規格外の秋田美人、脱ぐ気です――阿部柚葉、にかほ発グラビア写真集計画が勝手に走り出す
新橋ヒロ室に、北から妙な春風が吹き込んだ。
発生源は、秋田県にかほ市出身の阿部柚葉である。
にかほ市は、鳥海山のふもとに広がる、海と山の距離が近い美しい街だった。日本海からの風、鳥海山麓の澄んだ空気、のどかな田園風景。そして、穏やかな地方都市でありながら、世界的に知られる電子部品メーカーの工場を抱える、意外なほど“尖った産業都市”でもある。
柚葉の父も兄も親戚も、その工場や関連企業で働いていた。
にかほの人々は温厚で粘り強い。だが、同時にどこか大胆だった。
柚葉もまさにその血を引いていた。
色白の美肌。端正な顔立ち。手足の長い抜群のスタイル。
月島小春がイベントで「規格外の秋田美人」と紹介するほどの存在感がある。
普段の柚葉はおとなしい。
話し方も柔らかい。
だが、時々、誰も予想しない角度から突っ込んでくる。
その日、遥室長が静岡茶を飲んでいると、柚葉が真顔で言った。
「室長、私、水着のグラビアをやりたいです」
遥の湯呑みが止まった。
「……柚葉さん、今なんて言っただよ?」
「水着のグラビアです」
遥は危うく静岡茶を噴き出すところだった。
「待つだよ。北方管区の話かと思ったら、急に写真週刊誌みたいな話になっただよ」
柚葉は動じない。
「若いうちに、綺麗な自分を残しておきたいんです」
その言葉は、軽い思いつきではなかった。
にかほで応援してくれた家族。
阿部一族。
工場関係者。
地元の人たち。
イベントで自分を見て喜んでくれる子どもたち。
柚葉は、自分の容姿が武器になることを冷静に分かっていた。
そして、それを恥ずかしがって隠すより、地元の誇りとして形に残したいと思っていた。
「やるなら、中途半端にはしません」
静かな声だった。
でも、芯が強かった。
遥は湯呑みを置いた。
「……柚葉さん、本気だね」
「はい」
「分かっただよ。こういう時は、ノムさんだよ」
すぐに、ブラックキャブプロダクションの名物社長ノムさんへ連絡が入った。
電話口のノムさんは、話を聞くなり声が跳ねた。
「柚葉ちゃんかぁ〜! ええねぇ! 秋田美人、白肌、にかほ、鳥海山、尖った大胆さ。全部そろっとるやないか!」
遥は少し警戒する。
「ノムさん、あくまで本人の意思を尊重して、品よくやるだよ」
「分かっとる分かっとる。上品にいくでぇ。けど、これは写真集やな」
「写真集?」
「出すぞ。阿部柚葉ファースト写真集や!」
話が速すぎた。
遥は頭を抱える。
「まだ相談しただけだよ……」
ノムさんはもう止まらない。
「タイトルは仮で『鳥海山麓の白い衝撃』やな。いや、『規格外の秋田美人』も捨てがたい。地元ロケも入れる。海、山、田園、工場の遠景。北国の透明感で勝負や」
柚葉は静かに聞いていたが、目は真剣だった。
「にかほで撮りたいです」
ノムさんは即答した。
「もちろんや。地元あっての柚葉ちゃんや」
こうして、まだ企画相談だったはずの話は、一気に写真集計画へ広がった。
小春はこの話を聞いて大喜びした。
「規格外の秋田美人、ついに全国出荷ですね!」
柚葉は少し照れる。
「出荷って言い方はやめてください」
だが、にかほ側はもっと騒がしかった。
父、兄、親戚。
工場関係者。
阿部一族。
「柚葉の写真集だってよ!」
「鳥海山バックで撮るべきだ!」
「いや、日本海側も必要だ!」
「工場関係者で応援広告出すか?」
まだ正式発表もしていないのに、地元は勝手に動き出していた。
遥室長は頭を抱える。
「阿部一族、情報伝達が速すぎるだよ……」
ノムさんは笑う。
「最高やないか。宣伝費ゼロで地元が盛り上げてくれるでぇ」
柚葉は、少し困りながらも笑った。
「でも、嬉しいです。みんなが応援してくれるなら、ちゃんと良いものにしたいです」
その表情は、穏やかだった。
だが、確かに尖っていた。
秋田美人の透明感。
にかほの企業城下町らしい実直さ。
そして、突然「水着グラビアをやりたい」と言える大胆さ。
阿部柚葉は、ただ綺麗なだけではない。
おとなしい顔をして、勝負どころでは一気に踏み込む。
まさに、にかほが生んだ“尖った大胆さ”の戦隊ヒロインだった。
ノムさんは最後に高らかに宣言した。
「よっしゃ、柚葉ちゃんの写真集、出すぞ!」
遥室長は深いため息をついた。
「また大きな話になっただよ……」
柚葉は静かに頭を下げた。
「よろしくお願いします」
その瞬間、新橋ヒロ室の片隅で、また新しい騒動が動き出した。
にかほ発。
鳥海山麓の白い衝撃。
規格外の秋田美人・阿部柚葉の写真集計画は、本人よりも周囲の方が先に走り始めていた。




