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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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892/1072

だべさとさー、三郷ジャンクションで迷子になる――北の突撃妹、土佐の擬音指令で覚醒する

埼玉県三郷市。


東京、千葉、埼玉の境目に近く、川と道路と物流の気配が複雑に絡み合う街である。江戸川、中川、大場川の水辺があり、巨大なジャンクションがあり、物流倉庫があり、大型商業施設があり、住宅地もある。

「通過点」と言われがちだが、実は首都圏の人と物の流れを支える、かなり重要な場所だった。


ただし、道はややこしい。


高架、側道、橋、合流、分岐、また合流。

方向音痴が来ると、目的地より先に自分の人生を見失いそうになる。


その三郷周辺で、ジェネラス・リンクの小型車両が偽装データ端末を運び出すという情報が入った。


任務に参加したのは、高城彩芽、金城伊織、館山みのり、月島小春、柏木理世、水無瀬澪、そして土佐の突進娘・神代なつめ。


今回はみのりが全体指揮。

理世が立案した作戦は、伊織と彩芽となつめの三人で最終的に決める形だった。


作戦会議で、理世は地図を広げた。


「今回の敵は、三郷周辺の複雑な道路網を利用して逃走します。無理に追うと一般車両を巻き込みます。追いかけるのではなく、逃げ道を消します」


彩芽は地図を見て、すでに目が泳いでいた。


「ここ、道がぐるぐるしすぎだべさ。敵より先に私が迷子になるっしょ」


小春が笑う。


「自覚あるだけ成長っすね」


伊織は落ち着いて彩芽に説明する。


「彩芽は、この橋の手前で待つ。敵が来ても追わない。私が“今”と言ったら横から入る」


彩芽は真剣に復唱する。


「橋の前で待つ、追わない、今でドーンだべさ」


「うん。それでいいさ」


なつめが横から割って入る。


「彩芽、難しく考えんでえいき。敵がビューッと来たら、伊織がスッと止める。そこへ彩芽がドーンじゃき」


彩芽の顔がぱっと明るくなった。


「なつめさん、なまら分かりやすいべさ!」


理世が小さくメモする。


「彩芽さんには、擬音交じりの指示が有効……」


伊織も真剣に頷いた。


「なるほど。言語化の段階を相手に合わせる必要があるんですね」


小春が吹き出す。


「伊織さん、教育実習みたいな顔してますよ」


みのりは柔らかく微笑んだ。


「でも、大事なことですね。彩芽さんが理解しやすい形で伝えるのは、連携として有効です」


澪は地図をぼんやり見つめていた。


「ここ、川が多いね」


理世は即答する。


「澪さんは、今回も指定位置にいてください」


「また、いるだけ?」


「はい。いてください」


澪は納得したように頷いた。


「分かった。薄くいるね」


小春が小声で言う。


「澪さん、存在感の薄さがもう戦術になってるんすよね」


任務開始。


三郷ジャンクション近くの側道。

敵の小型車両は、物流施設を抜けて橋方面へ向かっていた。


みのりの声がインカムに入る。


「対象車両、確認しました。小春さん、手前の歩行者導線を整理してください。なつめさん、伊織さん、彩芽さん、予定位置へ」


小春は通行人へ明るく声をかける。


「はいはーい、こちら少し混み合いますので、ゆっくり右側お願いしまーす! 走らないでくださーい! 小春ちゃんからのお願いでーす!」


地味な誘導でも、小春がやると妙にイベントっぽくなる。


一方、彩芽は橋の手前で待機していた。

しかし、遠くに敵車両が見えた瞬間、足が勝手に前へ出る。


「来たべさ……行くべさ……いや待つべさ……でも行きたいべさ……」


伊織がすぐに気づいた。


「彩芽、まだ。今出ると車道側へ流れるさ」


彩芽は自分の足に向かって小声で言う。


「まだだべさ。足、まだだべさ」


小春がインカム越しに笑いをこらえる。


「足に説得してる! 彩芽ちゃん、足と会議してる!」


なつめは真剣に彩芽へ声をかけた。


「彩芽、今はグッと溜めるがじゃ。敵がグルッと曲がって、スッと詰まったら、そこでドーンじゃき」


彩芽は大きく頷いた。


「グッ、グルッ、スッ、ドーンだべさ!」


伊織は感心していた。


「すごい。彩芽が完全に理解してる」


理世が冷静に言う。


「内容はかなり抽象的ですが、本人の理解度は高そうです」


澪は予定位置に立っていた。

本当に立っているだけだった。

だが、敵車両が裏道へ逃げようとした先に、なぜか澪がいた。


運転手が一瞬、困惑する。


「何だ、あの人……」


澪はぼんやり手を上げた。


「そっち、行かない方がいいよ」


その一言に、敵車両が減速する。

別に強く止めたわけではない。

ただ、あまりにも自然にそこにいたので、運転手の判断が半秒遅れた。


みのりが即座に指示する。


「今です。伊織さん、左側へ。なつめさん、圧をかけてください」


伊織が静かに動く。


「逃げても無駄さ。ここで止まって」


なつめが反対側から駆け込む。


「ほらほら、そっちはギュンと詰まっちゅうき! こっち来たらガツンじゃき!」


敵がまた混乱した。


「ギュン? ガツン? 何なんだこいつら!」


彩芽は目を輝かせる。


「なつめさんの言葉、なまら分かるべさ!」


伊織は少し笑う。


「敵は分かっていないみたいだけどね」


敵の車が橋の手前で止まり、逃走者が飛び出した。


彩芽が反射的に走り出そうとする。


「今だべさ!」


伊織が短く言う。


「まだ」


なつめも叫ぶ。


「彩芽、まだグッじゃき!」


彩芽は歯を食いしばって止まった。


「グッだべさ……グッだべさ……!」


逃走者は伊織へ意識を向ける。

伊織は距離を詰めすぎず、相手の動きを制限した。

なつめが右側を塞ぎ、澪がなぜか逃げ道の奥に立っている。


みのりが冷静に告げる。


「彩芽さん、進路安全。伊織さん、合図を」


伊織が彩芽を見た。


「彩芽、今」


なつめも同時に叫ぶ。


「ドーンじゃき!」


彩芽が弾けた。


「待ってたべさ!」


北の突撃妹が、橋の手前から安全な角度で飛び出す。

今回は車道へは出ない。伊織が示した歩道側の導線。なつめが作った圧。みのりが見た全体のタイミング。そこを彩芽は迷わず突いた。


「ここまでだべさ!」


逃走者は伊織、なつめ、彩芽の三方向から挟まれ、あっさり動きを止められた。


小春が遠くから両手を上げる。


「はい、任務完了ー! 三郷ジャンクションより複雑な方言連携、決まりましたー!」


みのりはインカムを外し、ほっと息をついた。


「対象確保。一般車両の巻き込みなし。歩行者導線も維持できました。良好です」


理世もタブレットを閉じる。


「計画通りです。ただし、なつめさんの擬音指示が想定以上に彩芽さんへ有効でした。今後の教育資料に反映します」


なつめは笑った。


「彩芽は体で覚えるタイプじゃき。ビューッ、グッ、ドーンで分かるがよ」


伊織は真剣に頷いた。


「勉強になります。彩芽みたいなアスリートタイプには、言葉を整理しすぎるより、動きの感覚で伝えた方が通りやすいんですね」


彩芽は照れくさそうに頭をかいた。


「伊織ちゃんとなつめさんのおかげだべさ。私、今日はちゃんと待てたっしょ」


小春が駆け寄ってきて、彩芽の肩を叩いた。


「彩芽ちゃん、今回も上手くいったねね!」


彩芽は満面の笑顔になったが、珍しく少し遠慮した。


「なつめさんのお陰です。ドーンのタイミング、なまら分かりやすかったべさ」


なつめは豪快に笑う。


「いやいや、彩芽がドーンと出るタイミングが良かったがよ。ちゃんとグッと待てたき、決まったんじゃき」


彩芽はさらに照れた。


「なつめさんに褒められたべさ……」


伊織も優しく言う。


「彩芽、今日の良かったところは、自分で止まろうとしていたところです。足に“まだだべさ”って言っていたのも、ちゃんと意識できていた証拠さ」


小春が爆笑する。


「足に説得が評価される現場、初めて見ました!」


澪は相変わらず、川の方を見ていた。


「水、流れてるね」


小春が突っ込む。


「澪さん、任務の感想それですか?」


「あと、車がいっぱいだった」


「小学生の日記みたいっす!」


だが、澪が何もしていないわけではなかった。

あの一瞬、逃走車両の行き先にぼんやり立っていたことで、相手の判断が遅れた。

みのりはちゃんと見ていた。


「澪さんの位置取りも有効でした。相手が一瞬迷いましたから」


澪は首をかしげる。


「私、迷わせたの?」


「はい」


「じゃあ役に立ったね」


「はい」


澪は少し満足そうに頷いた。


全体を統括したみのりも、今回は手応えを感じていた。

彩芽が待てた。

伊織が相手に合わせて指導できた。

なつめの感覚的な指示がチームに活きた。

小春は現場を明るく保ち、理世は作戦精度を支え、澪は謎に効いた。


みのりは穏やかに言った。


「良い任務でした。全員が持ち味を出せましたね」


彩芽は元気よく手を上げる。


「私、三郷で迷子にならなかったべさ!」


伊織が笑う。


「それも成長さ」


小春がすかさず言う。


「北のだべさ、南のさー、土佐のじゃき。三郷の道路より言葉が渋滞してましたね」


なつめが胸を張る。


「渋滞しちょっても、最後にドーンと抜けたき問題ないがよ!」


理世は淡々とまとめる。


「作戦上は問題ありません。ただし、次回から擬音指示は事前に共有してください」


彩芽は真顔で頷いた。


「共有するべさ。グッ、グルッ、スッ、ドーンだべさ」


伊織は少し困ったように笑いながらも、メモを取った。


「……彩芽用指示語として記録しておきます」


三郷の水辺に、夕方の光が差していた。

高速道路の高架の向こうで車が流れ、川の水面がゆっくり光る。


北の突撃妹・彩芽。

南の優等生・伊織。

そして土佐の突進娘・なつめ。


理屈、感覚、勢い。

三つが噛み合うと、意外なほど強かった。


彩芽は伊織となつめの間で、照れたように笑った。


「次も、伊織ちゃんが“今”って言って、なつめさんが“ドーン”って言ってくれたら、私、ちゃんと行けるべさ」


伊織は優しく頷いた。


「でも、その前に待つ練習もしようね」


なつめも笑う。


「グッと待つのも技じゃき」


彩芽は拳を握る。


「グッも技だべさ!」


小春が締める。


「新技、グッからのドーン。地味に成長してますね!」


みのりは満足げに微笑み、澪はまた川を見ていた。


「水、まだ流れてるね」


最後まで掴みどころのない澪の一言に、全員が笑った。

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