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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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朝の鬼怒川で最後のひと仕事!――徹マン明けの屍を横目に、戦隊ヒロインはちゃんと地域振興する

鬼怒川温泉の二日目の朝は、やけに爽やかだった。


渓谷を渡る風は涼しく、温泉街には朝の湯けむりが薄く漂っている。山あいの空気は澄み、旅館の軒先には土産物ののぼりが揺れ、駅へ向かう観光客たちがゆっくり歩いていた。


鬼怒川温泉は、首都圏から特急一本で来られる栃木の名湯である。渓谷沿いに旅館が並び、昔ながらの温泉街の情緒と、家族旅行の気軽さが同居する場所。日光観光の拠点にもなり、湯、川、山、そして少しレトロな旅情が一度に味わえる。


その温泉街の広場で、ヒロ室一行は二日目午前の地域振興ミニイベントを行うことになっていた。


表向きは、

「戦隊ヒロインと歩く鬼怒川温泉・朝の観光PRミニステージ」。


実態は、

**「帰る前にもう一件仕事して、慰安旅行疑惑を薄めるための最後の地域振興」**である。


もっとも、それを口に出す者はいない。


いや、月島小春だけは違った。


ステージに上がるなり、マイクを握って言った。


「鬼怒川温泉のみなさーん! 昨日は温泉、宴会、ステージ、そして一部大人による深夜の“最高戦略会議”で盛り上がりましたが、今日も元気ですかー!」


客席が笑う。


ヒロ室フロント席では、波田顧問、隼人補佐官、まさにゃんが露骨に目を逸らした。


小春は続ける。


「なお、最高戦略会議の成果は“北日本エリアのテコ入れをしたい”の一行だったそうです! 何時間もジャラジャラやって、一行! 効率、どうなってるんでしょうか!」


会場の端で聞いていた遥室長が吹き出した。

真帆も口元を押さえ、琴音は「これは言われても仕方ないずら」と笑っている。

佳乃は冷静に頷いた。


「費用対効果の悪さを端的に表現しています」


隼人補佐官は小声で言う。


「小春さん、内輪ネタが鋭すぎる……」


波田顧問は苦笑い。


「江戸っ子でも朝からこれは効くねぇ」


まさにゃんは、昨夜のハコテンをまだ引きずっていた。


「ワシの心まで地域振興してほしいわ……」


小春の内輪ネタで、ヒロ室フロントは朝から大爆笑。

徹マン組だけは少しだけ傷ついたが、温泉街の観光客にも「何か面白そうな人たちだ」と伝わり、広場には人が集まり始めた。


最初に登場したのは、栃木代表の塩原結花だった。


「皆さま、おはようございます。鬼怒川温泉へようこそ。朝の温泉街は、夜とはまた違った魅力があります。川の音を聞きながら散策して、温泉まんじゅうを買って、少し足を伸ばせば日光方面の観光も楽しめます」


結花は、プロボウラーらしい姿勢の良さで、鬼怒川温泉、日光、那須、塩原、宇都宮、佐野、足利と、栃木県内の観光地を手際よく紹介した。


小春が横から茶化す。


「結花さん、朝から観光大使として完成度高すぎます! 昨夜、地酒試飲コーナーに吸い寄せられた一部フロント陣とは大違いでーす!」


波田顧問たちがまた下を向く。


遥室長が笑いながら言った。


「今日は地酒コーナーないから安心だよ」


続いて、陽菜と美紀の仲良しコンビ。


陽菜は朝からふんわりしていた。


「鬼怒川温泉、とても気持ちよかったですぅ。朝の空気もきれいで、また来たいですぅ」


それだけで、客席の一部から「かわいい」と声が飛ぶ。


美紀は看護学生らしく、しっかり補足した。


「朝風呂に入った方は、水分補給を忘れないでください。温泉は気持ちいいですが、入りすぎると疲れることもあります」


小春が即座に乗る。


「陽菜さんが癒やし、美紀さんが健康管理! この二人、温泉イベントに向きすぎてます!」


次に、グレースフォースのみのりとひかりが登場。


二人は並んで一礼し、朝の鬼怒川温泉街を上品に紹介した。


みのりが言う。


「朝の温泉街は、夜よりも静かで、散策に向いています。川沿いを歩くと、昨日とは違う景色が見えると思います」


ひかりも続ける。


「お土産を買う時間も、旅の大切な思い出です。地元のお店をゆっくり巡ってみてください」


二人が話すと、広場の空気が急に落ち着く。

小春が小声で言った。


「グレースフォース、朝から旅番組の品格っす」


沙羅が頷く。


「あの二人が話すと、土産物店まで高級セレクトショップに見えるのよね」


続いて、彩芽と伊織。


小春が勢いよく紹介する。


「北と南のアタッカーコンビ! 北海道代表・高城彩芽ちゃんと、沖縄代表・金城伊織さんでーす!」


彩芽は元気いっぱいに前へ出た。


「おはようございますだべさ! 鬼怒川温泉、なまら気持ちよかったっしょ! でも温泉で泳いだらダメだべさ!」


客席の子どもたちが笑う。


伊織は隣で穏やかに補足する。


「普通は泳ぎません。温泉は静かに楽しみましょう」


すみれコーチがステージ脇から低く言った。


「彩芽、お前だけは特にだ」


「まだ泳いでないべさ!」


「“まだ”って言うな」


会場はまた笑いに包まれた。


彩芽は子どもたちに人気だった。

札幌弁の「だべさ」が面白いらしく、子どもたちが真似する。


「だべさー!」


彩芽は嬉しくなって手を振る。


「みんなも鬼怒川楽しむべさ!」


伊織はそれを見て微笑んだ。

彩芽の元気は、こういう場では大きな武器になる。

教員志望の伊織にとっても、子どもたちの反応を見るのは勉強になった。


次は澪と沙羅。


小春がやや不安そうに振る。


「では、昨日レモン牛乳を抱えていた澪さんと、なんとなくステージにいるだけで画になる沙羅さんです!」


沙羅は眉をひそめる。


「紹介が雑よ」


澪は相変わらずぼーっとしている。


小春が聞く。


「澪さん、朝の鬼怒川温泉、どうでした?」


澪は少し考えた。


「朝の温泉街って、眠いけどいいね」


客席が笑う。


沙羅が呆れる。


「もう少し観光PRらしいこと言いなさいよ」


澪はレモン牛乳を掲げた。


「あと、これ買った方がいいよ。川崎ではあんまり見ないから」


なぜか数人が頷いた。


「買って帰ろうかな」

「昨日見かけたやつだ」

「子どもが好きそう」


沙羅は小春に小声で言う。


「本当に理解できない。なんでこれで売れるの?」


小春も首を振る。


「澪さんのゆるさ、謎に信用されるんすよね」


最後は詩織の短い歌唱コーナーだった。


詩織は、朝の鬼怒川と旅の終わりをイメージした柔らかいご当地ソングを披露した。

昨日の夜のような情緒ある川辺の名曲風とは少し違い、朝の光、湯けむり、帰り道の少し寂しい気持ちを込めた一曲だった。


小規模なイベントにもかかわらず、広場はしっかり盛り上がった。


宿泊客は足を止め、観光客は写真を撮り、地元関係者は満足そうに頷いている。

小春は最後にマイクを握った。


「鬼怒川温泉の皆さん! 昨日から足湯、観光PR、物産展、宴会場ステージ、そして今日の朝イベントまで、本当にありがとうございました! 帰るまでが地域振興! お土産買って、温泉まんじゅう買って、レモン牛乳買って、また来てください!」


会場から拍手が起きる。


遥室長は、ほっと息をついた。


「ちゃんと最後の仕事できただよ」


真帆も頷く。


「地域振興イベントとしての実績は十分です」


佳乃も資料を確認しながら言った。


「これなら予算説明も問題ありません」


隼人補佐官は、少しだけ得意げに言う。


「企画としては成功ですね」


遥室長はじっと見た。


「成功はしたけど、昨夜の徹マンは別問題だよ」


隼人は黙った。


波田顧問は笑った。


「まあまあ、遥ちゃん。結果よければ全部よしってことで」


佳乃が即座に返す。


「全部よしではありません。寝不足による業務効率低下は記録します」


まさにゃんは小声で言った。


「ワシ、ハコテンまで記録されるんか……」


小春が締めるように叫んだ。


「鬼怒川温泉二日目、朝の地域振興ミニイベント、無事終了でーす!」


その言葉通り、イベントは短いながらも温かく終わった。


このあと一行は、午後の鬼怒川観光へ向かう。

吊り橋、土産物、渓谷、温泉まんじゅう。

そして、夕方には帰京。


地域振興なのか、慰安旅行なのか、最後まで曖昧なまま。

しかし、鬼怒川温泉は確かにPRされた。


少なくとも、澪のレモン牛乳だけは、かなり強く印象に残った。

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