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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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豊後の保安ヒロイン、佐賀関から来る ― 首藤凪、関サバとお化け煙突を背負う女

首藤凪という名前が、ヒロ室の会議室に最初に出た時、誰もが派手なヒロインを想像していなかった。


なにしろ推薦者は、戦隊ヒロイン九州支部、通称ヒロ九の支配人・古賀菜々子である。佐賀出身のキャリア官僚で、九州各地をラッピングバスで巡りながら、現地トラブルを“クエスト”として解決していくという、半分行政、半分RPG、残り半分が悪ノリのような企画を仕切っていた。


副支配人的な立場で暴走力を補っていたのが、鹿屋出身の元実業団駅伝選手・有村ひなた。体力だけなら九州全土を徒歩で回りかねない女である。


その二人が企画したのが、戦隊ヒロインサミット佐賀関だった。


大分市の東端、豊予海峡へ突き出す佐賀関。

ここは、ただの港町ではない。潮の速い海で育つ関サバ、関アジは全国に名を轟かせるブランド魚。白身の引き締まり、脂の上品さ、歯ごたえの良さ。魚好きなら一度は拝みたい海の宝である。


さらに、佐賀関には巨大な精錬所がある。町の風景に溶け込む煙突は、地元では誇りそのものだった。かつて「東洋一のお化け煙突」と呼ばれた巨大煙突の存在感は、海と工業と暮らしが一体となった佐賀関らしさを象徴している。


そんな土地で、ヒロ九はイベントを開いた。


表向きは地域交流。

中身は、菜々子とひなたによる“九州ヒロイン発掘クエスト”である。


会場設営の日、菜々子は一人の女性に目を留めた。


安全帽をかぶり、作業服をきっちり着こなし、図面と導線表を持って淡々と現場を確認している。

派手さはない。声も大きくない。だが、見るところが細かい。


「この資材置き場、観客導線と重なります。三メートルずらしてください」

「救護車両の進入路は常時空けてください。カラーコーンだけでは足りません」

「ステージ裏のケーブル処理、つまずきます。固定をお願いします」

「火気使用予定があるなら、風向き確認と消火器配置を再確認してください」


イベントスタッフが一瞬で背筋を伸ばす。

ひなたが小声で菜々子に言った。


「菜々子さん、あの人、ただ者じゃなかよ。安全管理の目が違う」


菜々子も頷いた。


「ええ。派手なヒロインは何人もいます。でも、派手な企画を事故なく終わらせる人材は少ないです」


その女性が、首藤凪だった。


太平洋鉱業佐賀関精錬所の協力会社側としてイベントに関わっていた安全管理担当。

生まれも育ちも佐賀関。祖父も父も精錬所勤務で、凪は三代目にあたる。幼い頃から、海の匂いと工場の音、作業服の大人たち、煙突の見える風景の中で育った。


凪は一度、県外の大学へ進学している。

都会で就職する道もあった。だが、卒業後に戻ってきた。


理由は単純だった。


「佐賀関が好きだからです」


凪はそう言う。


「関サバも関アジも、精錬所も、あの煙突も、働いてきた人たちの誇りも、もっと多くの人に知ってほしいんです」


佐賀関は、精錬所の企業城下町でもあった。祖父が入社した頃には、精錬所で働く人たちのために鉄道が走っていたほどで、町全体が工場と共に息をしていた。強豪の社会人野球チームもあり、休日には町の人々が一体になって声援を送った。


凪にとって、それは古い話ではない。

家族の記憶であり、町の誇りだった。


イベント終了後、片づけの朝。

菜々子とひなたは、凪に声をかけた。


「首藤さん、戦隊ヒロインプロジェクトに興味ありませんか?」


凪は本気で驚いた。


「私が、ですか? 私は歌えませんし、踊れませんし、前線で派手に戦うタイプでもありません」


ひなたが笑った。


「派手な人はもういっぱいおるけん、逆に困っとるんよ」


菜々子は真面目に続ける。


「ヒロイン活動には、安全管理が必要です。イベントも任務も、派手になればなるほど、現場を止められる人がいる。あなたはその目を持っています」


凪はすぐには頷かなかった。


「今の職場の業務を投げ出すことはできません。引き継ぎをしてからでなければ」


菜々子は、その答えにむしろ確信した。


「そう言う人だから、お願いしたいんです」


スカウトから正式加入まで、数か月かかった。

凪は本当に丁寧に引き継ぎをした。資料をまとめ、後任に現場を教え、担当先に挨拶を済ませた。


ひなたはその律儀さに感心する。


「この人、走る前に靴ひもだけじゃなくて道路の舗装まで確認するタイプやね」


菜々子は頷いた。


「だから信頼できるんです」


そして凪は、大分代表の戦隊ヒロインとして合流した。


派手な登場ではなかった。

自己紹介も短い。


「首藤凪です。大分市佐賀関出身です。安全確認、始めます」


地味だった。

だが、恐ろしく頼もしかった。


その凪の力が、いきなり必要になったのが、高田美雪のテレビ特番企画、**『戦隊ヒロイン大脱出』**である。


巨大水槽。

鋼鉄檻。

鎖。

爆破。

クレーン。

観客導線。


昭和テレビのロマンを詰め込んだ危険要素の幕の内弁当みたいな企画だった。


ノムさんは目を輝かせた。


「これぞテレビのロマンじゃ!」


凪は企画書を三ページ読んで言った。


「事故予備軍です」


会議室が凍った。


だが凪は、企画を潰しに来たわけではなかった。


「派手さは殺しません。危険だけ殺します」


その言葉通り、凪は水槽の位置、爆薬量、風向き、観客席との距離、救護班の配置、消防車両の進入路、クレーンの旋回範囲まで徹底管理した。


ノムさんが「もう一発だけドカーン」と言いかけるたび、凪は無表情で止めた。


「必要性を文書で説明してください」


「いや、勢いで……」


「却下です」


高田美雪は、そんな凪を気に入った。


「首藤さんがいると、安心して危険に見えることができるわ」


凪は真顔で返す。


「危険に見えるだけです。実際に危険では困ります」


そのやり取りを見たすみれコーチは、ぽつりと言った。


「この人、ヒロ室に一番足りなかったタイプかもしれないな」


結果、番組は大成功した。

視聴者は美雪の華麗な脱出に沸き、ゲスト席の素の反応に笑い、泣き、驚いた。

だが、現場を知る者は分かっていた。


あの伝説回を本当に成立させたのは、首藤凪の安全管理だった。


遥室長はしみじみ言った。


「首藤さんが来てくれて、本当に助かっただよ」


ノムさんは笑う。


「凪ちゃんがおると、無茶が無茶やなくなるのう」


凪は即座に訂正した。


「無茶は許可していません。管理された演出です」


ノムさんは小さくなる。


「はい」


首藤凪。

豊後の保安女。

佐賀関の海と煙突を背負う、大分代表の戦隊ヒロイン。


彼女の武器は、派手な必殺技ではない。

冷静な目。

現場を読む力。

事故を未然に潰す執念。

そして、地元を誇る静かな熱だった。


凪は今日も淡々と言う。


「まず、安全確認から始めます」


その一言は、どんな爆破演出よりも、ヒロ室を安心させる言葉になっていく。

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