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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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1220/1262

女王陛下は協調性ゼロ!?――土屋凜花、ヒロ室東海で見つけた居場所と「らぶりんか王国」の繁栄

ヒロ室東海(仮称)。


これが正式名称である。


「仮称」まで含めて正式名称なのだから、初めて聞いた人が首をかしげるのも無理はない。名刺を見た取引先から「いつ正式名称になるんですか?」と尋ねられることもあるが、誰も答えを知らなかった。


もっとも、所属するヒロインたちは、そんなことを気にしていない。


組織を引っ張るのは、東大阪出身で目立ちたがり屋の赤嶺美月と、尾張弁の食レポで強烈な存在感を放つ山田真央。


「正式名称なんか、分かりやすかったらええねん!」


「仮称でも仕事ができりゃ問題ないがね!」


この二人がそう言い切ってしまうのだから、組織運営に関わる芹沢遥室長と小宮山琴音の苦労は絶えない。


そこへ、新たな実力者が加わった。


静岡県沼津市在住、土屋凜花。


かつて東京のダンスアイドルユニット「TOKYO RHYTHM DOLLS」で活躍し、現在はイベントコンパニオンとして活動する、華やかな長身美女である。


端正な顔立ちに、柔らかな笑顔。カメラを向けられれば自然に美しい角度を作り、ステージに上がれば観客の視線を集める。元アイドルとして培ったダンスとトークの実力も健在だった。


凜花の研修を担当した太田すみれコーチは、最初の実技を見た時点で腕を組んだ。


「……凜花ちゃんさ」


「はい?」


「私、何を教えたらいいの?」


凜花はきょとんとした。


「えっ?」


「立ち方も、歩き方も、話し方も、カメラへの見せ方も、全部できてるじゃん。教えることないよ」


「そんなことないですよぉ。まだまだ勉強させてください♡」


「いや、こっちが勉強したいくらいなんだけど」


そう言われても、凜花は少しも偉ぶらなかった。


むしろ「よろしくお願いします」と丁寧に頭を下げ、研修の細かな指摘にも真剣に耳を傾けた。


戦隊ヒロインとしては新人。


しかし、イベントの世界では十分な経験を積んだ実力者。


すみれコーチは、研修報告書にこう記した。


『基本技能については追加指導の必要性が極めて低い。実戦投入可能』


報告書を読んだ遥室長は満足そうだった。


「すごい人が来たのら」


しかし、隣にいた琴音の表情は少し複雑だった。


「……でも、室長。ちょっと気になることもあるずら」


「何なのら?」


琴音は、加入前に集めた資料を取り出した。


凜花と同じイベントコンパニオンとして活動する大宮麗奈、森川美里からの情報である。


そこには、技術面への高い評価とともに、協調性に欠けるところがある、周囲と衝突しがちだ、職場で孤立しているように見える、といった意見が記されていた。


遥室長は、腕を組んだ。


「……うちに、なじめるのら?」


琴音も首をかしげる。


「美月さんと真央さんだけでも、かなり賑やかだしねえ」


それは確かだった。


ヒロ室東海(仮称)は、腕の立つヒロインが多い。


同時に、個性も強い。


その中へ、完璧主義者で協調性に難があると評される凜花が入ってくる。


下手をすれば、毎日が衝突である。


遥室長は最悪の場合を想像した。


美月が怒鳴る。


真央が食レポで場を収めようとする。


凜花が仕事の完成度について譲らない。


琴音が報告書を書く。


自分が頭を抱える。


「……嫌な未来が見えたのら」


ところが。


実際には、その心配は拍子抜けするほど外れた。


凜花は、すっかりヒロ室東海(仮称)になじんでしまったのである。


ある日のイベント会場。


新人らしい元気のよさを見せる山本あかりだったが、観客への挨拶で少し勢い余っていた。


「皆さん、今日は来てくれてありがとうなー!」


元気はよい。


非常によい。


しかし、最後に勢いよく頭を下げたため、手に持っていた資料がばさりと落ちた。


「あっ! やってしもたに!」


あかりは慌てて拾い集める。


凜花は、笑いながら隣へしゃがんだ。


「大丈夫だよ、あかりちゃん。落ち着いて拾おうね♡」


「ごめんな、凜花さん。ウチ、またやらかしてしもたわ」


「ううん。最初の挨拶、すごく元気でよかったよ」


「ほんま?」


「うん。ただ、お辞儀する時は持っている物を少し意識すると、もっと綺麗に見えるかな」


凜花は、その場で見本を示した。


背筋。


腕の位置。


視線。


資料の持ち方。


すべてが自然だった。


「こんな感じ。あかりちゃんの元気さは、そのままでいいと思うよ♡」


あかりの目が輝いた。


「なるほどなぁ! これならウチでもできそうやに!」


「うん。次、一緒にやってみようね」


それを見ていたひかりは、感心したように微笑んだ。


「凜花さん、教え方が優しいねぇ」


凜花は少し照れる。


「あかりちゃん、すごくいいものを持ってるから。それをちゃんと見せられたら、もっと素敵になると思うんです♡」


凜花は相手の長所を消そうとしなかった。


むしろ、それを生かす方法を考えていた。


美月への接し方も同じだった。


「美月さん、さっきのステージ、すごかったですね♡」


「せやろ? ウチ、今日も絶好調やったわ!」


「観客の方を巻き込むタイミングが、本当に上手です。勉強になります」


「凜花さんにそう言われると照れるなぁ!」


美月は得意満面だった。


もちろん、凜花も目立つことが大好きである。


二人が同じステージに立てば、観客の視線を奪い合うこともある。


しかし、凜花は美月を単なる競争相手とは考えていなかった。


戦隊ヒロインプロジェクトの象徴的存在として、その実績と行動力を認めているのである。


そして美月も、凜花の実力を素直に評価していた。


「凜花さんおったら、イベントめっちゃ華やかになるで!」


「ありがとうございます♡」


「ただし、ウチより目立ちすぎたら困るけどな!」


「……それは、お互いさまですね♡」


「おっ、言うたな!」


二人は顔を見合わせて笑った。


真央は、その様子を眺めながら呟く。


「目立ちたがり屋が二人になったがね……」


遥室長にとっては、必ずしも朗報ではなかった。


しかし、組織の勢いが増したことは間違いなかった。


そして、凜花が戦隊ヒロインとしての真価を示したのは、寸又峡温泉での猟銃人質立てこもり事件だった。


銃を持ち、薬物依存の問題も抱えていた犯人。


一歩間違えれば、誰かが命を落としていたかもしれない。


その極限状況で、凜花は警察との調整のもと、動画配信「RINKA MODE」を使った交渉に協力した。


インタビュアーを務めたのは杉山ひかり。


凜花は、その隣でスマートフォンを構え続けた。


犯人が怒鳴る。


人質が怯える。


交渉が行き詰まる。


それでも、凜花は必要以上に動揺を表へ出さず、余計な言葉を挟むこともなく、ひかりと犯人の対話を伝え続けた。


事件は最後に解決した。


人質は全員救出。


負傷者はゼロ。


もちろん、県警の活動や関係者の協力があってこその結末である。それでも、凜花が長時間にわたる配信を担ったことは、多くの人々の記憶に残った。


事件後、すみれコーチは凜花へ言った。


「凜花ちゃん、あの時は本当にすごかったね」


凜花は首を横へ振る。


「私は、ただスマホを持っていただけですよぉ」


「その状況で、それができる人は多くないよ。怖かったでしょ?」


凜花は少しだけ表情を落とした。


「……怖くなかったって言ったら、嘘になります」


「だよね」


「でも、ひかりさんが一生懸命お話ししていたから。私も、自分の役目をちゃんと果たしたかったんです」


すみれは、静かに頷いた。


「うん。そういうところも含めて、凜花ちゃんは戦隊ヒロインにふさわしいと思うよ」


凜花は、照れくさそうに笑った。


「……ありがとうございます♡」


遥室長も、事件後の報告書を読みながら頷いた。


「華やかなだけじゃないのら。度胸もあるし、いざという時に頼れるのら」


琴音は、その言葉を書き留めた。


そして、ふと思った。


……加入前の評判と、だいぶ違うずらね。


そこで琴音は、ヒロ室東海(仮称)の面々に、凜花の印象を改めて尋ねることにした。


最初は美月。


「凜花さん? めっちゃ頼りになるで! 仕事もできるし、ウチのことも立ててくれるしな」


「欠点は?」


「目立ちたがり屋やな」


琴音がペンを動かす。


美月は慌てて付け加えた。


「あっ、でもそれ、ウチも人のこと言えへんわ!」


次は真央。


「凜花さん、気さくで話しやすいがね。写真の撮り方も上手いし、食べ物の見せ方も教えてくれるがね」


ひかり。


「すごく優しいよぉ。寸又峡でも、ずっと隣にいてくれたんだよ」


美音。


「現場で頼りになる人だに。準備も手ぇ抜かんし、見とると勉強になるら」


明日香。


「仕事の段取りが分かりやすいじゃんね。説明も具体的で助かるよ」


真白。


「ちゃんと理由を言うて教えてくれるで、納得しやすいんやわ」


あかり。


「凜花さん、ほんま面倒見ええに! ウチ、あの人に教えてもろうてから、お客さんへの挨拶もようなったんさ」


誰に聞いても、好意的な答えばかりだった。


琴音は、報告書を前にして腕を組んだ。


「……これは、どういうことずら」


加入前の情報では、協調性に欠けるとされていた。


ところが実際には、後輩の面倒を見て、仲間から信頼されている。


遥室長が、資料を覗き込む。


「何か分かったのら?」


「少なくとも、ここでは孤立しとらんね」


「むしろ、中心人物の一人なのら」


二人が首をかしげているところへ、すみれコーチがやってきた。


「凜花ちゃんのこと?」


「そうなのら」


すみれは、あっさり言った。


「仕事の基準が高いんだよね、あの子」


琴音が顔を上げる。


「基準?」


「自分にものすごく厳しいの。で、つい周りにも同じくらいの完成度を求めちゃうんだと思う」


すみれは続けた。


「本人に悪気はなくても、人によっては厳しく感じるでしょ? イベント現場だと、経験も技術もバラバラな人が一緒に働くことがあるし」


遥室長は頷いた。


「なるほどなのら」


「でも、うちのヒロインたちは、それぞれ得意分野があるじゃん。みんな、自分の武器を持ってる。凜花ちゃんも、それを分かってるんじゃないかな」


西川彩香を思わせるような、仕事への強いこだわり。


自分が高い水準の仕事をすることは当然で、周囲にも同じ水準を求めてしまう。


それが以前の職場では、軋轢につながったのかもしれない。


しかし、ヒロ室東海(仮称)では事情が違った。


美月には、人を惹きつける行動力がある。


ひかりには、人の話を聞き、相手の気持ちを受け止める力がある。


真央には、食と地域の魅力を伝える能力がある。


美音、明日香、真白、あかりにも、それぞれの専門性と持ち味がある。


凜花は、この場所で無理に自分の水準を下げる必要がなかった。


その代わり、仲間の得意分野から学ぶこともできた。


琴音が、最後に本人へ尋ねてみた。


「凜花さん、ヒロ室東海(仮称)はどう?」


凜花は、ほとんど迷わず答えた。


「すごく楽しいですよぉ♡」


「そうなんだ」


「皆さん、本当に魅力的なんです。私も負けていられないなって思いますし、もっと一緒に仕事をしたいです」


そして、少しだけ笑った。


「……居心地、いいんですよね」


琴音は、そっと頷いた。


その言葉で、十分だった。


ただし、凜花がすべての同業者と打ち解けたわけではない。


大宮麗奈。


森川美里。


この二人との関係は、依然として微妙だった。


特に麗奈は、凜花と同い年のイベントコンパニオンである。


都会的で洗練された、正統派の華やかさを持つ麗奈。


元アイドルとしての愛嬌と、計算された可愛らしさを備える凜花。


二人が同じイベントに立てば、観客の視線を集めることは間違いない。


しかし、二人は互いにほとんど目を合わせない。


ある日のイベント。


麗奈が美月へ尋ねた。


「美月ちゃん、今日の私のステージ、どうだった?」


「めっちゃよかったで!」


凜花も近づいてくる。


「美月さん、私の方はどうでした?♡」


「凜花さんもめっちゃよかった!」


麗奈。


「そう。ありがとう」


凜花。


「嬉しいです♡」


二人は、美月の左右に立った。


美月は嫌な予感がした。


「……なあ」


二人。


「?」


「何で毎回、ウチに感想聞くん?」


麗奈。


「美月ちゃんの意見、参考になるから」


凜花。


「私もです♡」


「ほな、二人で直接感想言い合ったらええやん!」


沈黙。


麗奈。


「…………」


凜花。


「…………」


美月。


「急に黙るな!」


少し離れたところで、森川美里が苦笑していた。


美月は、その姿を見つけて叫ぶ。


「美里さんも笑っとらんと助けてえな!」


美里。


「……私は遠慮しておくわ」


「何でやねん!」


こうして美月は、今日も同業者同士の微妙な距離感に振り回されていた。


遥室長と琴音は、その様子を少し離れたところから眺めていた。


「うちのヒロインたちって、大学サークルみたいに仲良しな子が多いのら」


琴音が頷く。


「そうだねえ」


「でも、ちょっとくらい競争相手がいるのも、悪くないのかもしれないのら」


「無理に仲良くさせるより、仕事でお互いの実力を認め合えりゃ、それでいいと思うずら」


二人は納得した。


ただし、美月の負担については、あまり考えていなかった。


「ウチの人権も考えてくれや!」


その叫び声が、会場に響いた。


ところで、土屋凜花にはもう一つ、強烈な顔がある。


動画配信者としての顔だ。


彼女のチャンネル「RINKA MODE」は、寸又峡の猟銃人質立てこもり事件を生配信したことで、登録者数が激増していた。


事件の際、凜花は長時間にわたり現場の様子を伝え続けた。


ひかりのインタビューを支え、視聴者から寄せられた情報が警察へ届けられるきっかけも作った。


その姿を見て、新たにファンになった人も多かった。


だが、以前から凜花を応援していた人々は、彼女を単なる配信者とは考えていなかった。


彼らには、独自の国家があった。


その名も、「らぶりんか王国」。


国土は存在しない。


首都も存在しない。


国境もない。


しかし、国民の忠誠心だけは極めて高かった。


国家元首は、土屋凜花。


通称、女王陛下。


国民は、りんか民。


政治体制は、りんか民の自己申告によれば絶対君主制。


もっとも、これはファン同士が楽しむ架空の王国ごっこであり、凜花が現実に誰かへ命令しているわけではない。


しかし、国民たちは妙に真剣だった。


ある日のRINKA MODE。


凜花が、新しいグッズの販売を告知した。


「みんなぁ、新しいアクリルスタンドができました♡」


コメント欄。


《陛下万歳》


《国家予算を確認します》


《今月の納税が確定》


《財布が軽い》


《心は満タン》


凜花は笑った。


「みんな、無理しないでね?」


《女王陛下の慈悲》


《国民生活を案じてくださった》


《感動したので二個買います》


「だから、無理しないでってばぁ!」


この王国には、りんか民有志によって制定された、たいへん厳格な国民憲章が存在した。


第一条。


『女王陛下の笑顔は国家の最重要資源とする。』


凜花が笑えば、国民は幸せになる。


凜花が手を振れば、国民は歓喜する。


凜花が配信を始めれば、国民は速やかに集合する。


ただし、仕事中の国民は仕事を優先してよい。後から視聴することも忠誠とみなされる。


第二条。


『女王陛下に関する消費活動を、国民の自主的な納税と呼称する。』


凜花のグッズ購入。


出演雑誌の購入。


イベント参加費。


遠征交通費。


すべて税金である。


税率は、新商品が登場するたびに実質的に上昇する。


ただし、納税は完全に任意とされ、家計を圧迫してはならない。


この例外規定を見た美月は、即座に突っ込んだ。


「何や、意外とまともやん!」


ところが、その下には小さな文字があった。


『なお、国民は新商品を見ると、本人の意思により納税意欲が著しく上昇する傾向にある。』


「結局、買うんかい!」


第三条。


『女王陛下が出演したメディアは、可能な限り視聴すること。』


テレビ。


ラジオ。


雑誌。


広告。


配信。


可能な範囲でチェックし、感想を広める。


ただし、違法な転載は禁止。


第四条。


『全国巡幸には、参加可能な国民が自発的に馳せ参じること。』


女王陛下が静岡でイベントを行えば、東海の国民が集まる。


東京へ出演すれば、関東の国民が集まる。


大阪へ遠征すれば、関西の国民が集まる。


全国を追いかける猛者もいる。


ただし、遠征交通費は各自負担。


王国は補填しない。


美月は、憲章を読んで呆れた。


「国民に厳しすぎるやろ!」


第五条。


『国民は、女王陛下の沼津愛を尊重し、可能な範囲で沼津の魅力を広めること。』


ここだけは、凜花自身が嬉しそうだった。


「そうなんです♡ みんなにも沼津へ来てほしいなぁ」


凜花は、生まれ育った故郷・沼津を心から愛していた。


駿河湾を望む港町。


千本松原の松林。


天気のよい日に見える富士山。


沼津港の魚市場と新鮮な海の幸。


少し足を延ばせば、内浦の穏やかな海も広がる。


東京でアイドル活動をしていた頃も、沼津へ帰るとほっとしたという。


「東京も好きですよ。でも、沼津の海を見ると、やっぱり落ち着くんです。あの景色は、私にとって特別なんですよぉ♡」


凜花は、地元を紹介する時だけ、いつもより少し柔らかな沼津訛りが強くなる。


「沼津港のお魚、おいしいんですよ。今度みんなで来てくれたら嬉しいなぁ」


すると、コメント欄が一斉に動いた。


《沼津巡幸希望》


《陛下の聖地》


《沼津港で海鮮丼食べたい》


《千本松原行きます》


《沼津経済振興に貢献》


美月が画面を覗き込む。


「……りんか民、沼津市の観光課みたいになっとるやん!」


凜花は満面の笑顔だった。


「嬉しいなぁ♡」


そして、国民憲章第六条。


『赤嶺美月出現時には、速やかに歓迎の儀式を行うこと。』


歓迎の言葉は、ただ一つ。


《うわっ出た!》


美月。


「それ、歓迎ちゃうやろ!」


ある夜、凜花が配信を始めた。


「りんか民のみんなぁ、ごきげんよう♡」


《陛下ごきげんよう》


《今日も可愛い》


《女王陛下万歳》


凜花は楽しそうに話していた。


その途中、美月が顔を出す。


「どうもー!」


コメント欄。


《うわっ出た!》


美月。


「出たって何や! ウチはお化けか!?」


《wwwww》


《草》


《定番の儀式》


《国際的ツッコミ担当》


凜花は、声を上げて笑った。


「美月さん、もう完全にお馴染みですね♡」


「お馴染みにすな!」


コメント欄は止まらなかった。


《みつき帝国との首脳会談》


《国交樹立》


《相互不可侵条約締結希望》


美月。


「勝手に外交すな!」


そして、国民憲章第七条。


『女王陛下の活動を楽しく応援し、国民自身も幸福であること。』


これが、らぶりんか王国の最高原則だった。


国民は、凜花の笑顔を見て幸せになる。


イベントへ参加して幸せになる。


グッズを買って幸せになる。


ただし、財布は軽くなる。


そこへ、美月が突っ込んだ。


「財布が軽くなって、どこが幸せやねん!」


コメント欄。


《心が満たされる》


《推し活は人生の潤い》


《陛下の笑顔はプライスレス》


《国民幸福度100%》


美月。


「ほんまに100%なんか?」


りんか民。


《国勢調査しました》


「どんな調査や?」


《質問:女王陛下を推して幸せですか?》


《回答:はい/もちろん》


美月。


「選択肢、二つとも同じやないか!」


凜花は、笑いすぎて涙を拭いていた。


「美月さん……もう、お腹痛いです……!」


《女王陛下が笑っている》


《国家安泰》


《本日の幸福度100%》


《世界で最も成功している権威主義国家》


もちろん、すべてファン同士の冗談である。


しかし、この王国には一つだけ確かなことがあった。


凜花とりんか民の関係は、極めて良好だった。


凜花はファンを大切にしている。


ファンも凜花を大切にしている。


互いに無理を強いず、冗談を楽しみながら応援を続けている。


それが、らぶりんか王国の本当の強さだった。


配信を終えた凜花は、椅子にもたれながら満足そうに微笑んだ。


「……今日も楽しかったなぁ♡」


隣の美月は、すっかり疲れ切っていた。


「ウチ、何で毎回こんな目に遭うんや……」


「また来てくださいね♡」


「考えとくわ!」


凜花は笑った。


美月も、結局は笑ってしまった。


こうして、土屋凜花はヒロ室東海(仮称)に、確かな居場所を築いた。


華やかな容姿。


完成された技術。


高い人気。


自分にも他人にも厳しい完璧主義。


いざという時に怯まない度胸。


後輩の面倒を見る優しさ。


そして、故郷・沼津への深い愛情。


すべてが、彼女という一人の戦隊ヒロインを形づくっている。


同業者との関係には、まだ課題が残っている。


麗奈や美里とは、これからも競い合う場面があるだろう。


しかし、それは必ずしも悪いことではない。


互いの実力を認め合うからこそ、生まれる緊張感もある。


すみれコーチは、最後にこう評した。


「凜花ちゃんは、もう完成された人に見えるけど、まだまだ面白くなると思うよ。うちに来てから、前より楽しそうだしね」


遥室長も頷いた。


「今後の活躍が楽しみなのら」


沼津の海が育んだ、華麗なる実力者。


元アイドルの経験を引っ提げ、戦隊ヒロインプロジェクトへ飛び込んだ超大物オールドルーキー。


その名は――


「沼津の煌めく女王」土屋凜花。


ヒロ室東海(仮称)で見つけた仲間と、忠誠心あふれるりんか民に支えられ、彼女の快進撃はまだまだ続く。


ちなみに、らぶりんか王国の最新国勢調査でも、国民幸福度は100%だった。


美月が尋ねる。


「……まだ、その数字使っとるん?」


凜花は、にっこり微笑んだ。


「だって、みんな幸せそうなんですもの♡」


美月。


「……まあ、それはそうやな」


珍しく、素直に認めた。


するとコメント欄。


《みつき帝国、王国への帰順を表明》


美月。


「してへんわ!」


凜花の笑い声が、配信画面いっぱいに広がった。


女王陛下は、今日もご満悦である。

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