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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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1241/1262

白波小町、熱湯で船出!?――演歌デビューの宣伝なのに、なぜノムさんまで水着なのか

歌手という仕事は、歌を歌えばいい。


少なくとも氷見ゆりえと阿部柚葉は、そう思っていた。


歌を練習する。


レコーディングする。


CDを出す。


テレビやラジオで宣伝する。


それが歌手というものだろう。


誰も、


「発売前に熱湯へ入る」


とは教えてくれなかった。


もっとも。


この二人の場合。


以前にも一度、入っている。


そして、その時に一緒だったブラックキャブプロダクション社長・野村吉彦、通称ノムさんも。


今回、何一つ学習していなかった。


すべての始まりは、『日本海、ふたり旅』のジャケット完成だった。


富山湾の爆乳マーメイド・氷見ゆりえ。


鳥海の雪月花・阿部柚葉。


グラビアと戦隊ヒロインとして活動するときは、


日本海ダブル・ヴィーナス。


演歌歌手として活動するときは、


白波小町。


ノムさんが半ば勢いで付けた名前だったが、これが思いのほかサマになった。


完成したジャケット写真を見たブラックキャブのスタッフが、しばらく黙ったほどである。


「……いいですね」


「でしょ?」


「思ってたよりずっといい」


「“思ってたより”は余計じゃ!」


ノムさんだけが最初から自信満々だった。


ゆりえは深い青を基調とした着物。


銀色の波模様が入り、富山湾の冬の海を思わせる。


小柄。


童顔。


愛くるしい顔立ち。


そこへ華やかな体形を生かした着付けが加わり、かわいらしさと艶やかさが同居する。


柚葉は白から淡い藍へ流れる着物。


雪化粧した鳥海山のような静かな色合い。


長身。


透き通るような白い肌。


長い黒髪。


正統派そのものの秋田美人。


しかしスタイルは規格外。


二人ともグラビアタレントとして、どう立てば自分が一番美しく見えるかを知り尽くしている。


ノムさんは出来上がった大型ポスターを両手で持ち上げた。


「見てみい!」


スタッフ。


「見てます」


「この華!」


「ありますね」


「この存在感!」


「あります」


「演歌界、ひっくり返るぞ!」


「そこまでは分かりません」


「紅白じゃ!」


「始まった」


ノムさんは誰にも相談せず、ブラックキャブ事務所の一番目立つ壁へポスターを貼った。


玄関を入った真正面。


所属タレントも、来客も、宅配便の配達員も、嫌でも白波小町を見る配置だった。


「ここまでしなくてもいいんじゃないですか?」


という社員の声に、


「売りたいもんは一番目立つところに置く! 商売の基本じゃ!」


と答える。


珍しく理屈が通っていた。


だが、ポスターの出来がどれほど良くても、それだけでCDは売れない。


レコード会社の担当者が冷静に言った。


「では、店回り行きましょう」


柚葉。


「店回り?」


ゆりえ。


「何するが?」


「レコード店へご挨拶して、ポスター貼っていただいて、商品をお願いするんです」


二人は一瞬顔を見合わせた。


いざ始まったのは、想像していた“歌手デビュー”とはかなり違う仕事だった。


三十代半ばの男性マネージャー。


大手レコード会社の担当者。


そして白波小町。


四人で何十枚ものポスターを抱え、レコード店を一軒一軒回る。


大型店。


駅前店。


昔ながらの町のレコード店。


演歌コーナーに力を入れている店。


入店。


頭を下げる。


「白波小町です。よろしくお願いします」


サインする。


ポスターを渡す。


店員と写真を撮る。


次の店。


また頭を下げる。


「『日本海、ふたり旅』、よろしくお願いします」


移動。


また次。


柚葉が駅のホームでぽつりと言った。


「なんだか……」


マネージャー。


「なんです?」


「すごく新人歌手らしいですね」


「新人歌手ですから」


「そうでした」


ゆりえはポスターの筒を抱えながら言う。


「グラビアやと、ここまで一軒一軒回らんかったちゃ」


レコード会社担当者が笑う。


「演歌は特にこういうご挨拶、大事なんですよ」


ゆりえ。


「なんか売れない演歌歌手みたいやちゃ」


マネージャー。


「歌手としてはまだ一枚も売れてません」


「正論が痛いちゃ!」


柚葉は一度納得すると真面目だった。


「では、次もちゃんとご挨拶しましょう」


「さすが柚葉ちゃん」


「売れないなら、なおさらです」


「そこまで言わんでええちゃ!」


華やかなジャケット写真。


その裏で、本人たちはポスターを抱えて駅の階段を上り下りする。


それが芸能界だった。


テレビにも出た。


ラジオにも出た。


アイドル番組にも出演した。


当然、毎回聞かれる。


「どうして演歌なんですか?」


柚葉。


「私も最初はそう思いました」


ゆりえ。


「社長が酔っぱらって言い出したちゃ」


ノムさん。


「そこまで説明せんでええ!」


ある番組では司会者から、


「でも曲、ちゃんとしてますよね」


と言われた。


柚葉は胸を張った。


「浪花川先生と阿久津先生に作っていただきましたし、藤原詩織ちゃんにもかなり歌唱指導してもらいました」


ゆりえ。


「うちは歌うと危ないから語り中心なが」


司会者。


「自分で言っちゃうんですね」


「事実やちゃ」


その正直さも受けた。


そして。


最大の宣伝舞台がやってきた。


日曜午後。


人気生放送バラエティー番組、


『ハイパージョッキー』。


総合司会は、


世界のキタノ。


映画監督として世界的な評価を受けながら、テレビへ戻れば容赦のない毒舌を吐く芸人。


ノムさんとは若い頃から芸能界で顔を合わせてきた旧知の仲だった。


二人が初めて白波小町としてスタジオへ入る。


ただし。


この番組には以前、三人で出演したことがある。


写真集の宣伝だった。


その時も。


熱湯に入った。


だから、名物コーナー、


「熱湯PRタイム」


のセットを見た瞬間。


ゆりえが立ち止まった。


「……またあるちゃ」


柚葉も苦笑する。


「やっぱりですね」


ノムさんだけが妙に強気。


「今回は歌じゃ! 前と違うぞ!」


柚葉。


「熱湯に歌も写真集も関係ないと思います」


「気持ちの問題じゃ!」


そして司会席。


キタノ軍団古参の、


ブーゲンビル・タカ。


三人を見るなり笑った。


「あれ?」


ゆりえ。


「お久しぶりです」


柚葉。


「またお世話になります」


タカ。


「また来たの?」


スタジオ笑い。


ノムさん。


「言い方あるじゃろ!」


タカは三人を順番に見る。


「前も三人でしたよね」


柚葉。


「はい」


「前は写真集でしたっけ?」


ゆりえ。


「そうやちゃ」


「今度は?」


柚葉はきちんとカメラへ向き直った。


「私たち日本海ダブル・ヴィーナスは、このたび歌手デビューすることになりました」


「歌手?」


「はい。歌手としてのユニット名は『白波小町』です」


ゆりえ。


「『日本海、ふたり旅』いう、富山湾と鳥海山を歌った曲ちゃ」


タカは一度頷いた。


そしてノムさんを見る。


「……またノムさんが何か始めたんですか?」


ノムさん。


「“また”いうな!」


タカ。


「前は写真集で熱湯入って、今度は演歌ですか」


ノムさん。


「芸能人いうんは成長するんじゃ!」


世界のキタノが離れた席から割り込む。


「お前だけ仕事の内容変わってねえじゃねえか」


大爆笑。


ノムさん。


「ワシは社長じゃ!」


キタノ。


「前も熱湯入ってた社長だろ」


タカ。


「前回の反省点あります?」


ノムさん。


「もう入りとうない」


「分かりました」


「分かってくれたか」


「今回も頑張ってください」


「何を聞いとったんじゃ!」


キタノはニヤニヤしている。


「ノムさん、こいつら若いんだからいいけど、お前もう熱湯で身体ほぐす年齢じゃねえだろ」


ノムさん。


「温泉みたいに言うな!」


「腰にいいぞ」


「熱湯は腰に悪いわ!」


旧知の仲だけに、完全に遠慮がなかった。


タカが例のルーレットを披露する。


柚葉。


ゆりえ。


柚葉+ゆりえ。


柚葉+ゆりえ+ノムさん。


キタノ軍団。


オーストリッチ倶楽部。


殿。


ノムさんの顔色が変わる。


「ちょい待ちぃや!」


タカ。


「何です?」


「何でまたワシの名前入っとるんじゃ!」


「前回評判良かったので」


「誰にじゃ!」


キタノ。


「スタッフ」


ノムさん。


「身内じゃないか!」


オーストリッチ倶楽部の三人も横から口を挟む。


リーダー格。


「ノムさん、前回結構いいリアクションしてましたよ」


ノムさん。


「芸能事務所の社長にリアクション求めるな!」


小柄な男。


「でも今回、歌手デビューなんですよね?」


「そうじゃ!」


恰幅のいい男。


「じゃあ歌いながら入りましょうよ」


「できるか!」


タカは平然と言った。


「ルーレットは全自動制御です」


ノムさん。


「前も聞いたぞ、その言葉!」


「ですから公平です」


「前回もワシのところ止まったやろ!」


「偶然です」


世界のキタノ。


「機械も年寄りが好きなんだろ」


「誰が年寄りじゃ!」


ストップボタンを任されたのは柚葉。


ノムさんが近づく。


「柚葉ちゃん」


「はい」


「分かっとるな?」


「何がです?」


「ワシのおらんところで止めるんじゃ」


タカ。


「全自動なので本人には選べません」


柚葉。


「だそうです」


ノムさん。


「お前ら絶対グルじゃろ!」


柚葉がボタンを押す。


ルーレットが回る。


柚葉。


ゆりえ。


軍団。


殿。


オーストリッチ倶楽部。


柚葉+ゆりえ。


そして。


ぴたり。


柚葉+ゆりえ+ノムさん。


スタジオ大歓声。


ノムさん。


「二回目じゃぞ!」


タカ。


「ものすごい偶然ですね」


「白々しい!」


キタノ。


「機械がお前の芸能人生分かってんだよ」


「どういう意味じゃ!」


「若い女二人を売るために自分も身体張れってことだ」


ノムさん。


「ええ話みたいに言うな!」


いよいよ着替え。


ゆりえと柚葉は着物。


これが最大の難関だった。


前回はもっと脱ぎ着しやすい衣装だった。


今回は帯。


帯締め。


腰紐。


伊達締め。


重ねた生地。


出演前、衣装スタッフから、


「本当にこれで熱湯コーナー出るんですか?」


と聞かれたくらいである。


タカ。


「制限時間、スタート!」


大きなタオルと衝立が二人を囲む。


女性スタッフが一斉に飛び込む。


「帯から!」


「紐外します!」


柚葉。


「これ絶対時間足りません!」


ゆりえ。


「誰や着物で出よう言うたん!」


スタッフ。


「演歌歌手だからです!」


「その演歌歌手が今から水着になるんやちゃ!」


カウントダウン。


三十秒。


二十五秒。


二十秒。


世界のキタノ。


「新曲より着替えの方が練習必要だったんじゃねえか?」


タカ。


「残り十五秒!」


観客が一斉に声を上げる。


そのころ。


隼人補佐官の自宅マンション。


日曜午後。


隼人と芹沢遥室長が並んでテレビを見ていた。


ほとんど半同棲状態。


遥はコーヒー。


隼人はテレビへ完全に前のめり。


「あと十五秒!」


遥が横目で見る。


「何で隼人まで数えとるのら」


「いや、これ間に合うか?」


「知らないのら」


「着物は厳しいぞ」


「そんな分析いらないのら」


テレビ。


残り十秒。


隼人。


「頑張れ!」


遥。


「何を応援してるのら」


「放送事故を防ぐ戦いだ!」


「絶対違う意味で見てるのら」


「違わない!」


「目が楽しそうなのら」


「…………」


遥。


「図星なのら」


スタジオ。


五秒。


四。


三。


二。


女性スタッフが最後のタオルを投げる。


二人が水着姿で飛び出す。


ゼロ。


間一髪。


大歓声。


隼人。


「おおお! 間に合った!」


遥。


「くだらないのら」


「いや、これはすごいぞ!」


「何がなのら」


「連携が」


「絶対そこに感動してないのら!」


そしてノムさんも水着姿で現れる。


タカが思わず感心した。


「ノムさん、相変わらず年齢の割には仕上がってますね」


ノムさん。


「“年齢の割に”はいらん!」


昔、大部屋俳優として毎日殺陣をこなし、今でも身体を動かしている。


腹も極端には出ていない。


年齢を考えれば十分にサマになっていた。


世界のキタノ。


「身体はちゃんとしてるのに、やってる企画が全部昭和なんだよ」


爆笑。


ノムさん。


「昭和を悪く言うな!」


キタノ。


「お前の場合、昭和から更新してねえだけだ」


「うるさい!」


タカ。


「でもノムさん、前回より慣れてません?」


「慣れとうない!」


そこへキタノ軍団。


ラッシャー板場。


井手びっくり。


グレート三味線。


三人とも、前回のノムさんの反応を覚えている。


ラッシャー板場。


「ノムさん、また会いましたね」


ノムさん。


「嫌な場所で再会するのう!」


井手びっくり。


「今日は演歌なんですよね?」


「そうじゃ」


グレート三味線。


「紅白狙ってるって聞きましたよ」


ノムさん。


「誰から聞いた!」


タカ。


「ノムさんが至るところで言ってます」


キタノ。


「自分で漏らした情報に驚くなよ」


軍団が熱湯槽を囲む。


ノムさんは警戒して後退。


「お前ら前回みたいなことすんなよ」


ラッシャー板場。


「何もしませんよ」


「その顔で言われても信用できん!」


井手びっくり。


「社長ですから自分から入りますよね?」


「もちろんじゃ!」


グレート三味線。


「どうぞ」


「……ちょっと待て」


オーストリッチ倶楽部も寄ってくる。


「どうぞどうぞ」


「その流れやめろ!」


「どうぞどうぞ!」


「ワシに振るな!」


スタジオ爆笑。


タカ。


「ではスタート!」


ゆりえ。


「熱いちゃあああ!」


柚葉。


「これは……本当に熱いです!」


普段冷静な柚葉の顔まで崩れる。


色白の二人は、肩や腕がみるみる赤くなる。


それでも頑張る。


ノムさんは片足だけ入れて、


「熱っ!」


と飛び出した。


タカ。


「まだ三秒です」


「三秒で十分じゃ!」


ラッシャー板場。


「ノムさん、紅白行くんですよね?」


「そうじゃ!」


井手びっくり。


「レコ大も?」


「獲る!」


グレート三味線。


「世界進出?」


「する!」


三人。


「じゃあ入ってください」


「全部熱湯と関係ない!」


軍団が囲む。


ノムさん逃げる。


ラッシャー板場が右。


井手びっくりが左。


グレート三味線が後ろ。


ノムさん。


「おい! 待て! 話し合おう!」


キタノ。


「芸能界半世紀いて、今さら話し合いで済むと思ってんのか」


「お前が言うな!」


ついに捕まる。


「やめろ!」


ざぶん。


「熱っっっっっ!」


スタジオ大爆笑。


ノムさんが飛び出す。


軍団がまた捕まえる。


「もうええじゃろ!」


ラッシャー板場。


「あと十秒!」


「誰のためじゃ!」


ゆりえ。


「うちらのCDやちゃ!」


ノムさん。


「そうじゃった!」


急に覚悟を決める。


再び熱湯。


キタノ。


「そこだけ社長らしくなるんじゃねえよ」


ノムさん。


「所属タレントのためじゃ!」


タカ。


「あと五秒!」


三人で耐える。


終了。


笛。


タカが叫ぶ。


「PRタイム三十秒獲得!」


ゆりえと柚葉。


「やった!」


ノムさん。


「見たか!」


さっきまでの大騒ぎが嘘のように、三人がカメラの前へ並ぶ。


柚葉は息を整えながらも、きちんと微笑む。


「私たち白波小町のデビュー曲――」


ゆりえがCDを掲げる。


「『日本海、ふたり旅』が発売されるちゃ!」


柚葉。


「富山湾と鳥海山、二つの故郷を日本海で結んだ曲です」


ゆりえ。


「私たち二人、一生懸命頑張りました。ぜひ聴いてください!」


ノムさん。


「白波小町、よろしくお願いします! 紅白行くぞ! レコ大じゃ!」


キタノ。


「社長が一番しゃべってんじゃねえか」


ブザー。


三十秒終了。


隼人のマンション。


隼人は腹を抱えている。


「ははははは! ノムさん最高だ!」


遥は非常に冷たい。


「何が最高なのら」


「途中から完全に自分の番組になってたぞ」


「それが駄目なのら」


「でも三十秒取った」


「普通にCM流した方が早いのら」


「この番組の存在意義を否定するなよ」


遥はテレビを指差した。


「だいたい戦隊ヒロインが演歌を宣伝するために水着で熱湯に入る意味が分からないのら」


隼人。


「宣伝できたじゃないか」


「過程がおかしいのら!」


「でも二人とも頑張ってたぞ」


遥は黙る。


テレビ画面。


真っ赤になりながら、笑顔でCDを持つゆりえと柚葉。


遥の表情がほんの少し柔らかくなった。


「……二人はよく頑張ったのら」


隼人。


「ノムさんは?」


「知らないのら」


「即答かよ!」


番組終了後。


ブラックキャブプロダクション。


ノムさんはまだ少し肩を赤くしたまま帰ってきた。


古参スタッフが視聴率速報を確認している。


「社長」


「どうじゃ!」


「熱湯PRタイム、数字跳ねました」


ノムさん。


「見たか!」


「特に社長が軍団に押し込まれたところ」


「そこか!」


「そこです」


「白波小町の歌のところは?」


スタッフは数字を見る。


「普通です」


ノムさん。


「何でじゃ!」


ゆりえ。


「社長の悲鳴の方が受けたんやちゃ」


柚葉。


「少なくとも名前は覚えてもらえたと思います」


ノムさんは数秒考えた。


「……ほんなら成功じゃ!」


切り替えだけは早い。


古参スタッフが嫌な予感を覚える。


ノムさんがホワイトボードの前へ立った。


赤いマーカーを持つ。


『白波小町 全国新曲キャンペーン』


スタッフ。


「やっぱり来た」


ノムさん。


「CD発売じゃ!」


「はい」


「ここからは足で売るぞ!」


「はい」


「東京!」


「はい」


「大阪!」


「はい」


「富山!」


「地元ですからね」


「秋田!」


「こちらも当然ですね」


「名古屋!」


「まあ分かります」


「広島!」


「社長の地元ですね」


「福岡!」


「……増えてきましたね」


「北海道!」


スタッフ。


「ちょっと待ってください」


ノムさん。


「何じゃ?」


「何日で回る気です?」


「できるだけ早う!」


「嫌な答えですね」


マネージャーが工程表を見ながら、もう頭を抱えている。


ゆりえ。


「またドサ回りなが?」


ノムさん。


「当たり前じゃ!」


柚葉。


「歌手としては新人ですからね」


「その通り!」


ノムさんが胸を張る。


「演歌はな、最後は足じゃ! 一枚一枚売る!」


そこだけは、妙に説得力があった。


ゆりえと柚葉は顔を見合わせる。


熱湯まで入った。


レコード店へも頭を下げた。


テレビにも出た。


ラジオにも出た。


ここまで来たら。


やるしかない。


柚葉。


「分かりました」


ゆりえ。


「やるちゃ」


ノムさん。


「よし!」


そして、さらに赤字。


『目標・全国制覇!』


スタッフ。


「その一行は消しましょう」


「何でじゃ!」


「また話が大きくなるからです」


古参スタッフは知っていた。


こうしてノムさんが絶好調になった時。


大抵。


次はもっと大変になる。


歌手ユニット・白波小町。


デビュー曲、


『日本海、ふたり旅』


発売目前。


華やかなジャケット。


熱湯で獲得した三十秒。


そして待っているのは、新人演歌歌手の王道。


レコード店。


商業施設。


ラジオ局。


地方テレビ。


握手。


サイン。


移動。


また移動。


次なる舞台は――。


全国新曲キャンペーン。


日本海ダブル・ヴィーナス改め白波小町。


本当のドサ回りは、これから始まるのだった。

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