応援される快感を覚えた彩芽――にかほ二日目、単純娘がまた一歩育つ
にかほ市での柚葉凱旋イベントは、大成功だった。
阿部一族、地元企業、関連会社、野球部応援団、近所の皆様まで総出で押し寄せ、柚葉は「来ねくていいって言ってらのに……」と顔を赤くしながらも、完全ホームの熱気に包まれた。さらに、札幌妹・高城彩芽がにかほ市民の心を妙につかみ、ノースフロントにとって大きな収穫となった。
そして翌日。
一行は、にかほ市が誇る世界的電子部品メーカーの野球部グラウンドにいた。
今日は少年少女向け野球教室の手伝いである。
しかし、重大な問題があった。
ノースフロントのヒロインたちは、全員そろって野球を知らなかった。
玲香はバットを持って首をかしげる。
「これは、どこまで持てば品よく見えますか?」
柚希は真面目にメモを取る。
「投げる、打つ、走る……祭礼競技として見ると興味深いべ」
乙実はボールを見て小声で言う。
「これ、当たったら痛そうだのぉ……」
紗耶は子どもたちに優しく笑う。
「お姉さんたちも初めてだから、一緒に覚えようねぇ」
瑠璃だけは冷静だった。
「ルールは分かりませんが、進行はできます」
柚葉は地元企業の行事なので、やたら緊張している。
そして彩芽。
「野球って、ボール蹴っていいんだべか?」
野球部員たちが一斉に吹き出した。
主将が笑いながら教える。
「蹴る競技じゃないよ。基本は投げて、打って、走る」
彩芽は真剣に頷いた。
「なるほど、投げて、打って、逃げるんだべさ!」
「逃げない。走る」
「敵から?」
「敵じゃない。相手チーム」
「じゃあ戦闘じゃないべか?」
「競技です」
彩芽の頓珍漢ぶりに、野球部員たちは完全に面白がっていた。
キャッチボールでは、彩芽が全力で投げようとして、るみねぇに止められる。
「彩芽、子ども相手だっぺ。全力で投げるな」
「はいだべさ! 優しく投げるべさ!」
その“優しく”投げたボールが、そこそこ速い。
少年が目を丸くする。
「お姉ちゃん、すげぇ!」
彩芽はすぐ調子に乗る。
「なまら嬉しいべさ! でもルールは全然分からないべさ!」
ティーバッティングでは、玲香がフォームだけ妙に美しいが、空振り。
柚希は理屈を考えすぎてタイミングが遅れる。
乙実は遠慮しすぎてバットがボールに触れるだけ。
紗耶は子どもを褒めるのが上手い。
瑠璃は「次の方どうぞ」と進行係として有能。
柚葉は地元の前なのできちんと当て、拍手を浴びる。
彩芽はというと、バットを持った瞬間に叫んだ。
「これ、思い切り振ればいいんだべさ!」
当たった。
しかも、けっこう飛んだ。
野球部員がざわつく。
「え、今の普通に良くない?」
彩芽は意味が分からず喜ぶ。
「飛んだべさ! 野球、なまら楽しいべさ!」
野球教室は、ヒロインたちが教えるというより、子どもたちと一緒に教わる形になった。だが、それが逆に良かった。
子どもたちは笑い、野球部員たちは楽しそうにサポートし、会場は終始明るい空気に包まれた。
野球教室の後は、応援団との合同イベントステージ。
ここで、ヒロインたちは本領を発揮した。
野球は分からない。
しかし、ステージと応援なら分かる。
応援団の太鼓、手拍子、掛け声に合わせて、るみねぇが軽く振り付けをつける。瑠璃が落ち着いたMCで進行し、玲香が華やかに会場をまとめ、柚希が地元文化と企業スポーツのつながりを真面目に語る。
柚葉が登場すると、また大歓声。
「柚葉ぁぁ!」
「にかほの誇りぃぃ!」
そして彩芽が出ると、子どもたちが一斉に叫ぶ。
「だべさー!」
彩芽は両手を上げた。
「みんな、なまら元気だべさ! 私も応援けっぱるっしょ!」
応援団長は即座にコールを作る。
「彩芽! 彩芽! けっぱれ彩芽!」
会場は爆笑と手拍子。
柚葉は苦笑した。
「また持っていった……」
るみねぇは笑う。
「彩芽は応援団と相性いいっぺ。理屈じゃなくて声で動くタイプだな」
合同ステージは大盛況で終わった。
終了後、野球部主将と応援団長がノースフロント一行に頭を下げた。
「今日は本当にありがとうございました。子どもたちも喜んでいました」
応援団長も笑顔で言う。
「ヒロインの皆さんが入ると、応援席が明るくなりますね。ぜひまた一緒にやりたいです」
そして主将が真剣な顔で続けた。
「私たちは都市対抗野球出場に向けて、日々練習しています。ぜひ応援に来てください」
柚葉は地元代表として丁寧に頭を下げる。
「ありがとうございます。ぜひ応援させてください」
玲香も微笑む。
「企業スポーツの熱量、勉強になりました」
柚希も頷く。
「地域と職場とスポーツがつながってるの、面白いべ」
乙実も小さく言う。
「うぢも応援したいのぉ」
紗耶も笑う。
「みんなで行けたら楽しそうだねぇ」
彩芽だけが、首をかしげていた。
「都市対抗野球って……ワールドカップみたいなものだべか?」
一瞬、全員が止まった。
野球部主将が必死に笑いをこらえる。
「ええと……都市や企業の代表が戦う、かなり熱い大会です」
彩芽は目を輝かせた。
「じゃあ、にかほ代表が世界に行くんだべさ!」
応援団長が吹き出す。
「世界には行かないけど、気持ちはそれくらい熱いね」
るみねぇが彩芽の肩を叩く。
「まずルール覚えっぺ」
彩芽は元気に答えた。
「はいだべさ! でも応援なら今すぐできるべさ!」
その一言に、会場の大人たちはまた笑った。
新橋の北方管区準備室では、真帆が報告書を更新した。
にかほ二日目:成功
野球理解度:低いが改善傾向
彩芽評価:さらに上昇
都市対抗理解:要説明
応援団との相性:良好
胡蝶蘭:極めて良好
まさにゃんは胡蝶蘭に報告した。
「ノースちゃん、彩芽ちゃん、今度は野球まで行ったで」
茉莉花が葉を拭きながら笑う。
「次は応援団入りたい」
ノースフロントはまだ未完成。
野球のルールもまだ怪しい。
だが、にかほの二日間で、彩芽は確実に育っていた。
声援を受けること。
誰かを応援すること。
地域に愛されること。
その全部を、札幌妹は野球グラウンドで少しだけ覚えたのである。




