ヒロ九クエスト 第49話 桜島は噴き、黒煙バスは南へ――ヒロ九全員集合、わずか一夜で解散す
戦隊ヒロインサミット鹿児島は、大成功だった。
鴨池の市民ホール周辺には火山灰が舞い、真白の天秤棒行商は完売し、香澄の司会は冴え渡り、みのりは房総ならぬ暴走を見せ、ひかりに止められた。桜島まで絶好調で、まるでヒロ九全員集合を祝うように噴煙を上げていた。
その夜、ヒロ九一行は錦江湾沿いの大型ホテルへ入った。海を望む立地、桜島を正面に見る眺望、広々としたロビー、そして上階の展望温泉。鹿児島に来たと実感するには十分すぎる宿だった。
屋上の温泉からは、夜の錦江湾と桜島の影が見えた。
彩芽は湯船で目を輝かせた。
「なまら贅沢だべさ! 温泉から桜島見えるべさ!」
伊織が静かに言う。
「声が響きます」
ひなたは胸を張った。
「これが鹿児島じゃっど!」
菜々子支配人は、湯けむりの中でぼそりと言った。
「桜島もひなたさんも、今日は少し静かにしてください」
夕食会はさらに賑やかだった。
黒豚、きびなご、さつま揚げ、地鶏、郷土料理が並び、ヒロ九全員集合の打ち上げらしい華やかさがあった。
菜々子支配人は最初に釘を刺した。
「明日以降も遠征は続きます。飲みすぎは禁止です」
その真横で、ひなたが芋焼酎を注いでいた。
「鹿児島の夜にこれは外せんど」
向かいの伊織も、涼しい顔でグラスを空ける。
「料理との相性が良いですね」
菜々子は深いため息をついた。
「あーあ……」
ひなたは飲むほど絶好調になる。
「ヒロ九最高じゃっど! 鹿児島最高じゃっど!」
一方、伊織は何杯飲んでもまったく変わらない。顔色も声も姿勢も普段通り。
彩芽が震えた。
「伊織さんの体、なまら謎だべさ……」
夕食会では、皆がこの数日のことを語り合った。
熊本城のイベント。
人吉の球磨焼酎蔵。
えびのの道の駅。
霧島温泉郷。
高原牧場の子ヤギ。
鴨池の灰混じりの突風。
そしてサミット鹿児島。
香澄がしみじみ言う。
「今回、ほんとに全員で一つになれた気がしますたい」
つばさも頷く。
「声をつなぐだけじゃなくて、人もつながりましたね」
凪は真面目に言う。
「安全面の課題は多いですが、チームとしての対応力は向上しています」
茉莉花は笑う。
「堅かコメントやねぇ。でもその通りたい」
莉央も箸を置いて言った。
「また全員集合イベント、やりたいね。今度は衣装ももっと揃えたい」
迫田ツインズも静かに頷く。
澄香が言う。
「短期合流でも意味はあった」
澪香が続ける。
「次はもっと長く関わりたい」
菜々子支配人は少しだけ表情を緩めた。
「またやりましょう。ヒロ九全員集合イベントを」
ひなたはグラスを掲げた。
「次も鹿児島でやるど!」
菜々子が即答する。
「そこは協議します」
翌朝。
名残惜しさを抱えながら、一行は鹿児島中央駅へ向かった。
ヒロ九全員集合は、わずか一夜で解散となる。
莉央は博多のセレクトショップが忙しい。
「ごめんね。店の入れ替えがあるけん、先に戻るね。でも衣装のことならいつでも呼んで」
茉莉花は月末の経理処理が待っている。
「うちも新橋に戻らんと、領収書が山になるたい。ヒロ九は楽しかったけど、経理は逃がしてくれんけんね」
迫田ツインズは特殊任務へ戻る。
澄香は静かに言った。
「鹿児島の熱、見られてよかった」
澪香も続ける。
「次は、もう少し普通のイベントで会いたい」
香澄が少し寂しそうに笑う。
「また集まりましょう。ヒロ九は、離れていてもヒロ九ですたい」
菜々子支配人は四人を見た。
「ありがとうございました。短い時間でしたが、確かに力になりました」
ひなたは大きく手を振った。
「また飲むどー!」
凪がすぐに言う。
「次回は適量でお願いします」
莉央が笑い、茉莉花が肩をすくめ、迫田ツインズが小さく手を振る。
新幹線改札へ向かう背中が、少しだけ遠く見えた。
彩芽はぽつりと言った。
「お別れ、ちょっと寂しいべさ」
伊織が静かに頷く。
「でも、また会えます」
見送りを終えると、ヒロ九ラッピングバスは再びエンジンをかけた。
「ボボボボ……ゴホッ!」
桜島に負けじと、黒煙を噴き上げる。
真白が計器を見た。
「水温は安定しています。煙はいつも通りです」
菜々子支配人は窓の外を見た。
「全員集合は終わりました。でも、ヒロ九は強くなりました」
ひなたは前方を指さす。
「次へ行くど!」
黒煙バスは鹿児島中央駅を後にし、薩摩半島を南へ走り出した。
灰の街を抜け、海と畑と歴史の匂いがする方角へ。
ヒロ九クエスト鹿児島遠征は、まだ終わらない。




