表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

882/908

関サバより濃い地元愛!――首藤凪、有楽町物産展で“非常口までPR”してしまう

東京・有楽町の大型イベントホールで、大分県物産展併催・戦隊ヒロインステージが開催された。


会場には、かぼす、からあげ、とり天、だんご汁、温泉地の観光パンフレット、そして堂々たる主役のように並ぶ関サバ・関アジの試食コーナー。

首都圏の買い物客は、雨でも雪でも物産展には強い。しかも大分県である。温泉もある。魚も強い。肉も揚げ物も強い。酒のつまみまで強い。財布のひもは最初から少し緩んでいた。


この日の出演は、豊後の保安ヒロイン・首藤凪。熊本の元バスガイドでMCも誘導も上手い西里香澄。江戸っ子ギャルの月島小春。都会的で高飛車だが何だかんだ場を締める南部沙羅。そして、濃尾の秘密兵器にしてトラックドライバー、さらに近江商人・堀井琴葉に弟子入りして商売勘を磨きつつある伊吹真白だった。


司会の小春が、いつものクラブDJみたいな勢いでマイクを握る。


「有楽町のみなさーん! 今日は大分県のうまいもんと、戦隊ヒロインをまとめて楽しんでってくださーい!」


香澄が横で落ち着いて受ける。


「本日は大分県物産展との合同イベントです。温泉、海の幸、山の幸、そして戦隊ヒロインの魅力まで、たっぷりお届けしますばい」


ここまでは普通の華やかなステージだった。


問題は、凪がマイクを持った瞬間である。


「皆さま、本日は会場内の通路が混雑しております。試食列にお並びの際は、通路中央を塞がず、非常口表示とスタッフ誘導をご確認ください」


小春が横でずっこけかける。


「凪さん、第一声が非常口!」


香澄も苦笑する。


「でも、大事なことですばい」


沙羅は腕を組みながら言う。


「物産展の挨拶で非常口から入るヒロイン、初めて見たわ」


しかし、凪はまったく動じない。


「大分県を楽しんでいただくためにも、安全な会場運営が前提です」


ここまでは、いつもの凪だった。

堅い。正しい。地味。

だが、この日の凪は違った。


香澄が話を佐賀関へ振る。


「凪さんは大分市佐賀関のご出身なんですよね。佐賀関といえば、やっぱり関サバ、関アジですか?」


その瞬間、凪の目の色が変わった。


「はい。関サバ、関アジは、ただ有名な魚ではありません」


声に熱がこもる。


「豊予海峡の速い潮流で育ち、一本釣りを中心とした丁寧な漁と、鮮度管理、流通の努力で守られてきた佐賀関の誇りです。身の締まり、歯ごたえ、脂の質、どれを取っても――」


小春が小声で沙羅に言う。


「始まりましたね」


沙羅も小声で返す。


「安全管理の時より熱量が高いわ」


凪は止まらない。


「そして、佐賀関は魚だけではありません。精錬所の町としての歴史があります。東洋一のお化け煙突と呼ばれた巨大煙突、企業城下町としての暮らし、祖父や父の世代から続く働く人たちの誇り――」


香澄が微笑みながら相づちを打つ。


「凪さん、本当に地元が好きなんですね」


「はい。大好きです」


即答だった。

そこに照れはなかった。


客席の空気が少し変わった。

ただのPRではない。凪の言葉には、地元を背負っている人間の重さがあった。


だが、次の関サバ・関アジ試食コーナーで、凪の地元愛はさらに暴走した。


試食皿を前に、凪は真剣な顔で説明する。


「まず関アジから召し上がってください。歯ごたえと甘みを感じたあと、関サバへ進むと脂の質の違いが分かりやすいです」


小春が吹き出す。


「食べる順番まで安全確認みたいになってる!」


真白が試食皿を見つめながら言う。


「導線としては、関アジから関サバ。合理的です」


沙羅が呆れる。


「あなたまで乗らないで」


凪は、試食した親子連れに真顔で尋ねる。


「どうですか。身の締まりを感じますか」


子どもが口いっぱいに魚を食べながら言う。


「おいしい!」


凪の表情がほんの少しだけ緩む。


「良好です」


小春がまた笑う。


「味の感想に“良好”って返す人、初めて見た!」


香澄は楽しそうにフォローする。


「凪さんの“良好”は、最高評価ですばい」


その後も凪は、関サバ・関アジの魅力を語り続けた。


「佐賀関の魚は、ただ食べて終わりではありません。海の流れ、漁師さんの技術、町の歴史、すべてが一皿に乗っています」


沙羅は少し感心したように言う。


「真面目すぎるけど、説得力はあるのよね」


小春も頷く。


「凪さん、華やかではないけど、言葉が信用できますね」


香澄は笑った。


「バスガイド時代にこういう説明ができる人がいたら、観光客は絶対寝ませんばい」


一方、物販側では別の事件が起きていた。


真白が、凪と安岡真帆が共同で作ったという小さなシールを並べていた。


そこには、黒文字でこう書かれている。


安全確認済


もともとは、イベント備品や設営済み箇所に貼るための実務用シールだった。

ところが、来場者が興味を示した。


「これ、かわいいですね」

「ノートに貼りたい」

「子どもの水筒に貼ったら忘れ物防止になりそう」

「推し活グッズにも使えるかも」


真白の目が商人の目に変わった。


「これは……売れます」


小春がすぐに反応する。


「真白さん、顔が行商モードになってますよ」


真白は真顔で答える。


「売れるものを売る。それが近江商人の教えです」


沙羅が首をかしげる。


「あなた、濃尾の秘密兵器じゃなかったの?」


「現在は、近江商人見習いも兼務しています」


「肩書きが渋滞しているわ」


真白はすぐにスマホを取り出し、師匠の堀井琴葉へ連絡した。


「師匠。『安全確認済』シールに商品化の可能性があります」


電話の向こうから、琴葉の近江弁が返ってくる。


「それ、ええやん。実用と笑いが一緒になっとる。色違い、サイズ違い、耐水版、限定版、全部考えられるわ」


真白は即座にメモを取る。


「耐水版。限定版。セット販売」


小春が横から覗く。


「仕事が早すぎる!」


凪は驚いて言う。


「これは本来、会場管理用です」


真白は静かに返した。


「会場管理用として優秀なら、生活管理用としても展開できます」


「生活管理用?」


「冷蔵庫、弁当箱、充電器、玄関、推しグッズ。安全確認済の需要は広いです」


沙羅が呆れた。


「怖いわ。小柄で薄幸の美少女みたいな顔して、完全に商売人じゃない」


真白は少し首を傾げる。


「師匠の教えです」


小春が笑う。


「琴葉さん、弟子を仕上げすぎです」


イベント終盤、小春がステージで締めに入る。


「いやー、今日は大分のうまいもん、佐賀関の熱い話、そしてなぜか安全確認済シールまで盛りだくさんでした!」


香澄が明るく続ける。


「大分県の魅力、少しでも伝わったなら嬉しいですばい」


凪は最後にマイクを持った。


「佐賀関には、関サバ、関アジ、精錬所、煙突、そして働く人たちの誇りがあります。今日召し上がった魚の味から、少しでも佐賀関に興味を持っていただけたら嬉しいです」


客席から拍手が起きた。


凪は一呼吸置いて、続けた。


「なお、お帰りの際は、試食列と物販列が交差しやすくなっております。安全確認済シールをご購入の方も、通路を塞がないようご協力ください」


小春が即座に突っ込む。


「最後やっぱり導線!」


会場は笑いに包まれた。


イベント後、主催者からの評判は上々だった。


「大分県のPRとして非常に良かった」

「関サバ・関アジの試食が強かった」

「凪さんの説明は地味だが信用できる」

「安全確認済シールがなぜか売れた」


ヒロ室に戻ると、真帆が報告書を見て少しだけ満足そうに言った。


「安全確認済シール、商品化するなら表記管理はこちらで確認します」


真白は即座に頭を下げる。


「お願いします」


凪はまだ少し戸惑っている。


「私の安全確認が、商品になるのですか」


小春が笑った。


「凪さん、時代が追いつきましたね」


沙羅も肩をすくめる。


「安全と地元愛で人気者になるなんて、変わってるけど悪くないわ」


香澄はにこやかに言った。


「凪さんの話を聞いて、佐賀関に行きたくなった人、多いと思いますばい」


凪は少しだけ目を伏せた。


「それなら、嬉しいです」


豊後の保安ヒロイン・首藤凪。

普段は安全管理の話ばかりで、イベント向きではないと思われていた彼女は、この日、地元愛と関サバ・関アジへの熱量で、観客の心をつかんだ。


ついでに、非常口と安全確認済シールまで広めた。


派手ではない。

だが、信頼できる。

そして、地元を語ると止まらない。


首藤凪というヒロインの新しい魅力が、有楽町の物産展会場で静かに、しかし確実に見つかった日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ