ヒロ九クエスト 第31話 ボス猿、まさかの直訴!? ― 大分、“群れを守る男”からの極秘ミッション ―
サル山自然動物園での“サル山パニック”をどうにか収めたヒロ九一行。
観光客も落ち着き、スタッフも胸をなで下ろし、そろそろ一件落着――のはずだった。
だが、そう簡単には終わらないのがヒロ九クエストである。
群れの一番高い岩の上。
一匹の大きなボス猿が、じっとヒロ九を見下ろしていた。
「……やっぱり見られてますね」
つばさが静かに言う。
「完全に“お前らちょっと来い”の顔やがや」
真央が腕を組む。
「何か言いたげですねぇ」
ひなたが笑う。
その時だった。
近くにいた若いスタッフのお兄さんが、なぜか神妙な顔で言った。
「……あ、これ、ボスが話しかけてます」
全員、止まる。
「はい?」
菜々子支配人が聞き返す。
「ええと……だいたい分かります」
「何がですか」
「サル語です」
空気、停止。
「何で分かるんですか!?」
「毎日見てたら、なんとなく……」
「なんとなくで会話成立してるのおかしいです!!」
だが、お兄さんは真顔だった。
ボス猿の動きや鳴き声を見ながら、通訳を始める。
「“お前たち、さっきはよくやった”……だそうです」
「え、礼儀正しいですね」
ひなたが感心する。
「ボスはボスですから」
お兄さんが当然のように返す。
そして次の“通訳”に全員が少しだけ背筋を伸ばした。
「“だが最近、群れの若い連中が落ち着かん。人間が騒ぎすぎて、子ザルや母ザルまで不安になっとる。このままでは群れ全体が乱れる”……だそうです」
「……ちゃんとリーダーですね」
つばさが言う。
「自分の地位の話じゃないんだ」
美紀も意外そうに呟く。
菜々子は即答した。
「やりましょう」
「早いですね」
「今の相談、断る理由あります?」
ひなたが笑う。
お兄さんが通訳すると、ボス猿はゆっくりうなずいた。
なんだか本当に感謝しているように見える。
今回の依頼は、“サルたちが安心して過ごせる環境を取り戻すこと”。
原因は単純だった。
見物客の流れが群れの生活リズムに微妙に干渉し、特に若いサルたちが落ち着かず、全体の空気がざわついていたのである。
菜々子が現場を見てすぐにまとめた。
「見学エリアと、静かにしておくべきエリアの境界が曖昧なんです」
「そこだで」
真央が珍しく素直に同意する。
ヒロ九、再展開。
香澄はやわらかい熊本弁で“静かに見る時間”を案内する。
「今からちょっと、サルさんたちが落ち着く時間にしますけんね〜」
つばさは観光客へ個別に声をかけ、不満を出さずに協力してもらえるように動く。
「少し離れて見た方が、かえって群れの動きがよく見えますよ」
うまい。
真央はまたしても即席看板づくり。
ここから先は“サルさん安心ゾーン”
静かに見守ってください
「……だいぶ表現やさしいですね」
菜々子が言う。
「今日はボスが見とるでな」
妙に協力的。
ひなたは人の流れを整理し、茉莉花は立ち止まりやすい場所を整え、美紀は高齢の見学客の安全を確認する。
そして、陽菜と大翔。
「しーっ、今は静かに見る時間だって」
「わかった!」
そのくせ、サルが木から飛び降りると。
「うわああああ!!」
「すげえええ!!」
結局うるさい。
「静かにって言ったばっかりでしょう!!」
菜々子が叫ぶ。
だが不思議なことに、この二人の“楽しそうだけど悪意のない反応”は、観光客の空気まで柔らかくした。
怒る人もいない。
むしろみんな笑って、必要以上に刺激しない“ちょうどいい観察モード”へ落ち着いていく。
「……またこの二人が一番効いてません?」
つばさが言う。
「認めたくないけど、その通りだがや」
真央がうなずく。
やがて、群れは明らかに落ち着きを取り戻した。
母ザルは安心して子ザルの面倒を見始め、若いサルたちも無意味なざわつきが減り、全体に穏やかな空気が戻る。
お兄さんがボス猿を見上げる。
「……あ、今、言ってます」
「何てですか」
「“よくやった”です」
ボス猿はゆっくり岩の上から降りてきて、ヒロ九の前まで来る。
そして胸を張るように立ち、お兄さんが神妙に“通訳”した。
「“礼を言う。群れを守ったのはお前たちだ。ヒロ九の皆さんに、ボスの座を明け渡してもよい”……だそうです」
最大限の賛辞。
「お気持ちだけは頂戴します!」
菜々子が即答した。
だが、陽菜は目を輝かせる。
「えっ、私たちがボスになるの~? 凄い~!」
大翔も大喜び。
「ボス!! ぼくボス!」
「ならんでください!!」
だが、ボス猿はなぜかこの二人を気に入ったようだった。
じっと見て、少しだけ満足げに鼻を鳴らす。
「……精神年齢が近いんですかね」
美紀がぽつり。
「言うたらアカンやつです」
香澄が苦笑した。
最後にお兄さんが、もう一度通訳した。
「“良い旅を”……だそうです」
ボス猿はその場にどっしり構え、まるで本当に送り出すようにヒロ九を見ていた。
ヒロ九ラッピングバスがエンジンをかける。
ゴロロロロ……モクモク……
「……サル山を去る最後まで黒煙なんですね」
菜々子がぼそり。
「風格ですたい」
香澄がまた言う。
「それ便利すぎます!!」
窓の外では、ボス猿がじっとこちらを見送っている。
その横で、陽菜と大翔は全力で手を振っていた。
「またねー!!」
「ボスー!!」
ボス猿は、少しだけ顎を上げた。
それが返事だと、なぜか全員には分かった。
こうしてヒロ九は、サル山に一つの平和と、一つの妙な称号を残して、次の旅路へと向かうのだった。




