ヒロヒロ暴走バス計画――のどかとノムさん、今度は爆破禁止で旅に出る
広島には、正式には存在しない支部がある。
名前は、ヒロヒロ。
戦隊ヒロインプロジェクト広島支部――と呼ばれてはいるが、組織図には載っていない。予算表にもない。任命書もない。だが、誰もが知っている。
ヒロヒロは、ある。
支部長は江波のどか。
広島市在住の被爆四世で、平和を誰よりも願う一方、妙に武闘派で行動力がありすぎるヒロインである。
そして運営を支えるのが、ブラックキャブプロダクションの名物社長・ノムさんこと野村吉彦。
二人は年齢こそ親子以上に離れているが、地元広島の高校の先輩後輩。相性は抜群。悪乗りの呼吸も完璧。
ヒロヒロが繰り出すくだらない企画の大半は、この二人が原因だった。
この日も、会議は新橋ではなく、のどかの実家のお好み焼き屋**「みさちゃん」**で開かれていた。
鉄板の前にノムさん。
のどか。
そして山根梨乃。
梨乃は座っているだけだった。
何も役に立っていない。
ただ、にこにこしながらお冷やを飲み、たまに鉄板を見つめている。頭の弱いラブラドールレトリバーのような存在感で、いるとなんとなく場が和む。
のどかが聞く。
「梨乃、今の話、分かっとる?」
梨乃はにこにこして答える。
「うん。バスに乗るんじゃろ? で、途中でお好み焼き食べるん?」
ノムさんとのどかは、同時にスルーした。
ノムさんは割り箸を置き、身を乗り出す。
「ヒロ九がバスで回っとるじゃろ。あれ、ええんよ。絵になる。旅感がある。ヒロヒロもやるで」
のどかは眉をひそめる。
「バス、どうするんですか」
「借りる」
「どこから」
「あきでんバスじゃ」
あきでん。
広島市民の足である路面電車会社。その系列にバス部門がある。
のどかは嫌そうな顔をした。
「簡単に言いますね」
ノムさんは胸を張る。
「あきでんの偉い人、ワシの高校時代のサッカー部の後輩じゃ」
「また人脈の使い方が雑!」
ノムさんはさらに言う。
「お前の親父さん、あきでんの路面電車運転士じゃろ。協力してくれ言うといてくれ」
のどかは顔をしかめた。
「うち、前に映画製作であきでんの路面電車を爆破して警察に怒られたんですよ」
梨乃が急に顔を上げる。
「路面電車って爆破しても走るん?」
「走るわけないじゃろ!」
そこへ、ちょうどのどかの父が店に入ってきた。
「なんの話しよるんか?」
のどかは渋々説明した。
ヒロヒロでバス旅をやりたい。
あきでんバスを借りたい。
会社に協力を頼めないか。
父は話を聞くなり、あっさり言った。
「ええんじゃないん。修学旅行みたいで楽しそうじゃねぇ」
のどかは拍子抜けした。
「え、ええん?」
父は続けた。
「それで、今回も爆破するん?」
「せんわ!」
ノムさんは腹を抱えて笑った。
「お父さん、分かっとるのう!」
父はのんびり言う。
「会社には話しといちゃる。ただ、爆破はほんまにやめときんさい。前の時、職場で変な空気になったけぇ」
のどかは額を押さえた。
「まだ言われるんか……」
後日、ノムさんは本当にあきでん本社へ向かった。
相手は、高校時代のサッカー部の後輩。
今では会社の偉い人になっている。
応接室に入るなり、相手はため息をついた。
「先輩、また何ですか」
ノムさんは満面の笑み。
「おう。元気しとるか」
「先輩が来る時は、だいたい元気がなくなる用件です」
「ヒロヒロでバスを借りたいんじゃ」
「嫌な予感しかしません」
ノムさんは先輩風を全開にした。
「お前、高校の時、ワシのスルーパスで点取ったじゃろ」
「三十年以上前の話です」
「恩返しの時じゃ」
「サッカー部の恩を会社資産で返せと言われても困ります」
「広島のためじゃ。平和のためじゃ。地域振興じゃ。あと、ちょっとテレビ映えもする」
「最後が本音ですね」
後輩は渋い顔で資料を見た。
「前回の映画の件、覚えてますか」
ノムさんは少し目をそらす。
「路面電車のやつか?」
「爆破したやつです」
「演出じゃ」
「演出で済まなかったんですよ。社内で賛否ありましたし、株主総会で質問まで出たんです。“なぜ当社の路面電車が爆破されたのか”って。あれ、答弁する側は本当に大変だったんです」
ノムさんは豪快に笑った。
「話題になったじゃろ」
後輩は真顔だった。
「そういう問題じゃありません」
しばらく沈黙が流れた。
やがて後輩は深くため息をついた。
「分かりました。地域貢献企画として、子会社のバスを一台協力させます」
ノムさんの顔が輝く。
「さすが後輩じゃ!」
「ただし条件があります」
「何じゃ」
「絶対に爆破しないこと」
「せんせん」
「車内で火薬を使わないこと」
「使わん」
「屋根に人を乗せないこと」
「……まあ、乗せん」
「“まあ”ではなく、乗せないでください」
ノムさんは笑って手を振った。
「分かった分かった。今回は健全なバス旅じゃ」
後輩は疑いの目を向ける。
「先輩の“健全”は信用しきれません」
それでも、交渉は成立した。
こうして、ヒロヒロはあきでんバスを借り受けることに成功した。
「みさちゃん」に戻ったノムさんは、得意げに報告した。
「決まったで。ヒロヒロ、バスで行くぞ」
のどかは半分呆れ、半分諦めた顔だった。
「ほんまに決まったんですね」
梨乃がにこにこしながら言う。
「バスって、窓開けて手振ってええん?」
「危ないけぇダメ」
「お菓子持って行ってええ?」
「それはええ」
「やった」
ノムさんは笑った。
「梨乃はそれでええ。座っとるだけで場が明るうなる」
のどかも苦笑した。
「何も役に立たんけど、居らんと寂しいんよね」
梨乃は意味が分かっていない顔で笑っている。
「うち、役に立っとるん?」
ノムさんとのどかは、また同時にスルーした。
こうして、正式には存在しない広島支部ヒロヒロは、また勝手に新企画を始める。
あきでんバスで行く、広島バス旅。
平和活動なのか。
地域振興なのか。
ただの悪乗りなのか。
たぶん全部である。
一つだけ確かなのは、今回も爆破は禁止だということ。
そして、この話が新橋ヒロ室に届いた時、遥室長がまた頭を抱えるということだった。
読者が気を引くようなタイトルにして 内容はOK




