ヒロ九クエスト 第10話 拍手の余韻は止まらない!? ― 長崎、看板娘“その気スイッチ”オン ―
「戦隊ヒロインサミット長崎」は、大歓声の中で幕を閉じた。
雨に濡れた長崎の夜は静かに戻っていくが――楽屋裏だけは、まだお祭りの延長戦だった。
「いやぁ〜、よう盛り上がったなぁ!」
美月がタオルで汗を拭きながら言う。
「ほんまや。長崎、ええとこやん」
彩香も珍しく素直だ。
「猫も多かったしな」
「そこなん?」
澪が冷静にツッコむ。
そんな賑やかな楽屋の一角で、少しだけ真面目な空気が流れていた。
栞奈の両親と、遥室長、菜々子支配人の面談。
遥室長が柔らかく口を開く。
「戦隊ヒロインはね、ただの華やかな舞台じゃないだよ」
その言葉には、軽さがない。
「地域を元気にして、人を笑顔にして、そこにいる子どもたちに夢を見せる仕事だよ」
菜々子が続ける。
「ヒロ九は、九州全体を盛り上げていくための組織です」
一拍置いて。
「その中で、栞奈さんは長崎市代表として、あまりにも適格です」
ストレートすぎる評価
両親は一瞬驚き、そして顔を見合わせる。
母がふっと笑う。
「このくらいの年の子は、キラキラした世界に憧れるものですから」
父も静かに頷く。
「長崎を背負うなら……ええ経験になると思います」
快諾。
その頃、控室。
「栞奈ちゃーん!」
完全に捕まる
ヒロインたちによる質問攻めが始まっていた。
「長崎のおすすめスポットは?」
「カレー以外で!」
「坂きつくない!?」
「坂は多いですけど、その分景色が綺麗で……」
栞奈は丁寧に答える。
「夜景も有名で――」
「もう観光パンフレットやん」
沙羅が笑う。
その自然な受け答えに、全員が思う。
“この子、できる”
すると突然、美月が身を乗り出す。
「なあ栞奈ちゃん」
「はい?」
「ウチとユニット組もうや」
突然の提案
「え?」
「ツイン・ツインテールや」
ネーミング雑
間髪入れず、彩香が割って入る。
「やめとき」
即否定
「美月とおるとアホが感染するで」
「アホとはなんや!!」
「ウチと組んだ方がええで」
「彩香とおったら怖いオバハンになるで!」
「誰がオバハンや!!」
低次元バトル勃発
周囲、爆笑。
澪が呟く。
「……これが日常です」
ひなたは楽しそうに笑う。
「よかですねぇ、にぎやかで」
栞奈は――
そのやり取りを見て、くすっと笑う。
心の変化
「……楽しそうです」
それは、無意識に出た本音だった。
そして、もう一つ。
頭から離れない光景がある。
満員の会場。
スポットライト。
自分の名前を呼ぶ声。
拍手。
「……すごかったです」
小さくつぶやく。
その一言に、ひなたが気づく。
「……もう、その気ですねぇ」
栞奈は少し照れながら笑う。
「……はい」
完全にスイッチON
その頃、再び“みなと日和”。
「おい、栞奈ちゃん!」
「テレビ出とったやろ!」
「戦隊ヒロインになると!?」
常連たちは大騒ぎ。
「寂しくなるけん……」
「でも応援するばい!」
「頑張らんばぞ!」
感情ぐちゃぐちゃ
栞奈は笑顔で答える。
「ありがとうございます」
いつも通りの接客。
だが――その中に、少しだけ“覚悟”が混じる。
厨房から父がちらっと見る。
母はニコニコしている。
店の外には、長崎の夜。
雨はもう上がりかけていた。
看板娘は、まだ日常の中にいる。
だがその足は、確実に――
次のステージへ向かっている。
■一言まとめ
「憧れは、もう“覚悟”に変わっていた」




