ヒロ九クエスト 第53話 桜島は噴き、黒煙バスも噴く――湯けむりの夜、ヒロ九の未来を語る
指宿で地域猫たちに見送られたヒロ九ラッピングバスは、フェリーで桜島へ渡った。
海の向こうでは、桜島が今日も絶好調だった。噴煙は空へ伸び、灰を含んだ風が錦江湾を渡ってくる。
彩芽は窓に張りついた。
「桜島、なまら元気だべさ!」
その横で、ヒロ九バスも負けじと黒煙を吐いた。
「ボボボボ……ゴホッ!」
凪が冷静に言う。
「火山と張り合わないでください」
真白は計器を見た。
「張り合っているわけではありません。通常運転です」
一行の宿舎は、桜島の古里温泉にある宿だった。錦江湾と桜島の迫力を感じられる温泉地で、火山の恵みをそのまま味わえるような湯けむりの里である。海、山、噴煙、温泉。鹿児島の力強さが一か所に集まっていた。
さっそく露天風呂に入ると、ヒロインたちは一気に静かになった。
みのりが湯船から桜島を眺めて言う。
「自然の迫力が近いですね。観光というより、土地そのものに包まれている感じがします」
ひかりも頷く。
「温泉、火山、海。すべてがつながっていますね。これは鹿児島ならではの体験です」
彩芽は湯船で両手を広げる。
「鹿児島、風呂が毎回強いべさ!」
伊織が即座に言う。
「泳がない」
「まだ何もしてないべさ!」
夕食は、薩摩の恵みが並んだ。
黒豚の角煮、地鶏の炭火焼、きびなごの刺身、さつま揚げ、旬の野菜、そして温泉水で炊いた釜めし。湯気の立つ釜を開けた瞬間、米の甘い香りが広がった。
真白が一口食べて目を細める。
「これは優しい味ですね。運転後にしみます」
みのりは理知的に言う。
「温泉水のミネラル感が、米の甘みを引き立てているように感じます」
ひかりも続ける。
「土地の水を使う料理は、その場所で食べる意味を強くしますね」
ひなたはすでに芋焼酎を注いでいた。
「芋焼酎はな、鹿児島の魂じゃっど。芋の香り、甘み、湯割りにした時の立ち上がり。これを知らんと鹿児島は語れん!」
菜々子支配人が睨む。
「明日もありますから」
伊織も涼しい顔でグラスを空ける。
「料理との相性が良いですね」
菜々子は天井を見た。
「あーあ……」
ひなたは飲むほど陽気になり、伊織は飲んでも全く変わらない。彩芽はそれを見て震える。
「伊織さん、なまら謎の生き物だべさ……」
夕食の後半は、自然とヒロ九の今後を語る場になった。
香澄が口火を切る。
「ヒロ九は、地元の人との距離が近いのが強みですたい。大きなステージも大事ですけど、商店街、道の駅、港、温泉、そういう場所に入っていけるのが良かところです」
つばさは通信担当らしく続ける。
「九州は山も海も離島もあります。イベントごとに連絡体制を作るのではなく、常設の連絡網が必要です。災害時にも転用できます」
凪は真剣に言った。
「安全管理基準を統一したいです。車両導線、天候、火山灰、飲酒管理、温泉施設での転倒対策。ヒロ九らしさは大事ですが、事故が起きたら終わりです」
菜々子がひなたを見る。
「飲酒管理、重要ですね」
ひなたは泥酔気味に胸を張る。
「うちは副支配人として言うど! 現場は机の上では分からん! まず行く、見る、食う、飲む――」
「最後は不要です」
菜々子が切る。
みのりは九州外からの視点で語った。
「外から見ると、九州は一枚岩ではなく、地域ごとの個性が非常に強いです。だから統一感より、多様性を見せた方が魅力になります」
ひかりも頷く。
「熊本、鹿児島、宮崎、大分、佐賀、長崎、福岡、沖縄。それぞれの色を残したまま並べることで、ヒロ九全体が豊かに見えると思います」
真白はトラックドライバー目線だった。
「移動計画はもっと余裕が必要です。峠道、フェリー、観光地駐車場、バスの水温、黒煙対策。物流的には、今の行程はかなり攻めています」
凪が即座に頷く。
「非常に重要です」
彩芽は一生懸命考えた。
「九州は食べ物が全部うまいべさ。あと、人が元気だべさ。だから、もっとみんなで来たら楽しいべさ!」
一同が笑う。
伊織は最後に、静かに言った。
「沖縄は距離があります。九州の一員として扱うなら、沖縄本島だけでなく、離島にも目を向けてほしいです。交通、医療、教育、観光。ヒロ九ができることは多いと思います」
菜々子支配人は真剣に頷いた。
「離島展開、必ず検討します」
その表情は満足げだった。
ヒロ九は、ただ騒がしいだけではない。
ちゃんと見て、考えて、動いている。
桜島の夜は更けていく。外では噴煙、宿では湯けむり、宴席では芋焼酎と真面目な議論。
ひなたが最後に叫んだ。
「ヒロ九はもっと強くなるど!」
菜々子は笑いながら水を差し出す。
「その前に、あなたは水を飲んでください」
翌日は、ひなたにとって特別な場所でのイベントが待っている。
ヒロ九鹿児島遠征は、いよいよ終盤へ向かっていた。




