札幌妹、ついにホームへ――彩芽、静かな熱狂に包まれる
ノースフロントとしては初めての札幌イベントだった。
札幌では以前、巨大ドームで「戦隊ヒロインサミット札幌」が開催されたことがある。だが、あれは全国規模の大イベント。今回は違う。ヒロ室北方管区、通称ノースフロントとして、札幌の地に立つ初めてのステージだった。
会場は中島公園。
札幌中心部にありながら、水と緑が広がる巨大な都市公園。池、木々、文化施設、散策路が揃い、大都市の真ん中とは思えないほど空が広い。観光地であり、市民の憩いの場でもある。いかにも札幌らしい、静かで品のある舞台だった。
高城彩芽は朝から落ち着かなかった。
「ついに札幌だべさ! なまら気合入るべ!」
るみねぇが即座に釘を刺す。
「気合入れるのはいいけど、空回りすんなっぺ」
彩芽は胸を張る。
「大丈夫だべさ!」
柚葉が小声で言った。
「その“大丈夫”が一番心配なんだよね……」
かつて、札幌の地元メディアや企業は彩芽に冷たかった。姉・高城彩世の殉職の記憶が重く、「また札幌から戦隊ヒロインを出すのか」という慎重論も強かった。
だが、彩芽はノースフロントの各地イベントで少しずつ成長した。
にかほでは声援の意味を知り、函館では北海道の広さを知り、八戸や山形でも仲間たちの支えを見てきた。
その姿に、札幌側も掌を返した。
地元紙は「札幌の元気印、凱旋」と書き、企業は協賛に入り、以前は及び腰だった関係者まで「彩芽さんを応援したい」と言い出した。
玲香は苦笑した。
「見事な掌返しですね」
柚希が静かに返す。
「でも、それだけ彩芽が積み重ねたってことだべ」
そして、今回もいた。
阿部一族である。
ただし、今回はバス一台。規模は小さい。
秋田から札幌まで来ている時点で十分おかしいのだが、柚葉の感覚も麻痺してきていた。
「札幌まで来ねくていいって言ったのに……でも一台なら少ない方か……」
彩芽は感激した。
「阿部一族、来てくれたんだべか! なまら嬉しいべさ!」
柚葉は苦笑する。
「彩芽が喜ぶなら……まあ、いいか」
ステージが始まる。
札幌市民の応援は、にかほのような地鳴りではない。
大声で叫ぶより、内に秘めた熱を静かに見せる。
客席には手作りパネルが並んでいた。
彩芽ちゃん けっぱれ
札幌のヒロイン、おかえり
彩世さんの想いも一緒に
北の妹星、ここからだべさ
声は大きくない。
でも、掲げる手は高い。
彩芽はそれを見て、目を潤ませかけた。
「……札幌らしいべさ」
阿部一族みたいな分かりやすい応援も、彩芽は大好きだった。
だが、札幌市民のこういう応援も好きだった。
騒がない。
でも、見ている。
簡単には口にしない。
でも、一度応援すると決めたら静かに支える。
札幌で生まれ育った彩芽には、その心意気がよく分かった。
瑠璃の落ち着いたMC、玲香の華やかな紹介、柚希の丁寧な地域説明を経て、彩芽が前へ出る。
いつもの彩芽なら、第一声から大声だった。
だがこの日は、少し違った。
「今日は、来てくれてありがとうだべさ」
客席が静かに拍手する。
彩芽は続けた。
「私はまだ未熟だべさ。すぐ前に出るし、考えるより先に体が動くし、すみれコーチにも、るみねぇさんにも、よく怒られるべさ」
客席から笑い。
彩芽も少し笑う。
「でも、私は札幌のヒロインとして、ちゃんと強くなりたいべさ。姉ちゃんに恥ずかしくないように、札幌のヒロインとしてけっぱるべさ!」
その瞬間、拍手が一気に大きくなった。
叫び声ではない。
でも、熱い。
応援パネルが揺れる。
涙ぐむ年配客。
手を振る子どもたち。
そして、いつもより控えめに拍手する阿部一族。
るみねぇは舞台袖で目を細めた。
「彩芽、ちゃんと届いたっぺ」
玲香も静かに言う。
「今日は、彩芽さんの勝ちですね」
柚希が頷く。
「地元に届いたべ」
イベントは大成功だった。
終演後、彩芽は柚葉のところへ走ってきた。
「柚葉さん、私、札幌で応援されたべさ!」
柚葉は笑った。
「うん。ちゃんと応援されてたよ」
「にかほみたいに大声じゃないけど、なまら熱かったべさ」
「それが札幌なんでしょ?」
彩芽は大きく頷く。
「そうだべさ! 私、阿部一族みたいな分かりやすい応援も大好きだけど、札幌のこういう応援も大好きだべさ!」
新橋の準備室では、真帆が進捗表を更新した。
札幌イベント:成功
彩芽評価:大幅上昇
地元メディア反応:好転
阿部一族:北海道上陸継続
ノースフロント結束:改善傾向
胡蝶蘭:極めて良好
まさにゃんは胡蝶蘭に報告した。
「ノースちゃん、彩芽ちゃん、札幌で咲いたで」
茉莉花が微笑んだ。
「今日は大きい花たい」
ノースフロントは、まだ未完成。
だが、札幌の静かな拍手の中で、彩芽は確かに一歩成長した。
北の突撃妹は、少しだけ――札幌のヒロインになった。




