表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

787/886

ヒロ九クエスト 第1話  出発5分で寄り道!? ― ヒロ九、最初のクエストはまさかの本社案件 ―

ヒロ室九州――通称ヒロ九。

それは、夢はあるが金はない、拠点はあるが雨漏りする、バスはあるがちょっと不安という、三拍子そろった“だいぶ怪しい組織”である。


そんなヒロ九が、ついに九州全土を巡る冒険に出ることになった。


計画?

あるにはある。

だが、紙の上でしか成立していない。


人員?

足りない。

むしろ足りなさすぎて、暇そうなヒロインが強制参加している。


装備?

ラッピングバス一台。

なおエンジン音は昭和。


拠点?

熊本の山の中。

天井から水が落ちるが、気にしないことになっている。


それでも彼女たちは出発する。


なぜなら――


「なんとかなると思うからです!!」


と、体力おばけが笑い、


「なんとかします!!」


と、支配人が開き直り、


「まあ面白そうだし」


と、周囲が乗っかったからである。


こうして始まるヒロ九クエスト。

それは、九州を巡り、困りごとを解決し、仲間を増やしていく――


どこかの有名RPGみたいな旅である。


ただし違うのは、

最初からレベルも装備も足りていないことだけである。

熊本市郊外。

いや、郊外というより、だいぶ山の中。

木々に囲まれた元バス営業所のプレハブ拠点から、ついにヒロ九の冒険旅行――ヒロ九クエストが始まろうとしていた。


とはいえ、出発の空気は決して勇ましいものではなかった。


「……では、行きましょうか」


支配人・古賀菜々子は、眠たげなプレハブの扉を閉めながら言った。


「おー!」


元駅伝選手の有村ひなただけが無駄に元気だった。


一方で、ラッピングバスの横では南部沙羅が腕を組み、水無瀬澪がぼんやり空を見ていた。


「ねえ、なんで私まで来てるの?」


「暇そうだったかららしいです」


菜々子が答える。


「それ理由になる?」


「ヒロ室ではなります」


澪が小さく頷いた。


「私も“なんとなく人数合わせ”って言われた……」


「言い方!!」


沙羅が笑う。


そして最後に乗り込むのは、熊本が誇るスター――西里香澄。

元・熊本産業交通のバスガイドであり、今や熊本弁MCで全国区の人気を得たヒロインである。


「それじゃ、ぼちぼち行くとしましょうかねぇ〜」


その一言で、空気がちょっとだけまともになる。


こうしてヒロ九ラッピングバスは、元気ともなんとも言えない、妙に微妙なテンションのまま長崎へ向けて走り出した。


エンジン音は、相変わらずゴロゴロと年季を主張していた。


「……やっぱりこの音、不安です」


菜々子がシートベルトを締めながら言う。


「味があるばい」


香澄が笑う。


「味という言葉で全部ごまかしてません?」


「ばってん走るけん大丈夫です」


「理屈が雑です!!」


だがその時だった。


出発して、まだ五分も経っていない。


「あっ」


菜々子が、小さく、しかし官僚人生でもかなり致命的な声を出した。


隼人補佐官がいない今日は、その“あっ”が誰にもフォローされない。


「どうしたんですか?」


ひなたが聞く。


菜々子は真顔で答えた。


「……長崎イベントの申請関係書類、一式、プレハブ机の上です」


車内、沈黙。


次の瞬間。


「はぁ!?」


「うそでしょ!」


「やばいじゃん!」


「うわぁ……」


一番冷静だったのは香澄だった。


「ほんなこつですか」


「ほんなこつです……」


支配人、完全にやらかす。


「……引き返してください」


菜々子が運転手に告げる。


「えっ、もう!?」


「はい、もうです」


ヒロ九クエスト、出発五分でUターン決定。


沙羅が腹を抱えて笑う。


「ちょっと待って、RPGで最初の町出てすぐ“忘れ物した”って戻るやつじゃん」


「すみません、それです!!」


菜々子、即認める。


バスはそのまま、まず熊本産業交通本社へ立ち寄ることになった。

どうせ戻るなら、本社に顔を出して資料も受け取って、という苦し紛れの合理化である。


――数十分後。


熊本産業交通本社。


入口で出迎えた本社の偉い人が、香澄の顔を見た瞬間に大声を上げた。


「おおっ!ホンモノのくま●んのお姉さんが来た〜!」


「やめてくださいよぉ〜」


香澄が苦笑いしながら手を振る。


「いやあ、やっぱ本物は違うばい!」


「ホンモノもなにも、私が本人ですからねぇ〜」


「そらそうたい!」


妙にレベルの低い会話である。


そのやり取りを見て、菜々子は小さくつぶやく。


「……人気、すごかですね」


「熊本ではスターだからね」


沙羅が余計な一言を添える。


「くま●んより人気あるんじゃない?」


「それは怒られる!!」


香澄、珍しく焦る。


そこへ、元バスガイド仲間らしき若い女性たちがやってきた。


「香澄先輩!」


「やっぱり来とらした!」


香澄の後輩たちである。

そのうちの一人が、少し困った顔で言った。


「実は、ちょっと相談があって……」


ヒロ九、初クエスト発生。


相談内容はこうだった。

社内のバスガイド向けPRイベントの準備が完全に破綻しているという。

担当者が異動し、進行表はぐちゃぐちゃ、ステージ案内も曖昧、司会進行も決まっていない。


「もう明後日なのに、何もまとまっとらんとです」


「それは困ったですねぇ」


香澄の声色が変わる。


そこからは早かった。


「資料、見せてください」


菜々子の官僚スイッチが入る。


「動線は私が見ます!」


ひなたが無駄に張り切る。


「じゃあ私、SNS告知やる」


沙羅が勝手に参戦。


「私は受付表の整理するね……」


澪も、巻き込まれつつ働く。


香澄は当然、MC構成の再設計に入る。


「この流れなら、最初に軽く笑わせてから案内入れた方がよかですねぇ」


「それです!」


後輩が感激する。


菜々子は進行表を見つめながら、赤ペンで修正を入れていく。


「この順番だと人が詰まります。受付を二列に分けてください」


「はい!」


「あと、待機列をここに移して」


「はい!」


「……なんか、支配人っぽいですね」


澪がぽつり。


「支配人です!!」


ようやく名乗れた。


一方、ひなたは会場で椅子を並べていた。


「これ全部一人で!?」


後輩が驚く。


「大丈夫です!」


鹿屋の体力おばけは、こういう時に異様に頼もしい。


沙羅はというと、気づけば勝手に「熊本産業交通イベント、なんか面白そう」と投稿していて、微妙に注目を集め始めていた。


「なんでそれがバズるとですか!?」


「私だから」


「腹立つ!!」


とにかく数時間後、イベントは立て直された。


本社スタッフたちは感動しきりである。


「助かりました!」

「これで何とかなる!」

「ヒロ九ってすごかですね!」


菜々子は少し照れながら言う。


「まだ準備室ですけど……」


だが、確かに一つ目の仕事はやりきった。


本社の偉い人も、満足げに頷く。


「やっぱよかチームになりそうばい」


その言葉に、ひなたがにかっと笑って言った。


「よかチームになりそうですねぇ」


大隅なまりの柔らかい鹿児島弁が、ふわっと場を和ませる。


「まだ“なりそう”ですけどね」


菜々子が苦笑する。


「最初はそんなもんたい」


香澄が笑う。


そしてその瞬間、菜々子は気づいた。


(……あ)


「あの」


「はい?」


「書類、まだ取りに行ってませんでした」


車内じゃなくて本社で初任務を終えた結果、本来の目的がまだ未達だった。


全員、数秒固まる。


そのあと――


大爆笑。


ヒロ九クエスト、第一話。


最初の冒険は、出発五分で寄り道し、本社案件を解決し、なお書類を取りに行けていないという、

実にヒロ九らしい、上々の滑り出しとなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ