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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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船橋駅前、天秤棒の少女を救え!――大根ヒロイン軍団、ノムさん演技塾でまさかの名作を撮る

伊吹真白の成長物語を題材にした新人営業マン研修用教材ビデオ、

**『声を届ける商い――伊吹真白、天秤行商で学んだ三方良し』**の撮影は、初日から不安しかなかった。


なにしろ出演者の大半が、戦隊ヒロインとヒロ室関係者である。


女優志望は、なぜか一人もいない。


陽菜は可愛すぎて通行人役なのにカメラが勝手に寄ってしまう。

彩芽は「たわしって何に使うべか?」という一言を、舞台挨拶のような声量で言う。

小春はただ歩くだけなのに、完全にMCの顔をしている。

澪はぼーっと立っているだけで、自然すぎて通行人と区別がつかない。

沙羅は通りすがりの客なのに、歩き方が完全にファッションショーだった。


映像会社の担当者は、開始三十分で頭を抱えた。


「皆さん、もう少し自然にお願いします」


小春が即答する。


「自然って難しいっすね!」


そこへ立ち上がったのが、ノムさんだった。


「しゃあないな。ワシが見るわ」


普段は大風呂敷と悪ノリの化身みたいな男だが、実は若い頃は大部屋俳優。

芝居の基本、立ち位置、目線、間、カメラ映りは、妙に分かっている。


「彩芽ちゃん、声量半分や。いや、三分の一や」

「小春ちゃん、通行人はカメラに勝とうとせん」

「沙羅ちゃん、ここはランウェイやない。船橋駅前や」

「澪ちゃんは……そのままでええ。自然すぎる」


ノムさんの演技指導は意外にも的確で、現場は少しずつ落ち着いていった。


そして、いよいよ前半最大の見せ場。

船橋駅近くで、真白が天秤棒を担いで行商する場面の撮影である。


真白は、缶バッジ、応援タオル、たわし、歯ブラシ、ゴム紐を天秤棒にぶら下げ、駅前の人通りの端に立つ。


設定上は、加入当初の真白。

声が小さく、売れず、自信がなく、琴葉から「全部売れるまで帰ってきたらあかん」と言われている。


真白は、今の自分とは違う昔の自分を演じるはずだった。


だが、天秤棒を担いだ瞬間、昔の感覚が戻ってきた。


重い。

声が出ない。

人の流れが怖い。

誰もこちらを見てくれない。


「……いかがですか」


声は、駅前のざわめきに消えた。


「……戦隊ヒロイングッズ、あります」


誰も止まらない。


その姿は、完全にマッチ売りの少女だった。

売っているのはマッチではなく、たわしとゴム紐だったが、哀愁だけは本物だった。


小春が小声で言う。


「真白さん、薄幸感が強すぎるっす……」


沙羅も珍しく心配そうに見つめた。


「演技なのよね? ちょっと本気で可哀想なんだけど」


その時、館山みのりが現れる。


みのりの役は、偶然通りかかる優しい先輩ヒロイン。

泣きそうな真白を見つけ、声をかける重要な役だった。


みのりは静かに歩み寄った。


「真白さん……ここで販売しているんですか?」


真白は俯いたまま、小さく頷く。


「はい……琴葉さんから、全部売れるまで帰ってきちゃ駄目って言われました」


みのりの表情が、ふっと柔らかくなる。


「そうですか。では、私も一緒に売ります」


その場の空気が変わった。


みのりは、通行人に向かって落ち着いた声を出した。


「皆さん、少しだけ見ていってください。この子、岐阜から来たいい子なんです。戦隊ヒロインとして頑張っています。よかったら応援してください」


声は大きすぎない。

だが、ちゃんと届く。


足を止める人が出てくる。


「岐阜から?」

「天秤棒って珍しいね」

「何売ってるの?」


みのりは真白へ優しく言う。


「真白さん、商品がどう役に立つかを話してみてください。あなたは物流の現場を知っています。自分の言葉でいいんです」


真白は、少しだけ顔を上げた。


「この応援タオルは……イベントで使えます。汗も拭けます。たわしは、水回りに使いやすいです。歯ブラシは、持ち歩き用にも……できます」


まだぎこちない。

けれど、声はさっきより届いていた。


みのりが横で微笑む。


「いいですね。もう少しだけ、前を見て」


真白は頷く。


「このゴム紐は……荷物をまとめる時にも使えます。トラックの現場でも、固定することは大事です」


客の一人が笑った。


「じゃあ、そのゴム紐ください」


真白の目が揺れた。


「はい……ありがとうございます」


一つ売れた。


現場に、妙な静けさが流れた。


その様子を、電信柱の陰から見ている人物がいた。


堀井琴葉である。


完全に、昔のスポ根アニメで姉が物陰から弟を見守るような立ち位置だった。

本人は隠れているつもりだが、わりと見えている。

小春は気づいていたが、あえて黙っていた。


琴葉は、真白が泣きそうな顔で立ち尽くす姿を見て、胸が痛んでいた。


厳しくした。

声を出せと叱った。

売れなければ帰るなと突き放した。

それは真白を鍛えるためだったが、決して心配していなかったわけではない。


「真白……もう少しや」


琴葉は小さく呟いた。


そこへ、みのりが真白の背中を押してくれる。

通行人に声をかけ、商品を説明する流れを作り、真白が自分の言葉を出せるように導いていく。


琴葉の目が少し潤んだ。


「みのりさん……ほんま、ええ先輩やなぁ」


ノムさんが、その琴葉の様子まで見ていた。


「よし、そこ撮れ! 琴葉ちゃんの陰から見守るカット、これ絶対いる!」


担当者が慌てる。


「台本にないです!」


ノムさんは完全に演出家の顔だった。


「台本を超えた真実がそこにあるんや!」


遥室長が小声で言う。


「ノムさん、今日は妙に正しいだよ……」


真帆も頷く。


「悔しいですが、良い判断です」


撮影はさらに続く。


みのりの優しさに支えられ、真白は少しずつ声を出す。


「寄ってって……ちょうだゃあ。見るだけでも、ええんやて」


美濃弁が少し混じる。

その瞬間、琴葉の顔がほころんだ。


「出た。真白の声や」


そこへ、波田顧問が客役として登場する。


「おう、嬢ちゃん。このたわし、なかなか根性ありそうじゃねぇか。一つもらうぜ」


真白は少し驚きながらも、丁寧に頭を下げる。


「ありがとうございます」


波田顧問の江戸っ子客は、妙に自然だった。

普段からこういう人だからである。


続いて、佳乃の断る客シーン。


「結構です。今は必要ありません」


冷たい。

あまりにも自然。

誰もが「演技なのか?」と思った。


佳乃は平然としている。


「役です」


小春が小声で言う。


「説得力が強すぎるっす」


そして、美月の急遽追加シーン。


もともと予定にはなかったが、現場に顔を出した美月が「うちも出たい」と言い出し、ノムさんが即採用した。


美月は、真白のそばに来て明るく言う。


「真白、売れへん日もあるわ。けどな、声出さんかったら、売れる日も来えへんで。まず一回、腹から言うてみ」


その言葉は、思いのほか温かかった。


真白は少し笑う。


「はい」


撮影現場にいた琴葉は、その場面にも静かに頷いた。


美月は美月で、真白をちゃんと見ている。

みのりは優しく支え、美月は元気に背中を押す。

真白は、自分ひとりで変わったのではない。

いろいろな先輩たちに見守られて、ここまで来た。


その後、綾乃の嫌味シーンの撮影も行われた。


ノムさんの演出は異様に熱を帯びていた。


「綾乃ちゃん、もっと笑顔や。笑顔で刺すんや。京都の針や!」


綾乃は困惑しながらも、見事に嫌な先輩を演じ切った。


「真白はん、天秤棒担いで商いでっか? 何しに岐阜から出てきはったんか、よう分かりまへんなぁ」


現場が凍るほどの嫌味だったが、カットがかかると綾乃は真白に駆け寄る。


「堪忍しておくれやす。ほんまは思ってまへんからね」


真白は笑った。


「大丈夫です。綾乃さん、すごかったです」


そして終盤には、綾乃の挽回台詞も撮影された。


成長した真白が、美濃弁の口上で商品を売り切る。

それを見た綾乃演じる先輩が、静かに微笑む。


「真白はん、ええ声にならはりましたなぁ。その天秤棒、今の真白はんには、よう似合うてますえ」


その一言で、教材としての物語がきれいに締まった。


船橋駅前ロケは、無事に終わった。


立ち食いそばを食べるだけのノムさんは、なぜか三回もリテイクを要求した。

担当者は最終的に、最初の一回を使うことにした。


撮影後、琴葉は真白のもとへ歩み寄った。


「真白、ようやったな」


真白は少し照れながら答える。


「昔の自分を演じるの、思ったより苦しかったです」


琴葉は優しく笑う。


「でも、今のあんたは、ちゃんと声が届いとる」


その言葉に、真白は小さく頷いた。


後日、人気キャスターとなった三好さつきのナレーションが入った。


「声が届かない日がある。断られる日がある。それでも、相手の顔を見て、役に立つものを届けようとした時、商いはただの販売ではなくなる」


完成した教材ビデオは、低予算とは思えない出来だった。


大根ヒロインだらけ。

ノムさんの謎に的確な演技指導。

綾乃の迫真の嫌味。

美月の急遽参加。

琴葉の電信柱の陰から見守る名場面。

そして、みのりの優しさと真白の成長。


笑えるのに、ちゃんと胸に残る。


教材を見終えた遥室長は、静かに言った。


「これは、いいものになっただよ」


真帆も頷く。


「新人営業研修にも、ヒロイン育成にも使えます」


ノムさんは腕を組んだ。


「やっぱり劇場版も――」


全員が同時に言った。


「教材です」


しかしその日だけは、ノムさんも少しだけ満足そうだった。

なぜなら、低予算教材ビデオは、確かにまさかの名作になったからである。

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