ヒロ九クエスト 第47話 黒豚しゃぶしゃぶ決起集会――芋焼酎を水扱いする女たちと、未来の看護学生ヒロイン
鴨池でのリハーサルを終え、ヒロ九は鹿児島中央駅近くの黒豚料理屋に集まった。
翌日は、戦隊ヒロインサミット鹿児島の本番。菜々子支配人は座敷に全員を座らせるなり、真面目な顔で言った。
「明日が本番です。今日は決起集会ですが、飲みすぎないように――」
その横で、ひなたがもう芋焼酎を注いでいた。
「鹿児島の夜はこれじゃっど!」
さらに向かいの伊織も、涼しい顔でグラスを空ける。
「黒豚とよく合いますね」
菜々子は天井を見上げた。
「あーあ……」
ひなたは飲むほどに声が大きくなる。
「鹿児島最高じゃっどー!」
一方の伊織は、いくら飲んでも顔色ひとつ変わらない。
彩芽が目を丸くする。
「伊織さん、ほんとに飲んでるべさ?」
「飲んでいます」
「なんで変わらないべさ……」
「体質です」
「その体質、なまら怖いべさ」
そこへ黒豚しゃぶしゃぶが運ばれてくる。薄く切られた黒豚を湯にくぐらせると、脂がふわりと溶け、甘い香りが立った。
みのりが一口食べて、静かに頷く。
「脂に甘みがありますね。しつこさがなくて、肉の旨味がきれいに残ります。野菜と一緒に食べると、さらに香りが引き立ちます」
ひかりも上品に続ける。
「土地の食材として完成度が高いですね。鹿児島らしさが一皿で伝わります」
ひなたは大満足。
「さすがグレースフォース! 食レポも知的じゃっど!」
九州組の席では、ローカルネタが爆発していた。
香澄が熊本の話をすれば、つばさが佐世保弁で返し、凪が佐賀関の魚自慢を挟み、莉央と茉莉花が福岡の店事情で盛り上がる。迫田ツインズは宮崎弁交じりで静かに笑い、ひなたは鹿屋と芋焼酎を永遠に語っている。
「熊本の道は読めるですたい」
「佐世保は坂が多かけんね」
「中洲の店なら任せんしゃい」
「鹿屋は体力で押すんじゃ!」
話題は濃すぎて、非九州組には半分も分からない。
その一方で、みのり、ひかり、真白、彩芽の席も楽しげだった。
真白は静かに黒豚を味わいながら言う。
「こういう遠征、物流的にはかなり大変です。でも食事が美味しいと報われます」
彩芽は黒豚を頬張る。
「なまらうまいべさ! 鹿児島、肉が強いべさ!」
ひかりが笑う。
「彩芽さんの感想は短いけれど、説得力がありますね」
そこを行き来していたのが伊織だった。
沖縄出身の伊織は、九州組にも自然に入れるが、どこか外側から全体を見られる立場でもある。焼酎を水のように飲みながら、九州組の暴走を受け止め、非九州組へ話を橋渡しする。
彩芽が感心した。
「伊織さん、なまら媒酌人みたいだべさ」
「せめて仲介役と言ってください」
その時、料理を運んできたアルバイト学生に、ひなたの目が留まった。
小柄で整った顔立ち。明るく澄んだ目元。人気若手女優を思わせる清潔感のある美人で、接客は丁寧。しかも動きが落ち着いている。
「君、名前は?」
「宇佐美千鶴です。大分県宇佐市出身で、今は鹿児島市内の大学で看護を学んでいます」
ひなたの目が輝いた。
「看護学生! しかも大分出身で鹿児島在住! 九州愛はあるか?」
千鶴は少し照れながら答える。
「あります。大分も鹿児島も好きです。九州の良さをもっと知ってもらえる活動なら、すごく素敵だと思います」
菜々子支配人の表情が変わった。
「……いいですね」
香澄も小声で言う。
「気立ても良さそうですたい」
凪も冷静に評価する。
「落ち着きがあります。応急対応にも向いていそうです」
ひなたはすっかり気に入っていた。
「千鶴ちゃん、いいねぇ! ヒロ九向きじゃっど!」
菜々子は慌てて制する。
「今日は決起集会です。勧誘会ではありません」
それでも、菜々子の目も明らかに好印象だった。
千鶴は丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございます。明日のサミット、応援しています」
ひなたは上機嫌でグラスを掲げる。
「よし! 明日は成功じゃっど!」
菜々子はまたため息をつく。
「その前に、水を飲んでください」
伊織は平然と焼酎を空ける。
「私も水をいただきます」
彩芽が即座に突っ込んだ。
「今まで水みたいに焼酎飲んでたべさ!」
座敷は大爆笑に包まれた。
黒豚しゃぶしゃぶは美味い。
芋焼酎は進みすぎる。
九州組は濃く、非九州組もなじみ、伊織は両方をつなぎ、未来の看護学生ヒロイン候補まで見つかった。
ヒロ九初の全員集合決起集会は、騒がしくも温かく、翌日の本番へ向けて確かな熱を帯びていった。




