仙台の女王、勝手に即位す――北日本支部長会議、開始前から大炎上
鬼怒川温泉の夜、麻雀牌がジャラジャラ鳴るだけの「戦隊ヒロイン最高戦略会議」で、なぜか一ミリだけ前進した議題があった。
北日本エリアの強化。
徹マン明けの朝、遥室長は眠そうな顔で報告を聞き、言った。
「何時間もジャラジャラやって成果が一行だけなら、その一行、本当に正式会議にかけるだよ」
半分は安眠を妨害された腹いせ。
だが、半分は本気だった。
東北、北海道、北関東の一部まで含めた北日本エリアは広い。ジェネラス・リンクの動きも北側で怪しくなっている。ヒロ九やヒロヒロが軌道に乗った今、次に手を入れるべきは北日本だった。
新橋ヒロ室の正式会議で、隼人補佐官が報告する。
「候補ですが、まず仙台の佐々木玲香。地元での知名度は高く、ローカルタレントとしての露出もあります。実力も華もあります」
遥室長は頷いた。
「そこだけ聞くと良さそうだよ」
隼人は言いにくそうに続ける。
「ただし、自己中心的で、他県への配慮が弱い。リーダータイプではありません」
真帆が淡々と補足する。
「支部長にした場合、組織が割れる可能性があります」
「言い方きついけど、だいたい合ってるだよ……」
次に出たのが盛岡の中野柚希。
地元の国立大学で民俗学を学ぶ真面目なヒロイン。東北各地の民話、祭り、風土への理解が深く、人望もある。
「リーダーにするなら柚希さんが適任です。ただ、真面目すぎて華やかさに欠けます」
佳乃が資料を見る。
「実務は柚希さん、広報は玲香さん。ただし、その二人を組ませると揉めますね」
「最初から詰んでるだよ」
さらに候補が並ぶ。
にかほ市の阿部柚葉は魅力も実力もあるが、現在は川崎在住。
八戸市出身で川崎区在住の蛯沢紗耶は優しくて面倒見も良い。隼人補佐官が「紗耶さんは現場での空気づくりが非常に上手くて……」と言った瞬間、遥室長が微妙にビキッと反応した。
「隼人補佐官、紗耶さん評価、高いんだね」
「え、いや、客観的評価です」
「ふーん」
会議室の空気が一瞬だけ冷えた。
琴音が小声で言う。
「こっちも別の意味で危険ずら」
山形県鶴岡市の今津乙実は地元愛が深く健気だが、周囲を引っ張るタイプではない。
そこで隼人が最後に挙げたのが、福島県いわき市出身のトロピカルダンサー、木戸瑠美――通称るみねぇだった。
「るみねぇは面倒見がよく、明るく、東北内外への抵抗感も少ない。リーダーというより“姉貴分”としてなら、最も適任かもしれません」
遥室長は少し考えてから言った。
「……るみねぇに持ちかけてみるだよ」
その頃、仙台では爆弾が勝手に点火されていた。
地元ローカル番組に出演した佐々木玲香が、司会者から軽く振られた。
「玲香さん、北日本エリアの戦隊ヒロイン強化で、中心的存在になるのでは?」
玲香は満面の笑みを浮かべた。
「まあ、東北支部長が必要なら、私が相応しいでしょうね。仙台は東北の中心ですし、東北を引っ張れるのは私くらいじゃないですか?」
スタジオは笑いに包まれた。
だが、それは地元仙台の空気だった。
放送後、この発言は各県ヒロインに即座に広がった。
盛岡の中野柚希は、普段は温厚で静かな人物である。
だが、この発言を聞いた瞬間、手元の民俗学資料を静かに閉じた。
「仙台は東北の一部です。東北そのものではありません」
怖いほど静かな怒りだった。
にかほ市の阿部柚葉も即座に反応した。
「玲香さんが支部長? それは有り得ないです。一切認めません」
秋田美人らしい穏やかな顔なのに、言葉ははっきりしていた。
青森方面からも、山形方面からも、福島方面からも、不満の声が上がる。
「仙台だけで東北を語らないでほしい」
「また玲香さんの自分中心発言」
「支部長就任前に全県を敵に回してどうするの」
ヒロ室は火消しに追われた。
真帆は即座にコメント案を三つ作る。
「北日本エリアの体制については現在検討中」
「特定個人の就任は決定していない」
「各地域の特性を踏まえ、時期を見て適切に発表する」
遥室長は頭を抱える。
「まだ何も決まってないのに、なんで勝手に即位してるだよ……」
佳乃が冷静に言う。
「発言コストが高すぎます」
隼人補佐官は玲香に連絡を取る。
「玲香さん、あの発言は誤解を招きます。まだ正式決定ではありません」
玲香は悪びれない。
「でも、知名度なら私が一番ですよね?」
「知名度だけで支部長は決まりません」
「仙台が中心なのは事実ですし」
「それを言うと他県が荒れます」
「荒れる方が大人げないんじゃないですか?」
隼人は無言で天井を見た。
この人を支部長にしてはいけない。
会話だけで分かる破壊力だった。
一方、るみねぇに打診する話は静かに進んでいた。
遥室長は言う。
「表看板を誰にするか、実務を誰が見るか、姉貴分として誰が空気を作るか。分けて考えた方がいいだよ」
真帆も頷く。
「玲香さんは広報要員としては使えます。ただし権限を持たせると危険です」
琴音がぼそっと言う。
「看板にはなるけど、椅子には座らせちゃいけないタイプずら」
小春が聞いていたら大喜びしそうな名言だった。
しかし、玲香本人はすっかりその気だった。
仙台の番組スタッフにも、
「東北支部長になったら、まず仙台から盛り上げたいですね」
などと話している。
その発言がまた漏れ、盛岡の柚希がさらに静かに怒る。
「盛岡も、秋田も、青森も、山形も、福島もあります」
柚葉も冷たく言う。
「玲香さんに北日本は任せられません」
ヒロ室では、火消しと人事案作成が同時進行になった。
遥室長は深くため息をついた。
「鬼怒川で徹マンを止めに行った時は、まさかこんな面倒な議題に育つとは思わなかっただよ」
波田顧問は苦笑する。
「でもよ、北日本は本当に手を入れなきゃならねぇ。揉めるってことは、みんな本気ってことだ」
遥は少しだけ表情を引き締める。
「そうだね。だからこそ、雑には決められないだよ」
隼人補佐官が資料を閉じる。
「次回、るみねぇへの正式打診。柚希さんとの意見交換。玲香さんには広報協力の形を提示します」
真帆が最後に一言。
「玲香さんには“支部長”という単語を当面使わせないようにしてください」
全員が頷いた。
だが、その頃、仙台の玲香は鏡の前で笑っていた。
「北日本支部長、佐々木玲香……悪くない響きね」
こうして、北日本テコ入れ編は、正式発足前から大炎上の気配を漂わせることになった。
中心人物は決まらない。
仙台の女王は勝手に即位しかける。
盛岡の民俗学者は静かに怒る。
秋田美人は断固拒否。
ヒロ室は火消し。
そして、るみねぇに白羽の矢。
北日本の春は、まだ遠そうだった。




