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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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豊後の保安女、ステージを止める ― 首藤凪の“安全第一ショー”がなぜか親子連れに大ウケ

柏市の大型ショッピングモールは、朝から雨に包まれていた。


本来なら、屋外イベント広場で華やかに開催される予定だった戦隊ヒロインショーは、急きょ屋内吹き抜けスペースへ変更された。ガラス張りの天井には雨粒が細かく当たり、買い物客は傘を閉じながら、少し慌ただしく館内へ流れ込んでくる。


柏は千葉県北西部の大きな商業都市である。駅前はにぎやかで、若者も多く、買い物も食事も強い。都心へのアクセスもよく、東葛地域の中心としての存在感がある。少し行けば住宅地も広がり、家族連れにも暮らしやすい。そんな柏らしく、この日のショッピングモールも、雨にもかかわらず人でいっぱいだった。


イベントの出演者は豪華だった。


江戸っ子ギャルの月島小春。

館山みのりと杉山ひかりのグレースフォース。

近くの流山市出身で、イベントコンパニオンとして場慣れしている森川美里。

そして、安定のMC力と華やかさを誇る大宮麗奈。


そこへ今回、初めて本格的にイベント出演するのが、豊後の保安ヒロイン・首藤凪だった。


小春はステージ袖でマイクを握り、クラブDJのようなテンションで飛び出した。


「柏のみなさーん! 雨だけど元気ですかー! 足元びしょびしょでも心は晴れでいきましょー!」


客席の子どもたちが歓声を上げる。


「今日はグレースフォースのお二人、美里さん、麗奈さん、そして新登場! 豊後の保安女・首藤凪さんも来てくれてまーす!」


みのりとひかりが並んで一礼する。

美里は流山市出身らしい親しみやすさで手を振り、麗奈はさすがのイベントコンパニオン経験で、客席に向かって完璧な笑顔を見せた。


ここまでは華やかだった。


そして、小春が凪を呼び込む。


「それでは本日の注目ヒロイン! 安全管理ならこの人にお任せ! 豊後の保安女、首藤凪さーん!」


拍手の中、凪がステージ中央に立つ。


白と紺を基調にした落ち着いたヒロイン衣装。派手なポーズはない。過剰な笑顔もない。背筋を伸ばし、マイクを両手で持ち、凪は丁寧に頭を下げた。


「皆さま、お足元の悪い中お越しくださいまして、誠にありがとうございます」


会場が一瞬、静かになる。


小春が横で小声で言った。


「凪さん、企業説明会みたいっす」


凪は気にせず続けた。


「本日は雨天のため、床面が滑りやすくなっております。小さなお子さまは走らず、保護者の方と手をつないでご移動ください。また、ご気分が悪くなった場合は、無理をせず近くのスタッフへお声がけください」


麗奈が袖で小さく笑う。


「ちゃんとしてるわねえ」


美里も頷く。


「イベントコンパニオン的には、これはありがたいです。お客さんが安心します」


凪はさらに続ける。


「非常口は、ステージ向かって右後方、ならびに二階連絡通路側にございます。緊急時にはスタッフの指示に従い、押さず、走らず、戻らず、落ち着いて行動してください」


小春がこらえきれずに言った。


「凪さん、まだショー始まってないのに避難訓練始まってます!」


客席から笑いが起きた。


凪は真顔で返す。


「安全確認は、イベント開始前に行うものです」


「正論すぎてツッコめねえ!」


ここでグレースフォースのみのりが、柔らかくフォローする。


「でも、大事なことですね。楽しいイベントも、安全に過ごせてこそです」


ひかりも穏やかに頷く。


「凪さんの説明、分かりやすいです」


凪は少しだけ表情を緩めた。


「ありがとうございます」


小春はすぐに空気を戻す。


「ではここで、凪さんの安全第一ショー、いってみましょー!」


凪は一歩前に出た。


「まず、お子さま向けに三つの約束を確認します」


子どもたちがじっと見る。


「走らない。押さない。戻らない」


凪は手振りをつけた。

走らないポーズ。

押さないポーズ。

戻らないポーズ。


地味である。

だが、妙に分かりやすい。


子どもたちが真似し始めた。


「はしらない!」

「おさない!」

「もどらない!」


小春が目を丸くする。


「え、ウケてる……」


美里が笑う。


「親子連れには刺さりますよ、これ」


麗奈も頷く。


「派手ではないけど、場の空気が安定するわね」


次に凪は、親子でできる「安全確認ポーズ」を教えた。


「周囲を見る。足元を見る。困ったら手を上げる」


また地味だった。

しかし、子どもたちは楽しそうに真似する。


小春がテンションを上げる。


「みんなー! 凪さんの安全確認ポーズ、できるかなー!」


客席の子どもたちが一斉に手を上げる。


「できるー!」


凪は真面目な顔で頷いた。


「良好です」


「判定が工場検査なんすよ!」


会場がまた笑う。


その後は、グレースフォースによる軽いパフォーマンス、美里の地元トーク、麗奈の華やかな進行で、ステージは明るく進んだ。

みのりとひかりは、息の合った所作で客席を魅了し、美里は流山と柏の近さを活かしたローカルトークで親近感を出す。


麗奈はさすがだった。


「柏も流山も、東葛地域の勢いを感じますね。雨の日でも、こんなにたくさんの方が来てくださるのは本当にありがたいです」


客席から拍手。


一方、凪は出番のたびに安全の話へ戻る。


「傘をお持ちの方は、先端が周囲の方に当たらないようご注意ください」


「階段では手すりをご利用ください」


「濡れた床面では急な方向転換を避けてください」


小春がついに笑いながら言った。


「凪さん、戦隊ヒロインイベントというより、ショッピングモール安全講習っす!」


凪はきっぱり答える。


「安全講習も、戦隊ヒロイン活動の一部です」


この正論に、客席の保護者から拍手が起きた。


小春は驚く。


「拍手来た! 凪さん、保護者層に強い!」


確かに、凪のステージは華やかさには欠ける。

派手な決め台詞も、キラキラした歌もない。

だが、雨の日のショッピングモールで子どもを連れた親たちには、妙に頼もしかった。


イベント終盤、小春が悪ノリで振る。


「では最後に、凪さん! ヒロインらしい決め台詞をお願いします!」


凪は少し考えた。


会場が静まる。


そして、真顔で言った。


「安全確認、完了です」


一瞬の間。


そのあと、親子連れから大きな拍手が起きた。


小春は笑い崩れた。


「地味! でも強い! なんかクセになる!」


みのりは微笑む。


「凪さんらしいですね」


ひかりも頷く。


「安心感があります」


美里は感心していた。


「これ、自治体イベントでかなり強いですよ。防災フェアとか交通安全イベントとか、絶対呼ばれます」


麗奈も笑う。


「派手さだけがイベントじゃないものね。これはこれで武器よ」


イベントは無事終了した。


雨の日にもかかわらず苦情はゼロ。

親子連れの満足度は高く、ステージ後には「安全確認ポーズ」を真似する子どもたちまでいた。


後日、ヒロ室に報告が届く。


真帆は資料を見て頷いた。


「内容としては非常に品質が高いです。クレームもありません。むしろ保護者層から好評です」


琴音も感心する。


「これは自治体案件に強いずら。防災、交通安全、地域イベント、全部いけるずら」


プロモーターも太鼓判を押した。


「派手さはないですが、信頼感があります。特に雨の日や大型施設イベントではありがたいですね」


小春は笑いながら言う。


「凪さん、ステージ止めるかと思ったら、むしろ場を安定させてましたね」


凪は静かに答えた。


「イベントは、最後まで無事に終わって初めて成功です」


遥室長は満足そうに頷いた。


「首藤さん、ヒロインとしての方向性が見えてきただよ」


凪は少しだけ戸惑った。


「華やかさは不足していると思いますが」


麗奈が明るく言う。


「華やかな人は他にいっぱいいるわ。凪さんは“安心できるヒロイン”でいいのよ」


みのりも続ける。


「子どもたち、凪さんの話をちゃんと聞いていました」


ひかりも優しく言った。


「安全を楽しく伝えられるのは、すごいことです」


凪は少しだけ、ほんの少しだけ笑った。


「では、次回はもう少し分かりやすい安全確認ポーズを検討します」


小春がすぐに言う。


「やる気だ! 凪さん、安全第一ショーをシリーズ化する気だ!」


真帆は冷静にメモを取る。


「企画化できます。親子向け防災・安全教育イベントとして展開可能です」


琴音も乗る。


「自治体連携できるずら」


凪は真面目に頷いた。


「では、雨天時、地震時、火災時、不審物発見時、迷子対応時の五種類を――」


小春が慌てる。


「凪さん、いきなり本格講習に戻ってます!」


会議室に笑いが広がった。


豊後の保安ヒロイン・首藤凪。


堅物で、イベント向きではない。

そう思われていた彼女は、柏の雨の日、親子連れの前で意外な強さを見せた。


派手ではない。

だが、信頼できる。

盛り上げるというより、安心させる。


戦隊ヒロインプロジェクトに、また一つ新しい色が加わった日だった。

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