表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
937/1045

ヒロ九クエスト 第51話 そうめんは流れ、イッシーは消える――池田湖“謎の巨大影”を追え

知覧で平和の尊さを学んだヒロ九一行は、少し静かな空気のまま、黒煙バスで指宿方面へ向かった。


「ボボボボ……ゴホッ!」


静かな余韻を壊すように、バスは今日も元気に黒煙を吐く。


凪が小さく言う。


「平和学習の後でも、このバスだけは通常運転ですね」


真白は計器を見ながら答えた。


「水温は安定しています」


到着したのは唐船峡。


山あいに湧き出る豊富な清水を利用した、指宿名物のそうめん流しで知られる場所である。涼しい空気、澄んだ水音、木陰の席、そして円形の器の中をくるくる回るそうめん。鹿児島の人なら一度は行きたくなる、食べる観光名所だった。


席に着いた瞬間、彩芽の目が丸くなった。


「そうめんが回ってるべさ!」


香澄が笑う。


「流れてるというより、回っとるですね」


ひなたは得意げに胸を張る。


「これが鹿児島のそうめん流しじゃっど!」


冷たい湧き水で締められたそうめんは、つるりと軽く、いくらでも入る。マスの塩焼き、鯉こく、おにぎりも並び、素朴なのに贅沢な昼食になった。


ひかりは箸を置いて理知的に言う。


「水が良いから、そうめんの冷え方と喉ごしが違いますね。湧き水の観光資源としての使い方がとても上手です」


みのりも頷く。


「食事そのものが体験になっています。これは地域文化として強いですね」


一方、彩芽は完全に童心へ戻っていた。


「待つべさ! そのそうめん、私の前に来るべさ!」


伊織が即座に言う。


「彩芽、取ったら食べる。遊ばない」


「遊んでないべさ! 真剣勝負だべさ!」


「そうめんと勝負しない」


真白は回るそうめんを見て、ぽつり。


「物流でいうと、回転効率が高いですね」


菜々子支配人が苦笑する。


「真白さん、感想まで職業病です」


昼食後、ひなたが売店をちらりと見る。


「暑かし、瓶ビールを一本――」


菜々子が即座に止めた。


「まだ駄目です」


「一本だけ!」


「駄目です」


伊織も少し残念そうに売店を見る。


彩芽が目ざとく気づく。


「伊織さんも飲む気だったべさ!」


伊織は涼しい顔で答える。


「見ていただけです」


「絶対違うべさ」


次に向かったのは池田湖。


開聞岳を望む大きな湖で、静かな水面と南国らしい空気が漂う。巨大うなぎや、未確認生物イッシー伝説でも知られる、どこか不思議な雰囲気を持つ場所だった。


彩芽は当然、大興奮。


「イッシー探すべさ!」


伊織は冷静に言う。


「観光です。捜索ではありません」


その時、湖畔がざわついた。


「今、何か大きな影が見えた!」


「イッシーじゃないか?」


観光客が湖面を指さし、スマホを構える。さらに観光PR用の自動観測ブイが突然通信不能となり、現地スタッフが慌てていた。


つばさが通信機器を確認する。


「電波が変ですね。何か混線しています」


凪の顔つきが変わる。


「人が湖畔に集まりすぎています。転落リスクがあります。まず安全確保です」


菜々子が即座に指示を出す。


「つばささん、通信確認。凪さん、湖畔の導線整理。香澄さん、観光客を落ち着かせてください」


香澄が声を張る。


「皆さん、湖に近づきすぎないでください! イッシーもびっくりしますたい!」


観光客が笑い、少し下がる。


つばさは機材を操作しながら眉を寄せた。


「干渉源、湖面側ではありません。近くの駐車場側です」


真白が目を細める。


「あれ、ドローンですか?」


見ると、観光系配信者らしき集団が、大型水中カメラ付きのドローン機材を勝手に飛ばしていた。水面に映った影が巨大に見え、しかも機材の通信が観測ブイに干渉していたのだ。


つまり、偽イッシー騒動。


彩芽は少ししょんぼりした。


「イッシーじゃなかったべさ……」


ひなたは笑う。


「鹿児島は本物の桜島だけで十分じゃっど!」


凪は配信者たちに厳しく注意し、危険区域を整理。

つばさは干渉周波数を特定し、観測ブイとの混線を解消。

香澄は観光客へ説明し、みのりとひかりは子どもたちに「水辺では走らない」と優しく声をかけた。


やがて観測ブイは復旧し、湖畔の混乱も収まった。


観光協会の担当者が深々と頭を下げる。


「助かりました。このままでは、偽イッシー騒動で大混乱になるところでした」


つばさは微笑む。


「声と電波は、乱れる前に整えるのが大事です」


凪も頷く。


「水辺では好奇心より安全が優先です」


彩芽はまだ湖を見ている。


「でも……本物のイッシー、ちょっとくらいいてもいいべさ」


伊織が静かに言う。


「いたら大騒ぎです」


真白が黒煙バスを見て言った。


「このバスを見たら、イッシーも逃げると思います」


一同が笑う。


池田湖の水面は、何事もなかったように静かだった。

ただ、遠くで小さく波が揺れた。


彩芽が目を輝かせる。


「今の、見たべさ?」


菜々子支配人は歩き出しながら言った。


「見なかったことにします」


黒煙バスは、次の目的地へ向けてエンジンをかける。


「ボボボボ……ゴホッ!」


ひなたが窓の外を見てにやりと笑う。


「南薩はまだまだ続くど」


池田湖の謎は、解けたようで、少しだけ残った。


ヒロ九クエストは、まだ終わらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ