ヒロ九クエスト 第24話 読まれぬ看板を救え!? ― もふもふ王国、“地味すぎる説明文”再生ミッション ―
阿蘇の“もふもふ王国”でのイベントを終えたヒロ九一行は、クマもペンギンも羊も満喫しきった陽菜と大翔をようやく回収し、ひと息ついていた。
「……仕事しに来たんですよね、私たち」
菜々子支配人が、クマのぬいぐるみを抱えた陽菜を見て言う。
「しましたよ?」
陽菜は悪びれない。
「一番楽しんでたやろ」
茉莉花が小倉弁でツッコむ。
その時だった。
「ちょっと、相談してよかですか」
声をかけてきたのは、脚がすらりと長く、仕事着なのに妙に華やかな美人飼育員――坂口透花だった。
熊本弁がかなり濃く、初対面では菜々子が三割しか聞き取れなかった相手である。
「何でしょうか」
菜々子が姿勢を正す。
透花は少し困ったように笑う。
「園内の動物紹介パネルが、まぁ〜読まれんとです」
「読まれない?」
つばさが聞き返す。
「そがん真面目に作っとるとに、みんな写真撮って終わりたい。誰もちゃんと読まんです」
透花は実際のパネルの前まで案内してくれた。
たしかに――
情報は多い。
正確だ。
だが、長い。硬い。無機質。
見た目も役所の掲示物みたいで、まるで可愛げがない。
「……これは」
真央が一目見て言う。
「確かにアカンがや」
「即答ですね」
菜々子が言う。
「内容はええのに、伝える気がないデザインだで」
真央、完全に職人の目である。
透花がしょんぼりする。
「この子たちのこと、もっと知ってほしかとです。クマばっか見て終わりじゃもったいなかとに」
その言葉に、陽菜が真面目な顔になる。
「それ、すごく分かる」
「なんで急に共感力高いんですか」
「だって、ペンギンのこともっと知りたいもん」
動機は完全に自分。
だが、それでよかった。
「やりましょう」
菜々子が即決した。
「このパネル、ヒロ九で改造します」
作業はすぐ始まった。
まず菜々子が文章を整理する。
情報量は減らしすぎず、でも一目で意味が入るように短く整える。
「“昼間の大半を休息に使う”……これは“昼寝が大好き”でいいですね」
「急に可愛くなりましたねぇ」
ひなたが笑う。
つばさは、保護者や子どもが読んだ時の感覚を考えて、“ひとこと質問”を提案した。
「“このクマは一日にどれくらい寝るでしょう?”みたいなのを入れると、止まって見てもらえます」
「それですたい!」
香澄が食いつく。
さらに香澄は、熊本弁まじりのやわらかいコメントを加える。
「“この子、見た目はのんびりしとるけど、おなかすいたらすぐ動くです”とかどうですかねぇ」
「ちょっと可愛すぎません?」
「園の空気には合っとるです」
たしかに合う。
真央は完全にDIY職人化していた。
板を切り、縁取りを塗り、文字の大きさを整え、足跡マークまで描き込んでいく。
「見た瞬間に“止まろう”って思わせるのが大事だがや」
口はうるさいが、手は完璧だった。
茉莉花は導線を見る。
「このパネル、位置が悪いっちゃ。人が立ち止まれん場所にあるやん」
「ほんとだ……」
透花が目を丸くする。
「読む前に次の動物に流れとる」
「そこです」
菜々子も納得した。
麻衣は小さい子向けの表現を考え、
美紀は「字が小さすぎると高齢の方にきついです」と現実的な指摘を入れ、
陽菜と大翔は“見本の客”として一番楽しんでいた。
「わっ、このヤギ“怒ると頭突きします”って書いてる!」
「すげー!」
「このパネル、前より面白い!」
「それ、今一番大事な感想です」
つばさが静かに言った。
数時間後。
パネルは見違えていた。
あたたかい色づかい。
目に入りやすい大きさ。
短くて親しみやすい文章。
そして、ちゃんと知識も残っている。
透花は、それを見てしばらく黙っていた。
「……すごか」
ようやく出た言葉が、それだった。
「なんか、ちゃんと“この子たち”の顔になっとる」
その言い方が、いかにも透花らしかった。
設置してみると効果はすぐに出た。
子どもたちが立ち止まり、親が読んで説明し、カップルが「へえ」と言いながら写真を撮る。
今まで素通りされていたパネルの前に、人だかりができていた。
「見て!このペンギン、意外と気が強いって!」
「ほんとだ、面白いね」
「このクマ、昼寝好きなんだ」
透花はその様子を見ながら、ちょっとだけ目を潤ませていた。
「……読まれとる」
「はい、読まれてます」
菜々子が答える。
「よかったです」
透花は何度もうなずいた。
「ほんとによかった……」
ひなたが笑う。
「この感じ、いいですねぇ」
香澄もにこにこしている。
「まだ他にも直したいとこ、あるですけどねぇ」
透花がぽつりと漏らす。
その瞬間、ヒロ九一同が顔を見合わせた。
まだある。
菜々子が小さく笑う。
「……続き、聞きましょうか」
阿蘇の風が吹く。
もふもふ王国の次なる相談事は、どうやらこれだけでは終わらないらしい。
■一言まとめ
「伝え方が変わると、動物たちはもっと愛される」




