富士川の研修よりうるさい!?――女王陛下・土屋凜花、新橋で「河内のスピーカー」と「寝てる時だけ静かな尾張娘」に挟まれる!
国家特務戦隊ヒロイン中央研修複合学習センター富士川分室。
長い。
とにかく長い。
土屋凜花ですら、研修初日に建物の看板を見上げて、
「国家特務戦隊ヒロイン中央研修複合学習センター……富士川分室」
と一度だけ律儀に最後まで読んだものの、二日目からは普通に、
「富士川分室」
と呼んでいた。
そもそも職員までそう呼んでいる。
正式名称を噛まずに言える人間が何人いるのか。
責任者の芹沢遥室長ですら怪しい。
そんな富士川分室で行われた土屋凜花の新人研修は、驚くほど順調だった。
基礎体力。
高得点。
持久力。
問題なし。
柔軟性。
優秀。
救命講習。
優秀。
危機対応。
優秀。
接遇。
文句なし。
戦闘基礎についても、長年ダンスで培った身体感覚がものをいい、太田すみれコーチが一度フォームを直せば、次には修正されている。
イベント運営に至っては。
元人気アイドル。
そして現在も第一線のイベントコンパニオン。
場数が違う。
元小学校教諭にして現在は近江商人、さらに戦隊ヒロインの研修まで手伝う堀井琴葉に、
「これ以上うちが教えること、あんまりあらへんなぁ」
と言わせ。
すみれコーチからも、
「即戦力。すぐ現場に出していい」
との評価。
凜花本人。
当然。
嬉しい。
かなり嬉しい。
褒められること。
評価されること。
注目されること。
土屋凜花の三大好物である。
ただし。
研修評価表の一番下。
集団行動・協調性――要観察。
そこだけ。
妙に慎重な評価がついていた。
本人。
あまり気にしていない。
というより。
見なかったことにしている。
そして。
正式加入が決まった夜。
静岡県沼津市。
凜花の自宅。
りんか民からは勝手に、
「らぶりんか王国王宮」
と呼ばれている部屋。
リングライト。
点灯。
カメラ。
角度。
確認。
髪。
左右。
確認。
前髪。
確認。
照明。
確認。
そして。
録画ランプ。
点灯。
土屋凜花の動画配信チャンネル。
『RINKA MODE』
配信開始。
画面いっぱい。
凜花。
先ほどまで鏡の前で真剣な顔をしていた人とは思えない。
目元。
ふわっ。
柔らかい。
口角。
絶妙。
少しだけ首を傾ける。
両手。
胸元の前。
小さく。
合わせる。
「りんか民のみんなぁ、ごきげんよう♡」
コメント。
爆発。
《陛下ああああ!》
《かわいい》
《今日も女王陛下が尊い》
《ごきげんようございます!》
《御意》
凜花。
画面。
見る。
ふふっ。
笑う。
「今日もちゃんと来てくれたんだぁ?」
《来ました》
《毎日来ます》
《呼ばれなくても来ます》
凜花。
さらに。
少しだけ。
カメラ。
近づく。
「ほんと? じゃあ、今日も最後まで私だけ見ててね♡」
《無理尊い》
《もちろんです》
《女王陛下しか見ません》
《忠誠》
凜花。
満足。
知っている。
自分がどう笑えばファンが喜ぶか。
どの角度で首を傾ければかわいく見えるか。
少し声を柔らかくした方がいい場面。
逆に女王様らしく顎を上げる場面。
全部。
分かっている。
偶然。
かわいいのではない。
計算してかわいい。
元アイドル。
伊達ではない。
凜花。
突然。
いつもの凛とした表情へ。
「さて。りんか民の皆さまに、女王陛下から正式なご報告があります」
《御意》
《何でしょう陛下》
凜花。
わざと。
二秒。
黙る。
焦らす。
コメント。
《気になる》
《早く》
《陛下焦らすな》
そこで。
にこっ。
「富士川分室での研修、ぜーんぶ終わりました♡」
《おおおおお》
《おめでとう!》
《さすが陛下》
《首席?》
《当然の結果》
凜花。
髪。
耳。
かける。
「かなり良い評価だったみたい」
そして。
少し。
上目気味。
「りんか民のみんな……褒めてくれる?」
《かわいいいい》
《よく頑張りました》
《えらい》
《天才》
《世界一》
凜花。
満足。
「よろしい♡」
完全。
掌。
りんか民。
転がしている。
コメント。
《研修中どこに泊まってたの?》
凜花。
「泊まってないよ?」
《え?》
「毎日、沼津のお家から電車で通ってました」
《毎日!?》
《沼津から通勤》
《女王陛下が電車通勤》
《らぶりんか王国王宮から出勤》
《定期持ってる陛下》
凜花。
眉。
上。
「持ってるわよ! 女王陛下だって電車くらい乗ります!」
《庶民派》
「庶民派言うな!」
《朝のホームに凜花様いたら二度見する》
凜花。
少し。
得意げ。
「まあ……いつ誰に見られてもいいようにはしてましたけど♡」
実際。
朝。
眠い。
でも。
髪。
整える。
服。
綺麗。
姿勢。
良い。
研修所だから。
適当。
など。
凜花の辞書。
ない。
「見られる仕事をしている以上、綺麗でいるのは礼儀」
それが本人の哲学だった。
そして。
配信。
少し。
空気。
変わる。
凜花。
コメント。
眺めてから。
静かに。
「あとね。研修を受けて分かったことがあります」
「戦隊ヒロインって、イベントで歌ったり踊ったり、地域をPRしたりするだけじゃないんだって」
「本当に危険な戦闘任務へ行くこともあるみたいです」
コメント。
《心配》
《危ないことしないで》
《無茶しないでね》
《凜花様が怪我するの嫌》
凜花。
読む。
少し。
黙る。
そして。
ここ。
元アイドル。
土屋凜花。
ファンの心。
掴む。
ポイント。
完全。
理解。
カメラ。
真正面。
見る。
声。
少し。
優しく。
「でも、大丈夫」
間。
「だって私には、守りたい宝物があるから」
《え》
《宝物?》
凜花。
微笑む。
「りんか民のみんな♡」
コメント欄。
止まる。
一瞬。
そして。
爆発。
《尊い》
《尊い尊い尊い》
《泣いた》
《陛下ーーーー!》
《推しててよかった》
《一生りんか民》
凜花。
さらに。
畳みかける。
「私の大切なりんか民に何かあったら嫌だもん」
少し。
唇。
尖らせる。
「だから危険な任務でも、みんなを守るためなら頑張るね♡」
《無理かわいい》
《尊死》
《守られたい》
《女王陛下万歳》
凜花。
満面。
「よろしい♡」
その表情。
完全。
勝者。
りんか民。
歓喜。
女王陛下。
大満足。
なお。
言葉。
嘘。
ではない。
凜花。
本当に。
りんか民。
大切。
ただし。
伝え方が異常にあざとい。
そこへ。
《ところで協調性は?》
凜花。
一瞬。
無表情。
「はい、次のお便り」
《逃げた》
「逃げてない!」
《研修評価表見せて》
「見せません!」
《要観察?》
「何で知ってるのよ!」
女王陛下。
今日も。
順調。
統治。
されているのか。
りんか民に遊ばれているのか。
分からない。
そして。
数日後。
正式加入した土屋凜花に。
最初の仕事。
決定。
戦隊ヒロインとしての。
お披露目イベント。
担当。
ヒロ室東海(仮称)。
資料。
見た。
凜花。
「……あの」
隼人補佐官。
「はい」
「この“仮称”って、いつ取れるんですか?」
「未定です」
「正式名称が決まってない?」
「ですから仮称なのです」
「ずっと?」
隼人。
一瞬。
目。
遠い。
「私も少々心配しています」
イベント前。
まず。
フロントメンバー。
顔合わせ。
場所。
東京。
新橋ヒロ室。
土屋凜花。
24歳。
元アイドル。
現役イベントコンパニオン。
芸能。
イベント。
キャリア。
長い。
初対面。
強い。
こういう場所。
慣れている。
だから。
何も。
心配。
していなかった。
ヒロ室の廊下へ来るまでは。
「せやからウチが言うとるんはな!」
廊下。
響く。
別。
声。
「だで、それはこっちの話とは違うがね!」
「何が違うねん!」
「違うって言っとるがね!」
「ほんなら昨日の話は何やってん!」
「昨日は昨日だがね!」
凜花。
止まる。
隼人。
歩く。
凜花。
「隼人さん」
「はい」
「中、揉めてます?」
「いいえ」
凜花。
耳。
傾ける。
「……喧嘩じゃないんですか?」
「通常会話です」
「あれで?」
隼人。
「あの二人にとっては」
扉。
向こう。
赤嶺美月。
そして。
山田真央。
一人ずつ。
なら。
まだいい。
赤嶺美月。
通称。
河内のスピーカー。
しゃべる。
明るい。
声。
大きい。
何でも。
話題。
する。
一方。
山田真央。
静かなのは寝ている時だけ。
尾張弁。
明るい。
よく。
しゃべる。
こちらも。
何でも。
話題。
する。
問題。
二人。
組み合わせ。
一人。
しゃべる。
相手。
話題。
拾う。
そこから。
別。
話。
始める。
元。
話していた方。
それ。
拾う。
また。
話。
増える。
結果。
話題。
永久増殖。
美月。
「ほんでな、そこの店のおっちゃんがな!」
真央。
「店のおっちゃんで思い出したけど、この前名古屋でさぁ!」
「待て待て! ウチの話まだ終わってへん!」
「美月、前置き長すぎるがね!」
「真央に言われたない!」
「うちの方が短いわ!」
「どこがやねん!」
五分。
十分。
十五分。
まだ。
話す。
離れたデスク。
小宮山琴音。
資料。
整理。
しながら。
時々。
二人。
見る。
そして。
甲州訛り。
混じり。
ぽつり。
「ようまあ、あんだけしゃべって話の種が尽きんじゃんねぇ。そこだけは大したもんずら」
近くの職員。
「琴音さん、そこに感心するんですか?」
琴音。
「だって、うちなら十分で話すことなくなるじゃん」
「あの二人、二十分超えてます」
琴音。
「すげえこんだよ」
褒めるところ。
そこ。
やがて。
遥室長。
現れる。
廊下。
聞く。
「今日も元気だねぇ」
隼人。
「室長、“元気”で処理するには音量が大きすぎます」
遥。
「美月ちゃんと真央ちゃん二人いるんでしょ?」
「はい」
「じゃあ仕方ないら」
凜花。
心。
思う。
何が仕方ないんだろう。
でも。
口。
出さない。
ここ。
ヒロ室。
自分。
新人。
猫。
かぶる。
完璧。
扉。
開く。
遥。
「二人とも、ちょっといい?」
奇跡。
静か。
美月。
「ん?」
真央。
「なに?」
遥。
凜花。
隣。
呼ぶ。
穏やかな。
駿河弁。
「新しいメンバー紹介するだよ。土屋凜花さん。私と同じ静岡県出身だら」
凜花。
綺麗。
一礼。
隼人。
「凜花さんは元アイドルで、現在はイベントコンパニオンとして活動しています」
「沼津市在住ですので、今後はヒロ室東海(仮称)で活躍していただきたいと考えています」
凜花。
すっ。
一歩。
前。
「土屋凜花です。24歳です」
声。
明瞭。
笑顔。
控えめ。
「戦隊ヒロインとしてはまだ新人ですので、皆さんからいろいろ教えていただきたいと思っています」
「どうぞよろしくお願いします」
深すぎず。
浅すぎず。
完璧。
礼。
さっき。
RINKA MODE。
「りんか民のみんなぁ♡」
と言っていた。
女王陛下。
どこ。
行った。
完全。
猫。
しかも。
かなり。
上質。
かぶっている。
美月。
凜花。
見る。
一秒。
二秒。
三秒。
そして。
「うわっ!」
凜花。
一瞬。
びくっ。
美月。
目。
輝く。
「ものっすごい美人やん!」
「何これ!? キラッキラやん!」
「顔ちっちゃ! 脚長っ! めっちゃ華あるやん!」
凜花。
涼しい。
微笑み。
「ありがとうございます」
内心。
もっと言って。
でも。
言わない。
猫。
かぶる。
美月。
「イベントコンパニオンって、やっぱ立ち姿からちゃうなぁ!」
凜花。
「そんなことないですよ」
内心。
そんなことある。
美月。
顔。
見る。
「いや絶対嬉しいやろ?」
「普通です」
「今、口元ちょっと緩んだで」
凜花。
「気のせいです」
速い。
猫。
守る。
次。
真央。
凜花。
見る。
こちら。
好意。
全開。
「ほんと綺麗だがね!」
「写真も見せてもらったけど、実物の方がずっと華やかじゃん!」
凜花。
「ありがとうございます」
真央。
さらに。
「でも笑うと結構かわいい感じなんだね。もっとクールで近寄りにくい人かと思っとった」
凜花。
「そうですか?」
「うん! 元アイドルって聞くと納得だわ」
美月。
「元アイドルなんやろ? 歌えるん?」
凜花。
「はい。一応」
「踊りは?」
「ダンスもやっていました」
美月。
「ええやん! めっちゃ戦力やん!」
真央。
「しかも沼津だもんね。静岡東部のイベント、すごく助かるがね!」
遥。
嬉しそう。
「そうなんだよぉ。私、東部から一人欲しかったんだよねぇ」
美月。
満面。
「凜花さん、よろしくな!」
真央。
「分かんないことあったら何でも聞いて!」
凜花。
「はい。ありがとうございます」
完璧。
礼儀正しい。
穏やか。
協調的。
真帆が聞いた。
業界評。
「自分だけ目立ちたい」
「立ち位置を奪う」
「前へ前へ出る」
その片鱗。
ゼロ。
隼人。
少し。
不思議。
遥。
少し。
安心。
本人。
心。
「最初から自分出す必要ないでしょ。新人なんだし」
土屋凜花。
世渡り。
できない人。
ではない。
むしろ。
できる。
必要なら猫をかぶれる。
問題。
いつ。
脱ぐか。
そして。
顔合わせ。
次。
美月。
真央による。
ヒロ室東海(仮称)。
説明会。
凜花。
ノート。
出す。
ペン。
持つ。
「よろしくお願いします」
美月。
「ほな、まず活動エリアなんやけどな!」
真央。
「基本は静岡、愛知、岐阜、三重だがね!」
美月。
「そうそう! ほんで案件によってはな――」
真央。
「県境あんまり関係ない仕事もあるでね」
「今それウチが言おうとしてた!」
「別にいいがね!」
「ほんで地域イベントが――」
「企業案件も――」
「スポンサーが――」
「自治体が――」
凜花。
真剣。
メモ。
「イベント……企業……自治体……」
美月。
「静岡は横長いやろ?」
真央。
「愛知も尾張と三河じゃ全然違うでね!」
美月。
「せやけど三重もまた独特やん?」
真央。
「岐阜も美濃と飛騨で――」
美月。
「あ、飛騨言うたらこないだ――」
真央。
「それで思い出した!」
脱線。
開始。
五分後。
名古屋。
モーニング。
十分後。
浜松餃子。
十五分後。
東名高速。
新東名。
どっち。
好き。
二十分後。
なぜか。
サービスエリアのソフトクリーム。
凜花。
ノート。
ページ。
半分。
戦隊ヒロイン業務。
残り。
半分。
食べ物。
「…………」
美月。
しゃべる。
真央。
しゃべる。
河内弁。
尾張弁。
高速。
凜花。
研修。
思い出す。
体力訓練。
楽。
戦闘基礎。
楽。
救命。
楽。
座学。
楽。
今。
難しい。
とうとう。
凜花。
静かに。
手。
上げる。
「すみません」
二人。
同時。
「何?」
凜花。
微笑み。
猫。
まだ。
かぶる。
「できれば……一人ずつお話しいただけると助かります」
沈黙。
美月。
「あ、ごめん」
真央。
「ごめんね」
凜花。
「いえ。私がまだ慣れていないので」
違う。
二人が。
同時。
しゃべっているから。
でも。
新人。
凜花。
相手。
立てる。
隼人。
少し。
感心。
「非常に丁寧な言い方ですね」
凜花。
「普通ですよ」
その。
三十秒後。
真央。
「そういえば、もう一個言っとかないかんことあった!」
美月。
「あ、それならウチも!」
再開。
凜花。
視線。
一瞬。
天井。
「…………」
隼人。
そっと。
横。
「お疲れですか?」
凜花。
顔。
笑顔。
そのまま。
小声。
「富士川分室より大変かもしれません」
隼人。
小声。
「私もそう思います」
妙。
仲間意識。
発生。
小宮山琴音。
遠く。
聞きながら。
「新人さん、よう耐えとるじゃんねぇ」
ただ。
しばらく。
聞く。
凜花。
気づく。
二人。
確かに。
うるさい。
かなり。
うるさい。
でも。
意地悪。
ゼロ。
新入り。
警戒。
ゼロ。
むしろ。
歓迎。
100%。
美月。
「凜花さん沼津やろ? 東部の現場やったら地元枠で強いやん!」
真央。
「そうそう。地元の人がおるだけで、お客さん安心するでね」
美月。
「それに元アイドルで現役コンパニオン。ステージなんか慣れたもんやろ?」
凜花。
「はい。ステージには慣れています」
真央。
「ならお披露目イベントも安心だがね!」
凜花。
止まる。
「お披露目イベント?」
美月。
「せやで。凜花さんの戦隊ヒロイン初ステージ」
瞬間。
凜花。
瞳。
わずか。
輝く。
美月。
敏感。
「あっ」
「何ですか?」
「“ステージ”言うた瞬間、めっちゃ目ぇ輝いた」
「輝いてません」
真央。
「輝いたがね」
「気のせいです」
美月。
ニヤニヤ。
「お客さん、結構来ると思うで」
凜花。
「そうなんですか?」
「食いついた!」
「業務上の確認です」
真央。
「取材とかカメラも来るかもしれんよ」
凜花。
一瞬。
間。
「……そうなんですね」
美月。
「今の一秒、何や!」
凜花。
「何でもありません」
猫。
必死。
ただ。
心。
中。
観客。
カメラ。
取材。
戦隊ヒロインとして初ステージ。
いい。
非常に。
いい。
美月。
「凜花さん、結構目立つん好きなんちゃう?」
凜花。
笑顔。
「人前に立つ仕事ですから、注目されることには慣れています」
嘘。
ではない。
質問。
少し。
ずらした。
真央。
素直。
「頼もしいじゃん!」
美月。
「ステージ強い人来てくれんの助かるわ!」
凜花。
「ありがとうございます」
また。
猫。
その後。
集合時刻。
衣装。
リハーサル。
MC。
地域PR。
スポンサー。
注意事項。
説明。
ようやく。
終了。
凜花。
ノート。
閉じる。
「今日はありがとうございました。いろいろ教えていただいて助かりました」
美月。
「堅い堅い! 凜花さん年上やろ? もっと普通でええって!」
真央。
「そうそう。もう仲間なんだで」
凜花。
一瞬。
止まる。
仲間。
アイドル時代。
少し。
苦手。
だった。
言葉。
でも。
今日は。
嫌。
ではない。
「……じゃあ、そのうち」
美月。
「そのうち?」
凜花。
微笑む。
「慣れたら」
真央。
「早く慣れてね!」
美月。
「そしたら飯でも行こ!」
凜花。
「はい」
今は。
まだ。
優等生。
土屋凜花。
猫。
ぴったり。
かぶる。
美月。
真央。
まだ。
知らない。
目の前。
丁寧。
控えめ。
笑顔。
新人。
数時間後。
沼津。
王宮。
リングライト。
前。
どうなる。
か。
夜。
RINKA MODE。
配信。
開始。
凜花。
さっきより。
ずっと。
柔らかい。
顔。
指先。
小さく。
手。
振る。
「りんか民のみんなぁ、お待たせ♡」
《陛下ーーー》
《待ってました》
凜花。
頬。
片手。
添える。
少し。
首。
傾ける。
「今日ね、新しい仲間に会ってきたの」
《どうだった?》
《美人いた?》
《仲良くなれそう?》
凜花。
考える。
わざと。
考える。
「んー……」
《溜めるな》
そして。
「とーっても元気な人たちでした♡」
《元気》
《それだけ?》
《うるさかった?》
凜花。
笑顔。
「私、そんなこと一言も言ってませんけどぉ?」
《言ってる顔》
《声が物語ってる》
凜花。
頬。
膨らませる。
「もう。りんか民って、すぐ私のこといじめるよね?」
《かわいい》
《あざとい》
《計算》
凜花。
「計算って言った人、あとで覚えておくから♡」
《怖い》
《ご褒美》
「喜ぶな!」
しかし。
次。
お披露目イベント。
話。
出す。
凜花。
急に。
楽しそう。
「それでね。私の戦隊ヒロインとしての初ステージ、決まりました♡」
コメント。
大爆発。
《絶対行く》
《りんか民集合》
《初陣》
《最前列》
《陛下を見に行く》
凜花。
人差し指。
立てる。
「はい。りんか民に女王陛下から命令があります」
《御意》
「場所取りで揉めない」
《御意》
「スタッフさんの指示には絶対従う」
《御意》
「他のお客さんに迷惑をかけない」
《御意》
凜花。
満足。
「いい子♡」
《尊い》
《もっと言って》
凜花。
少し。
顔。
カメラ。
近づける。
「ちゃんとお約束守って来てくれたら……」
間。
「女王陛下が、とびっきりかわいくして待っててあげる♡」
《うわあああ》
《絶対行く》
《チケットどこ》
《仕事休む》
凜花。
画面。
見て。
大満足。
これ。
ヒロ室。
美月。
真央。
見たら。
多分。
驚く。
あの。
礼儀正しい。
「今日はありがとうございました」
と。
同一人物。
思えない。
でも。
凜花にとって。
どちらも。
本物。
仕事。
新人。
場。
読む。
ヒロ室。
猫。
かぶる。
りんか民。
相手。
ファン。
喜ばせる。
全力。
サービス。
する。
そして。
最後。
凜花。
少し。
真面目。
「初めて戦隊ヒロインとして人前に立つから、ちゃんと最高の状態で行くね」
「りんか民のみんなが、“凜花を応援しててよかった”って思えるステージにするから」
コメント。
《尊い》
《絶対応援する》
凜花。
微笑む。
「だから……ちゃんと私を見ててね♡」
《もちろん》
《陛下しか見ない》
そして。
小さく。
本音。
「……せっかく出るんだもん。一番目立ちたいし」
《出た》
《通常運転》
《女王陛下》
《協調性》
凜花。
即座。
「協調性って書いたりんか民、前へ出なさい!」
《御意》
「出てくるんじゃない!」
配信。
大笑い。
同じ頃。
東京。
新橋ヒロ室。
隼人補佐官。
次回イベント。
進行表。
眺める。
出演者。
赤嶺美月。
山田真央。
土屋凜花。
三人。
並ぶ。
遥。
横。
「どうしたの?」
隼人。
「いえ」
「何か心配?」
一拍。
「今日の土屋さんは非常に礼儀正しく、協調的でした」
遥。
「そうだら?」
「はい」
「じゃあ大丈夫じゃん」
隼人。
少し。
遠い目。
「“今日の”というところが、なぜか気になるだけです」
遥。
「隼人くん、心配性だねぇ」
「室長が楽観的すぎるんです」
遥。
笑う。
「大丈夫だらぁ」
隼人。
進行表。
もう一度。
見る。
河内のスピーカー。
寝ている時だけ静かな尾張娘。
そして。
元人気アイドル。
現役イベントコンパニオン。
らぶりんか王国。
絶対君主。
女王陛下。
「……予定通り終わりますように」
誰に。
祈ったのか。
本人にも。
分からない。
富士川分室の研修を。
高成績。
突破した。
土屋凜花。
24歳。
戦隊ヒロイン。
正式加入。
新橋。
初顔合わせ。
無事。
終了。
美月。
好意的。
真央。
好意的。
凜花。
礼儀正しい。
協調的。
実に。
平和。
今のところは。
なぜなら。
二人。
まだ。
知らない。
ヒロ室で。
おとなしく。
「よろしくお願いします」
と頭を下げていた新人が。
沼津へ帰った途端。
カメラの前で。
「りんか民ぃ♡ ちゃんと私だけ見ててね♡」
と笑う。
筋金入りの。
女王陛下。
であることを。
そして。
その女王陛下が。
初めて。
戦隊ヒロインとして。
観客。
大勢。
カメラ。
前。
立つ日。
もう。
すぐ。
そこまで。
迫っていた。
猫をかぶった土屋凜花が。
ステージの上でも。
最後まで。
猫をかぶっていられるのか。
それは。
次の公演で。
明らかになる。




