです」


のどかは頷いた。


「それでええんじゃね」


翌日のスポーツ新聞の競輪面には、三谷修平と大西結月のツーショットが大きく掲載された。


「元女子レーサー結月、恩人の優勝を祝福」

「三谷、後輩の前で渾身差し」


記事を読んだ結月は、少し照れながら新聞をたたんだ。


ヒロヒロにしては珍しく、馬鹿げた騒動ではなく、人情と競技への敬意に包まれた一日。


防府バンクは、結月にとって過去を思い出す場所であり、今の自分をもう一度認めてもらえる場所にもなった。


のどかは新聞を覗き込みながら言った。


「たまにはヒロヒロも、ええ話できるんじゃね」


梨乃は笑顔で言う。


「でもグルメも良かった」


「そこは忘れんのんかい」


ヒロヒロクエスト防府編。

それは、結月の脚の記憶が、もう一度あたたかく拍手された一日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ