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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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1244/1262

白波小町、鳥海山へ帰る――鳥海の雪月花、大家族と野村ラッパに包囲される!?

富山県高岡市を離れたロケ車が、次なる目的地へ向かって北上していた。

CS放送の紀行企画『白波小町・日本海ふたり旅――歌の故郷を訪ねて』。

前回は、氷見ゆりえの故郷を巡った。

本来なら就職していたはずの漁協。

父の漁船。

築百年近い実家。

そして夜。

ゆりえの父とブラックキャブプロダクション社長・野村吉彦、通称ノムさんが、日本酒を酌み交わしながら昔の約束を語った。

普段なら「紅白じゃ!」「レコ大じゃ!」「世界進出じゃ!」と三分に一度は巨大なラッパを吹く男が、その夜だけは静かだった。

ゆりえを芸能界へ連れていく時、

――娘さんを預かる以上、わしが責任持って守ります。

そう約束した。

そして今も、その約束を守っている。

番組は予想外の人情回となった。

それだけに。

次の主役である阿部柚葉は少々困っていた。

「……うち、あんなに感動的になるかな」

後部座席で柚葉が呟いた。

ゆりえが隣から笑う。

「柚葉ちゃんとこは家族多いんやろ?」

「多い」

「それだけで何か起きそうちゃ」

前の席からノムさん。

「人数多いいうても七人きょうだいじゃろ。わしゃ芸能界で何百人いう現場仕切ってきた男じゃ」

柚葉は窓の外を見たまま答えた。

「親戚も来るそうです」

「ええじゃないか」

「かなり」

「何人くらい?」

「分かりません」

ノムさんが振り返った。

「その答え、富山では聞かんかったぞ」

「数えてないので」

「何で数えん!」

「親戚を数える習慣ないですから」

ゆりえが吹き出した。

ロケ車がにかほ市へ入る。

そこで景色が変わった。

西には日本海。

反対側には田園。

そして、その向こうから大きく立ち上がる鳥海山。

ゆりえが窓へ顔を寄せた。

「すごいちゃ」

柚葉。

「何が?」

「海見て振り向いたら、すぐ山がおる」

「ずっとそうだったから、私には普通なんだけど」

ノムさんまで窓を見る。

「これはええのう」

珍しく素直だった。

田畑の向こう。

工場群が見える。

巨大な建物の向こうには鳥海山。

田園と先端産業。

古い集落と現代的な製造拠点。

一見すると不思議な風景だった。

番組スタッフが尋ねる。

「柚葉さん、この辺りって工場多いんですね」

柚葉は頷く。

「世界的な電子部品メーカーの工場があるんです。父もそこで働いていますし、親戚にも本体や関連会社で働いてる人が何人もいます」

ノムさん。

「つまり阿部一族は電子部品一族でもあるんか」

「そこまで言ってません」

「じゃけど、田んぼの向こうに世界級の部品工場いうのも面白い町じゃの」

「そうですね。農業の町でもあるし、海もあるし、工場もある」

ゆりえ。

「全部あるちゃ」

ノムさんは急に得意そうな顔になる。

「分かったぞ」

柚葉。

「何がです?」

「柚葉ちゃんが普段おとなしいのに、突然ものすごいこと言い出す理由じゃ」

嫌な予感がした。

「何ですか」

ノムさんは鳥海山を指さした。

「見た目は静かな田園!」

続いて工場。

「中身は世界最先端の電子部品!」

そして柚葉。

「お前も同じじゃ!」

「やめてください」

「にかほの電子部品魂じゃ!」

「全然関係ありません」

ゆりえ。

「でも妙に納得できるちゃ」

「ゆりえさんまで乗らないで」

ここで番組ナレーション。

――鳥海山の麓。日本海を望む田園地帯。その中に最先端のものづくり産業が息づく町、にかほ。

映像には稲穂。

日本海。

工場。

そして鳥海山。

続いて市場の魚。

天然岩ガキ。

寒い季節なら寒鱈。

郷土のハタハタ寿司。

いちじくを使った甘味。

柚葉が案内する。

「山のものも海のものもあるので、食べ物はかなり豊富です」

ノムさん。

「富山も秋田も食いもんが強い!」

ゆりえ。

「社長、旅番組になると急に食欲だけ若返るちゃ」

「うまいもんに年齢は関係ない!」

そして。

鳥海山がきれいに見える場所で撮影車が止まった。

柚葉が降りる。

風が長い黒髪を揺らす。

雪を抱いた鳥海山。

日本海。

その二つの景色の間に柚葉が立つ。

カメラマンが、

「これは“鳥海の雪月花”ですね」

と言った。

ノムさんが胸を張る。

「じゃろ!」

柚葉。

「社長が付けたんでしたっけ?」

「そこは曖昧にしとこう」

「なぜです?」

ともあれ。

「鳥海の雪月花」。

雪を頂く鳥海山。

四季の花。

そして透明感のある秋田美人。

そのキャッチコピーは、故郷へ戻ってみると妙にしっくりきた。

『日本海、ふたり旅』の旋律がBGMとして流れる。

富山編では、海から旅が始まった。

今回は、その日本海の向こうに白い峰がある。

ゆりえが呟く。

「うちの富山湾から始まって、ここへ来た感じするちゃ」

柚葉も鳥海山を見上げる。

「歌ってる時は景色を想像してたんだけどね」

「本物を見ると違う?」

「全然違う」

少し間。

「……これ、私の歌なんだなって思う」

それは静かな一言だった。

しかし。

その静けさは長く続かなかった。

次のロケ先。

柚葉の同級生たちが待っていた。

男女合わせて六人。

全員一般人。

のはずだった。

スタッフが並んだ六人を見て黙った。

カメラマンが一度レンズを下げた。

ノムさんも黙った。

ゆりえが小声。

「……柚葉ちゃん」

「何?」

「同級生、顔面偏差値高すぎん?」

柚葉。

「そう?」

「そうちゃ!」

男性陣。

長身で爽やかな会社員。

スポーツマン風の整った男性。

眼鏡の似合う知的な青年。

女性陣。

地方局のアナウンサーと言われても納得しそうな女性。

モデル系の長身女性。

透明感のある色白の女性。

ノムさんの目が明らかに変わった。

柚葉。

「社長」

「何じゃ」

「仕事の顔になってます」

「芸能事務所社長じゃけえ」

「今日はスカウト番組じゃありません」

ノムさんは男性同級生までじっと見る。

「男もいけるのう……」

男性同級生。

「え?」

柚葉。

「やめてください」

インタビュー開始。

スタッフ。

「阿部柚葉さんって、子どもの頃はどんな子でした?」

女性同級生が即答する。

「美少女」

柚葉。

「いきなりそれ?」

男性同級生。

「それは否定できない」

別の女性。

「小学校の頃から有名だったよね」

男性。

「他のクラスでも名前知られてた」

柚葉。

「知らなかった」

全員。

「本人だけ知らなかった!」

爆笑。

ゆりえ。

「本物の天然やちゃ」

同級生によれば、柚葉は昔から目立っていた。

背が高い。

色が白い。

黒髪。

整った顔立ち。

しかし本人は外見を武器にするタイプではなかった。

むしろ。

「真面目」

「成績良かった」

「先生から信頼されてた」

「困ってる子いたら絶対助ける」

「落とし物あったら放課後まで持ち主探してるような子」

典型的な優等生。

ところが。

男性同級生が言った。

「ただ、時々おかしくなる」

柚葉。

「おかしくはならない」

「なるよ」

女性同級生も頷く。

「普段すごく常識的なのに、突然すごいこと言うの」

スタッフ。

「たとえば?」

男性同級生が笑う。

「小学校の遠足の話」

柚葉の顔が少し曇る。

「やめない?」

「絶対やる」

本来。

近場の公園へ行く計画だった。

先生が、

「どこへ行きたいですか?」

と児童へ聞いた。

大半。

「公園!」

「水族館!」

そこで柚葉。

「どうせなら鳥海山に登りませんか?」

先生。

「登りません」

即却下。

スタッフ爆笑。

柚葉。

「覚えてない」

全員。

「覚えてる!」

別の女性同級生。

「文化祭も」

普通に教室展示をする予定だった。

柚葉が突然、

「教室だけだともったいないから、廊下まで全部迷路にしましょう」

と言い出した。

先生。

「消防法上やめましょう」

柚葉。

「……それは覚えてる」

ノムさん。

「尖っとる!」

柚葉。

「そこ喜ばないでください」

さらに。

中学校では清掃活動。

普通なら学校周辺だけ。

柚葉。

「せっかくだから海岸まで全部やりませんか?」

教師。

「範囲が広すぎます」

高校では募金活動。

柚葉。

「学校の中だけより、駅前でやった方が集まると思います」

教師。

「許可を取ってからにしてください」

ゆりえは腹を抱える。

「今と一緒やちゃ!」

ノムさん。

「完全に今の柚葉ちゃんじゃ!」

柚葉はついに観念した。

「……昔からだったんだ」

女性同級生。

「そうだよ」

男性同級生。

「戦隊ヒロインに自分から応募したって聞いても誰も驚かなかった」

「むしろ」

「柚葉ならやるよね」

「って」

ただし。

男性同級生が付け加える。

「グラビアは驚いた」

女性。

「演歌はもっと驚いた」

柚葉。

「そこは私も驚いてます」

ノムさん。

「演歌はわしのおかげじゃ!」

ゆりえ。

「原因の間違いやちゃ」

そして。

同級生の間で人気があったという話になる。

スタッフ。

「やっぱり男子からも人気ありました?」

男友達。

「そりゃ」

女友達。

「かなり」

別の男性。

「でも本人が鈍いから」

柚葉。

「何が?」

「何人か告白しようとして諦めてたぞ」

「初耳なんだけど」

ノムさんが身を乗り出す。

「名前聞こう!」

柚葉。

「聞かなくていいです」

「番組的に!」

「いりません」

「一人くらい!」

「社長」

「はい」

このやり取りで、同級生全員大笑い。

インタビューを終えたノムさんは、まだ名残惜しそうだった。

「あの六人、普通に芸能界いけるぞ」

柚葉。

「地元の友達をまとめてスカウトしないでください」

「秋田、人材豊富じゃのう……」

ゆりえ。

「社長、ロケ終わってから名刺配らんようにね」

「読まれとる!」

そして。

ついに。

阿部家。

車内。

柚葉。

「一応言っておきます」

ノムさん。

「またか」

「今日は親戚もかなり来てます」

「もう聞いた」

「本当にかなりです」

「わしゃ芸能界五十年以上じゃ。少々の人数には動じん!」

到着。

玄関。

柚葉が引き戸を開ける。

「ただいま」

次の瞬間。

「柚葉ー!」

「帰ってきた!」

「テレビ来た!」

「ゆりえちゃん!」

「ノムさん!」

「本物だ!」

「熱湯の人だ!」

ノムさん。

「最後誰じゃ!」

人が出てくる。

一人。

二人。

五人。

十人。

十五人。

まだ出る。

ノムさんの顔から余裕が消えていく。

七人きょうだい。

その家族。

叔父。

叔母。

いとこ。

甥。

姪。

祖父。

祖母。

親戚。

親戚の親戚。

スタッフが数える。

「二十六……」

さらに奥。

「三人いました」

「二十九」

ノムさん。

「町内会じゃろ!」

柚葉。

「親戚です」

「親戚いう人数じゃない!」

ゆりえ。

「ノムさん囲まれとるちゃ」

本当に囲まれた。

幼稚園児。

「ノムさん、熱湯入った人?」

「そこから離れろ!」

小学生。

「白波小町四位だった!」

「よう知っとる!」

中学生。

「次の週百八十六位!」

ノムさん。

「そこまで言わんでええ!」

高校生。

「ナイアガラ!」

「誰が教えた!」

柚葉。

「たぶん放送です」

ノムさんは開始五分で完全に防戦一方となった。

そして。

親族最大の長老。

曾祖母登場。

小柄。

元気。

柚葉を見るなり笑顔。

そのままノムさんの手を握る。

そして。

猛烈な秋田弁。

「********************!」

ノムさん。

「…………」

曾祖母。

「************!」

ノムさん。

「はい」

柚葉。

「分かってるんですか?」

「一個も分からん」

一同爆笑。

祖父が立つ。

「わしが訳す」

ノムさん。

「助かります!」

祖父。

「****************!」

ノムさん。

「……すみません」

「何だ?」

「通訳の人も訛っとる」

ゆりえが崩れ落ちそうになる。

「二段階でも分からんちゃ!」

ようやく柚葉の父が標準語寄りにまとめる。

「体に気をつけて、無理しないで頑張れ、だそうです」

ノムさん。

「そんな優しい話じゃったんか!」

曾祖母。

「んだ!」

「ありがとうございます!」

何となく通じた。

すると。

曾祖母。

立つ。

ノムさん。

「どちらへ?」

柚葉。

「寝ます」

「今から?」

時計。

午後七時二十八分。

柚葉。

「いつも七時半には寝るので」

曾祖母は最後にまた猛烈な秋田弁。

「********!」

ノムさん。

「今のは?」

父。

「じゃあな、だと思います」

「最後は推定なんか!」

午後七時三十分。

曾祖母。

きっちり退場。

ノムさん。

「生活リズム強すぎるじゃろ!」

その後。

大宴会。

長い座卓。

日本酒。

魚。

山菜。

鍋。

漬物。

料理が次々出る。

ノムさんは祖父と飲む。

父と飲む。

叔父と飲む。

また祖父。

別の叔父。

関連会社勤務のいとこ。

電子部品メーカー勤務の父。

話を聞けば聞くほど、阿部一族と地元工場の結びつきが強い。

「父ちゃんも?」

柚葉。

「はい」

「叔父さんも?」

「はい」

「そっちのいとこも?」

「関連会社です」

ノムさん。

「ほんまに電子部品一族じゃないか!」

柚葉。

「町に工場多いんです」

祖父。

「昔からこの辺は工場で食っとる家多いからな」

ノムさん。

「田んぼあって、海あって、世界級の部品作っとる。面白い町じゃのう」

そして母。

柚葉とよく似た顔立ち。

長い黒髪の面影。

年齢を重ねても上品な美人。

ノムさんが明らかに見る。

柚葉。

「社長」

「何じゃ」

「母を見すぎです」

「見とらん」

「見てました」

「いやぁ、お母さんも美人じゃのうと思って」

母。

「まあまあ」

ノムさん。

「若い頃、芸能界とか――」

柚葉。

「社長」

声が一段低い。

「はい」

「母をスカウトしないでください」

「まだ最後まで言うとらん!」

ゆりえ。

「最後まで言わんでも分かるちゃ」

祖父。

「娘だけで足りんのか!」

家中爆笑。

ノムさん。

「職業病じゃ!」

しかし。

ノムさんにとって本当の試練はここからだった。

阿部家の若い親戚。

顔立ちの整った子が妙に多い。

幼稚園児。

小学生。

中学生。

高校生。

男女とも。

カメラマンがぼそっと言う。

「この家、キャスティング会社いらないですね」

ノムさん。

「わしも今そう思った」

柚葉。

「思わないでください」

高校生の女の子が聞く。

「ノムさん、私も芸能界行きたい」

中学生の男の子。

「僕もテレビ出たい!」

別の子。

「戦隊ヒロインやりたい!」

ノムさんは一瞬だけスカウトマンの顔になった。

だが。

すぐに戻る。

「まだ駄目じゃ」

「えーっ!」

「うちは十八歳以上」

高校生。

「卒業したら?」

「学校ちゃんと卒業して、それでもまだ本気でやりたかったら、その時考えんさい」

柚葉が少し驚いた。

こういうところだけは。

本当にきちんとしている。

だが。

そこからがおかしかった。

ノムさんが子どもたちの前に立つ。

「ええか!」

「はーい!」

「宿題やれよ!」

「はーい!」

「風呂入ったか!」

「まだー!」

「入れよ!」

「はーい!」

「歯ぁ磨けよ!」

「はーい!」

「早よ寝ろよ!」

「はーい!」

「お父さん、お母さんの言うこと聞けよ!」

「はーい!」

「おじいさん、おばあさん大事にせえよ!」

「はーい!」

柚葉。

「社長」

「何じゃ!」

「何の番組になったんですか」

ゆりえは腹を抱える。

「昭和の土曜八時やちゃ!」

祖父が大喜び。

「もう一回やれ!」

ノムさん。

「風呂入れよ!」

親戚一同。

「はーい!」

「歯ぁ磨けよ!」

「はーい!」

スタッフまで参加。

柚葉だけが額を押さえていた。

「CSの紀行番組だったはずなんだけど……」

夜が深くなった。

幼い子どもたちも寝た。

人数が少し減る。

ようやく。

祖父。

祖母。

父。

母。

ノムさん。

ゆりえ。

柚葉。

落ち着いて日本酒を酌み交わす。

祖母が言う。

「柚葉は昔からね、おとなしい子なんだけど」

父。

「急に変なこと言う」

柚葉。

「今日それ何回目ですか」

母。

「でも、誰か困ってると一番先に動くの」

祖父。

「そこは昔から変わらん」

ノムさんが頷く。

「だから、自分から戦隊ヒロインに志願したんですね」

父。

「驚かなかったですよ」

「心配はしましたけど」

母も頷く。

「自分がやるって言ったら、やる子だから」

ノムさんは杯を置いた。

「東京で見とる柚葉ちゃん、そのままじゃのう」

柚葉。

「そんなに変わってないですか」

ゆりえ。

「変わっとらんと思うちゃ」

普段は静か。

礼儀正しい。

頭もいい。

しかし。

突然。

誰も予想しない方向へ一歩踏み出す。

戦隊ヒロイン。

グラビア。

そして。

演歌。

鳥海の雪月花。

雪のような静けさ。

花のような華。

そしてその下に。

鳥海山の岩肌のような芯がある。

ノムさんがぽつりと言う。

「“鳥海の雪月花”いう名前、案外そのままなんじゃの」

柚葉が少し照れる。

「今日は珍しくまともですね」

「“今日は”はいらん!」

翌朝。

日本海と鳥海山を一緒に望める場所。

小さな特設ステージ。

家族。

親戚。

同級生。

近所の人々。

『日本海、ふたり旅』。

イントロが流れる。

柚葉は鳥海山を見る。

白い峰。

海から吹く風。

これまで東京で何度も歌った歌詞。

しかし今は。

想像しなくていい。

目の前に全部ある。

歌い始める。

透明感のある声。

これまでより力を抜いて。

誰かに故郷の景色を見せるように。

間奏。

ゆりえの語り。

富山湾からやってきた声が。

鳥海山へ届く。

そして再び柚葉。

二つの故郷が。

一曲の中で本当につながる。

歌が終わる。

拍手。

親戚二十九人の拍手は、普通にうるさかった。

柚葉が笑う。

「東京に出るまでは、これが普通の景色だと思ってました」

鳥海山を見る。

「でも離れてみて」

「海があって、山があって、田んぼがあって、工場があって」

「いろんなものが近くにあるこの町で育ったことが、今の私につながってるのかもしれません」

ノムさん。

「尖った大胆さも!」

柚葉。

「それはもういいです」

同級生たち。

「いや、それが一番変わってない!」

大爆笑。

帰り。

ロケ車。

ノムさんはシートに沈んでいた。

ゆりえ。

「社長」

「何じゃ……」

「元気ないちゃ」

「疲れた」

柚葉。

「何が一番大変でした?」

「親戚」

即答。

「二十九人に一人ずつ話しかけられてみい」

ゆりえ。

「人気者やったちゃ」

「幼稚園児から曾祖母まで全方位じゃ!」

柚葉が何気なく言った。

「でも今日は全員じゃないですよ」

ノムさんの目が開く。

「……何?」

「都合悪くて来られなかった親戚も結構いるので」

沈黙。

「何人くらい?」

柚葉。

「分かりません」

ノムさんが天井を見た。

「もう数えるな」

ゆりえ大爆笑。

車窓の向こう。

日本海。

田園。

工場。

そして鳥海山が遠ざかっていく。

白波小町の『日本海、ふたり旅』。

ランキングでは、相変わらず富山湾の深海を潜航中。

けれど。

富山で。

秋田で。

二人は一週間の順位では測れないものを手に入れていた。

自分たちがどこから来たのか。

何のためにこの歌を歌うのか。

そしてノムさんは。

歌のこころと同時に。

もう一つ重要な教訓を得た。

阿部家へ行く時は、親戚の人数を先に聞いておく。

もっとも。

聞いたところで。

たぶん、どうにもならないのだが。

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