表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
915/1043

にかほ市、応援しすぎ問題――柚葉凱旋イベント、なぜか札幌妹が第二の主役になる

にかほ市イベントは、最初から様子がおかしかった。


日本海と鳥海山に抱かれた秋田県にかほ市。海は青く、山は大きく、町には世界に誇る電子部品メーカーの巨大工場を中心とした、静かだが芯の強いものづくりの空気が流れている。精密で、堅実で、しかし勝負どころでは妙に大胆。そんな土地柄が、今回のノースフロントイベントに全部出ていた。


会場に到着した阿部柚葉は、まず立ち止まった。


横断幕が多すぎる。


柚葉はにかほの誇り!

秋田美人、北を照らせ!

阿部家一同、全力応援!

尖った大胆さで世界へ!


ここまでは、まだ分かる。問題はその横だった。


打て!走れ!守れ!柚葉!

電子部品も柚葉も世界品質!

にかほ市民は阿部柚葉を全力で推す!


柚葉は顔を真っ赤にした。


「私、野球部じゃねぇんだけど……。打て走れ守れって、何を?」


その隣で玲香が完全に引いていた。


「これは……地元人気というより、包囲網ですね」


仙台の女王・佐々木玲香。地元ではローカルタレントとして場慣れしている彼女でさえ、にかほ市民の熱量には少し気圧されていた。仙台の洗練された歓声とは違う。こちらは、親戚、近所、工場、商店会、野球部、町内会が全部束になって押し寄せる“地元総力戦”である。


乙実はいつも以上に小さくなっていた。


「うぢだったら、こんな応援されたら腰抜かすのぉ……」


紗耶も優しく苦笑する。


「柚葉ちゃん、愛されてるねぇ。でも、これは逃げ場ないねぇ」


瑠璃だけは平常運転だった。


「これだけ熱量があるなら、進行は読みやすいです。問題は、拍手が長すぎて時間が押すことですね」


盛岡の柚希は冷静に会場を見渡した。


「地元の結束が強ぇべ。これは柚葉さんに花を持たせる日だべな」


しかし、肝心の柚葉本人は、花を持たされすぎて完全に困っていた。


「来ねくていいって言ってらのに……なんで毎回増えてるんだべ……」


阿部一族は総出。父、兄、親戚、近所の人々。さらに父や兄が勤める世界的電子部品メーカーの工場関係者、関連企業の人々、なぜか野球部応援団までいる。工場長クラスの幹部まで来ており、地元の偉い人たちも妙に本気だった。


るみねぇは舞台袖で苦笑した。


「こりゃ、完全ホームだっぺ。今日は柚葉が逃げても、町が逃がさねぇな」


イベントが始まった。


瑠璃が落ち着いた声で開会を告げる。


「本日は、ノースフロントにかほイベントへお越しいただき、ありがとうございます」


その時点で拍手。


「本日の地元代表、阿部柚葉さん――」


大歓声。


「柚葉ぁぁぁ!」

「にかほの星ぃぃ!」

「阿部家最高ぉぉ!」

「秋田の誇りだぁぁ!」

「野球部も応援してるぞぉぉ!」


柚葉はマイクを握ったまま固まりかけた。


「今日は……来てくださって、ありがとうございます」


それだけで拍手。


少し笑えば歓声。

目線を向ければ横断幕が揺れる。

完全にホーム。だが、ホームすぎて逆にやりにくい。


玲香は小声で言った。


「これは、私でもやりにくいです。全部、柚葉さんに吸い込まれる」


柚葉もそれを感じていた。

このままだと、ノースフロントイベントではなく「阿部柚葉凱旋祭り」になる。


そこで柚葉は、逃げるように玲香へマイクを振った。


「玲香さん、仙台代表としてお願いします」


玲香は一瞬驚いたが、すぐにプロの顔へ切り替わる。


「にかほの皆さん、本日は本当に熱い歓迎をありがとうございます。仙台でも、ここまでの一体感はなかなかありません。北日本の力を感じます」


さすがだった。拍手も起こる。

だが客席からすぐに、


「柚葉も出せー!」


と声が飛ぶ。


玲香は笑顔を崩さず小声で呟いた。


「地元補正、強すぎます」


次に柚希が話す。


「にかほの皆さんの応援を見ていると、地域に根づくことの大切さが分かるべ。北日本は、一つに見えて、それぞれの土地に違う力があるんです」


真面目で良い話だった。

拍手も来る。


しかし、柚葉の名前が出るたびに観客の熱量が跳ねる。


柚葉は小声で呻いた。


「もう、私の名前出さないで……」


そこで、彩芽が前に出た。


高城彩芽。札幌出身の北の突撃妹。天真爛漫で、単純で、元気だけは常に満タン。難しい空気は読めないが、明るい場所には異様に強い。


柚葉は苦し紛れに言った。


「彩芽、北海道代表として何か言って」


彩芽の顔がぱっと輝いた。


「はいだべさ!」


ステージ前方へ一歩。


「北海道から来た高城彩芽だべさ! にかほの皆さん、なまら元気だべさ!」


会場が一瞬だけ静まり――すぐにどっと笑った。


「元気いいなぁ!」

「だべさ、かわいいぞ!」

「北海道も頑張れぇ!」

「彩芽ちゃーん!」


彩芽は嬉しそうに笑った。


「にかほ、なまら最高だべさ! 柚葉さん、こんなに応援されててすごいべさ! 私も、いつか札幌でこんなふうに応援されるヒロインになりたいべさ!」


この一言が刺さった。


にかほ市民は、真っ直ぐな若者に弱い。地元のために頑張る人間を応援する気質がある。柚葉を応援する気持ちが、そのまま柚葉が前に出した後輩へ流れた。


「彩芽ちゃん、けっぱれ!」

「札幌でも頑張れ!」

「にかほから応援してるぞ!」

「だべさー!」


彩芽は完全にハートを掴んだ。


「なまら嬉しいべさ! 私、もっとけっぱるっしょ!」


観客はさらに沸いた。


舞台袖でるみねぇが笑った。


「単細胞だけど、ああいう場には強ぇんだっぺ。応援されたら伸びるタイプだな」


玲香も複雑そうに見ていた。


「計算ではなく、真っ直ぐさで取るタイプですね」


柚希は静かに頷いた。


「北日本には、そういう子も必要だべ」


イベント後半、彩芽とにかほ市民の相性はさらに良くなっていった。


子どもたちが「だべさー!」と真似する。

彩芽が「なまら上手いべさ!」と返す。

おじさんたちが「けっぱれー!」と叫ぶ。

彩芽が「けっぱるべさ!」と拳を上げる。

なぜか野球部応援団が「彩芽コール」を始める。


「彩芽! 彩芽! 彩芽!」


柚葉は横で苦笑した。


「私のホームなのに、彩芽が第二の主役になってる……」


だが、不思議と嫌な気はしなかった。


彩芽がにかほ市民に受け入れられているのは、柚葉にとっても嬉しいことだった。自分だけでなく、ノースフロントの仲間も地元に受け入れてもらえた。それは、地元に帰ってきたヒロインとして、誇らしいことでもあった。


終盤、柚葉は改めてマイクを取った。


「今日は、にかほの皆さんにノースフロントを見てもらえて、本当に嬉しいです。私だけじゃなくて、玲香さんも、柚希さんも、乙実さんも、紗耶さんも、瑠璃さんも、彩芽も、みんな北日本の仲間です」


客席から拍手。


柚葉は少し照れながら続けた。


「だから……私だけじゃなくて、みんなも応援してけれ」


会場が応えた。


「ノースフロント頑張れぇ!」

「彩芽ちゃんもけっぱれぇ!」

「柚葉ぁ、また帰ってこいよぉ!」

「阿部家最高ぉ!」


最後だけ少し違ったが、勢いは十分だった。


イベントは大成功だった。


予定していた進行表はかなり崩れた。

阿部一族の熱量は強すぎた。

工場関係者の応援幕は多すぎた。

野球部の幕は完全に用途不明だった。

柚葉は照れすぎた。

彩芽は前に出すぎた。


だが、結果として最高だった。


今回の最大の収穫は、彩芽だった。


彼女は、地元に応援されるということの意味を知った。

声援は欲しがるだけではもらえない。

積み重ねた信頼が、人を動かす。

柚葉がにかほで積み重ねてきたものが、今日の熱狂を作っていた。


帰り際、彩芽は柚葉に言った。


「柚葉さん、私、いつか札幌でもこんなふうに応援されるようになるべさ」


柚葉は優しく笑った。


「すぐには無理だよ。でも、彩芽ならできると思う」


「ほんとだべか?」


「うん。今日、にかほの人たちも彩芽のこと好きになったし」


彩芽はぱあっと笑った。


「なまら嬉しいべさ!」


新橋の準備室では、真帆が進捗表を更新した。


にかほイベント:大成功

柚葉地元人気:過剰なほど確認

彩芽評価:急上昇

玲香・柚希連携:現状維持

応援幕:用途不明のもの多数

阿部一族:制御不能

胡蝶蘭:極めて良好


まさにゃんは胡蝶蘭に報告した。


「ノースちゃん、今日は彩芽ちゃんが咲いたで」


茉莉花が横で笑った。


「阿部一族の方が満開すぎたい」


ノースフロントは、まだ未完成。

だが、にかほの熱は確かに次の芽を育てた。


柚葉の地元愛。

にかほ市民の熱狂。

そして彩芽の真っ直ぐな元気。


この三つが噛み合った時、未熟な札幌妹は、ほんの少しだけ次の段階へ進んだのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ