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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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低予算教材ビデオ、なぜか大女優構想になる――伊吹真白、本人役で天秤棒を担ぐ

伊吹真白の成長物語を題材にした新人営業マン研修用教材ビデオは、いよいよ具体化へ向けて動き出した。


場所は新橋ヒロ室のミーティングスペース。

机の上には企画書、仮台本、撮影スケジュール、そしてなぜかノムさんが勝手に作った映画風ポスター案まで並んでいる。


タイトル案は、

『声を届ける商い――伊吹真白、天秤行商で学んだ三方良し』


映像ソフト会社の担当者は、真面目な顔で説明した。


「これは、伊吹真白さんの実録をもとにした創作教材です。実際の成長記録とは一部異なりますが、令和の新人営業マンに“売るとは何か”“相手に声を届けるとは何か”“三方良しとは何か”を伝える作品にしたいと考えています」


堀井琴葉は腕を組み、しみじみ頷いた。


「真白が教材になる時代が来るとはなぁ。最初はほんま、蚊の鳴くような声やったんやで」


隣の真白は、顔を赤くして俯いた。


「師匠……それ、何度も言わないでください……」


琴葉は笑う。


「そこが大事なんや。声が小さかった子が、自分の言葉で商いできるようになる。そこに値打ちがあるんや」


遥室長も乗り気だった。


「これはやる意味あると思うだよ。営業研修にもヒロイン育成にも使えるし、近江商人の心意気を伝える教材にもなるだよ」


真帆も資料をめくりながら頷く。


「映像教材としては、構成も明確です。加入当初の伸び悩み、天秤行商修行、船橋での転機、現在の成長。分かりやすいです」


そこへ、当然のようにノムさんが割り込んだ。


「ちょっと待てい。教材としてはええ。せやけどな、映像作品いうんはキャスティングが命や」


嫌な予感がした。


ノムさんは、勝手に作ったキャスティング表を広げる。


「真白役は、今なら今●美桜ちゃんやな。透明感もあるし、芯の強さも出せる。いや、めるるなんかも良いね。明るさと親しみやすさがある。どっちもいけるで」


真白本人は、ぽかんとしている。


「私の役を……そんな方が?」


映像会社の担当者は、ものすごく申し訳なさそうに首を振った。


「大変魅力的な案ではありますが、今回は研修用教材ですので……予算がありません」


佳乃が即座に言った。


「ありません。絶対にありません」


ノムさんは食い下がる。


「予算は作るもんや!」


佳乃は冷たい目で返した。


「作れません。特に有名新進女優の出演料は、天秤棒では担げない額です」


小春が吹き出す。


「佳乃さん、表現が上手いっすね」


ノムさんはなおも諦めない。


「ほな、せめて友情出演で」


真帆が淡々と言った。


「ありません」


遥室長もきっぱり続ける。


「今回は真白さん本人に出演してもらうだよ。その方が説得力あるし、何より教材として正しいだよ」


ノムさんは腕を組んだ。


「本人主演か……ドキュメンタリー風なら、それはそれで味があるな」


切り替えが早い。


こうして主演は、伊吹真白本人に決定した。


真白はますます緊張した顔になる。


「私、演技なんてできません……」


琴葉はにこっと笑った。


「あんたは演技せんでええ。昔の自分を思い出したらええんや」


「それが一番恥ずかしいです……」


「ほな、ええ教材になるわ」


真白は何も言えなかった。


低予算ゆえに、エキストラもヒロ室スタッフとヒロインたちが務めることになった。


波田顧問は、真白からたわしを買う客役。


「おう、嬢ちゃん。このたわし、なかなか根性ありそうじゃねぇか」


という謎の江戸っ子客である。


遥室長は、スポンジを買う主婦役。


遥は台本を見て首をかしげた。


「主婦役なら佳乃ちゃんの方が向いてる気がするのら。家計管理も上手そうだし」


佳乃は無表情で答えた。


「私は断る客役です」


「断る客?」


「真白さんが最初に心を折られかける重要な役です」


遥室長は少し黙った。


「……似合いすぎるのら」


佳乃は否定しなかった。


ノムさんは、船橋駅前で立ち食いそばを食べる通行人役。

ただそばを食べるだけのはずなのに、なぜか妙に存在感が出そうなので、担当者は「映るのは二秒で」と決めた。


そして、最大の問題が西園寺綾乃だった。


仮台本には、加入当初の真白をいびる嫌味な先輩ヒロインが登場する。

京言葉で、優雅に、しかし刺すように真白をからかう役である。


台詞はこうだった。


「真白はん、天秤棒担いで商いでっか? 何しに岐阜から出てきはったんか、よう分かりまへんなぁ」


さらに、


「声も聞こえまへんし、商品も売れまへんし、秘密兵器やのうて、ただのお荷物どすなぁ」


小春が台本を読んで爆笑した。


「綾乃さん、完全に昭和の大映ドラマの悪役っす!」


綾乃は台本を閉じ、静かに言った。


「堪忍しておくれやす。さすがにこれは、うちの品格に関わりますえ」


担当者は慌てて頭を下げた。


「もちろん、この役は物語上の創作です。ただ、真白さんが“自分は声も出せない、売ることもできない”と痛感する場面が必要なんです」


綾乃は渋い顔だ。


「人を傷つけるだけの役は、あまり気が進みまへん」


すると琴葉が口を挟んだ。


「そこは分かります。せやから、最後に綾乃さんの役が挽回する台詞を入れたらどうやろ」


担当者はすぐにメモを取った。


「いいですね。終盤で、成長した真白さんの行商を見て、嫌味な先輩が認める場面を入れましょう」


新しい台詞案が、その場で作られた。


成長した真白が、美濃弁の口上で商品を売り切る。

それを見て、綾乃演じる先輩が少し微笑む。


「……真白はん、ええ声にならはりましたなぁ。商いは人を前へ出すんやね。うち、少し見くびっておりましたわ」


さらに一言。


「その天秤棒、今の真白はんには、よう似合うてますえ」


会議室が少し静かになった。


真白は顔を赤くしながらも、少し嬉しそうに目を伏せた。


綾乃も台本を見直し、ようやく小さく頷いた。


「そこまで用意してくれはるなら……お受けします。ただし、撮影後には真白さんにきちんと謝らせておくれやす」


小春がまた笑う。


「悪役なのに律儀すぎる!」


綾乃はすぐに返した。


「小春さん、お里が知れますえ」


担当者が目を輝かせる。


「それです! その棘! その上品な冷たさ!」


綾乃は眉をひそめた。


「褒め方が失礼どすなぁ」


こうしてキャスティングは決まっていった。


主演、伊吹真白。

師匠役、堀井琴葉本人。

真白を支える先輩役、館山みのり。

嫌味な先輩役、西園寺綾乃。

たわしを買う客、波田顧問。

スポンジを買う主婦、遥室長。

断る客、佳乃。

立ち食いそばの人、ノムさん。

その他通行人、ヒロ室スタッフと希望する戦隊ヒロイン全員。


真帆は資料をまとめながら言った。


「低予算ですが、妙にキャストは豪華です」


遥室長は苦笑する。


「豪華というか、身内総動員だよ」


ノムさんは、まだ諦めきれない顔で言った。


「やっぱり予告編だけでも映画風にしようや。『彼女は、天秤棒で運命を売った――』みたいな」


佳乃が即座に言う。


「売っていません」


琴葉も笑う。


「売るのは缶バッジと応援タオルと、たわしと歯ブラシとゴム紐です」


小春が腹を抱えた。


「急に現実的!」


真白は、天秤棒の小道具をそっと手に取った。


昔は、この棒が重かった。

商品よりも、人前に立つことの方が重かった。

声を出すことが怖かった。


けれど今は違う。


真白は小さく息を吸い、少しだけ美濃弁を混ぜて呟いた。


「寄ってってちょうだゃあ……見るだけでも、ええんやて」


琴葉は満足そうに笑った。


「ええ声や。ちゃんと届くようになったな」


研修用教材ビデオのはずが、ノムさんのせいで何度か娯楽映画になりかけた。

綾乃は悪役令嬢にされかけた。

遥室長はなぜか主婦役になった。

ノムさんは立ち食いそばを食べるだけなのに、撮影前から妙に気合が入っている。


それでも、企画は確かに前へ進んでいた。


声の小さな秘密兵器が、天秤棒を担ぎ、商いを通じて声を届けられるようになるまでの物語。


それは派手な爆破も、有名女優もない低予算教材だったが、誰かの背中を押すには十分な熱を持っていた。

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