ヒロ九クエスト 第33話 地獄で迷うな!? ― 別府、“めぐり方が分からん”湯けむり大混線ミッション ―
由布院で“由”と“湯”の問題をどうにか丸く収めたヒロ九ラッピングバスは、次なる温泉地へ向かっていた。
ゴロロロロ……モクモク……
「……由布院の次が別府って、大分の観光エースを連投しすぎじゃないですか」
菜々子支配人が言う。
「強い球しか投げんですねぇ」
ひなたが笑う。
「例え方が野球に寄りすぎです」
つばさが静かに返した。
たどり着いたのは、別府。
言わずと知れた温泉王国である。
街のあちこちから湯けむりが立ちのぼり、歩いているだけで“地熱”を感じるような場所。
温泉の量も質も圧倒的。
そして観光客のお目当てといえば――
地獄めぐり。
色も温度も個性も違う“見る温泉”を巡る、別府観光の定番中の定番である。
「なんか、名前だけ聞くと怖いですけどね」
陽菜が言う。
「でも楽しそう!」
大翔はすでに乗り気だった。
「楽しい地獄って何ですか」
美紀が冷静に言う。
今回ヒロ九に持ち込まれた相談は、その地獄めぐりに関するものだった。
観光案内所のスタッフが、すでに顔色を失っている。
「皆さん……ちょっと助けてください」
「どうしました?」
菜々子が聞くと、スタッフは深いため息をついた。
「地獄の数が多くて、初めて来た観光客が全員迷うんです」
「まあ、そうでしょうね」
真央があっさり言う。
「しかも“どこから回ればいいか分からない”“全部回るべきなのか分からない”“名前が似てなくても頭に入らない”って、軽くパニックになってて……」
確かに現場を見ると、かなり混沌としていた。
・青い地獄に行きたい人
・赤い地獄に行ったつもりで別方向へ向かう人
・スタンプラリー台紙を持って右往左往する人
・湯けむりで看板を見落とす人
・子どもが飽きて親が困っている家族連れ
地獄は見応えがある。
でも、回り方が分からない。
「……導線ですね」
菜々子が真顔になる。
「完全に導線です」
つばさも即座に同意する。
「ここまでくると、地獄の問題というより人間側の問題だがや」
真央が言った。
「その通りです」
ヒロ九、即展開。
菜々子は全体を見てすぐ整理する。
「“全部見たい人”“少しだけ見たい人”“子ども連れ”“高齢の方”で回り方が違います」
「それを一枚で伝える必要がありますね」
つばさが補足する。
香澄は場内アナウンスに回る。
「みなさーん、まずは“ここから行くと楽ですよ”ってコースがありますけん、慌てんでよかですよ〜」
やわらかい熊本弁で、空気が少し落ち着く。
ひなたは実際にルートを走って確認。
「こっち、景色はいいけど疲れるですねぇ!」
「こっちは移動しやすいです!」
体力で地図を作っている。
茉莉花は家族連れや高齢者に声をかける。
「全部回らんでもええっちゃ。今日は“見やすい地獄”から行こ」
現実的で強い。
美紀は休憩ポイントと水分補給を確認。
「ここで一回休んだ方がいいですね」
相変わらず命綱。
そして真央。
「もう、色で分けるがや」
「はい?」
菜々子が振り向く。
「赤いの、青いの、泥の、熱そうなの。そんなもんでええんだわ!」
「雑じゃないですか」
「雑なくらいが観光客には伝わるで!」
しかも言うだけでなく、即席の色分け案内板を作り始める。
赤い矢印、青い矢印、黄色い丸印。
やたら見やすい。
悔しいが、分かりやすい。
この時、最大の突破口を開いたのは――
またしても陽菜と大翔だった。
「うわああ!青いのきれーい!」
「次、赤いの見たい!」
「泥のやつも行く!」
大翔も完全に同調する。
「つぎ青!」
「つぎ赤!」
「つぎどろ!」
菜々子がはっとする。
「……これです」
「何がですか?」
つばさが聞く。
「観光客って、“正式名称”より“青いの”“赤いの”で覚えてるんです」
つばさもすぐ理解した。
「たしかに……名前を覚えようとして混乱するより、特徴で回った方が安心ですね」
陽菜は何も考えていない顔で言う。
「だって、その方が分かりやすいもん」
大翔も頷く。
「うん!」
五歳児と天然美少女、またしても核心を突く。
ヒロ九は方針を切り替えた。
正式名称だけでなく、“色と特徴で案内する”。
結果、観光客の流れは一気に改善した。
「なるほど、青いの見たら次は赤いのでいいんだ」
「子ども向けコースあるの助かる!」
「全部回れなくても満足できそう!」
場内の混乱はみるみる減っていく。
「これは分かりやすい!」
案内所スタッフも感動していた。
香澄が笑う。
「難しいことは、やさしく言い換えた方がよかですけんねぇ」
真央も腕を組む。
「結局、看板はパッと見だで」
つばさは観光客を見送りながら小さく頷いた。
「不安が減れば、人はちゃんと楽しめますね」
夕方、地獄めぐりのスタッフたちがヒロ九に深く頭を下げた。
「本当に助かりました」
「これで“地獄で迷う地獄”から解放されました」
「言い方がすごいですね」
菜々子が言う。
その横で、陽菜と大翔はまだ盛り上がっている。
「次どこの地獄!?」
「もう帰るんです」
「えー!」
「地獄はまだ見たい!」
「また来てください!!」
全員が笑った。
こうして、別府の地獄めぐりは少しだけやさしく、少しだけ分かりやすくなった。
ヒロ九は今日もまた、旅先のちょっとした混乱を、持ち前の機転と黒煙とともに片づけていくのだった。




