最後の空白、ついに埋まる ― ハマの姫が連れてきた“沖縄代表”が強すぎた ―
大分の首藤凪の加入がほぼ決まり、ヒロ室にはようやく「これで全国かな」という空気が流れていた。
……が、まだだった。
沖縄。
四十六都道府県まで揃って、最後の空白。
それが沖縄だった。
前回、菜々子支配人が新橋のヒロ室で大分遠征の報告を終えたあと、遥室長がふっと笑って言ったのだ。
「沖縄はね、もう目星がついてるだよ」
その言葉だけ残して、詳しい説明は一切なし。
菜々子は「聞いてませんけど」と少しむっとしていたが、遥室長はそれ以上話さない。
こういう時の遥室長は、だいたい何か掴んでいる。
そして今回、その“目星”がついに姿を現すことになった。
舞台はいつもの新橋ヒロ室。
表向きはそれらしく見せているが、相変わらず中身は雑然としている。
資料の山、段ボール、プリンターの横に謎の非常食、誰のものか分からないエコバッグ。
そんな中、面談室の隣のミーティングスペースでは、まったく関係ない騒ぎが起きていた。
「おい陽菜、その白いリボン、また今日も全力だな」
小春が椅子にひっくり返るように座りながら、にやにやしている。
「なによ、可愛いでしょ?」
陽菜はまっすぐ返す。
白いリボンの妖精と呼ばれるだけあって、本当に絵みたいに可愛い。
だが中身は見た目ほどおとなしくない。
「可愛いよ、そりゃ可愛いけどよ。お前、自分で“可愛い側”の人間って完全に理解してるだろ」
「理解してるよ?」
即答。
小春が吹き出す。
「そこ、否定しねえんだな」
「事実だもん」
「つええなあお前……」
小春は面白くて仕方ない。
江戸っ子ギャルの姉御肌が、こういう強メンタルの天然美少女をいじるのは大好物なのだ。
「お前、見た目はお菓子売り場のマスコットみてえなのに、中身だけ妙に座ってんだよな」
「小春ちゃんだって見た目は怖いけど、わりと優しいじゃん」
「誰が怖いって?」
「そこは否定しないんだね」
陽菜、ちゃんと強い。
宰相と敏腕女工作員の娘だけあって、メンタルが妙に太い。
小春もそこが気に入っているので、からかいながらも完全に妹分扱いである。
「まあいいや、お前今日は静かにしてろよ。大事な面談あるんだからよ」
「静かにしてるよ」
「お前の“静か”は信用できねえ」
そのタイミングで、ヒロ室の入り口が開いた。
「連れてきたわよ」
自称ハマのプリンセス、南部沙羅である。
そして、その隣に立っていた女性が部屋の空気を一瞬で変えた。
金城伊織。
沖縄県那覇市出身。
一目で分かる。
この人は、沖縄だ。
ぱっちりとした目元。
彫りの深い、南方系の整った顔立ち。
ロングヘアは華やかだが上品で、都会的な装いなのに下品さが一切ない。
派手な美人ではある。
だが、それ以上に“ちゃんとしている”美人だった。
「金城伊織です。本日はお時間をいただきありがとうございます」
落ち着いた声。
姿勢、視線、言葉の置き方――何一つ崩れない。
その瞬間、真帆は心の中で採用を決めた。
はい、通った。
「これはもう、早いわね」
真帆が小さく言う。
琴音も隣で頷く。
「ずら」
「まだ何も聞いてないわよ」
「聞く前に分かるもんはあるずら」
面談が始まる。
だが、始まってすぐに分かる。
完璧。
学業優秀。
文武両道。
礼儀正しい。
会話も噛み合う。
質問の意図を正確に捉えたうえで、必要なことだけを過不足なく話す。
しかも琉球空手の名人。
運動能力の高さも、精神の落ち着きも、すでに十分すぎるほど伝わってくる。
「将来は、沖縄で教師になりたいと思っています」
その言い方も自然だった。
夢を語るのに浮つきがない。
「両親が教師なので、その影響もあります」
「戦隊ヒロイン活動は大学までにしたいです」
きっぱりしている。
だが、そこで終わらない。
「それでも、沖縄代表として是非参加したいです」
この一言で決まった。
遥室長が静かに頷く。
真帆もほぼ笑っている。
そして琴音がもう我慢できずに言った。
「もう10点満点中100点ずら」
最大級の賛辞。
満場一致。
金城伊織、採用決定。
最後の空白、沖縄がついに埋まった。
面談室の外では、沙羅が腕を組んで待っていた。
「まあ、私が連れてきたんだから当然でしょ」
そこへ琴音がにこやかに封筒を差し出す。
「お友達紹介キャンペーン、ご利用ありがとうございます」
「……まだそれやってたの?」
沙羅は苦笑しながら受け取る。
だが彼女は知っていた。
どうせショボい。
このプロジェクトが金欠なのは、もはや伝統芸能みたいなものだ。
それでも一応、中を確認する。
出てきたのは――
麗奈ちゃんプリペイドカード2000円分
戦隊ヒロイン手ぬぐい
沙羅、しばし無言。
それから、品よく苦笑した。
「……ショボっ」
やっぱり出た。
想像していたよりさらにショボかった。
分かっていた。
分かっていたのに、なお苦笑いするしかない。
「もうちょっと夢見せなさいよ」
沙羅が封筒を見つめたまま言う。
琴音はまったく動じない。
「戦隊ヒロインプロジェクトは金がないけど夢はある、いいじゃないですか」
堂々と言い切る。
「その開き直り方、嫌いじゃないけど好きにもなれないわ」
小春が横から覗き込む。
「二千円なら、まあ駅ナカでそこそこ遊べるだろ」
陽菜も寄ってくる。
「手ぬぐい可愛いよ?」
「そこじゃないのよ」
だが、そのやり取りすらちょっと楽しい。
こうして、新橋ヒロ室には新しい風が吹いた。
沖縄の空白が埋まる。
しかも最後に来たのは、非の打ち所がないほど整った“王道の強者”。
金城伊織は、まだ少し緊張しながらも静かに微笑んでいた。
その姿を見て、遥室長も、真帆も、琴音も、そして菜々子も確信していた。
最後のピースは、思っていた以上に強かった。




