↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1228/1270

堺でサクッと全員集合!――クラッカー戦士六人衆、昭和の生CMまで復活する

大阪府堺市。


大阪市の南に広がるこの街には、独特の空気がある。


街を走る緑色の電車。


古い商店街。


昔ながらの店構え。


その一方で、臨海部へ目を向ければ大規模な工場が並び、住宅地には新しいマンションも増えている。


商いの街。


ものづくりの街。


住宅都市。


そして、人情の街。


古くから商人や職人が行き交い、大阪が「天下の台所」と呼ばれた時代の商都文化にもつながる土地柄を持つ。


新しいものを取り入れるのが早い。


けれど、昔からの付き合いも大事にする。


値段にはうるさい。


しかし安ければ何でもいいわけではない。


相手の顔を見て、信用を見て、長く付き合えるかどうかを見る。


そんな堺の空気の中で百年以上、菓子を作り続けてきた会社がM田製菓だった。


決して巨大企業ではない。


派手な高級菓子を作る会社でもない。


それでも、子どもが小遣いで買える。


家族で気軽に食べられる。


何年ぶりかに食べても、


「ああ、この味や」


と思える。


そんな商品を地道に作り続けてきた。


その代表商品が「あたりM田のクラッカー」である。


戦後の食糧事情が厳しかった時代にも、できるだけ手頃な価格で、少しでも腹の足しになり、栄養になる食品を作りたいという思いを大事にしてきた。


安くする。


しかし雑には作らない。


長く売る。


だから信用を落とさない。


それがM田製菓だった。


そんな会社が、戦隊ヒロインプロジェクトとまさかの正式提携を結び、クラッカー戦士まで生み出した。


最初は、赤嶺美月をモデルにした「クラッカー戦士ミツキン」。


続いて、谷口佳乃の「ヨシノン」。


坂井まどかの「マドカン」。


さらに紀伊半島へ進出し、山本あかりの「アカリン」、白浜麻衣の「マイヤン」、春日美咲の「ミサッキー」。


とうとう六人になった。


そこでM田製菓の営業部長・萬田義一が言った。


「ここまで増えたんやったら、いっぺん全員、堺に集めたらええんちゃいます?」


この男。


営業一筋三十年以上。


堺生まれ堺育ち。


話し始めたら止まらない。


人の話も聞くが、その三倍くらい自分も喋る。


商談は早い。


決断も早い。


ただし、自分の会社の商品についてだけは冗談半分では済ませない。


そんな萬田の提案によって開催されることになったのが、


『あたりM田のクラッカー presents クラッカー戦士大集合! in 堺』


だった。


イベント当日。


会場入口には、六人の等身大パネルがずらりと並んだ。


中央にはミツキン。


そろばんを持ったヨシノン。


コテを構えたマドカン。


四日市から飛び出してきそうなアカリン。


軽やかに舞うマイヤン。


静かに微笑むミサッキー。


来場した子どもたちが、


「ミツキンや!」


「マドカンかわいい!」


「マイヤンおる!」


と歓声を上げる。


その横で美月は、腕を組んで満足そうだった。


「見てみ。ミツキン、やっぱり人気あるやろ」


まどかが言う。


「自分のことみたいに言うな」


「自分や!」


佳乃もヨシノンの前に立っていた。


そろばんを持った小さなヨシノン。


その横で、本人が妙に真面目な顔をしている。


美月が聞く。


「けちのん、何してんの?」


「そろばんの珠の数、確認してます」


「まだ確認すんのかい!」


「正確さは大事ですわ!」


一方、あかりは自分のアカリンとツーショットを撮りまくっていた。


「ええやん! めっちゃ四日市感あるに!」


麻衣はマイヤンの前で、小さな子どもから手を振られて、嬉しそうに手を振り返している。


美咲はミサッキーの前で、


「……こういうところで見ると、少し恥ずかしいですね」


と照れていた。


そこへ森下千尋がやってくる。


明るく柔らかい大阪のお姉さんといった雰囲気の、M田製菓の若手広報担当。


「みんな、もう準備できた?」


美月。


「できてるで!」


千尋は、美月の手元を見る。


「そのクラッカー、何袋目?」


「……二袋目」


「イベント始まる前に食べすぎたらあかんで」


「試食や」


「出演者がそんな試食せんでええねん」


美月は黙って袋を閉じた。


今や千尋は、美月を止める技術だけならヒロ室屈指だった。


会場内では、クラッカーの試食も行われていた。


ミツキン版。


ヨシノン版。


マドカン版。


アカリン版。


マイヤン版。


ミサッキー版。


パッケージは六種類。


美月が試食台を眺める。


「なあ」


千尋。


「何?」


「こんだけ並んどったら、味も六種類ありそうに見えるな」


「全部一緒やで」


「分かっとるけど!」


その横では萬田部長が、試食コーナーの看板案を持っていた。


そこには大きく、


『六人のクラッカー戦士 食べ比べ!』


千尋が気づく。


「部長」


「何や?」


「全部同じ味ですよ」


萬田。


「…………」


千尋。


「食べ比べになりません」


萬田は数秒考えた。


そしてペンを取り、


「食べ比べ」


の文字を二重線で消した。


代わりに、


『六人のクラッカー戦士 見比べ!』


千尋。


「それなら大丈夫です」


萬田。


「商売は臨機応変や!」


美月。


「ただ看板書き直しただけやん!」


やがてステージイベントが始まる。


MCを務めるのは、三好さつき。


学生キャスターとしても活動する彼女は、こうした場では驚くほど落ち着いていた。


姿勢もいい。


笑顔も上品。


声もよく通る。


「皆さま、本日はお越しいただき、ありがとうございます」


会場が静まる。


「今日は、堺の老舗・M田製菓と戦隊ヒロインプロジェクトから生まれた六人のクラッカー戦士が、初めて一堂に集まりました」


拍手。


壇上には、美月、佳乃、まどか、あかり、麻衣、美咲。


六人が並ぶ。


美月が小声で言う。


「さつき、こういう時めっちゃちゃんとしとんな」


まどか。


「普段からちゃんとしとるわ」


美月。


「いや、普段はもっと抜けとるやろ」


さつきは笑顔のまま振り返った。


「美月さん」


「何?」


「全部マイクに入ってます」


会場爆笑。


美月。


「もう始まっとったんか!」


「とっくに始まっています」


さつきは何事もなかったように進行する。


まず美月。


「ミツキンが誕生した時、最初はかなり驚かれたそうですね」


「驚いたなんてもんちゃうで。勝手にウチそっくりのキャラ作られて、『何してくれとんねん!』思うたもん」


「今は?」


美月。


「まあ……」


さつきの視線が美月のバッグへ移る。


ミツキンのキーホルダーが揺れている。


客席から笑い。


美月。


「何でそこ映すねん!」


さつき。


「かなり気に入っていらっしゃるようですね」


「……かわいいもんはかわいいねん!」


次に佳乃。


「ヨシノンは、佳乃さんの故郷・堺で生まれた商品に登場しました」


佳乃は少し照れた。


「ほんま不思議ですわ。子どもの頃から実家の近所で普通に見とった商品ですから。まさか自分がそろばん持って載るとは」


さつき。


「そろばんはお気に入りですか?」


佳乃。


「そこは重要です」


即答。


美月。


「クラッカーよりそろばんの方が大事そうやん!」


「当たり前です!」


「当たり前なんかい!」


まどかには、マドカン。


「特徴はやはりコテですね」


「そうですね。実家がお好み焼き屋なんで」


さつき。


「コテ返しも得意?」


まどかは笑う。


「まあ、人並み以上には」


美月。


「マドカンのコテ返し、ほんま上手いで」


まどか。


「珍しく普通に褒めるやん」


美月。


「ウチも褒める時は褒めるわ!」


続いて、あかり。


「アカリンは四日市で人気が広がっているそうですね」


あかりは満面の笑顔。


「そうやに! 駅売店で見つけるたび写真撮っとる!」


美月。


「本人が一番喜んどるやん」


「そら嬉しいに!」


麻衣にはマイヤン。


小柄で童顔。


ダンスが得意。


そして紀伊ハンターのまとめ役。


さつきが聞く。


「小さなお子さんから、マイヤンと呼ばれることも増えたそうですね」


麻衣は本当に嬉しそうに笑う。


「はい。私は幼稚園教諭を目指しているので、小さい子が名前を覚えてくれていると、本当に嬉しいです」


客席から温かな拍手。


最後は美咲。


「ミサッキーは奈良で静かな人気ですね」


美咲。


「ありがたいです」


さつき。


「ただ、鹿にクラッカーを与えてしまう方もいらっしゃったとか」


美咲の表情が少し真面目になる。


「はい。ミサッキーのクラッカーは人間用ですので、鹿には鹿せんべいをお願いします」


美月。


「急に公益広告になったな」


美咲。


「大事なことです」


「はい」


美月も素直に引き下がった。


イベントは、和やかに進む。


そして中盤。


照明が変わった。


ステージへ昔ながらの時代劇風セットが登場する。


萬田部長が出てくる。


「ここからは、昔のM田製菓を知っとる皆さんには、ちょっと懐かしいもん見てもらいましょう!」


年配客がざわつく。


M田製菓が全国的に知られる大きなきっかけとなったのは、昭和の時代に人気を集めた時代劇コメディでの生CMだった。


そこに登場したのは、飄々とした二枚目。


独特の間。


喜劇では軽妙。


時代劇では粋。


現代劇では人情味があり、後年には、どこか頼りなさそうに見えながら、人の心を誰よりもよく見ているベテラン刑事役でも長くお茶の間に親しまれた。


昭和から平成にかけて、時代劇、喜劇、刑事ドラマを行き来しながら、長く国民に愛された名優である。


今回は、その名優を専門に演じるモノマネタレントが登場する。


舞台袖から歩いてくる。


姿勢。


目線。


眉の動き。


少し困ったような表情。


喋り出す前の間。


年配客が、すでに笑い始める。


「似てる!」


「懐かしい!」


若いヒロインたちは、


「……?」


だった。


そして悪役側として登場するのが、ブラックキャッププロダクション社長のノムさんこと野村吉彦。


現在は芸能事務所社長。


しかし若い頃は映画会社の大部屋俳優として、数え切れないほどの時代劇で斬られてきた。


美月が言う。


「ノムさん、ほんまに殺陣できるん?」


ノムさん。


「美月ちゃん、わしを何じゃ思うとる?」


「芸能事務所のおっちゃん」


「それ今の話じゃ!」


ノムさんが木刀を握る。


瞬間。


姿勢が変わった。


腰が落ちる。


足運びが変わる。


視線も鋭くなる。


あかり。


「ノムさん、急に格好ええに!」


麻衣。


「本当に経験者なんですね」


美咲。


「普段との差が……」


ノムさん。


「最後まで言わんでええ!」


寸劇開始。


ノムさん率いる悪党一味。


対するモノマネタレント。


刀が交わる。


ノムさんの殺陣だけ、妙に本格的。


斬られる。


「ぐわああああ!」


一回転。


派手に倒れる。


拍手。


そしてモノマネタレントが、あたりM田のクラッカーを取り出す。


あの昭和らしい独特の間。


観客が静まる。


そして一言。


「俺がこんなに強いのも、あたりM田のクラッカー!」


年配客が一斉に沸く。


「懐かしい!」


「これや!」


「昔見た!」


大拍手。


若いヒロインたちは完全に取り残されていた。


美月。


「……今の、そんな有名なん?」


まどか。


「うちも知らん」


麻衣。


「私も初めてです」


あかり。


「お客さん、めっちゃ喜んどるに!」


美咲。


「世代差がはっきり出ていますね」


寸劇が終わる。


舞台転換。


さつきが再び登場。


「ここからは、皆さんにもステージへ戻っていただきます」


すると先ほど斬られたはずのノムさんが、普通に歩いてくる。


さつきは上品に首をかしげる。


「野村社長」


「はい?」


「先ほど、かなり深く斬られていたように見えましたが」


ノムさん。


「役者いうのはな、斬られてからが仕事なんよ」


さつき。


「そういうものなんですか?」


「斬られて倒れて、次のカットでは着替えて、また別人になって斬られるんじゃけえ」


美月。


「何回死ぬねん!」


ノムさん。


「大部屋をなめちゃいけんよ!」


会場爆笑。


モノマネタレントもトークショーへ参加する。


ただし、最後までモノマネを崩さない。


最初は、時代劇コメディ時代の飄々とした調子だった。


ところが椅子へ座った途端、少し猫背になる。


表情が柔らかい。


声も少し穏やかになる。


若者へ説教するのではなく、相手の話をよく聞き、困った人を見ると放っておけない。


どこか冴えないように見えながら、実は誰よりも人情に厚い、長寿刑事ドラマのベテラン刑事を思わせる雰囲気へ変わった。


まず美月を見る。


「美月ちゃん」


「何や?」


「君ねぇ……あんまり周りに迷惑かけちゃいけませんよ」


「何で急に説教始まんねん!」


「でもね、君、悪い子じゃないんだよなあ」


美月。


「何やその全部分かっとるみたいな顔!」


年配客、大爆笑。


若い客は、


「なんか分からんけど似てるらしい」


という状態。


次に佳乃。


「佳乃さん」


「はい?」


「節約は大事ですよ。でもねぇ、みんなが疲れるほどやっちゃいけません」


佳乃。


「……耳が痛いですわ」


美月。


「そこは素直なんや!」


そしてノムさん。


「野村さん」


「何じゃ?」


「あなた、さっき斬られてましたよねぇ」


ノムさん。


「見とったじゃろ!」


また爆笑。


さつきは笑いながらも、ちゃんと進行を続ける。


「それではここで、クラッカー戦士のキャラクター制作を担当された、M田製菓の森下千尋さんにもご登壇いただきます」


千尋が登場。


拍手。


さつき。


「六人ものキャラクターを作るのは大変でしたか?」


千尋。


「楽しかったですよ。それぞれ全然違いますから」


「特に印象的だった方は?」


千尋は即座に美月を見る。


美月。


「何でウチ見るねん」


千尋。


「美月ちゃんは、放っといたら企画が宇宙まで行くから」


さつき。


「宇宙?」


「最初はクラッカー戦士の話やったんですよ。それが途中から巨大クラッカーとか、合体ロボとか、紀伊半島ロボとか」


美月。


「紀伊半島ロボ、まだ諦めてへんで!」


千尋。


「諦めて」


モノマネタレントが、ベテラン刑事風の顔で美月を見る。


「美月ちゃん……人生にはねぇ、諦めた方がいいこともあるんですよ」


美月。


「そっちまで乗ってくんな!」


さつきもとうとう笑ってしまう。


それでも、トークは次第に温かい話へ移る。


千尋は客席を見ながら言う。


「今日、会場に昔からM田製菓を知ってくださってる方と、ミツキンたちを見て初めて知った子どもさんが一緒にいてくれるんです。それが一番嬉しいですね」


年配の客がクラッカーを食べている。


その隣では孫らしい子どもがミツキンのパッケージを抱えている。


同じ商品。


違う入口。


それでも一緒に食べている。


さつきも穏やかに頷く。


「長く続く商品だからこそ、世代をつなぐことができるのかもしれませんね」


そしてイベントも終盤。


さつきが告げる。


「最後に、M田製菓営業部長・萬田義一さんから、ご挨拶をいただきます」


萬田が壇上へ上がる。


「皆さん、今日はよう来てくれはりました!」


拍手。


萬田は、まず客席を見る。


「今日一日クラッカー食べて、もう明日まで見たないいう人おる?」


美月が誰より早く手を挙げる。


「はい!」


萬田。


「スポンサー商品のイベントで出演者が手ぇ挙げんといて!」


美月。


「聞いたんそっちやん!」


会場爆笑。


萬田は笑った。


「まあ、こういうんが大阪ですわ」


そして、少しだけ声の調子を落とす。


「でもな、今日はちょっと真面目な話もさせてもらいます」


会場が静かになった。


「うちは、百年以上、堺でお菓子を作ってきました」


萬田は言う。


「大きな会社やありません。テレビで毎日CM流せるような会社でもありません」


「でも、景気のええ時も悪い時も、戦争が終わって食べるもんが足らんかった時も、できるだけ安うて、気軽に買えて、腹の足しになるもんを作ろう。そうやって先輩らは商売してきました」


「安いいうても、雑に作ったらあきません」


「一回食べて不味かったら、次は買うてもらえません」


「一回約束破ったら、取引先も次は付き合ってくれません」


萬田は少し笑う。


「商売ですから、儲けは大事です」


「『儲けんでもええ』言う商人がおったら、それは商人やのうて趣味人ですわ」


会場から笑いが起きる。


「でもな、こっちだけ儲かったらええいう話でもないんです」


「こっちだけ得する商売は、一回はできても二回目がありません」


「お客さんが喜ぶ」


「店も喜ぶ」


「作る側も続けられる」


「一緒に仕事する相手も、『またやろう』と思ってくれる」


「そこまで揃って、ようやく長い商売になる」


佳乃が静かに聞いている。


萬田は続ける。


「堺の商人いうたら、商魂たくましい言われます」


「そら、商機があったら行きます」


「売れる時に売ります」


美月が小声。


「それはよう分かった」


萬田。


「美月さん、聞こえてますで!」


会場笑い。


「でもな、売るいうても、信用まで売ったらあかんのです」


その言葉で少し空気が変わった。


「信用いうんは、今日一日で作れるもんちゃいます」


「一回一回、ちゃんと品物作る」


「ちゃんと届ける」


「ちゃんと金払う」


「約束守る」


「問題あったら逃げずに謝る」


「それを十年、五十年、百年やる」


「気がついたら、『あそこの会社やったら大丈夫やろ』いうてもらえる」


「それが一番強い看板ですわ」


千尋も、静かに頷く。


萬田はクラッカーの箱を手に取った。


「今回、戦隊ヒロインさんと一緒に仕事させてもろて、若い人にもM田製菓を知ってもらえました」


「子どもさんが、ミツキンかわいい、マイヤンかわいい言うて手に取ってくれる」


「その横で、おじいちゃんおばあちゃんが『昔食べたなあ』言うてくれる」


「同じ商品を三世代で食べてもらえる」


「菓子屋として、こんなありがたいことありません」


そして戦隊ヒロインたちを見る。


「せやから、うちも宣伝してもらうだけやありません」


「スポンサーとして、できる範囲で活動を応援する」


「地域限定商品なら、その地域にも少しでも人が来てくれるようにする」


「一緒にやる相手にも、ちゃんとええことがある形にする」


「それが商売やと思てます」


佳乃が、少し照れながら言う。


「うちが子どもの頃から知っとるM田製菓さんは、そういう会社ですわ」


萬田が笑う。


「佳乃さんに褒めてもろたら、経理監査通った気分ですわ!」


佳乃。


「まだ数字見てませんで」


萬田。


「ほな今の褒め言葉、仮承認ですかいな!」


会場爆笑。


萬田は、最後にもう一度真面目な表情になる。


「百年以上続くいうのは、昔のままでおることやないんです」


「変えたらあかんもんは変えへん」


「でも、新しいもんは取り入れる」


「クラッカーの味は守る」


「せやけど箱にはミツキンがおってもええ」


美月。


「そこだけ聞いたら、めっちゃええ話やな」


萬田。


「実際ええ話や!」


「大事なんは、次の世代にも『また食べよ』と思ってもらうことです」


そして満面の笑顔。


「ということで皆さん、帰りに最低三箱ずつ買うて帰ってください!」


千尋。


「部長! 最後に全部営業に戻さんといて!」


萬田。


「最後まで商人ですから!」


拍手と笑いが会場いっぱいに広がった。


さつきが、上品な笑顔でまとめる。


「利益だけでも、善意だけでも商売は長く続かない。信用を積み重ねて、関わる人みんなが『また一緒にやりたい』と思える形を作る。M田製菓が堺で百年以上続いてきた理由が、少し分かったような気がします」


萬田が小声で言う。


「さつきさん、うちの広報来ません?」


千尋。


「部長、人材まで仕入れようとせんといてください」


最後は全員集合。


ミツキン。


ヨシノン。


マドカン。


アカリン。


マイヤン。


ミサッキー。


千尋。


萬田。


モノマネタレント。


そして、斬られたはずのノムさん。


さつきが声をかける。


「それでは皆さん、行きます。せーの!」


全員。


「サクッと堺!」


シャッター。


イベントは大成功だった。


ところが帰り際。


控室へ台車が入ってくる。


段ボール。


大量。


美月は一歩後ずさった。


「……嫌な予感する」


萬田が満面の笑顔で現れる。


「出演者の皆さんへのお土産ですわ!」


箱を開ける。


クラッカー。


ミツキン。


ヨシノン。


マドカン。


アカリン。


マイヤン。


ミサッキー。


六種類。


全部同じ味。


美月。


「今日ずっとこれ紹介して、試食までしたんやぞ!」


萬田。


「ほな商品の良さ、よう分かってはりますやろ!」


「家帰ってまで確認いらんねん!」


佳乃は箱を持ち上げる。


「保存利きますさかい!」


「またそれか!」


ノムさんにも大箱が渡される。


ノムさんは箱を見つめた。


「萬田さん」


「はい?」


「わし、今日何枚食うたと思っとる?」


萬田。


「これは明日からの分です!」


「まだ食わすんかい!」


するとモノマネタレントが、最後まであの人情派ベテラン刑事の口調を崩さず、ノムさんの肩へそっと手を置く。


「野村さん……人生にはねぇ、どうしても逃げられないクラッカーっていうのがあるんですよ」


ノムさん。


「ないわ、そんな人生!」


会場スタッフまで大笑い。


最後にさつきが、完全にニュース番組の締めのような上品さで言う。


「以上、堺からお送りしました。あたりM田のクラッカーは、おいしく、そして適量でお楽しみください」


美月が叫ぶ。


「今日一番ためになること言うた!」


堺の街に笑い声が響いた。


百年以上続く味。


昭和から語り継がれる生CM。


令和に生まれたクラッカー戦士。


堺の商人。


若いヒロイン。


昔、銀幕で何度も斬られた男。


古いものと新しいものは、必ずしも喧嘩するわけではない。


昔から守ってきたものを芯にして、新しい世代と笑いながら次の商売を作っていく。


それが、この街らしいやり方なのかもしれない。


M田製菓と戦隊ヒロインプロジェクトの提携は、この日また少しだけ強くなった。


そしてヒロ室のクラッカー在庫も、また少しどころではなく増えた。


商売繁盛。


在庫も繁盛。


それもまた、堺らしい一日だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。