ヒロ九クエスト 第25話 ヤギが主役じゃダメですか!? ― もふもふ王国、“地味組”逆襲イベント ―
阿蘇の“もふもふ王国”で、ヒロ九は前回「読まれない動物紹介パネル問題」を見事に解決した。
その結果、ペンギンの気の強さやクマの昼寝好きが一躍脚光を浴び、園内のあちこちで人が立ち止まるようになった。
だが――
「実は、まだ相談があるとです」
美人で優しい飼育員・坂口透花が、ちょっと言いにくそうにそう切り出した。
「まだあるんですか」
菜々子支配人が反射的に答える。
「もふもふ王国、問題の宝庫ですねぇ」
ひなたが笑う。
透花は少し困ったように笑い、それから切ない顔になった。
「人気者が偏っとるとです」
「偏る?」
つばさが静かに聞き返す。
透花は手元のメモを見ながら言った。
「クマ、ペンギン、猿……そこは人が集まるっちゃけど」
一拍。
「ヤギ、ラマ、鳥類、爬虫類が……今ひとつなんです」
「……ああ」
全員、なんとなく察する。
「この子たちも可愛かとに……」
透花の表情は、明らかに本気だった。
人気者が目立つのは仕方ない。
だが、それでも園の仲間として世話している以上、“地味組”がスルーされるのはやっぱり寂しいらしい。
「それは……たしかに切ないですね」
陽菜が珍しくしみじみ言う。
「ヤギかわいいのに」
大翔もなぜか真顔で同意する。
「どこに共感しとるんですか」
菜々子が言うが、もう流れは決まっていた。
「やりましょう」
「ですよねぇ」
ひなたが笑う。
ヒロ九、即席で“地味組逆襲作戦”を開始。
まずは真央が腕を組んで現場を見回した。
「人気が偏るのはな、見せ方が悪いがや」
「また言い切りますね」
「だってそうだで。クマとペンギンは黙っとっても強い。ヤギとラマは工夫せんと埋もれる」
器用な愛知県人、今日も口が止まらない。
「ほいじゃ“地味組総選挙”やるがや」
「急に俗っぽいですね」
「名前は大事だで!」
透花は最初きょとんとしていたが、だんだん乗ってきた。
「それ、面白かですね」
香澄はすぐにMC案を考えた。
「“隠れ人気者紹介タイム”って感じでどうですかねぇ」
「よかです!すごくよかです!」
透花が食いつく。
つばさは、保護者やカップル向けに“静かに誘導する言葉”を考える。
「“今ならゆっくり見られます”って一言があると、人は動きます」
「たしかに……」
茉莉花が腕を組む。
「人が少ないのを“欠点”じゃなくて“特典”に変えるわけやな」
「その通りです」
静かな実務エース・つばさ、強い。
麻衣は子ども向け案を出す。
「ヤギさんに名前つけて呼びかけるのはどうですか? “あの子今日ちょっと眠そうだよ”みたいな」
「それ、絶対ちびっ子食いつくですねぇ」
ひなたも頷く。
美紀は冷静に指摘した。
「爬虫類コーナーは説明しないと“怖い”だけで終わるかも」
「そこだがや!」
真央が指を鳴らす。
「怖いじゃなくて“意外とかわいい”って見せなアカン!」
作戦開始。
真央が作ったのは、妙に気合いの入った手書き看板だった。
本日の隠れ人気者!
ヤギ部門・ラマ部門・鳥類部門・爬虫類部門!
「なんで部門制なんですか」
菜々子が聞く。
「盛り上がるからだがや」
強引。
だが、不思議と目を引く。
香澄が場内マイクで告知する。
「みなさーん、クマさんだけ見て帰ったらもったいなかですよ〜!」
「今日は“隠れ人気者”を紹介しますけんねぇ〜!」
すると、意外と人が動いた。
「なんだろう?」
「ちょっと見てみる?」
とりあえず寄ってくる。
そこからがヒロ九の本領だった。
香澄が“ヤギの愛嬌”を紹介し、
つばさが「今ならラマが近くで見られますよ」と自然に誘導し、
麻衣が子どもたちに「この鳥さん、ちょっと怒りんぼなんだって」と笑いかける。
ひなたはヤギの動きにいちいち全力で反応する。
「うわ、めっちゃ来ますね!」
「よかですねぇ!」
反応がでかい。
その横で、陽菜と大翔は完全に楽しんでいた。
「見て!ラマって顔おもしろい!」
「ほんとだ!ずっと見てられる!」
「このトカゲ、かわいい〜!」
「かわいいの!?」
観客もつられる。
「たしかに……ちょっとかわいいかも」
「いや、意外と見れば面白いな」
いつの間にか、“地味組”の前に人だかりができていた。
透花はその様子を見て、信じられないという顔をしていた。
「……読まれん、見られん、って悩んどったのに」
「伝え方次第ですね」
菜々子が言う。
「この子たちも、ちゃんと主役になれるんです」
一番盛り上がったのは、なぜかラマだった。
「なんでラマがこんな人気出るんですか」
菜々子が呆れる。
「顔ですたい」
香澄が真顔で言う。
「それ言ったら全部顔でしょう」
「いやラマは独特です」
つばさまで静かに同意した。
最後、透花はヤギの頭をそっと撫で、ラマの方を見て、それから鳥舎の方にも目をやった。
「みんなよかったね」
その声は、仕事の声ではなかった。
本当に、心の底からほっとした人の声だった。
「やっぱり、透花さんはこの子たちが好きなんですね」
陽菜が言う。
「好きです。みんな可愛いけん」
透花は照れたように笑う。
その顔を見て、ヒロ九の面々も自然と笑顔になる。
人気者は相変わらず人気者。
でも、地味組もちゃんと見てもらえた。
それはたぶん、この園にとって小さいようでいて、大きな一歩だった。
そしてヒロ九はまたひとつ、“ちょっとした困りごと”を、人の温度で解決してみせたのだった。




