ヒロヒロクエスト第4話 神の島で食い逃げ配信者を投げろ――宮島、鹿も見守る大捕物
江田島で大立ち回りを演じたノムさんは、完全に限界だった。
「腰が……肩が……膝が……」
オンボロのヒロヒロバスが宮島方面へ向かうころ、ノムさんだけはまさにゃんの車で先に宿舎へ直行していた。
「年甲斐もなく暴れるからですよ」
まさにゃんが言うと、ノムさんは苦しそうに反論した。
「撮影所時代の血が騒いだんじゃ……」
一方、ヒロヒロ一行はフェリーで宮島へ渡った。
満潮の海に浮かぶように立つ厳島神社の大鳥居を見て、全員が声を上げる。
「おぉ~!」
梨乃まで目を輝かせた。
「鳥居、海に立っとる……」
歴女のみーちゃんが即座に語り出す。
「厳島神社は平清盛の時代に大きく整備されて、海上社殿という構造が特徴的で――」
のどかも続く。
「ここは信仰と海上交通と政治の歴史が重なっとる場所なんよ。観光地として見るだけじゃもったいないんじゃけぇ」
フェリーを降りると、鹿が迎えてくれた。
なぜか梨乃と神門結衣の周りに鹿が集まる。
梨乃は嬉しそうに言った。
「うち、鹿に好かれとる」
結衣は困った顔で答える。
「たぶん、食べ物を持っていると思われています」
梨乃は鞄を抱える。
「もみじ饅頭はあげへんよ」
鹿はさらに近づいた。
翌日のイベントまで時間があるため、この日はオフ。参道で食べ歩きである。
焼き牡蠣、揚げもみじ、穴子飯、レモンスカッシュ。外国人観光客も多く、参道は大混雑。人も多い。鹿も多い。梨乃の周りだけ、なぜか鹿がさらに多い。
ゆりえは焼き牡蠣を食べて感動した。
「すごい、濃い! 海の味がします!」
澪はぼーっとしながら一言。
「……おいしい」
沙羅は上品に頷く。
「観光地としての完成度が高いですね。湘南とは違う、厳かな海辺の魅力があります」
その時、店先で騒ぎが起きた。
外国人グループが、焼き牡蠣を食べたあと代金を払わずに逃げ出したのだ。しかもスマホで撮影しながら笑っている。迷惑系配信者グループらしい。
のどかの目が鋭くなった。
「……見逃せんね」
結月は食べかけの焼き牡蠣を梨乃に預けた。
「持ってて」
梨乃は真顔で聞く。
「食べてええ?」
「だめ」
結月は走り出した。元女子競輪選手の脚力は、参道の混雑でも異常に速い。人の流れを読み、鹿を避け、観光客の隙間を抜け、迷惑配信者たちへ一気に追いつく。
「支払いをしてください」
小柄な結月を見て、相手は笑った。
「ジャパニーズヒーロー?」
カメラを向けながら、押しのけようとする。
だが、結月は怯まない。
そこへ、のどかが到着した。
「広島で、宮島で、店の人を馬鹿にして逃げるんは許さん」
相手が掴みかかる。
次の瞬間、のどかの足払いが決まった。
大柄な配信者が、石畳へきれいに転がる。
「うわっ!」
二人目が迫る。
のどかは襟元を取り、体を沈め、鮮やかな体落とし。
三人目は逃げようとしたが、結月が回り込んで進路を塞ぐ。
「そっちは通れません」
澪は鹿の横でぼーっと立っていた。
「こっちも、人多いから無理だよ……多分」
本当に通れなかった。
のどかは最後の一人を見据えた。
「これもきちんと撮影して配信しとけ。食い逃げして、宮島で投げられました、いうてな」
周囲の観光客から拍手が起きた。
「よう言った!」
「店に謝れ!」
外国人観光客もスマホを構えながら歓声を上げる。鹿まで、なぜか近くでじっと見ていた。少なくとも、祝福しているようには見えた。
迷惑配信者たちは結局、店へ戻って代金を払い、謝罪した。
店主は深く頭を下げる。
「助かりました」
結月はようやく梨乃から焼き牡蠣を返してもらう。
梨乃は名残惜しそうだった。
「ほんまに食べたらあかんかったん?」
「だめ」
一方その頃、宿舎の部屋。
ノムさんとまさにゃんは、すでにビールを飲んでいた。
「いやぁ、江田島は効いたわ……」
「無理しすぎですよ」
ノムさんが肩に湿布を貼りながら言う。
「しかしワシの殺陣、まだまだ捨てたもんじゃなかろう」
その時、外から歓声が聞こえた。
「何だか騒がしいなぁ」
まさにゃんが窓を開ける。
外を見ると、参道でのどかが大柄な外国人を投げ飛ばし、結月が逃げ道を塞いでいた。
まさにゃんは固まった。
「……何やってるんですか、あの人たち」
ノムさんも目を丸くした。
「ワシが休んどる間に、またアクションシーン始まっとるじゃないか!」
二人は窓から身を乗り出した。
「のどか、ええぞー!」
まさにゃんもなぜか手を振る。
「結月さん、すごい!」
のどかは遠くから気づき、叫んだ。
「先輩は寝とってください!」
ノムさんは笑った瞬間、腰を押さえた。
「痛っ!」
まさにゃんが支える。
「だから安静にしてください」
参道では、観光客と野次馬が拍手し、鹿がゆっくり歩き、のどかと結月は少し照れながら店主に礼を返していた。
沙羅は感心して言った。
「のどかさん、怖いけど格好良かったです」
ゆりえも笑う。
「結月さんも速すぎました!」
梨乃は鹿に見つめられながら言う。
「宮島、楽しいなぁ」
澪は焼き牡蠣を見ながら、いつもの調子で呟いた。
「……もう一個食べたい」
こうして、ヒロヒロ宮島編は、イベント前のオフ日から大騒動になった。
神の島で食い逃げ配信者を投げ飛ばし、観光客と鹿に見守られながら拍手を浴びる。
それが、ヒロヒロらしい休日だった。




