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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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1200/1262

蔵の街から織物の街へ!?――ぽかぽかトリオ、開催地変更でまさかの予算アップ! 渡良瀬川に響く天使の歌声

全国から公演依頼が絶えない。


体操のお姉さん、白浜麻衣。


工作のお姉さん、宮沢萌音。


歌のお姉さん、藤原詩織。


未就学児向け戦隊ヒロインユニット――ぽかぽかトリオ。


子どもたちに人気。


保護者にも人気。


プロモーターにも人気。


スポンサー企業にも人気。


理由は単純だった。


三人とも、ちゃんとしている。


時間を守る。


挨拶をする。


子どもに優しい。


スタッフにも優しい。


無茶な要求をしない。


控室を散らかさない。


経費で揉めない。


酒を飲んで問題を起こさない。


そして何より。


公演を任せれば、まず間違いなく子どもたちが笑顔になって帰る。


戦隊ヒロインプロジェクトには個性的な人材が数多くいる。


個性的。


非常に。


個性的。


だから芹沢遥室長など、


「ぽかぽかトリオのスケジュール表を見ると心が落ち着くだよ」


とまで言っていた。


そんな三人へ。


今度は栃木県から仕事が来た。


当初の開催予定地。


栃木市。


栃木市。


栃木県南部。


市名に県名を背負う歴史ある街。


何と言っても。


蔵の街。


江戸時代、日光例幣使街道の宿場町として、さらに巴波川の舟運による商都として栄えた。


川沿い。


黒塗りの見世蔵。


白壁の土蔵。


歴史ある商家。


巴波川をゆっくり進む遊覧船。


街中を歩けば、東京からそれほど遠くない場所とは思えないほど、古き商都の面影が残っている。


派手なテーマパークがあるわけではない。


けれど。


歩くほど味が出る。


水辺と蔵。


路地と商家。


昔の商人町の空気。


北関東を代表する、絵になる歴史都市。


今回のスポンサーは。


全国規模の大手総合人材サービス企業。


人材派遣。


人材紹介。


研修。


企業支援。


スポーツ事業。


地域創生。


さらに社会人野球や女子スポーツなどにも積極的。


単に、


「人を会社へ派遣する企業」


ではない。


人を育て、働く場所を作り、スポーツや教育を通して地域まで元気にする巨大人材グループ。


ぽかぽかトリオのような青少年育成型ユニットとは相性抜群だった。


スポンサー担当者も張り切っていた。


戦隊ヒロインプロジェクト側。


担当。


隼人補佐官。


こちらも張り切る。


隼人。


普段。


冷静。


沈着。


元エリート官僚らしく。


資料。


数字。


法令。


調整。


全部。


淡々。


怒鳴るより。


静かな声で相手を論理的に追い詰めるタイプ。


今回も。


何か月も前から。


市側。


スポンサー。


会場。


地元園。


警備。


交通。


ステージ構成。


全部。


調整済み。


麻衣たちによる、


「蔵の街を作ってみよう」


という簡単な工作コーナーまで用意していた。


ところが。


開催直前。


問題。


勃発。


栃木市。


新市長。


当選したばかり。


何も。


分かっていない。


市政。


よく分からない。


イベントの目的。


さらに分からない。


前任者がなぜその政策を決めたのか。


興味もない。


ただ。


一つだけ。


強烈な信念があった。


前の市長と違うことをやりたい。


以上。


市役所職員。


「市長、この公演は前年度から準備されていまして」


市長。


「前市長が決めたんだろう?」


「はい。しかし内容は――」


「なら見直しだ」


「子ども向けの――」


「前市政との決別が必要だ」


「スポンサー企業が――」


「一企業が開催するイベントに市が協力する必要はない」


職員。


「……」


さらに。


「私は市民ファーストだからな」


職員。


心の中。


その市民の子ども向けイベントなんですが。


話。


隼人へ。


隼人。


最初。


聞き間違いだと思った。


「もう一度お願いします」


市担当者。


本当に申し訳なさそう。


「市長が……協力を見直すようにと」


「理由は?」


「一企業によるイベントへ市が協力するのは、市民ファーストの理念と合わないと……」


沈黙。


五秒。


十秒。


隼人。


資料。


見る。


市民ホール。


市内在住の子ども。


親子。


地域振興。


青少年育成。


スポンサー企業。


無料招待枠。


地域店舗との連携。


もう一度。


「どこが市民ファーストと矛盾するんです?」


担当者。


「……私にも、よく分かりません」


隼人。


眉。


動く。


非常に珍しい兆候。


スポンサー担当者も同席。


「弊社としても、市民向けの地域貢献イベントという認識ですが」


市職員。


「はい。私どもも、その認識です」


隼人。


「市長本人と話します」


ところが。


市長。


会わない。


「公務があります」


「日程調整中です」


「秘書課から改めて」


「予定が――」


隼人。


電話。


置く。


遥室長。


横。


「隼人くん?」


「何なんですか、これは!」


遥。


びくっ。


珍しい。


本当に。


珍しい。


隼人補佐官。


怒っている。


「こちらは何か月前から準備しているんですよ!」


「う、うん」


「スポンサー企業にも、出演者にも、現場職員にも全部予定がある!」


「はい」


「前市長が決めたから覆す? それのどこが行政なんですか!」


遥。


小声。


「今日はすごいなぁ……」


隼人。


止まらない。


「政策は中身を見て判断するものでしょう! 前任者と違うことをするために市政やってるんですか!」


スポンサー担当者。


静かに。


「補佐官、お気持ちは大変よく分かります」


隼人。


「私は怒っています!」


「よく分かります」


その夜。


栃木市の実務担当者。


電話。


声。


疲労。


「本当に申し訳ありません」


隼人。


まだ怒っている。


しかし。


声。


少し。


戻す。


「あなたに怒っているわけではありません」


「ありがとうございます……」


しばらく。


担当者。


言いにくそう。


そして。


「……あの市長、ちょっとおかしいんですよ」


隼人。


「……はい?」


スポンサー担当者。


電話越し。


固まる。


市職員。


とうとう。


本音。


「前市政との違いを出したい、それしか考えていないみたいで……」


「それしか?」


「前市長時代に決まったものは、内容に関係なく一度全部止めろと言われてまして」


隼人。


額。


押さえる。


「市政の継続性というものを理解していないんですか?」


「……たぶん」


「たぶん?」


「市政そのものを、あまり分かっていないんだと思います」


沈黙。


重い。


担当者。


さらに。


「今回のイベントも、庁内では協力しない理由が見当たらないという意見がほとんどなんです」


「でしょうね」


「でも市長が……」


完全に。


板挟み。


スポンサー担当者も。


気の毒そう。


隼人。


長い息。


「分かりました」


「申し訳ありません」


「あなたが謝る必要はありません」


「ですが」


「今回は、市長が悪い。それで終わりにしましょう」


担当者。


心底。


救われた声。


「……ありがとうございます」


電話。


切れる。


遥。


「怒り、収まった?」


隼人。


真顔。


「担当職員に対する怒りはありません」


「市長には?」


「あります」


「だよね」


そこで。


スポンサー企業と。


協議。


結論。


栃木市に固執する必要はない。


子どものためのイベント。


なら。


歓迎してくれる街でやろう。


候補。


栃木県南西部。


足利市。


相談。


返答。


早い。


「ぜひ開催してください」


隼人。


「…………」


遥。


「早いね」


「早いですね」


むしろ。


話。


どんどん進む。


会場。


確保。


教育関係者。


協力。


地元PR。


そして。


さらに。


思わぬ話。


地元のプロパンガス会社。


「子ども向けイベントなら、弊社も協賛しますよ」


スポンサー。


追加。


予算。


増額。


隼人。


新しい予算書。


見る。


さっきまで。


栃木市長への怒り。


顔。


険しい。


ところが。


数字。


見る。


口角。


上。


遥。


横。


「隼人くん?」


「はい」


「顔」


「顔?」


「すっごいえびす顔になってるよ」


隼人。


咳払い。


「舞台予算が増えました」


「機嫌直った?」


「栃木市長への評価と、公演予算の増額は別問題です」


「でも嬉しい?」


沈黙。


「……工作材料のグレードを上げられます」


「嬉しいんじゃん」


完全に。


怪我の功名。


その開催地。


足利市。


栃木県でありながら。


すぐ隣。


群馬県。


桐生。


太田。


館林。


県境を越えた人の動きも活発。


特に太田市とは生活圏も近い。


歴史。


古い。


足利学校。


鑁阿寺。


織姫神社。


そして。


古くから。


織物の街。


機織り。


染色。


商い。


ものづくり。


渡良瀬川の流れとともに育った。


群馬県東部と栃木県西部が入り交じる、独特の両毛文化。


派手ではない。


でも。


歴史。


産業。


街並み。


川。


全部が近い。


味のある街。


さらに今回追加協賛となった地元ガス会社。


野球好きには。


ちょっと胸が熱くなる逸話がある。


かつて。


地元クラブチーム。


野球。


続ける若者。


昼間。


ガス会社勤務。


仕事。


重い。


プロパンガスボンベ。


担ぐ。


運ぶ。


交換。


また担ぐ。


毎日。


足腰。


鍛えられる。


そして。


野球。


続ける。


華々しいエリート街道とは程遠い。


だが。


その俊足。


守備。


評価。


育成枠から。


プロ。


這い上がる。


やがて。


外野。


広大な守備範囲。


球界屈指。


守備の名手。


外野手最高峰の表彰まで。


複数回。


勝ち取る。


まさに。


「ガスボンベを担いでいた青年が、日本を代表する守備職人へ」


という。


足利らしい。


泥臭く。


格好いい。


シンデレラストーリー。


スポンサー担当者から聞く。


麻衣。


「すごいですね!」


萌音。


「働きながら野球続けてたんだ」


詩織。


考える。


そして。


「ガスボンベをいっぱい持てば、プロ野球選手になれるのぉ?」


麻衣。


「そこだけ切り取らないでください」


萌音。


「詩織さんが持ったら腰痛めるよ」


「じゃあやめるぅ」


開催当日。


東京方面から。


特急。


りょうもう号。


三人。


足利市駅。


降りる。


ホーム。


待っていた人物。


太田すみれコーチ。


群馬県太田市在住。


三人がまだ。


今ほど完成していなかった頃。


徹底的に。


育てた。


体力。


舞台。


立ち位置。


子どもとの距離。


危険回避。


スタッフとの連携。


三人を。


手塩にかけて。


鍛えた人。


麻衣。


見つける。


「すみれコーチ!」


すみれ。


手。


上げる。


「おー!」


三人。


近づく。


すみれ。


見る。


全国から呼ばれる。


ぽかぽかトリオ。


でも。


本人にとっては。


昔から。


教えてきた三人。


自然。


目尻。


下がる。


「売れっ子三人娘、お出ましか」


麻衣。


「売れっ子じゃないです」


「全国飛び回ってて何言ってんだ」


萌音。


「今日はありがとうございます」


「見たかったんだよ。お前らがどんだけ上手くなったか」


詩織。


「すみれコーチ久しぶりぃ」


すみれ。


詩織。


見る。


「詩織はあんまり変わってなさそうだな」


「何がぁ?」


全員。


笑う。


駐車場。


すみれ。


愛車。


スポーティーなSUV風ハッチバック。


乗車。


発進。


ブォン。


麻衣。


「…………」


萌音。


「…………」


詩織。


「…………」


交差点。


スッ。


車線変更。


加速。


麻衣。


「すみれコーチ」


「何?」


「運転、ちょっと元気ですね」


「普通だ」


萌音。


「かなり元気です」


「普通」


詩織。


後部座席。


「ジェットコースターみたいぃ」


すみれ。


「そんなわけあるか!」


麻衣。


「もう少し穏やかでも着きますよ」


「分かってる!」


会場。


到着。


午前公演。


開場。


親子。


続々。


開催地変更。


行政。


市長。


スポンサー。


そんな事情。


子どもたち。


誰も。


知らない。


それでいい。


麻衣。


舞台。


「足利のみんなー! こんにちはー!」


「こんにちはー!」


体操。


腕。


脚。


ジャンプ。


笑顔。


間違える。


子。


麻衣。


「いいよー! いっぱい動けてるよー!」


すみれ。


後方。


腕組み。


見る。


昔。


麻衣は。


「きちんとやらなきゃ」


が強かった。


今。


違う。


子どもを見る。


その日の反応。


見る。


振り付けより。


子ども優先。


すみれ。


少し。


笑う。


次。


萌音。


バルーンアート。


長い風船。


くる。


ひねる。


犬。


花。


子ども。


「わあ!」


スポンサー増額。


工作材料。


いつもより。


ちょっと豪華。


キラキラ。


色。


多い。


萌音。


「好きな色使っていいからね!」


隼人。


後方。


工作キット。


見る。


満足。


遥。


横。


「まだえびす顔」


「予算は有効活用するべきです」


「はいはい」


詩織。


歌。


マイク。


歌姫。


天使の声。


さっき。


ガスボンベでプロ野球選手になれるのか。


真剣に質問していた人。


とは。


思えない。


会場。


静か。


子ども。


聞く。


親。


聞く。


すみれ。


また。


目尻。


下がる。


「上手くなったなぁ……」


二公演。


ともに。


安定。


大盛況。


そして。


最後。


全員。


あの。


エビ。


カニ。


二種類の海の生き物をモチーフに。


手。


チョキ。


身体。


横。


ジャンプ。


未就学児。


親。


祖父母。


誰でも。


一緒に踊れる。


コミカル。


楽しい。


大定番の体操ダンス。


麻衣。


「最後はみんなで踊るよー!」


「エビ!」


子ども。


「エビ!」


「カニ!」


「カニ!」


萌音。


ニコニコ。


詩織。


楽しそう。


客席後方。


すみれ。


腕組み。


最初。


見ている。


麻衣。


ステージ。


気づく。


指。


「すみれコーチもー!」


すみれ。


「私!?」


子ども。


周囲。


見る。


すみれ。


少し。


照れる。


しかし。


次の瞬間。


両手。


チョキ。


「エビ!」


腰。


横。


「カニ!」


ノリノリ。


スタッフ。


二度見。


すみれ。


「何だよ!」


さらに。


「エビ!」


「カニ!」


完全。


楽しんでいる。


二回目など。


最初から。


準備。


万端。


イントロ。


鳴る。


すみれ。


誰より早く。


チョキ。


萌音。


舞台上。


笑う。


「すみれコーチ、覚えてる!」


麻衣。


「完璧です!」


すみれ。


「誰に教わったと思ってんだ!」


いや。


これは。


教えていない。


ともあれ。


二回公演。


満員。


大成功。


終演後。


控室。


三人。


汗。


拭く。


すみれ。


入る。


「お疲れ」


三人。


「お疲れさまでした!」


すみれ。


三人。


見る。


少し。


沈黙。


そして。


「上手くなったな」


麻衣。


「ありがとうございます」


すみれ。


特に。


麻衣。


見る。


「麻衣」


「はい」


「もう、お前に私から教えることはない」


麻衣。


止まる。


萌音。


詩織。


見る。


すみれ。


笑う。


「免許皆伝だ」


麻衣。


「……本当に?」


「子どもの顔見て、その場で変えられる」


「予定通りやることより、目の前の子どもを優先できる」


「もう私に言われて動く必要ないよ」


麻衣。


目。


少し。


潤む。


深く。


頭。


「ありがとうございます!」


すみれ。


優しい。


「お前、いい体操のお姉さんになったな」


そして。


萌音。


詩織。


見る。


「二人もな」


萌音。


「ありがとうございます」


詩織。


「うれしいぃ」


すみれ。


また。


目尻。


下がる。


「手ぇ掛かったからな、お前ら」


詩織。


「わたし?」


全員。


「特に詩織」


「えぇ~?」


公演後。


足利ご当地グルメ。


まず。


足利シュウマイ。


一般的な肉ぎっしりのシュウマイ。


想像。


すると。


違う。


玉ねぎ。


片栗粉。


蒸す。


ソース。


素朴。


もちっと。


足利独特。


詩織。


箸。


「お肉どこぉ?」


すみれ。


「だから、そういうシュウマイじゃないんだよ」


「でもシュウマイぃ」


「足利ではこれがシュウマイ!」


「へぇ~」


食べる。


「おいしいぃ」


「だろ?」


次。


ポテト入り焼きそば。


ソース。


麺。


キャベツ。


そして。


じゃがいも。


麻衣。


「本当にお芋入ってますね」


萌音。


「意外と合う」


すみれ。


「この辺じゃ普通なんだよ」


詩織。


「焼きそばとおいもで、お腹いっぱいになるぅ」


麻衣。


「今日は二公演踊ったから大丈夫です」


満腹。


時計。


帰りのりょうもう号。


まだ。


少し時間。


すみれ。


立つ。


「よし。最後に寄り道するぞ」


麻衣。


「どこです?」


「すぐそこ」


再び。


車。


麻衣。


シートベルト。


確認。


萌音。


同じ。


詩織。


「今度はゆっくりねぇ」


すみれ。


「だから普通だって!」


夕方。


車。


止まる。


渡良瀬川。


四人。


降りる。


昼。


終わり。


夕方。


街。


静か。


大きな川。


橋。


水面。


空。


西。


橙。


少しずつ。


朱色。


渡良瀬川。


足利の風景。


そして。


この街を全国へ知らしめた。


一曲。


ある。


昭和末期から平成にかけて、都会的なポップスと独特の透明感ある歌声で一時代を築き、親しみやすい言葉で日常の風景を歌い続けた女性シンガー。


長い年月を経ても。


ステージへ立てば。


今なおミニスカートが驚くほど似合う。


変わらぬスタイルと軽やかさ。


その彼女が歌った。


足利の橋。


夕日。


故郷への思い。


全国的に知られる。


名曲。


詩織。


橋。


見る。


夕日。


見る。


誰も。


「歌って」


とは。


言わない。


でも。


詩織。


自然。


息。


吸う。


そして。


アカペラ。


静かに。


「渡良瀬橋で見る夕日を――」


麻衣。


顔。


上げる。


萌音。


詩織。


見る。


すみれ。


黙る。


伴奏。


ない。


マイク。


ない。


照明。


ない。


拍手する客席。


ない。


あるのは。


川。


橋。


夕暮れ。


風。


そして。


藤原詩織の声。


いつもの。


「お水どこぉ」


とは。


違う。


透き通る。


柔らかい。


でも。


芯。


ある。


歌姫。


夕陽に照らされた渡良瀬川の水面へ。


声が。


すっと。


広がっていく。


川向こう。


街。


ゆっくり。


夜へ。


変わる。


誰も。


しゃべらない。


曲。


知らない世代でも。


景色と。


声。


それだけで。


聞いていられる。


麻衣。


静か。


萌音。


静か。


そして。


いつも強気なすみれコーチまで。


静か。


曲。


終わる。


少し。


長い。


沈黙。


川。


流れる。


夕日。


残る。


すみれ。


ようやく。


口。


開く。


「……やっぱ、お前の歌はすげえな」


詩織。


振り向く。


「ありがとぉ」


すみれ。


続ける。


「歌だけはな」


詩織。


「“だけ”って何ぃ!?」


麻衣。


吹き出す。


萌音。


笑う。


すみれ。


笑う。


静かだった空気が。


少し。


いつもの四人へ戻る。


それでも。


詩織。


もう一度。


川。


見る。


「夕陽、綺麗だねぇ」


麻衣。


「はい」


萌音。


「すごく」


渡良瀬川。


夕暮れ。


橋。


街。


四人。


シルエット。


今日。


子どもたち。


笑った。


すみれ。


育てた三人。


成長。


見た。


麻衣。


免許皆伝。


そして。


歌姫。


何もない川辺で。


一曲。


歌った。


それだけで。


完璧な一日の終わり。


夕陽がきれいな街。


足利。


空。


少しずつ。


青。


紫。


変わっていった。


そして。


帰り。


足利市駅。


りょうもう号。


三人。


並ぶ。


席。


手。


黄色い紙パック。


栃木県では。


妙に有名。


レモン色。


レモン風味。


でも。


果汁入りレモンジュースとは違う。


甘い。


どこか懐かしい。


ミルク系飲料。


詩織。


ストロー。


ちゅー。


「おいしいぃ」


萌音。


窓。


見る。


「足利、よかったね」


麻衣。


頷く。


「栃木県って、いいところですね」


詩織。


「うん。ご飯おいしかったしぃ」


萌音。


「川も綺麗だった」


詩織。


「また来たいなぁ」


三人。


紙パック。


小さく。


合わせる。


乾杯。


みたいに。


「栃木県、いいところだね」


彼女たち。


知らない。


開催前。


隼人補佐官が。


珍しく。


本気で怒ったこと。


栃木市担当職員が。


何度も。


頭を下げたこと。


新市長が。


何を言ったか。


知らない。


そして。


知らなくていい。


三人にとって。


今日の栃木県は。


笑ってくれた。


足利の子どもたち。


ノリノリでエビとカニを踊った。


すみれコーチ。


変わったシュウマイ。


ポテト入り焼きそば。


渡良瀬川。


夕日。


そして。


レモン牛乳。


全部。


いい思い出。


同じ頃。


ヒロ室。


隼人補佐官。


精算書。


見る。


当初予算。


変更後予算。


地元ガス会社追加協賛。


ステージ費。


工作材料費。


運営費。


最終。


黒字。


隼人。


にっこり。


見事な。


えびす顔。


遥室長。


横。


「隼人くん、今すっごく幸せそうだね」


「追加協賛のおかげで、十分な内容を確保した上で予算内に収まりました」


「栃木市の件は?」


笑顔。


少し。


消える。


「市長については、今でも全く理解できません」


「やっぱり根に持ってる」


「当然です」


でも。


もう。


公演。


終わった。


足利の子どもたち。


笑った。


三人も。


楽しんだ。


スポンサーも。


満足。


すみれコーチも。


満足。


隼人。


予算。


満足。


結果。


大成功。


遥。


笑う。


「まあ、怪我の功名ってやつだね」


隼人。


再び。


予算書。


見る。


えびす顔。


「……そういうことにしておきましょう」


そして。


夜の線路。


りょうもう号。


東京へ。


静かに。


走る。


車窓。


遠ざかる。


栃木の街。


詩織。


レモン牛乳。


最後。


一口。


「また栃木県で公演したいなぁ」


麻衣。


「したいですね」


萌音。


「次はどこかな」


三人。


知らない。


だからこそ。


その言葉は。


純粋だった。


誰か一人の判断が。


街のすべてではない。


栃木市には。


美しい蔵の街並みがある。


足利市には。


織物の歴史と。


渡良瀬川の夕日がある。


そこに暮らす人たちがいる。


子どもたちがいる。


ぽかぽかトリオが覚えて帰った栃木県は。


ちゃんと。


素敵な場所だった。


窓の外。


最後の夕焼け。


少しだけ。


残っていた。

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