奥大井の夜が凍る時――ヒロ室東海(仮称)、寸又峡猟銃立てこもり事件
静かな夜だった。
寸又峡の夜は、都会の夜とは違う。
車の音も、人のざわめきも、遠くの信号機の電子音もない。聞こえるのは、山の奥を流れる水の気配と、風に揺れる木々の音、それから古い温泉宿の廊下が時折きしむ音だけだった。
数時間前まで、そこには笑いがあった。
奥大井鐡道の貸切列車。
古い車両。
大井川の車窓。
アプト式鉄道。
奥大井湖上駅。
凜花の映える立ち姿。
たつを人気。
みのりとひかりの尊い沿線紹介。
美女の湯。
ディナートークショー。
そして、りんか民と美月のRINKA MODE上での小競り合い。
温泉宿の夜は、旅の疲れと満足感に包まれていた。
その空気を裂いたのが、乾いた一発だった。
パン。
短い。
しかし、山に反響して、妙に長く耳に残る音だった。
花火ではない。
車の音でもない。
鹿威しのような風流なものでもない。
波田顧問が最初に表情を変えた。
次に隼人補佐官が窓際へ動いた。
まさにゃんの手が、麻雀牌の上で止まった。
すみれコーチは、切ろうとしていた牌を握ったまま顔を上げた。
遥室長は廊下で足を止めた。
小宮山琴音は手帳を開くより早く、音の方向を探った。
「今の……何なのら」
遥室長の声は低かった。
隼人補佐官が廊下へ出る。
「花火ではありません」
それだけで、全員の空気が変わった。
先ほどまで「戦隊ヒロインプロジェクト最高戦略会議」と称して麻雀卓を囲んでいた大人たちは、一瞬でふざけた顔を消した。
牌の音が止まる。
笑い声が止まる。
宿の中に、不自然な静けさが落ちた。
やがて、宿の主人が青い顔でフロントへ走ってくる。
近くの旅館で、男が猟銃を持って立てこもったという。
人質がいる。
従業員と宿泊客。
人数はまだはっきりしない。
発砲音がした。
静岡県警に通報済み。
その報告が入った瞬間、波田顧問は麻雀卓の上を見た。
「終わりだ」
すみれコーチは、何も言わずに麻雀牌を箱へ戻した。
まさにゃんも異論を挟まなかった。
隼人補佐官が短く言う。
「緊急スタッフ会議に切り替えます」
遥室長が頷く。
「福鉄旅行の添乗員さんも呼ぶのら。参加者百二十名の安全確認が最優先なのら」
それまで慰安旅行ムードだった一行が、本来の顔へ戻っていく。
福鉄旅行の添乗員、宿側責任者、琴音、隼人、波田、遥、すみれ、まさにゃんが集まる。
琴音がパソコンを開く。
今度の議事録は、数行では終わらない。
隼人補佐官が淡々と確認する。
「ツアー参加者百二十名、全員を館内待機。部屋ごとに内線確認。廊下、ロビー、窓際への滞留は禁止。好奇心で外へ出ようとする方がいないよう、添乗員と宿の方で声かけをお願いします」
福鉄旅行の添乗員は、真っ青な顔で頷く。
「分かりました。参加者名簿を出します」
琴音がすぐに続ける。
「部屋割り表と照合します。安否確認の進捗は私が記録します」
遥室長。
「館内放送は不安を煽らないようにするのら。“近隣で警察対応が行われているため、念のため館内待機”くらいで止めるのら」
波田顧問。
「窓から外を見るなとも伝えろ。灯りや人影が外から見える」
まさにゃんが低い声で言う。
「明朝の行程は一旦白紙ですね」
遥室長は一瞬だけまさにゃんを見た。
「今それを言えるなら、今日のまさにゃんは本当に仕事してるのら」
まさにゃんは苦笑しなかった。
ただ頷いた。
その頃、別室にいたヒロインたちも召集された。
土屋凜花は、まだRINKA MODEの余韻の中にいた。
さっきまで自分の配信で、美月とりんか民が言い合いをしていた。
笑っていた。
自分のチャンネルなのに置いていかれて、でも面白いから放置していた。
その数分後に、猟銃立てこもり事件の可能性を伝えられるとは思っていなかった。
隼人補佐官が、ヒロインたちの前で状況を共有する。
「近隣旅館で猟銃を持った男が立てこもっています。人質がいます。県警が現場へ向かっています。我々は当局と連携し、勝手な行動は取りません」
美月は黙って聞いていた。
真央も、いつもの軽口を挟まない。
ひかりは手を膝の上に置き、まっすぐ前を見ている。
凜花は、自分の指先が少し冷たくなっていることに気づいた。
隼人が続ける。
「ただし、状況によっては、人質救出の支援を求められる可能性があります。突入を含めた現場対応に備えてください」
凜花が小さく息を呑む。
「……突入」
その言葉は、イベント会場で聞くどんな専門用語より重かった。
美月が横から低く言う。
「怖いか」
凜花は、隠せなかった。
「怖いです」
美月は茶化さなかった。
「そらそうや。怖いと思える方がまともや」
その一言で、凜花は少しだけ呼吸を取り戻した。
事件のあらましは、少しずつ入ってきた。
犯人は、静岡県中部に住む中年の男。
以前から違法薬物への依存が疑われ、生活は荒れていた。静岡市内の歓楽街、知人関係、金銭貸借、いくつもの小さなトラブルを抱え、そのどれもが解決されないまま膨らんでいた。
その夜、男は静岡市内で関係者と激しくもめた。
金を返せ。
返す必要はない。
騙した。
騙していない。
貸した。
借りた覚えはない。
薬物。
紹介料。
取り立て。
夜の店に通った金。
支離滅裂な怒鳴り合いの末、男は猟銃を持って逃走した。
車で山へ入り、寸又峡まで逃げ込んだ。
そして、偶然目についた旅館に押し入り、従業員と宿泊客を人質に取って立てこもった。
その構図は、どこか昭和の劇場型籠城事件を思わせた。
山の温泉地。
旅館。
銃。
人質。
警察。
そして、自分の言葉を世間へ届けろという要求。
ただし、この犯人の主張は、筋道立っていなかった。
彼は政治的な言葉を繰り返した。
「この国は腐っている」
「権力者を呼べ」
「俺を利用した連中を裁け」
「真実を報道しろ」
だが、その直後にはまったく別の要求へ飛んだ。
「薬を持ってこい」
「今すぐだ」
「逃走資金五千万円を用意しろ」
「俺を逃がせ」
「静岡のあの女を連れてこい」
その「あの女」とは、静岡市内の歓楽街で人気のキャバクラ嬢だった。
男は彼女にかなりの金を使い、自分の中では特別な関係だと思い込んでいた。
県警が女性側へ確認した結果は、あっさりしていた。
「店のお客さんの一人です」
「個人的な関係はありません」
「私には関係ありません」
「現場へ行くつもりはありません」
要求は却下。
美月はその報告を聞いて、低く呟いた。
「犯人の頭ん中だけ恋愛ドラマやったんやな」
遥室長は厳しい顔で言う。
「笑い事じゃないのら」
「分かってる」
美月も、それ以上は言わなかった。
犯人は発砲を繰り返した。
窓へ。
天井へ。
外へ。
正確な意図があるようには見えない。
怒り、恐怖、薬物切れ、焦り。
それらが一緒になって、猟銃の引き金へ向かっている。
静岡県警が現場旅館を包囲する。
投光器が温泉街の闇を切る。
警察車両の赤色灯が、山あいの旅館の壁を不気味に照らす。
説得担当が電話で犯人と話す。
だが、会話は何度も途切れた。
犯人は怒鳴る。
黙る。
泣く。
笑う。
急に政治を語る。
突然、金の話へ戻る。
薬を要求する。
キャバ嬢を呼べと叫ぶ。
また発砲する。
県警側も焦りを見せ始める。
人質がいる。
犯人は猟銃を持っている。
薬物の影響、あるいは離脱症状で、判断力はさらに落ちている。
時間が過ぎれば落ち着くとは限らない。
むしろ、悪くなる可能性がある。
その時、犯人が新しい要求を出した。
「テレビを呼べ」
「俺の話を全国に流せ」
「いや、全世界に流せ」
「今すぐだ」
現場は寸又峡。
山深い温泉地。
深夜。
テレビ局の取材クルーがすぐ来られる場所ではない。
県警がそう伝えると、犯人はまた激昂した。
「嘘をつくな!」
「俺を黙らせる気だろう!」
「だったら撃つぞ!」
その声を聞いた時、凜花が口を開いた。
「……動画配信なら、できます」
全員が彼女を見る。
凜花はスマートフォンを握っていた。
「RINKA MODEなら、すぐ配信できます。登録者は数十万人います」
隼人補佐官の表情が険しくなる。
「危険です」
「分かっています」
凜花の声は、わずかに震えていた。
だが、目は逸らさなかった。
「でも、犯人が“発信したい”と思っているなら、配信中は話すことに集中するかもしれません。人質を傷つける時間を、少しでも遠ざけられるかもしれない」
遥室長が言う。
「凜花、これはイベント配信じゃないのら」
「はい」
「失敗したら、取り返しがつかないのら」
「分かっています」
沈黙。
その沈黙を破ったのは、杉山ひかりだった。
「私が、聞くよぉ」
凜花が振り向く。
ひかりは静かに立っていた。
普段と同じ、柔らかな駿河弁。
けれど目は、まったく揺れていなかった。
「犯人は、自分の話を誰かに聞いてほしいんだら?」
隼人が頷く。
「おそらく」
「だったら、聞き手が必要だよぉ」
女子アナ志望。
杉山ひかり。
おっとりしていて、穏やかで、人を急かさない。
イベントの司会では、その柔らかさが場を温めてきた。
だが、その資質は、本来もっと深いところにあった。
相手の言葉を遮らない。
言い分を一度受け止める。
混乱した話の中から、事実の糸を探す。
相手を追い詰めずに、話を続けさせる。
それは、まさにインタビュアーの力だった。
県警は短い協議の末、犯人へ提案した。
「テレビはすぐには来られない。ただし、動画配信なら可能だ。登録者の多い配信者がいる」
犯人は食いついた。
「本当に流れるのか」
「公開配信だ」
「今すぐやれ」
「ただし、人質に危害を加えないことが条件だ」
犯人はしばらく黙った。
そして、言った。
「女にやらせろ」
その言葉に、美月の目が鋭くなった。
だが、ひかりは動じなかった。
凜花もスマートフォンを握り直した。
ひかりがインタビュアー。
凜花がカメラマン。
RINKA MODEが、交渉の場になる。
凜花は配信開始ボタンへ指を置いた。
心臓の音が、自分でも分かる。
怖い。
逃げたい。
でも、逃げる場面ではない。
隣のひかりは、静かに頷いた。
「凜花さん、一緒にやろう」
「はい」
配信が始まった。
いつもの明るい挨拶はない。
画面が暗い。
遠くに警察の光。
凜花の表情は硬い。
コメント欄が一気に流れ始めた。
《え?》
《こんな時間に?》
《陛下?》
《顔が違う》
《後ろ警察?》
《何があった?》
凜花は短く言った。
「今夜は、いつもの配信ではありません」
それだけで、りんか民の空気も変わった。
「詳しい状況について、私から余計なことは言いません。今から、ある方のお話を配信します」
ひかりが画面の横へ立つ。
「杉山ひかりです。今から、お話を聞かせてもらいます」
犯人の声が飛ぶ。
「俺は悪くない!」
ひかりは否定しない。
「そう思っているんですね」
「俺ははめられた!」
「誰に、どんなふうにですか?」
犯人は怒鳴る。
支離滅裂だった。
政治の話。
金の話。
薬物の話。
女の話。
警察への恨み。
仲間への不信。
自分を利用したという男たちの名前。
何が本当で、何が妄想か、すぐには分からない。
それでも、ひかりは一歩も引かなかった。
声を荒げない。
近づきすぎない。
突き放さない。
「そのお金の話は、いつから始まったんですか?」
「最初に借りたのは誰ですか?」
「あなたが払ったと思っているお金と、相手が返せと言っているお金は、同じものですか?」
「その人たちは、あなたが薬を使っていることを知っていましたか?」
犯人は、質問に引っかかるように話し始めた。
少しずつ、混乱した話の奥から輪郭が見えてくる。
単なる借金ではなかった。
紹介料。
裏の貸し付け。
違法すれすれの利息。
返済名目の上乗せ。
薬物依存を知りながら金を貸し、さらに店へ通わせた人物。
犯人がすべて正しいわけではない。
むしろ、発砲し、人質を取った時点で、彼の行為は絶対に許されない。
だが、金銭トラブルだけに限れば、犯人だけが一方的に悪いとも言い切れない。
そのことを、ひかりは怒鳴らせるのではなく、喋らせることで引き出していった。
別室で配信を見ていた理世が呟く。
「すごい……」
すみれコーチが画面を見たまま言う。
「ひかり、相手を否定してない。でも主導権を渡してもいない」
真央。
「完全にインタビュアーだがね」
美月は黙っていた。
ひかりはさらに続ける。
「あなたにも言い分があるんですね」
「そうだ!」
「その話を聞いてほしいんですよね?」
「そうだ!」
「だったら、人質の人を傷つけたら、その話を聞いてもらえなくなっちゃうら」
犯人の呼吸が一瞬止まる。
ひかりは、そこで畳みかけない。
待つ。
沈黙を怖がらない。
女子アナ志望の少女が、猟銃を持った薬物中毒者の犯人を相手に、堂々と立っていた。
凜花もまた、動じなかった。
スマートフォンを構え続ける。
手は冷たい。
足も震えそうになる。
だが、カメラは落とさない。
画角を乱さない。
犯人を煽るような寄り方はしない。
ひかりの声が届く距離を保つ。
自分が今しているのは、配信者としての自己表現ではない。
人質の時間を稼ぐための記録。
交渉のための画面。
凜花はそれを理解していた。
りんか民も動き始めた。
最初は混乱だった。
《これ本物?》
《危ない》
《配信切って》
《警察呼んで》
しかし、すぐに空気が変わる。
《煽るな》
《犯人への罵倒禁止》
《現場の位置情報を書くな》
《人質の名前を特定するな》
《憶測で拡散するな》
《切り抜きで遊ぶな》
《凜花とひかりの邪魔をするな》
普段、美月をからかい、凜花を「陛下」と呼び、コメント欄で騒いでいるりんか民が、この夜だけは自律的に秩序を作り始めた。
中には、地元の防災や報道に詳しい視聴者もいた。
《現地へ向かうな》
《道路を塞ぐな》
《関係者以外は宿から出るな》
《近隣の人は照明を外へ向けないで》
《警察無線っぽい情報を書かない》
誰かがコメントを固定する。
誰かが荒らしを通報する。
誰かが、「これは娯楽配信ではない」と繰り返す。
美月はそのコメント欄を見ていた。
りんか民。
普段は腹が立つ。
本当に腹が立つ。
しかし、この夜。
彼らは動いていた。
美月は小さく言った。
「……やるやんけ」
一方、裏では突入準備が進んでいた。
波田顧問と隼人補佐官は、静岡県警当局と連絡を取り合っている。
ヒロ室東海(仮称)が勝手に動くことはない。
判断は当局。
それでも、万一の時に備える必要はある。
すみれコーチと理世が参謀役となり、ヒロインたちの配置と役割を整理する。
理世は旅館周辺の見取り図を広げる。
「今は動きません。犯人の注意は、ひかりさんと配信へ向いています。この均衡を崩すべきではありません」
すみれコーチ。
「突入は最後の手段。こっちが先にヒーローごっこを始めたら、人質が危ない」
美月が頷く。
「分かっとる」
美音は窓の外の闇を見る。
「山側の足場、悪いに。暗い中で無理はできんだら」
真白。
「建物の裏動線は確認だけにします。音を立てる行動は避けた方がいいです」
明日香。
「電源と照明の位置は把握しておきます。停電や誤作動が起きた時に混乱しないように」
あかり。
「ツアー客の待機はこっちで支えるに。誰も外へ出さんようにする」
真央。
「宿の人から、現場旅館の間取りの聞き取りは進めるがね」
みのりはひかりを心配している。
それでも、動かない。
澪は眠気を完全に消し、静かに耳を澄ませている。
凜花とひかりの前では、犯人とのにらみ合いが続いていた。
時間だけが過ぎていく。
ひかりは聞く。
犯人は喋る。
怒鳴る。
黙る。
また喋る。
要求は変わらない。
薬を持ってこい。
五千万円を用意しろ。
女を連れてこい。
テレビを呼べ。
政治家を呼べ。
俺の話を聞け。
だが、ひかりが話を聞いている間だけ、発砲は止まっていた。
それが、今の唯一の成果だった。
凜花の配信は、視聴者数を増やし続けていた。
しかし、凜花は数字を見ない。
ひかりはコメントを見ない。
犯人の顔色。
声の震え。
呼吸。
猟銃の位置。
人質の気配。
それだけを見る。
やがて、犯人の状態がまた悪化し始める。
薬物が切れたのか、苛立ちが増している。
「薬はまだか!」
「俺を騙す気か!」
「何も変わってないじゃないか!」
ひかりは静かに言う。
「今は、お話を続けよう」
「話して何になる!」
「みんな聞いてるら」
「嘘だ!」
「嘘じゃないよぉ」
犯人は猟銃を握り直す。
凜花の指先が、初めてわずかに揺れる。
画面も一瞬だけ揺れる。
しかし、彼女はすぐに立て直した。
別室で見ていた理世が低く言う。
「危険域に入っています」
すみれコーチが立ち上がる。
「全員、準備だけ」
美月。
「まだ動かん。合図が出るまで待つ」
理世。
「はい。今動いたら、ひかりさんが作った均衡を壊します」
隼人補佐官が無線で県警と話す。
波田顧問は短く返事をする。
遥室長は唇を噛んでいる。
琴音は記録を続けながらも、何度も画面へ目をやる。
犯人が叫ぶ。
「誰も俺の話なんか聞いてない!」
ひかりの声が、初めてほんの少しだけ強くなった。
「聞いてるら」
犯人が止まる。
ひかりは続ける。
「だから、その銃を人の方へ向けちゃだめ」
山の温泉街の夜。
投光器の白い光。
警察車両。
人質のいる旅館。
猟銃を持つ男。
その前に立つ、女子アナ志望の杉山ひかり。
スマートフォンを構える、元アイドルの土屋凜花。
後方では、すみれコーチと理世の指示でヒロインたちが突入要請に備える。
波田顧問と隼人補佐官は、県警と最後の調整を続ける。
そして画面の向こうでは、りんか民が沈黙と秩序で二人を支えている。
楽しかった鉄道旅行は、もう終わっていた。
ここからは、任務だった。
寸又峡の深い闇の中で、誰もが息を潜めていた。
次に犯人が動けば、均衡は崩れる。
ひかりが作った細い糸。
凜花がつなぎ続ける画面。
理世が読み切ろうとする状況。
すみれが押さえている突入準備。
そのすべてが、一本の緊張の上に乗っていた。
夜はまだ長い。
事件はまだ終わらない。
そして、ヒロ室東海(仮称)は、まだ動いていない。
次回へ続く。




