ヒロ九クエスト 第15話 雨漏り本部、まさかの大改修!? ― 熊本の山の中、“器用すぎる愛知県人”覚醒 ―
熊本の山の中。
ヒロ室九州――通称ヒロ九の拠点は、今日も元気に雨漏りしていた。
いや、正確には晴れているのに雨漏りしていた。
ポタ。
ポタ。
「……もう物理法則からおかしいがね」
山田真央が、天井から落ちる雫を見上げて言った。
その声には、呆れと感心が半々くらい混じっていた。
「よーこんなボロで長崎遠征の段取り組めたがや〜、逆にすげぇわ」
菜々子支配人は、ちょっとだけ胸を張りかけて、やめた。
「褒められてないですよね?」
「褒めとるわけないでしょ」
即答である。
長崎遠征を成功させ、ヒロ九は確かに前進した。
片淵栞奈、そして川原つばさという二人の長崎勢を得たことは大きい。
だが現実に戻れば、次なる大分遠征の前に片づけるべき課題が一つ、いや百個くらいあった。
その最たるものが――
拠点のボロさ。
屋根は漏る。
壁は薄い。
電源タップはなぜか三個口に五つ刺さっている。
ネットはつながる時とつながらない時の差が激しい。
床は場所によって微妙に軋む。
「これ、秘密基地っていうよりほぼ不法占拠っぽいですよねぇ」
ひなたが笑いながら言った。
「言い方!」
菜々子が即座にツッコむ。
今回の大分遠征準備メンバーは、やけに豪華だった。
・古賀菜々子支配人
・有村ひなた(自他ともに認める副支配人)
・西里香澄
・川原つばさ
・山田真央
・白浜麻衣
・松本美紀
・白石陽菜
・黒崎茉莉花
・そして茉莉花の息子、大翔(5歳)
完全に合宿である。
ただし、全員が自由に動けるわけではない。
陽菜には心臓疾患があり、無理は禁物。
つばさもまだ療養明け前で、体調は万全とは言えない。
そこで登場するのが、看護学生・松本美紀。
「陽菜さん、無理したら止めます」
「大丈夫だよ、美紀ちゃん」
「信用してません」
即答。
つばさにも向き直る。
「つばささんも、しんどかったらすぐ言ってください」
「はい、無理しません」
「それも半分しか信用してません」
美紀は真顔だった。
「私、そんなに信用ないですか?」
「今はないです」
「言い切るんですね……」
だが、その徹底ぶりが逆に頼もしい。
一方、その横では白浜麻衣が大翔の相手をしていた。
「大翔くん、危ないから工具は触っちゃダメだよ〜」
「はーい、麻衣センセー」
以前から大翔は麻衣によく懐いており、もはや完全に“先生”扱いだった。
「麻衣センセー、これ見て!」
「わあ、上手だねえ」
「麻衣センセー、おなかすいた!」
「じゃあちょっと休憩しようか」
穏やかすぎる。
茉莉花が腕を組んで感心する。
「助かるわ……ほんと助かるっちゃ。」
「大翔くんいい子だから、全然大丈夫ですよ」
「それ、麻衣ちゃんやけやと思うっちゃね。」
その通りだった。
そんな和やかな空気をぶち壊すように、真央が天井を指差した。
「はい、しゃべっとる場合じゃないがね。ここ、完全にアカンわ」
「どこですか?」
「全部」
「広い!!」
修繕計画がスタートする。
まずは真央と香澄が、熊本産業交通本社へ向かった。
「道具、貸してもらえますかねぇ」
「貸すばい」
担当者は相変わらず軽かった。
「金はなかけど、道具はあるけん」
「毎回それですね」
「夢もあるばい」
「今日はその話はいいです」
香澄がさらっと切った。
そのまま二人は近くのホームセンターへ。
防水シート、釘、板材、電源コード、配線整理グッズ――買い物かごがどんどん埋まっていく。
「真央さん、詳しかですねぇ」
香澄が感心する。
「いや、普通やて。こういうのは段取りが命だがや」
真央はベラベラしゃべりながらも、手に取るものがいちいち的確だった。
そして帰り道。
真央が山を見上げる。
「……あの木、ちょうどええな」
「え?」
「使えるがや」
「え?」
「切るわ」
「勝手に!?」
熊本の山の中では、修繕作業が本格化していた。
真央はよくしゃべる。
「そこ押さえとって」
「はいはい、それ違うわ、こっち」
「いや、配線そんな絡めたらアカンて」
「ほら見てみ、こうやると綺麗につながるがや」
ずっとしゃべっている。
だが――
手も止まらない。
板を打ち、シートを張り、釘を留め、配線を整理し、Wi-Fiルーターの位置まで最適化していく。
「……すごいですね」
つばさが思わず言った。
「しゃべっとる量の割に仕事早い」
澪がいたら絶対そう言っていたであろう感想を、ひなたが代わりに述べる。
「よー言われるわ」
真央は一切気にしない。
ひなたは力仕事担当だった。
「これ、運べばいいですか?」
「運ぶ!」
「この板もですか?」
「運ぶ!」
「分かりました!」
完全に大型犬である。
途中、大翔がちょろちょろと作業場に近づく。
「大翔くん、こっち来ようね〜」
麻衣がさっと抱き上げる。
「麻衣センセー、あの人ずっとしゃべってる」
「うん、でもすごいんだよ」
「ふーん」
その横で茉莉花は笑っていた。
「現場監督の素質あるわ、あの子」
「大翔くんがですか?」
「いや、真央ちゃんもやけど」
数時間後。
プレハブ拠点は、見違えるように――とまでは言わないが、かなりマシになった。
天井の雨漏りは止まり、
電源はまともに確保され、
ネットも安定し、
机周りの導線も整理された。
「……文明が来ましたね」
菜々子がしみじみと言う。
「今までが原始時代みたいやん」
真央が即座に返す。
「否定できません」
つばさは修繕された天井を見上げた。
「落ち着きますね」
「ほんとですねぇ」
陽菜も穏やかに笑う。
美紀はその横で二人の様子を見ていた。
「はい、今日はここまで。無理しない」
「まだいけるよ?」
陽菜が言う。
「ダメです」
「つばささんも?」
「……はい」
「素直でよろしい」
すべての作業が終わり、夕方。
ヒロ九ラッピングバスが、満を持して大分へ向けて動き出す。
ゴロロロロロ……ブォン。
そして――
「……黒煙出てません?」
菜々子が真顔で言った。
全員、窓の外を見る。
たしかに出ている。
ちょっとではない。
わりとしっかり黒い。
「味ですねぇ」
香澄が言う。
「それはもう味じゃ済まないです!!」
ひなたが笑う。
「でも走ってるから大丈夫です!」
「その理論、一回見直してください!!」
山の中の拠点は、ようやく“基地”っぽくなった。
まだまだ足りない。
でも、確実に前へ進んでいる。
その証拠に、バスは黒煙を上げながらでも走り出したのだから。
ヒロ九クエスト、次なる舞台は大分。
温泉と人材とトラブルが待つ、新たな冒険の始まりだった。




