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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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八戸港で空気がほどける――せんべい汁と朝市がノースフロントを少しだけ仲良くした日

朝五時半。


八戸港はもう起きていた。


潮の匂い。

トラックのエンジン音。

魚箱を運ぶ人たちの威勢の良い声。


そして、その港に、やたら眠そうな美女軍団がいた。


ノースフロントである。


るみねぇは眠そうな目をこすりながら笑う。


「八戸は朝が早ぇっぺ。ほら、起きる起きる」


玲香は完全に不機嫌だった。


「……まだ太陽も本気を出していませんが」


柚希は肩をすくめる。


「漁港は朝勝負だべ」


乙実は寒そうに肩を丸める。


「うぢ、山形の朝も早いけど……海の朝ってもっと寒いのぉ……」


彩芽だけは元気だった。


「なまら市場だべさ!!」


そして瑠璃は静かに言った。


「彩芽さん、まだ市場に着いていません」


その後ろで、普段なら絶対いない男がいた。


藤堂隼人補佐官。


遥室長が出発前に首を傾げた人物である。


「なんで隼人くんも行くのら?」


隼人は珍しく歯切れが悪かった。


「いえ……その……物流構造と港湾連携の実地確認を……」


真帆が横から刺す。


「それ、普段の説明より雑です」


遥室長が細い目になる。


「ほんとにそれだけ?」


「……たぶん」


「“たぶん”って何なのら」


この時点でヒロ室内では、


“隼人補佐官、何か怪しい説”


が静かに流れていた。


ただし本人だけ気づいていない。


理由は簡単だった。


隼人は、八戸出身の蛯沢紗耶が少し気になっていた。


本人は絶対認めない。


八戸イベントの打ち合わせは、開始三十分で揉め始めた。


玲香が資料を見ながら言う。


「朝市コラボは悪くないですが、もう少し華やかな導線が必要です。映像映えも弱いですね」


柚希が即座に返す。


「八戸の朝市は生活文化だべ。派手さだけじゃないんです」


玲香。


「外向けには地味です」


柚希。


「外向けばっか考えるから薄くなるんです」


玲香。


「理想論ですね」


柚希。


「仙台しか見えてねぇべ」


るみねぇは笑顔を作る。


「はいはい、二人とも」


……止まらない。


最近のノースフロントでは、もはや定番の光景だった。


だが今日は、るみねぇにも疲れがあった。


いわき。

仙台。

盛岡。

にかほ。

山形。


ずっと現場を回し続けている。


少しだけ、笑顔が重い。


その時だった。


紗耶が、ふわっと言った。


「まあまあ。お腹空いてるからだよ。まず市場行かない?」


その声だけで、空気が変わった。


「せっかくだし、八戸らしいもの食べようよ」


玲香が少し間を置く。


「……それは、否定しません」


柚希も頷く。


「腹減ると、人間ちょっとキツくなるべ」


るみねぇが助かった顔をした。


「紗耶、ナイスっぺ……」


市場に着く。


八戸港の魚市場。


新鮮な魚。

イカ。

貝。

干物。

焼き魚の香り。


紗耶は自然に案内する。


「ここ、朝市有名なんだよ。おじさんたち優しいから」


玲香には、


「玲香さん、こういう生活感ある場所紹介したら、華やかさが引き立つと思う」


柚希には、


「柚希さんなら文化の説明できるよね」


乙実には、


「乙実さん、野菜売りのおばちゃん好きそう」


彩芽には、


「走らない。魚箱に突っ込むから」


「はいだべさ!」


三秒後。


「なまらイカだべさ!!」


走る。


「だから走らない!」


隼人は、そんな紗耶をじっと見ていた。


真帆が横で呟く。


「補佐官、顔に出ています」


「出ていません」


「出ています」


「出ていません」


「完全に出ています」


その後、一行はせんべい汁を囲んだ。


温かい湯気。


鶏肉。


野菜。


そして、汁を吸った南部せんべい。


彩芽が叫ぶ。


「せんべいって汁に入れていいんだべか!?」


紗耶が笑う。


「いいんだよ。こっちでは普通」


玲香が少し驚く。


「これは……想像より美味しいですね」


柚希も頷く。


「寒い土地の知恵だべ」


乙実は、ほっとした顔。


「体があったまるのぉ……」


るみねぇが笑う。


「紗耶、ありがと。ちっと楽になったっぺ」


紗耶は肩をすくめた。


「みんな、お腹空いてただけだよ」


その時だった。


また来た。


阿部一族。


しかもバス数台。


柚葉は頭を抱えた。


「遠くて朝早いから来なくていいって言ったんだけど……」


阿部家親族。


電子部品工場関係者。


なぜか野球部応援団。


今日もフルセット。


「柚葉ぁぁ!!」


「八戸まで来たぞぉ!」


「朝市最高ぉ!」


紗耶がぽつり。


「移動式祭りみたいだね」


イベント本番。


朝市とのコラボステージ。


派手ではない。


でも、温かい。


紗耶は主役なのに前へ出すぎない。


玲香の紹介を柔らかく修正。


柚希の話が長くなりそうなら自然に受ける。


乙実を前へ押し出す。


彩芽を魚コーナーから回収する。


「彩芽、マグロ持ってどこ行くの」


「記念写真だべさ!」


「置いてきなさい」


るみねぇには休憩を入れる。


その結果、イベントは大成功。


玲香は朝市を華やかに紹介。


柚希は八戸文化を真面目に語る。


乙実は優しい声で地元客に寄り添う。


彩芽は子どもたちと騒ぐ。


阿部一族は勝手に盛り上がる。


紗耶は、その全部の隙間を埋める。


イベント終了後。


るみねぇが言った。


「紗耶、あんた今日すげぇっぺ」


紗耶は困った顔。


「え? 私、何もしてないよ?」


玲香が珍しく認める。


「空気を読む才能ですね」


柚希も頷く。


「いてくれると揉めにくいべ」


隼人補佐官が急に真面目な顔になる。


「組織における潤滑油的人材は極めて重要です。紗耶さんの働きは――」


真帆が横から刺す。


「補佐官、急に熱量上がりましたね」


「……違います」


「分かりやすすぎます」


新橋帰還後。


真帆が進捗表を更新。


八戸イベント:成功

紗耶評価:極めて高い

玲香・柚希:朝食後やや改善

阿部一族:青森侵攻確認

隼人補佐官:様子がおかしい

胡蝶蘭:極めて良好


まさにゃんは胡蝶蘭に報告した。


「ノースちゃん、今日は紗耶ちゃんが空気を救ったで」


茉莉花が笑う。


「花で言うたら、支柱たいね」


ノースフロントは、まだ完成していない。


だが八戸で分かった。


派手な主役だけでは、組織は回らない。


空気をほどき、誰かを前へ出し、誰かを止める。


そんな人がいるから、みんな少しだけ仲良くなれる。


そして彩芽だけは最後まで言っていた。


「都市対抗って、やっぱり世界大会だべさ?」


誰も否定しなかった。


もう説明が面倒だったからである。

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