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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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胡蝶蘭は二度咲き、るみねぇは少し黙る――ノースフロント、進んでるのか止まってるのか

ノースフロントは、少しずつ前に進んでいた。


いわきでは、るみねぇの地元力でお披露目イベントが成功した。

仙台では、玲香が少しだけ“自分だけ主役”を卒業した。

盛岡では、柚希が地味な民俗学トークで会場を制した。

にかほでは、柚葉の凱旋イベントが町ごと暴走し、なぜか彩芽が第二の主役になった。


こう並べると、順調に見える。


だが、新橋ヒロ室の一角にある北方管区準備室は、今日も妙に重かった。


机の上には、スポンサー資料、自治体との調整メモ、出演順の修正案、玲香の仙台広報案、柚希の地域文化資料、阿部一族の応援団動員見込み表まで積まれている。


真帆は進捗表を見ながら、淡々と言った。


「ノースフロントは前進しています。ただし、前進するたびに問題も増えています」


遥室長は頭を抱えた。


「いいこと言ってるようで、全然いいことじゃないだよ……」


暫定フィールドマネジャーのるみねぇは、いつものように笑っていた。


「まあまあ、少しずつだっぺ。北日本は広いんだから、一気にまとまるわけねぇべ」


その笑顔に、いつもの明るさはあった。


しかし、ほんの少しだけ疲れていた。


玲香が資料を出す。


「次のイベントでも、仙台側スポンサーは私を前面に出す形を希望しています。やはり集客面では私の知名度が――」


柚希が静かに遮る。


「また仙台中心だべか。北日本全体で考える話だったはずです」


玲香の眉がわずかに上がる。


「現実的な話をしているだけです。集客できなければ意味がありません」


「集客だけなら、地域の信頼は育たねぇです」


「理想論ですね」


「仙台しか見てねぇからそう言えるんです」


空気が凍る。


いつもなら、るみねぇがすぐ笑顔で割って入る。


だが、この日は数秒、沈黙した。


その数秒が、妙に長かった。


るみねぇは資料を見たまま、ぽつりと言った。


「……二人とも、少し黙ってくんねぇか」


声は荒くなかった。


むしろ静かだった。


だからこそ、会議室が止まった。


玲香も柚希も口を閉じる。


るみねぇはすぐに顔を上げ、無理に笑った。


「悪い。怒ったわけじゃねぇんだ。ちっと、頭が回んねぇだけだっぺ」


遥室長の表情が変わった。


「るみねぇ、大丈夫じゃないだよね」


「大丈夫だっぺ」


「大丈夫な人は、今みたいな顔しないだよ」


真帆が資料をめくる。


「現状、るみねぇさんに、現場調整、スポンサー対応、出演順調整、地域間バランス、ダンスレッスン、メンバー育成が集中しています。ノースフロント以外のヒロインへの指導、本業のトロピカルダンサー業務もあります。明らかに過負荷です」


るみねぇは苦笑した。


「真帆さん、数字で言われると逃げ場ねぇな」


遥室長は静かに言った。


「ごめん。私が任せすぎただよ」


「いや、遥さんのせいじゃねぇっぺ。あたしが引き受けたんだから」


「でも、暫定って言ってたのに、どんどん恒久みたいになってるだよ」


るみねぇは、少しだけ目を伏せた。


「……あたし、ワンポイントのつもりだったんだけどな」


その一言は、準備室の空気を一段重くした。


玲香は黙っていた。

柚希も、少し気まずそうだった。


自分たちが噛み合わないたびに、るみねぇが間に入っていた。

地元スポンサーが揉めれば、るみねぇが頭を下げた。

ステージが乱れれば、るみねぇが立て直した。

彩芽が突っ込みすぎれば、るみねぇが止めた。

誰かが遠慮しすぎれば、るみねぇが前に出した。


北方管区は、るみねぇの笑顔に甘えていた。


るみねぇはいつもの口調に戻そうとして、軽く手を振った。


「まあ、湿っぽいのはやめっぺ。次は山形だろ? 乙実の地元も大事にしねぇとな」


だが、その声にも少しだけ力がなかった。


その時だった。


準備室の入口から、異常に明るい声が響いた。


「咲いた! 咲いたでぇ!」


まさにゃんである。


全員が振り向いた。


葛城正男室長代理、通称まさにゃん。

胡蝶蘭親善大使。

小役人根性と哀愁を背負う、吹田から単身赴任中の中年男。


彼は、ノムさんから贈られた胡蝶蘭の前で両手を広げていた。


「ノースちゃん、二度目の開花や! 北方管区より先に第二章突入や!」


黒崎茉莉花も横で笑っている。


「ほんと、よう咲いとるねぇ。まさにゃんさん、手ぇかけた甲斐あったたい」


まさにゃんは目を潤ませた。


「黒崎さん、これはワシらの勝利や」


茉莉花が首を傾げる。


「何に勝ったん?」


「無関心と乾燥にや」


会議室の重さが、少しだけ崩れた。


小春がいたら床を叩いて笑っていたに違いない。

実際、遥室長は思わず吹き出した。


「まさにゃん、今すごく真剣にくだらないこと言っただよ」


まさにゃんは胸を張る。


「くだらなくありません。胡蝶蘭は環境を整えたら応えてくれるんです。水をやりすぎてもアカン。放置してもアカン。日差しも風も大事。人間関係より分かりやすいんです」


真帆が進捗表に書き加える。


胡蝶蘭:二度目の開花


その下に少し迷ってから、さらに加える。


葛城室長代理:過剰に興奮


まさにゃんが叫ぶ。


「余計なこと書かんでええ!」


茉莉花が胡蝶蘭の葉をそっと拭く。


「でも、ほんと綺麗たい。まさにゃんさん、不在の時も心配しすぎやけんね。出かける前に三回くらい“黒崎さん、ノースちゃん頼みます”って言うもん」


「大事な子ですから」


「花やけどね」


「花ですけど、仲間です」


玲香がぽつりと言う。


「胡蝶蘭の方が、ノースフロントよりまとまっていますね」


柚希が静かに返す。


「花は仙台中心とか言わねぇべ」


玲香が言い返そうとして、やめた。

さすがに今はその流れではない。


るみねぇが、胡蝶蘭を見てふっと笑った。


「花はいいなぁ。急かさなくても、咲く時に咲くんだっぺ」


まさにゃんは、ここぞとばかりに得意げに頷く。


「せやろ。根を整えて、水をやりすぎず、環境を整える。これが胡蝶蘭の基本です」


茉莉花が即座に釘を刺す。


「調子乗りすぎたい」


まさにゃんは少ししぼんだ。


遥室長は、その胡蝶蘭をしばらく見ていた。


立派に咲いている。

それは、誰かが毎日世話をしたからだ。

水をやりすぎず、乾かしすぎず、場所を見て、様子を見て、手を入れたからだ。


北方管区にも、それが必要だった。


「るみねぇ」


遥室長が言った。


「少し体制を見直すだよ。あなた一人に背負わせるのは、もうやめるだよ」


るみねぇは苦笑した。


「見直すったって、人がいねぇべ」


「探すだよ」


その言葉に、真帆が顔を上げた。


遥は続ける。


「今すぐ決まる話じゃない。でも、るみねぇを支えられる人を探す。玲香さんと柚希さんを活かせる人。スポンサーとも話せて、現場も見られて、外へ発信できる人」


まだ、この時点では名前は出ていない。


だが、遥室長の中では、北日本に必要な人物像が少しずつ形を持ち始めていた。


玲香は少し悔しそうに目を伏せる。


「……私では足りないということですね」


遥は首を振った。


「違うだよ。玲香さんは必要だよ。でも、一人で全部やる必要はないだよ」


柚希も小さく言った。


「私も、前に出るの苦手ですから……支えが必要だべ」


るみねぇは二人を見て、少しだけ表情を緩めた。


「そういうこと言えるだけ、前よりマシだっぺ」


その瞬間、少しだけ空気が柔らかくなった。


だが、そこへまさにゃんがまた余計なことを言う。


「つまり、ノースフロントも胡蝶蘭みたいに、環境整備が大事いうことやな」


真帆が即答する。


「その通りですが、葛城さんが言うと少し腹立ちます」


「なんでや!」


茉莉花が笑った。


「でも、今日のまさにゃんさんは三割くらい正しいたい」


「三割……」


「普段より高いよ」


まさにゃんは複雑な顔をした。


その後、真帆は改めて進捗表を更新した。


いわきイベント:成功

仙台イベント:成功

盛岡イベント:成功

にかほイベント:大成功

玲香・柚希連携:微改善だが不安定

るみねぇ負荷:高、要対策

次期体制:検討開始

胡蝶蘭:二度目の開花、極めて良好


最後の項目だけ、やけに明るかった。


まさにゃんは胡蝶蘭の前に立ち、しみじみと言った。


「ノースちゃん、あんたは二度も咲いた。北方管区もそのうち咲くで。たぶん」


茉莉花が横から言う。


「“たぶん”がリアルたい」


るみねぇは小さく笑った。


「でも、たぶんでいいっぺ。今はまだ」


遥室長も頷いた。


「次は山形だよ。乙実さんの地元を大事にするだよ」


柚希が静かに言う。


「鶴岡は、派手さより丁寧さが大事だべ」


玲香も少しだけ表情を整えた。


「分かりました。今度は、最初から他県を立てる構成で考えます」


るみねぇが目を細める。


「お、玲香がちょっと成長したっぺ」


玲香はすぐにそっぽを向く。


「当然です。私は学習が早いので」


柚希が小さく笑った。


「そこは変わらねぇべ」


ノースフロントは、まだ半開きだった。


るみねぇの疲れは消えていない。

玲香と柚希も完全には噛み合わない。

スポンサー調整も山積み。

山形、青森、函館、札幌と、まだまだ先は長い。


だが、少しだけ大事なことが見えた。


一人に背負わせないこと。

水をやりすぎないこと。

放っておかないこと。

咲くまで、環境を整えること。


胡蝶蘭は二度咲いた。

るみねぇは少し黙った。

まさにゃんは調子に乗った。


そしてノースフロントは――進んでいるのか止まっているのか分からないまま、それでも次の街へ向かう準備を始めた。

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