表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

823/841

ヒロ九クエスト 第37話 煙突の町に轟け! ― 佐賀関、鉄と笑いのサミット決戦 ―

佐賀関の朝は、港の潮風と工場の機械音で始まる。

東洋一とうたわれたお化け煙突が町を見下ろし、海では関サバ・関アジのブランドを支える船が動き、陸では精錬所が黙々と稼働している。

そんな“無骨で強い町”に、この日だけは少し違う熱気があった。


戦隊ヒロインサミット佐賀関、開幕。


会場は、太平洋鉱業佐賀関精錬所の全面協力で整えられた特設スペース。

いかにも工業の町らしい無骨さの中に、やたら華やかなヒロイン装飾がぶら下がっている。

そのアンバランスさが、妙に佐賀関らしかった。


「……ほんまにやるんですね」


つばさがぽつりと言う。


「ここまで来たらやるしかなかですたい」


香澄がマイクを確認しながら答える。


「問題は、誰が一番暴走するかですねぇ」


ひなたが笑う。


「ノムさんです」


菜々子支配人が即答した。


まず会場を沸かせたのは、ヒロ九の登場――ではなかった。


「陽菜ちゃーん!!」

「可愛いー!!」

「白いリボンの妖精ー!!」


白石陽菜、圧倒的人気。


ステージ袖から陽菜が姿を見せただけで、客席の空気がふわっと明るく変わる。

白いリボンを揺らしながら手を振ると、子どもも大人も一斉に笑顔になる。


「すごいですね……」


凪が少し驚いたように言う。


「いるだけで空気変えるんですよ」


つばさが静かに説明する。


「それでいて本人はだいたい何も考えてません」


菜々子が小声で補足した。


「聞こえてるよ?」


陽菜はにこにこしていた。

全然気にしていない。


さらに大翔が横から飛び出して、同じように手を振る。


「わー!」


「大翔くんまで可愛いー!」


白いリボンの妖精と、五歳児。

この二人が揃うと、もう何かしら平和である。


サミットの幕開けは香澄の司会だった。


「みなさーん、今日はよう来てくれました〜!」


やわらかい熊本弁が会場に流れる。

その声だけで、空気が“イベントの空気”へと整っていく。


続いて、のどか、梨乃、みーちゃん、結衣のヒロヒロ組が登場。

そしてヒロ九側から、菜々子、ひなた、真央、つばさ、陽菜らが並ぶ。


だが本日の最大の目玉は、やはり――


「きたべー!!」


山口唯奈と、ドリームトラクター蒼牙2000・改。


場内がどよめく。

巨大な機体が安全に配慮されたルートを通って現れ、唯奈の操縦で派手に、しかし見事に動く。

首藤凪が監修した改良版演出は、前日の危険さが嘘のように整理されている。


蒼牙2000・改は、どこか誇らしげに動いた。


「私の性能を、正しく見せるには最適化が必要です」


「喋ったー!!」


大翔が一番盛り上がる。


「久しぶりだね〜蒼牙2000・改!」


陽菜が手を振る。


「私もです、陽菜さん」


この鉄の執事、陽菜への対応だけ妙に優しい。


「なんかもう家族みたいですね」


ひなたが笑う。


「よくない馴染み方してます」


菜々子は真顔だった。


蒼牙2000・改のデモンストレーションは大成功だった。

急旋回、絶妙な停止、無駄にかっこいい見せ場。

観客は大歓声。

しかも蒼牙2000・改自身が、その歓声をちゃんと浴びて気分を良くしているように見えるのがまた面白い。


続いて始まったのが、恒例のヒロ九 vs ヒロヒロのバカバカしい対決である。


「関サバ見分け対決!」

「佐賀関安全ジェスチャー対決!」

「煙突ポーズ選手権!」


「最後の何ですか?」


つばさが聞く。


「知らん」


真央が即答する。


しかも、どう見てもヒロ九が勝つようにできている。

観客もなんとなくその辺は分かっている。

分かっているのに、妙に楽しんでいる。

やらせまで含めて、様式美になっているのだった。


その最中も、陽菜は大人気。


ちょっと動けば

「陽菜ちゃーん!」

と声が飛ぶ。


転びそうになって「あっ」と声を上げるだけで

「可愛いー!」

と歓声が返る。


「……強いですね」


凪が小さく言う。


「最強ですよ」


つばさが言う。


「なお本人はだいたい天然です」


菜々子が付け加える。


そしてイベント終盤。


香澄がマイクを握りしめ、堂々と宣言する。


「今回の最高殊勲選手は――私です!」


一瞬の静寂。


次の瞬間。


のどかと梨乃が、もう打ち合わせ済みみたいな勢いで派手にコケる。


「なんでやねーん!!」


会場、大爆笑。


そこへ大翔も完全に流れを理解した顔で一緒に転がる。


「どーん!」


「大翔くんまで!?」


陽菜がケラケラ笑う。


その笑顔につられて、また客席も笑う。


そして謎の役職、大会コミッショナー・ノムさん登場。


何をもってコミッショナーなのかは不明だが、とにかく偉そうだった。


渡される賞品は、


麗奈ちゃんプリペイドカード500円分

戦隊ヒロイン手ぬぐい


という絶妙にショボくて絶妙にありがたいセット。


香澄は満面の笑みで受け取り、きっぱり言う。


「麗奈ちゃんプリペイドカードで、関サバば買って帰ります!」


会場から、割れんばかりの拍手。


その横で、陽菜も小さく手を叩いている。

白いリボンが揺れ、その姿を見て前列の子どもがまた叫ぶ。


「陽菜ちゃーん!」


陽菜はいつものやわらかい笑顔で手を振り返した。


その時、菜々子は少しだけ思った。


こういうイベントは、派手さでも大声でもなく、

最後に誰かが“来てよかった”と思えるかどうかだと。


そして今日の佐賀関は、確かにそうなっていた。


工場の町。港の町。無骨な町。

だけど、その町で、こんなにも笑い声が響いている。


凪もその光景を見つめていた。

保安課の視線ではなく、一人の人間として。


「……悪くないですね」


ぽつりと漏れる。


「でしょう?」


菜々子が静かに返した。


イベントが終わり、会場から人が引いていく。

それでも余韻は残っていた。


陽菜は大翔の頭を撫でながら言う。


「楽しかったね」


「うん!」


そして振り返る。


煙突と海と、まだ少し残る歓声。


「また来たいね」


その一言に、佐賀関の空気が少しだけやわらかくなった気がした。


工場の灯りがつき始める。

港風が吹く。


戦隊ヒロインサミット佐賀関は、くだらなくて、派手で、妙にあたたかいまま、大成功のうちに幕を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ