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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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温泉まんじゅうは作戦会議より難しい!――鬼怒川観光午後の部、吊り橋と渓谷と澪の謎選択

午前の地域振興ミニイベントを無事に終えたヒロ室一行は、ようやく本格的な鬼怒川観光へ繰り出した。


表向きは、現地観光資源視察。

実態は、完全に観光である。


ただし、佳乃だけは資料を片手に、


「これは地域振興イベントの実地確認です。観光ではありません」


と念押ししていた。


小春はすぐに突っ込む。


「佳乃さん、その言い方、観光庁の人より堅いっすね」


佳乃は眼鏡を直す。


「経費処理は言葉が大事です」


遥室長は苦笑した。


「でも、せっかくだから楽しむだよ。ちゃんと地元にお金も落とすだよ」


波田顧問は、その一言だけには深く頷いた。


「そうそう。観光地は金落としてナンボだよ」


真帆が冷静に言う。


「ただし、地酒の追加購入は自己負担です」


波田顧問、隼人補佐官、まさにゃんの三人は同時に目を逸らした。


午後の最初の目的地は、鬼怒川の渓谷にかかる吊り橋だった。


山の緑と川の流れ。

岩肌の間を流れる水音。

温泉街から少し歩くだけで、旅情たっぷりの景色が広がる。鬼怒川温泉が首都圏から近い名湯として長く親しまれてきた理由が、足元の揺れと川風だけで分かるようだった。


ただし、吊り橋は揺れる。


陽菜は最初の一歩で固まった。


「ひゃっ……揺れますぅ……」


白いリボンが小さく震えている。


美紀が隣で励ます。


「陽菜ちゃん、大丈夫ですよ。ゆっくり歩けば平気です」


そう言う美紀の声も、少し震えていた。


小春が笑う。


「美紀さんも普通に怖がってるっすね」


美紀は真面目に返す。


「怖がりながらも安全に渡ることが大事です」


凪がいたら満点を出しそうなコメントだった。


陽菜は美紀の袖をつまみながら、一歩ずつ進む。


「怖いですけど……景色、きれいですぅ」


川の方をちらっと見るたびに怖がり、また見る。

怖いのに見たい。

見たいけど怖い。

その繰り返しだった。


小春がマイクを持っていないのに実況を始める。


「陽菜さん、吊り橋で恐怖と絶景の間を揺れております!」


沙羅が呆れる。


「あなた、観光中でも実況するのね」


一方、グレースフォースのみのりとひかりは、吊り橋の中央付近で渓谷を静かに眺めていた。


みのりが穏やかに言う。


「川の流れが岩を削って、こういう渓谷の景色を作っているんですね。温泉街のにぎわいと、自然の力強さが近い距離にあるのが魅力です」


ひかりも頷く。


「山の緑と川の音が、すごく落ち着きます。夜の宴会場とはまるで別の場所みたいです」


小春が小声で言う。


「グレースフォース、渓谷美を語るだけで教養番組っす」


沙羅も悔しそうに認める。


「あの二人、吊り橋の上でも品があるわね」


その隣で彩芽は、吊り橋の揺れに興奮していた。


「なまら揺れるべさ! これ走ったら楽しそうだっしょ!」


伊織が即座に止める。


「走らないさ」


すみれコーチも低い声で言う。


「走るな」


彩芽は頬を膨らませる。


「まだ走ってないべさ!」


すみれは淡々と言った。


「走る顔をしてた」


伊織も微笑みながら補足する。


「彩芽、吊り橋は静かに渡るものさ。揺れを楽しむものじゃないよ」


「そうなんだべか……」


彩芽は納得したような顔をしたが、足だけは少し跳ねかけていた。


すみれが鋭く見る。


「足」


「はい、止めたべさ」


この日、彩芽は何度も足を管理されていた。


澪はというと、橋の中央で遠くを見ていた。


沙羅が横から聞く。


「澪、今度は何考えてるの?」


澪は川を見たまま答えた。


「水、流れてるなって」


沙羅は一瞬黙った。


「……それだけ?」


「うん」


小春が吹き出す。


「詩人っぽく見えて、中身は小学生の観察日記だね」


澪は首を傾げる。


「でも流れてるよ」


誰も否定できなかった。


吊り橋を渡り終えるころには、陽菜も少し慣れてきていた。


「怖かったですけど、楽しかったですぅ」


美紀もほっと息をつく。


「いい思い出になりましたね」


小春はすかさず言う。


「陽菜ちゃんの吊り橋リアクション、次の観光PR動画に使える~」


陽菜は慌てる。


「えぇ、恥ずかしいですぅ」


遥室長は笑いながら頷いた。


「でも、自然な反応で良かっただよ。観光PRには、ああいう素直な感想も大事だよ」


真帆は手帳に書き込む。


「吊り橋コンテンツ。陽菜さん起用時、反応良好」


「記録しないでくださいですぅ!」


吊り橋の次は、温泉街の土産物店巡りだった。


ここで急に目の色が変わったのが、澪だった。


普段はぼーっとしている。

任務中もぼーっとしている。

ステージでもレモン牛乳を持って立っているだけだった。


しかし、土産物店に入った瞬間だけは、やや真剣だった。


棚には温泉まんじゅうが並んでいた。


こしあん。

粒あん。

黒糖皮。

栗入り。

一口サイズ。

箱入り。

ばら売り。


澪は棚の前で立ち止まった。


沙羅が横から見る。


「澪、どうしたの?」


澪は真剣な顔で言った。


「こしあんか、粒あんかで迷ってる」


沙羅は脱力した。


「それ、そんなに真剣に悩むこと?」


澪はまっすぐ答えた。


「大事だよ。帰ってから後悔するから」


小春が腹を抱える。


「澪、今日一番真剣な顔してる~」


澪はこしあんの箱を手に取り、戻し、粒あんの箱を手に取り、また戻した。


「こしあんはなめらか。粒あんは豆の感じがある」


沙羅が呆れながらも付き合う。


「じゃあ両方買えばいいじゃない」


澪は少し考える。


「それは賢い」


小春が即座に突っ込む。


「今まで何を悩んでたん?」


澪は両方をかごに入れた。

その顔は、任務完了後より満足げだった。


佳乃はその様子を見て、冷静に言う。


「迷った場合、両方買うと客単価が上がります。土産物店としては理想的な消費行動です」


理沙も頷く。


「澪さん、無意識に地域経済へ貢献していますね」


沙羅はますます分からなくなった。


「澪って、やっぱり理解できないわ」


その隣では、陽菜がかわいい包装の温泉まんじゅうを見て悩んでいた。


「これ、かわいいですぅ。でもこっちも美味しそうですぅ」


詩織は土産物の棚を見ながら、


「温泉まんじゅうの歌、作れそうですね」


とつぶやき、小春が即座に止める。


「詩織さん、商品棚の前で歌うと店内ライブになるんで、許可取ってからっす!」


彩芽はご当地限定のお菓子を見て大興奮。


「伊織ちゃん、これなまら美味しそうだべさ! こっちは鬼怒川限定だっしょ!」


伊織は笑って言う。


「お土産は持って帰れる量にしてね」


すみれコーチが横から言う。


「彩芽、買いすぎたら自分で持て」


「はい……」


一方、波田顧問、隼人補佐官、まさにゃんは、また地酒コーナーへ吸い寄せられそうになっていた。


真帆が静かに立ちはだかる。


「午前中に警告しました」


佳乃も横に立つ。


「帰りの特急で飲酒する分も、自己管理してください」


波田顧問は苦笑する。


「いや、見るだけだよ、見るだけ」


遥室長が遠くから言う。


「昨日もそう言ってたのらぁ~!」


穏やかな駿河弁なのに、今度は少しだけ迫力があった。


まさにゃんは小声で言う。


「遥ちゃん、二日目で怒り慣れてきたな」


隼人補佐官は頷いた。


「成長ですね」


「褒めるところちゃうやろ」


土産物店を出る頃には、各自の手にはしっかり袋が増えていた。


澪はこしあんと粒あんの温泉まんじゅうを両方持ち、さらにレモン牛乳関連商品まで買っていた。

沙羅は呆れながらも、なぜか同じレモン牛乳菓子を一つ買っている。


小春はそれを見逃さない。


「沙羅、結局買ってるじゃない」


沙羅は少し頬を赤くする。


「お土産よ。別に澪に影響されたわけじゃないわ」


澪は静かに言う。


「美味しいよ、多分」


「多分って言うのやめなさい」


その後、一行は温泉街をゆっくり歩いた。


鬼怒川の渓谷美を見て、土産物を買い、吊り橋で笑い、陽菜は少し怖がり、彩芽は何度も走りそうになり、澪は温泉まんじゅうで人生の選択をしていた。


これは本当に地域振興だったのか。


遥室長は袋を持ちながら、ふと呟いた。


「まあ、みんなちゃんと地元にお金を落としてるだよ」


佳乃が頷く。


「経済効果はあります」


真帆も冷静に言う。


「観光資源の体験、物産購入、情報発信。記録上も問題ありません」


小春が笑った。


「つまり、全力で観光してるけど、ちゃんと地域振興ってことっすね」


遥室長は少しだけ笑った。


「そういうことにするだよ」


夕方には帰りの特急が待っている。

それまでの短い時間、ヒロ室とヒロインたちは、鬼怒川温泉の午後を思いきり楽しんだ。


吊り橋の揺れも、渓谷の風も、土産物店の甘い匂いも、澪の謎の視線も。


全部まとめて、鬼怒川温泉の思い出になった。

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