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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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幻の営業教材、電話注文で泣かせます――伊吹真白『声を届ける商い』、なぜか戦隊ヒロイン界隈で伝説になる

新人営業マン研修用教材として制作された映像作品、

**『声を届ける商い――伊吹真白、天秤行商で学んだ三方良し』**は、最初から派手な作品ではなかった。


爆破はない。

恋愛もない。

巨大セットもない。

有名女優も出ない。


あるのは、岐阜県大垣市出身の戦隊ヒロイン・伊吹真白が、声の小さな“濃尾の秘密兵器”から、天秤棒を担いで自分の言葉を届ける行商ヒロインへ成長していく姿だけだった。


だが、この地味な教材が、企業の新人営業マン研修で思わぬ反響を呼んだ。


最初に上映されたのは、とある中堅商社の新人研修会場だった。

新入社員たちは、スクリーンに映るタイトルを見てざわついた。


「戦隊ヒロイン?」

「営業研修だよな?」

「天秤行商って何?」

「三方良しは聞いたことあるけど……」


研修担当者も、最初は少し不安だった。

だが、映像が始まると空気が変わった。


加入当初の真白が、天秤棒を担いで船橋駅前に立つ。

缶バッジ、応援タオル、たわし、歯ブラシ、ゴム紐。

売るものはある。

だが、真白の声は小さい。


「……いかがですか」


誰も止まらない。


「……戦隊ヒロイングッズ、あります」


通行人は通り過ぎる。


画面の真白は、まるで冬の街角に立つ薄幸の少女だった。

売っているのはマッチではなく、たわしとゴム紐だが、切なさだけは妙に本物だった。


そこへ、三好さつきの落ち着いたナレーションが入る。


「声が小さいのは、喉の問題ではありません。自分の言葉が、誰かに届くと信じられない心の問題なのです」


その一言で、新入社員たちの顔が変わった。


「これ、俺だ……」

「初めて電話かける前の自分だ……」

「飛び込み営業の前って、まさにこれだよな……」


さらに、館山みのりが現れる場面で、研修会場は完全に持っていかれた。


泣きそうな真白に、みのりが優しく声をかける。


「真白さん、ここで販売しているんですか?」


「琴葉さんから、全部売れるまで帰ってきちゃ駄目って言われました」


みのりは静かに隣へ立つ。


「では、私も一緒に売ります」


そして通行人に向かって、穏やかに呼びかける。


「この子、岐阜から来たいい子なんです。皆さん、少しだけ見ていってください。応援してあげてください」


この時点で、研修担当者の一人が涙ぐんだ。


新人営業マンより先に、教える側が泣いたのである。


「いや、これは新人の頃を思い出すな……」


隣の担当者も頷く。


「最初は誰だって真白なんだよ……」


映像では、みのりの助言を受けた真白が、初めて自分の言葉で商品を説明する。


「このゴム紐は……荷物をまとめる時に使えます。トラックの現場でも、固定することは大事です」


通行人が足を止める。


「じゃあ、それください」


真白の目が揺れる。


「ありがとうございます」


初めて、自分の声が届いた瞬間だった。


会場の新人の一人は、鼻をすすった。


「これ、営業教材っていうより、人生教材じゃないですか」


研修担当者は、すでに泣きながら言った。


「そうだ。営業は人生だ」


それを聞いた別の新人は少し引いたが、作品の力は本物だった。


終盤、序盤で真白に嫌味を言っていた西園寺綾乃が、成長した真白を認める場面では、会場が完全に静まり返った。


綾乃が、穏やかな京言葉で言う。


「真白はん、ええ声にならはりましたなぁ。その天秤棒、今の真白はんには、よう似合うてますえ」


真白が涙を浮かべて頭を下げる。


「ありがとうございます」


そこへ、さつきのナレーションが重なる。


「商いとは、物を売ることだけではありません。相手を見ること。相手に届く言葉を探すこと。その人の役に立つものを、きちんと届けること」


研修会場は、完全に泣く空気になった。


上映後、研修担当者はアンケートを見て驚いた。


「営業の第一歩が怖くなくなった」

「断られることより、伝えようとしないことの方が怖いと思った」

「自分の言葉で話す大切さが分かった」

「綾乃さんの嫌味が刺さりすぎた」

「みのりさんが優しすぎて泣いた」

「真白さんの成長に勇気をもらった」

「三好さつきさんのナレーションが反則」


評判はすぐに広がった。


商工会議所、地方企業、営業研修会社、戦隊ヒロイン候補生の育成担当まで、問い合わせが相次いだ。


「新人研修で使いたい」

「営業部の若手に見せたい」

「管理職研修にも使える」

「むしろ全社員で見たい」

「綾乃さんの嫌味をコンプライアンス研修で使いたい」


最後の要望には、真帆が「用途が違います」と冷静に返した。


やがて、作品は市販化されることになった。


しかし、ここで普通の流通に乗らないのが、戦隊ヒロインプロジェクトである。


販売ルートは三つだけ。


一つ、ブラックキャブプロダクション通販部門への電話注文。

二つ、戦隊ヒロインイベント会場の物販テント。

三つ、たまにイベントで登場する伊吹真白本人の天秤行商。


小春は販売方法を聞いて叫んだ。


「令和の研修教材なのに、買い方が昭和っす!」


ノムさんは胸を張った。


「分かっとらんな。買いにくいからこそ幻の名作になるんや」


真帆が淡々と突っ込む。


「単に通販体制が弱いだけです」


だが、この買いにくさが逆に一部マニアを刺激した。


ネット上では妙な噂が流れ始める。


「電話注文すると、たまに所属タレントが出るらしい」

「イベント会場で買うと真白本人から買えることがあるらしい」

「天秤行商版には一言メモが付くことがあるらしい」

「研修教材なのに泣けるらしい」

「綾乃さんの嫌味が名演らしい」


ある日、ブラックキャブプロダクション通販部門に電話が鳴った。


「はい、ブラックキャブ通販部門ですぅ。『声を届ける商い』ですね? ありがとうございますぅ。通常版と研修担当者向け解説冊子付きがありますけど、どちらにされますかぁ?」


電話に出たのは、富山湾の爆乳マーメイド・氷見ゆりえだった。


注文者は一瞬固まった。


「えっ、本当にゆりえさんが電話に出るんですか?」


ゆりえは明るく答える。


「たまに出ますぅ。今日は人手不足なので」


この一件が口コミで広がり、電話注文がさらに増えた。


ノムさんは笑いが止まらない。


「教材が売れる。通販部門が回る。ゆりえちゃんの電話対応まで話題になる。これぞ三方良しや!」


堀井琴葉がすかさず言う。


「ノムさん、三方良しを便利に使いすぎです」


一方、戦隊ヒロインイベント会場では、真白が天秤棒を担いで教材を売っていた。


「寄ってってちょうだゃあ。新人営業マンさんにも、研修担当さんにも、商いに悩む人にもおすすめやで。泣けるけど、ちゃんと使える教材やて」


その口上で、また売れる。


ある若い営業マンが、真白から直接DVDを買った。


「会社の研修で見ました。真白さんが最初に商品を売れた場面で、自分も頑張ろうと思いました」


真白は少し照れながらも、丁寧に頭を下げた。


「ありがとうございます。声は、少しずつ届くようになります」


その言葉に、若い営業マンはまた泣きそうになった。


少し離れた場所で、琴葉はそれを見ていた。


かつて、船橋駅前で電信柱の陰から真白を見守った時と同じように。


「真白……ほんまに、届く声になったなぁ」


みのりも穏やかに微笑む。


「真白さんの物語が、誰かの背中を押しているんですね」


美月は横から胸を張る。


「うちの応援台詞も効いてたやろ?」


綾乃は扇子を口元に当て、涼しい顔で言う。


「うちの嫌味も、少しは役に立ったようどすなぁ」


小春がすぐ突っ込む。


「綾乃さん、あの嫌味、研修生の心もけっこうえぐってますよ!」


綾乃は平然と返す。


「最後に認めてますやろ。帳尻は合うてますえ」


こうして、**『声を届ける商い――伊吹真白、天秤行商で学んだ三方良し』**は、普通の教材とは違う道を歩き始めた。


大手通販サイトにはない。

量販店にもない。

書店の教材コーナーにも並ばない。


電話注文か、イベント物販か、真白の天秤行商。


その入手しづらさから、一部では幻の営業教材と呼ばれるようになった。


だが、見た者の評価は高い。


新人営業マンは、自分の最初の一歩を思い出す。

研修担当者は、若手に何を伝えるべきか考え直す。

戦隊ヒロイン候補生は、人前に立つ怖さと、そこから変わる勇気を学ぶ。


そして真白自身も、この作品を通じて改めて知った。


自分の声は、もう届いている。

かつての小さな声は、誰かの背中を押す教材になった。


売上報告会で、ノムさんは腕を組んで言った。


「これは教材やけど、やっぱり映画にも――」


全員が即答した。


「教材です」


真白は天秤棒を担ぎ、少し笑った。


低予算で作られた研修用教材は、いつの間にか一部マニアに語られる幻の名作になっていた。


売り手良し。

買い手良し。

世間良し。


そして、真白良し。


三方どころか、四方良しの教材ビデオであった。

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