ヒロ九クエスト 第4話 海を渡って次の町へ ― 島原、“温泉トラブル”鎮火ミッション ―
有明海を渡るフェリーの上。
ヒロ九ラッピングバスは、堂々と――というより、やや年季の入った足取りで甲板に鎮座していた。
「……バスって船に乗れるんですね」
澪が感心する。
「乗れるばい」
香澄があっさり答える。
「なんかもう、何でもアリですねこの旅」
沙羅は完全に遠足モードだった。
「遠足じゃなかです!!」
菜々子のツッコミも、だいぶ慣れてきた。
ひなたは海を見ながら、ぽつりとつぶやく。
「よか景色ですねぇ……こういうの、走ってみたかです」
「海の上は走れません!!」
やがてフェリーは島原半島へ到着。
そこは――
有明海と雲仙岳に抱かれた、自然と歴史が共存する町。
湧き出る清らかな水。
情緒ある城下町。
そしてなにより、豊富な温泉資源。
「水がうまかとですよ、ここ」
香澄が誇らしげに言う。
「なんか落ち着くとこですね」
澪がほっとしたように笑う。
「温泉あるし、もうここでいいんじゃない?」
沙羅が適当なことを言う。
「仕事をしてください!!」
ヒロ九一行は、さっそく小規模イベントの準備に入る。
天草での成功を踏まえ、今回は少しだけ手際も良くなっていた。
――が。
「……あの、ちょっとよかですか」
控えめに声をかけてきたのは、地元の温泉施設の関係者だった。
「最近、足湯とか共同浴場で……お湯がぬるくなるとです」
「ぬるく?」
菜々子が眉をひそめる。
「はい……急にです。しかも、あっちこっちで」
それは観光地にとって致命的な問題だった。
「クレームも増えとるとです……」
「これは……クエストですね」
ひなたが静かに言う。
ヒロ九、調査開始。
香澄はすぐに地元ネットワークをフル活用する。
「最近どがんなっとるですかねぇ〜」
元バスガイドの聞き込み力は異常だった。
あっという間に情報が集まる。
「どうやら複数の施設で同時に起きとるみたいです」
「原因不明……?」
澪が不安そうに言う。
「いや、なんか怪しいですね」
沙羅がスマホを見ながらつぶやく。
「SNSでもちょっと荒れてるよ。“どこかが勝手に水抜いてるんじゃないか”って」
「揉め事の匂いがしますね……」
菜々子の顔が引き締まる。
現地調査。
ひなたは走る。とにかく走る。
「ここもぬるいです!」
「こっちもです!」
「お湯チェックが雑すぎます!!」
だがスピードは正義だった。
やがて見えてきた原因。
「……これです」
菜々子が古い配管図を指さす。
「温泉の分岐、ぐちゃぐちゃじゃないですか」
「昔からの設備やけん……」
地元の人が申し訳なさそうに言う。
さらに追い打ち。
「……ここ、無断で分岐されてます」
「え?」
「勝手に引いてますね」
現場、軽く炎上。
「うちは昔からやっとる!」
「そっちが取りすぎなんじゃ!」
言い合いが始まる。
その時。
「はいはい、ストップです」
沙羅が割って入る。
「これ、このまま揉めてたら“島原の温泉トラブル”でバズるよ?」
全員、ピタッと止まる。
「……それは困る」
「ですよね?」
SNSの力、雑に強い。
澪が静かにフォローする。
「誰かが悪いっていうより……仕組みの問題ですよね」
「……確かに」
空気が柔らぐ。
そして最後は――
菜々子。
「一度、全体の配分を見直しましょう」
冷静に、的確に、順序立てて説明する。
・配管の整理
・利用ルールの明確化
・使用量の再配分
「責任を押し付けるより、全員が得する形にしましょう」
その言葉に、全員が静かに頷いた。
数時間後。
足湯には、しっかりと温かいお湯が戻っていた。
「おお……!」
「戻った!」
観光客が笑顔になる。
地元の人たちが深々と頭を下げる。
「ありがとう……助かりました」
「ほんとに……」
ひなたがにこっと笑う。
「よか仕事でしたねぇ」
(ほんのり大隅なまり)
香澄も嬉しそうに言う。
「やっぱり地元が元気になるのが一番よかですねぇ」
澪もほっとした顔。
「こういうの、いいですね……」
沙羅も腕を組みながら満足げ。
「まあ、私の一言が効いたけどね」
「そこですか?」
こうして、ヒロ九はまた一つ、信頼を積み上げた。
・温泉トラブル解決
・イベントも成功
・地元の評価も上昇
“なんかよく分からない集団”から
“ちゃんと頼れる存在”へ――
少しだけ変わった瞬間だった。
夕暮れ。
ヒロ九バスは再び走り出す。
目的地は――長崎市内。
「次は本番ですね」
菜々子が前を見据える。
「楽しみですねぇ」
ひなたが笑う。
車窓には、島原の町並みと、その向こうに広がる海。
ヒロ九の旅は、まだ始まったばかりだった。
■一言まとめ
「温泉も人間関係も、ちゃんと温め直せばうまくいく」




