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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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湯けむり予算獲得作戦!――戦隊ヒロイン大集合 in 鬼怒川温泉、完全に単なる慰安旅行

新橋ヒロ室には、年に何度か妙な会議がある。


議題は真面目そうに見える。

資料もちゃんとある。

会議室には遥室長、波田顧問、藤堂隼人補佐官、まさにゃん室長代理、安岡真帆、谷口佳乃、小宮山琴音、福永理沙、内田あかね、高島里奈ら、そうそうたるフロント陣が並ぶ。


だが、ホワイトボードに隼人補佐官が書いた文字を見て、佳乃は眉間にしわを寄せた。


戦隊ヒロイン大集合 in 鬼怒川温泉


佳乃は電卓を握ったまま、低い声で言った。


「これ、慰安旅行ですよね?」


隼人は胸を張った。


「違います。地域振興イベントです」


「温泉旅館に泊まるんですよね?」


「宿泊を伴う地域振興イベントです」


「宴会ありますよね?」


「関係者意見交換会です」


「足湯にも行くんですよね?」


「現地観光資源の視察です」


佳乃はじっと隼人を見た。


「かなり苦しいですね」


隼人はまったく怯まない。


「ですが、イベントをくっつければ予算が下ります」


その一言に、会議室が一瞬静まった。


まさにゃんが膝を叩く。


「さすが隼人はん! 慰安旅行をイベントにするんやなくて、イベントに慰安旅行を混ぜるんやな!」


波田顧問も、江戸っ子口調で笑った。


「いいじゃねぇか。ヒロ室も働きっぱなしなんだ。たまには湯につかって骨休めだよ」


遥室長は額を押さえた。


「言い方が完全に慰安旅行だよ……」


真帆は冷静に資料を確認する。


「地域振興イベント、栃木県内観光PR、戦隊ヒロインステージ、地元物産紹介。書類上は成立します」


あかねも法的観点から頷く。


「形式上の問題はなさそうです。ただし、実態が宴会中心になると説明が面倒です」


佳乃はグチグチ言う。


「宿泊費、交通費、会場費、ステージ設営費、食事代……本当に節度ある運用にしてくださいよ。財務省の人間としては見過ごせません」


小春が横から小声で言う。


「佳乃さん、財務省のスパイって噂ありますもんね」


佳乃は即座に睨んだ。


「誰がスパイですか」


しかし、その手元の資料には、しっかり旅館の夕食内容がチェックされていた。


琴音がそれを見逃さなかった。


「佳乃さん、川魚料理のところに赤丸ついてるずら」


佳乃は咳払いした。


「費用対効果の確認です」


理沙が笑う。


「行きたいんですね」


佳乃は黙った。

沈黙は、だいたい肯定である。


こうして、ヒロ室慰安旅行兼地域振興イベント、正式名称**「戦隊ヒロイン大集合 in 鬼怒川温泉」**は、見事に予算を獲得した。


当日。


太田市在住のすみれコーチと、栃木在住の塩原結花を除く一行は、浅草から北へ向かう特急列車に乗り込んだ。


この特急は、東京の下町から日光・鬼怒川方面へ旅情たっぷりに走る人気列車である。大きな窓からは街並み、川、田園、山並みが流れ、座席に座った瞬間から「仕事」より「旅行」が勝ってしまう危険な乗り物だった。


出発して十分もしないうちに、その危険は現実になった。


波田顧問が缶ビールを開けた。


「ぷはぁ。やっぱ列車旅はこれだねぇ」


隼人補佐官も、少し遠慮しながら缶を開ける。


「まあ、現地入り前の軽い意見交換ということで」


まさにゃんは乾き物の袋を広げていた。


「せやせや。これは移動会議や。移動会議には潤滑油が必要やねん」


遥室長の声が飛んだ。


「三人とも、まだ午前中だよ!」


波田顧問は悪びれない。


「遥ちゃん、固ぇこと言うなよ。鬼怒川に着いたらちゃんと仕事するって」


「着く前からこの状態で、信用できないだよ!」


佳乃が冷静に追撃する。


「酒代は経費にしませんからね」


まさにゃんが固まった。


「えっ、これは意見交換用の資料費には……」


「なりません」


隼人が小声で言う。


「佳乃さん、そこは厳しいですね」


「そこが仕事です」


財務省のスパイ疑惑は、やはり濃厚だった。


一方、ヒロインたちは完全に旅気分だった。


陽菜は窓の外を見ながら、目を輝かせている。


「わぁ、だんだん景色が変わってきましたぁ。旅行って感じですぅ」


詩織も隣で頷く。


「歌いたくなりますね。列車の窓って、なんだかメロディーがあります」


美紀は駅弁を大事そうに抱えている。


「温泉って、疲労回復にいいんですよね。看護学生としても興味あります」


小春が笑う。


「美紀さん、温泉にまで勉強持ち込むんすね」


グレースフォースのみのりとひかりは、隣り合う座席で静かに車窓を眺めていた。

手がそっと触れ合っている。


みのりが穏やかに言う。


「たまには、任務ではない移動も良いですね」


ひかりも微笑む。


「はい。みんなで温泉に行くなんて、少し修学旅行みたいです」


小春はそれを見て、小声で呟いた。


「グレースフォース、列車旅でも尊いっす」


沙羅が呆れる。


「あなた、何でも実況するのね」


その沙羅の隣では、澪がぼーっと窓の外を眺めていた。

何を考えているのか分からない顔で、流れていく景色を見ている。


沙羅は前から気になっていたことを聞いた。


「毎回思うけどさぁ、澪っていつも何考えているの?」


澪はしばらく黙っていた。


そして、ぽつりと言った。


「別に……今日の夕食、川魚料理でしょ? ちょっと楽しみかも」


沙羅は肩を落とした。


「聞いた私が悪かったわ」


小春が笑う。


「澪さん、掴みどころがなさすぎるっす」


澪はまだ外を見ていた。


「あと、温泉まんじゅうも食べたい」


「追加情報が平和!」


別の席では、彩芽と伊織が方言混じりに会話していた。


彩芽は初めての鬼怒川温泉にテンションが高い。


「伊織ちゃん、鬼怒川って川の名前だべか? 温泉ってことは、川もあったかいんだべか?」


伊織は穏やかに答える。


「川はたぶん普通の川さ。温泉は旅館のお湯だと思うよ」


「そうなんだべか! 川全体が温泉なら、なまら広い風呂だと思ったっしょ」


「それは危ないさ」


近くで聞いていたすみれコーチ不在のため、今回は伊織がしっかり止め役になっていた。


小春が笑う。


「伊織さん、すみれコーチ不在時の彩芽ちゃん管理係っすね」


伊織は少し照れながらも言う。


「彩芽は、説明すれば分かります」


彩芽は胸を張る。


「そうだべさ! 私、ちゃんと分かるっしょ!」


沙羅が小声で言う。


「分かった内容が川全体温泉だったけどね」


列車は利根川を渡った。

大きな川の上に差しかかると、陽菜と詩織が同時に声を上げた。


「わぁ、すごいですぅ!」

「綺麗ですねぇ!」


その素直すぎるリアクションに、ヒロ室フロントの面々も少し和んだ。


遥室長も、窓の外を見ながら小さく笑う。


「こういう時間も、たまには必要だよね」


真帆が静かに頷く。


「はい。皆、少し疲れていましたから」


ただし、その横で波田顧問たちは二本目に手を伸ばそうとしていた。


遥が振り返る。


「波田顧問」


「はい」


「隼人補佐官」


「はい」


「まさにゃん」


「はい」


「次開けたら、現地イベントの挨拶を三人全員にやらせるだよ。酔った状態で」


三人は同時に缶から手を離した。


まさにゃんが小声で言う。


「遥ちゃん、本気や……」


波田顧問が苦笑する。


「こりゃ酒より怖ぇな」


車内は、笑いと旅情と少しの管理コストに包まれながら進んでいった。


やがて列車は、鬼怒川温泉駅に到着した。


駅舎の前には、温泉地らしいゆったりした空気が漂っている。

鬼怒川温泉は、渓谷沿いに大型旅館が並び、かつてから首都圏の奥座敷として親しまれてきた名湯である。川の流れ、山の緑、レトロな温泉街の風情。観光地としての栄枯盛衰を越えながら、今もなお「温泉へ来た」という実感をしっかり与えてくれる場所だった。


駅前では、すみれコーチと塩原結花が待っていた。


すみれは自分のSUV車で結花を乗せてきたらしい。

腕を組み、相変わらず頼もしげに立っている。


「遅かったな」


彩芽が駆け寄る。


「すみれコーチ! 鬼怒川着いたべさ!」


「見りゃ分かる」


結花はにこやかに頭を下げた。


「皆さん、ようこそ栃木へ。今日はよろしくお願いします」


小春がすぐに反応する。


「結花さん、現地ガイド感ありますね!」


結花は笑う。


「栃木在住なので、今日は少しだけ案内します」


駅前に出ると、すぐに足湯が目に入った。


陽菜が目を輝かせる。


「足湯ですぅ! 入っていいんですかぁ?」


詩織も嬉しそうに言う。


「旅番組みたいです!」


波田顧問はすでに靴を脱ぎかけていた。


「よし、まずはここだな」


遥室長が慌てる。


「まだ全員の集合確認も終わってないだよ!」


しかし、隼人補佐官もまさにゃんも、すでに足湯へ向かっていた。


佳乃が冷静に言う。


「この時点で完全に慰安旅行ですね」


あかねが淡々と返す。


「ただし、イベント実施予定があるため、全体としては地域振興活動です」


琴音が笑う。


「便利な解釈ずら」


結局、一行は駅前の足湯にぞろぞろと腰を下ろした。


足を入れた瞬間、陽菜がとろけた顔になる。


「はぁぁ……幸せですぅ……」


彩芽も満面の笑みだ。


「なまら気持ちいいべさ!」


伊織も穏やかに頷く。


「これはいいさ」


澪は足湯につかりながら、ぼーっと言った。


「川魚、まだかな」


沙羅が呆れる。


「足湯中に夕食のこと考えてるの?」


「うん」


「本当にぶれないわね」


波田顧問は上機嫌で言う。


「いやぁ、鬼怒川はいいねぇ。これでイベントも成功したら言うことなしだ」


遥室長は半分諦めた顔で足湯に入った。


「もう、ここまで来たら楽しむしかないだよ」


真帆は手帳を閉じる。


「足湯後、旅館へ移動。荷物整理。夕方に打ち合わせ。夜は関係者意見交換会」


まさにゃんが笑う。


「宴会やん」


真帆は真顔で返す。


「関係者意見交換会です」


佳乃が横から言う。


「酒代は管理します」


隼人補佐官は足湯につかりながら、少し得意げだった。


「でも、皆さん楽しそうでしょう? 企画としては成功です」


遥はしぶしぶ認める。


「そこは悔しいけど、ファインプレーだよ」


小春がマイクを持つ仕草をする。


「さあ始まりました! 戦隊ヒロイン大集合 in 鬼怒川温泉! 初手から足湯で完全に慰安旅行モードでーす!」


すみれコーチが低く言う。


「小春、駅前で叫ぶな」


「はいっ!」


結花は笑いながら、鬼怒川の温泉街を見渡した。


「でも、こういうイベントもいいですね。みんなが楽しそうです」


みのりとひかりも、並んで足湯につかりながら静かに微笑んでいる。


「たまには、こういう時間も大事ですね」


「はい。きっと明日のステージも、いい雰囲気になります」


鬼怒川温泉駅前の足湯に、ヒロ室フロントと戦隊ヒロインたちがずらりと並ぶ。

どう見ても地域振興イベントの下見ではなく、社員旅行の一幕だった。


だが、彼女たちが笑い、地元に金を落とし、翌日にはちゃんとステージに立つのなら、それは立派な地域振興である。


たぶん。


遥室長は足湯の湯気の向こうに、すでに夜の宴会と明日のイベントの混乱を見ていた。


「この旅、絶対何か起きるだよ……」


波田顧問は笑う。


「起きてから考えりゃいいんだよ」


真帆が即座に言う。


「それを一番言ってはいけません」


笑い声が駅前に広がった。


こうして、戦隊ヒロインプロジェクト史上もっとも名目と実態がせめぎ合うイベント、**「戦隊ヒロイン大集合 in 鬼怒川温泉」**は、予算獲得作戦としても慰安旅行としても、そしてたぶん地域振興イベントとしても、にぎやかに幕を開けた。

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