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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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さらば鬼怒川、三人の大人は夢の中――帰るまでが地域振興、ヒロ室慰安旅行は静かに幕を閉じる

鬼怒川温泉の午後は、少し名残惜しい色をしていた。


吊り橋で陽菜が小さく悲鳴を上げ、グレースフォースのみのりとひかりが渓谷美を上品に語り、澪が温泉まんじゅうのこしあんと粒あんで人生最大級の熟考を見せた頃には、ヒロ室御一行様の二日間はほぼ終わりに近づいていた。


「帰るまでが地域振興です」


真帆がそう言うと、小春が即座に返した。


「それ、学校の先生が言う“家に帰るまでが遠足”のヒロ室版っすね」


遥室長はお土産袋を抱えながら苦笑した。


「まあ、今回は本当に地域振興になったと思うだよ。足湯、観光PR、物産紹介、宴会場ステージ、朝イベント、午後観光。ここまでやったら、もう慰安旅行とは言わせないだよ」


佳乃が冷静に補足する。


「ただし、慰安旅行要素がなかったとは言い切れません」


「そこは言い切らなくていいだよ」


鬼怒川温泉駅前で、帰京組と別ルート組に分かれることになった。


帰京組は、行きと同じく浅草方面へ向かう豪華特急。

大きな窓とゆったりした座席、温泉帰りの旅情をそのまま東京へ運んでくれる、あの人気列車である。


一方、太田市在住のすみれコーチと、那須塩原市在住の塩原結花は、すみれのSUV車で帰ることになっていた。


結花は車を見て、少しだけ顔を引きつらせた。


「すみれコーチ……帰りも運転、お願いします」


すみれは平然と答える。


「ああ。任せろ」


結花は小声で言う。


「行き、少しだけ速かったような……」


「安全運転だ」


「安全運転の定義が、一般的なものより少し上州仕様だった気がします」


小春がすぐに食いついた。


「上州仕様の安全運転、ワードだけで怖いっすね!」


すみれは低く言う。


「小春、乗せてやろうか」


「いえ! 特急で帰ります!」


彩芽は手を振る。


「すみれコーチ、結花さん、まただべさ!」


すみれは軽く手を上げる。


「お前も帰りの車内で騒ぐなよ」


「特急だべさ!」


「同じだ」


伊織が隣で微笑む。


「彩芽、帰りは少し休もうね」


「分かったべさ。三分くらい休むっしょ」


「もう少し休むさ」


結花は最後に栃木代表らしく一礼した。


「皆さん、鬼怒川温泉に来てくださってありがとうございました。栃木を楽しんでいただけたなら嬉しいです」


遥室長が穏やかに答えた。


「こちらこそ、結花さんのおかげで本当に助かっただよ。ちゃんと観光PRになっただよ」


結花は嬉しそうに笑い、すみれのSUVへ乗り込んだ。


次の瞬間、車はすっと走り出した。

いや、すっとというより、少し勢いよく出た。


小春が目を細める。


「結花さん、無事に那須塩原まで帰れるっすかね」


真帆が冷静に言う。


「すみれコーチの運転技能自体は高いです。ただし、同乗者の精神的負荷は不明です」


彩芽はなぜか誇らしげに言った。


「すみれコーチ、運転もドーンだべさ!」


伊織が小さく訂正する。


「運転はドーンじゃない方がいいさ」


そのころ、帰京組は特急列車へ乗り込んでいた。


行きの車内は、完全に慰安旅行だった。

波田顧問、隼人補佐官、まさにゃんが缶を開け、遥室長に本気で叱られ、陽菜と詩織が車窓に歓声を上げ、彩芽と伊織が方言で盛り上がった。


だが、帰りは違った。


波田顧問、藤堂隼人補佐官、まさにゃんの三人は、座席についた瞬間に沈黙した。


波田顧問は腕を組み、目を閉じた。

隼人補佐官は資料を開いたまま、三行目で止まった。

まさにゃんは温泉まんじゅうの袋を握りしめたまま、口を半開きにしていた。


完全に爆睡である。


小春が通路越しに覗き込む。


「三人とも、行きの元気を鬼怒川に置いてきたっすね」


遥室長は呆れ顔でため息をついた。


「自業自得だよ。徹マンなんてするからだよ」


真帆も無表情で頷く。


「昨夜の睡眠不足、朝の地域振興イベント、午後観光。体力配分に問題がありました」


琴音は甲州弁交じりに言う。


「完全に遊び疲れたおじさん達ずら」


佳乃は電卓をしまいながら、さらに厳しい。


「徹マンによる体調不良は業務上の必要経費ではありません」


まさにゃんが寝言のように呟いた。


「ロンはもう嫌や……」


小春が吹き出す。


「夢の中でも振り込んでる!」


一方、ヒロインたちは思い思いの時間を過ごしていた。


陽菜はお土産袋を抱えたまま、うとうとしている。

袋の中には温泉まんじゅうとかわいい包装の菓子が入っている。


「陽菜さん、寝ちゃってるっすね」


美紀がそっと言った。


「イベントも観光も頑張っていましたから」


詩織は窓の外を眺めながら、小さく鼻歌を歌っていた。

鬼怒川の旅、帰りの列車、夕暮れの関東平野。

そのどれもが、彼女には旋律に聞こえるらしい。


みのりとひかりのグレースフォースは、隣り合う座席で静かに旅の余韻を楽しんでいた。


みのりが言う。


「今回の温泉地イベント、意外と学びが多かったですね」


ひかりも頷く。


「距離が近い分、言葉の伝え方が大切だと思いました」


二人の会話は、帰りの列車でも穏やかで知的だった。

小春は遠くから見て、また小声で言う。


「帰りの車内でも尊いっす」


沙羅が呆れる。


「あなた、本当に飽きないわね」


その沙羅は、土産物袋の中からレモン牛乳関連商品をそっと確認していた。


澪が見逃さなかった。


「買ったんだ」


沙羅は少し顔を背ける。


「たまたまよ。別にあなたに影響されたわけじゃないわ」


澪は手元のレモン牛乳を飲みながら言った。


「美味しいよ」


「知ってるわよ。昨日飲んだから」


「じゃあ仲間だね」


「何の仲間よ」


澪は少し考えて、ぼーっと答えた。


「レモン牛乳の仲間」


小春が笑いをこらえる。


「澪さん、ゆるい派閥作りましたね」


澪は窓の外を見ていた。

遠くを見つめる横顔は、何か深いことを考えていそうに見える。


沙羅は、また聞いてしまった。


「澪、今何考えてるの?」


澪は少し間を置いて答えた。


「ヒロ室の冷蔵庫にレモン牛乳入れたら、誰が飲むかなって」


沙羅は目を閉じた。


「大したこと考えてなかったわ」


小春は腹を抱えた。


「でも、それ静かなブームになる予感ありますよ」


彩芽は、最初こそ元気だった。


「伊織ちゃん、鬼怒川なまら楽しかったべさ! 足湯も温泉も吊り橋も、全部すごかったっしょ!」


伊織は微笑む。


「うん。彩芽もイベントで子どもたちに人気だったね」


「だべさ! みんな“だべさ”って言ってくれたべさ!」


「でも、温泉では泳がないようにね」


「もう分かったべさ……」


そう言った三分後、彩芽は寝た。


伊織は静かに毛布をかける。


「本当に三分だったさ」


小春が笑う。


「彩芽ちゃん、有言実行っすね」


遥室長は、車内を見渡した。


疲れて眠るフロント。

土産を抱えたヒロインたち。

窓の外を流れる夕方の景色。

どこかゆるく、どこか温かい。


この二日間は、本当に不思議な旅だった。


表向きは、地域振興イベント。

実態は、ヒロ室慰安旅行。

しかし結果として、観光PRも、物産紹介も、ステージイベントも、朝のミニイベントもきちんと成立した。


そして、例の**「戦隊ヒロイン最高戦略会議」**でも、何もなかったわけではない。


北日本エリアのテコ入れ。

東北以北の組織強化。

ジェネラス・リンクの北方面での不穏な動き。


議題は、一ミリだけ進んだ。


真帆が手帳を見ながら言う。


「北日本エリア強化案については、帰京後に正式会議化します。麻雀卓なしで」


遥室長は即座に頷いた。


「絶対そうするだよ。徹マンで出た議題を、昼間の会議でちゃんとやるだよ」


琴音が笑う。


「ようやく本当の最高戦略会議ずら」


佳乃は静かに付け加える。


「寝不足者は参加資格を制限します」


その頃、波田顧問は寝ながら小さく呟いた。


「北日本……やるぞ……」


隼人補佐官も寝言のように言う。


「組織強化……資料を……」


まさにゃんは、


「もう振り込まん……」


とだけ言った。


小春が笑う。


「三人とも夢のジャンルが違うっすね」


列車は関東平野を南へ進んだ。


鬼怒川温泉の山あいの空気は遠ざかり、やがて車窓には街の灯りが増えていく。東京が近づいてくる。


澪は最後までレモン牛乳を飲んでいた。


帰京後、彼女は本当にヒロ室の冷蔵庫にレモン牛乳を入れた。


最初に飲んだのは小春だった。


「これ、意外とクセになるっすね」


次に沙羅が飲んだ。


「まあ……悪くないわね」


陽菜は「甘くてかわいい味ですぅ」と喜び、詩織は「懐かしいメロディーがする味ですね」と謎の感想を残した。


こうして、ヒロ室では静かなレモン牛乳ブームが始まった。


澪は満足げに言った。


「広まったね」


沙羅は呆れながらも認めた。


「あなた、今回一番地味に影響力あったかもしれないわ」


そして、鬼怒川温泉イベントは正式に「成功」として処理された。


地域振興、成功。

観光PR、成功。

物産紹介、成功。

ステージ、成功。

慰安旅行としても、たぶん成功。

最高戦略会議は、一ミリだけ成功。

澪のレモン牛乳布教は、大成功。


帰りの特急で眠る三人の大人を横目に、遥室長は小さく笑った。


「まあ……たまには、こういうのも悪くないだよ」


真帆も静かに頷いた。


「はい。帰るまでが地域振興でした」


そして列車は、夕暮れの東京へ滑り込んでいった。

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