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ヒロインズ・リンク 〜戦隊ヒロインプロジェクト〜  作者: スパイク


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1199/1272

テレビのお姉さん、裏では別人!?――ぽかぽかトリオ「のびのびきょうしつ」出演、カメラが回れば全員いい子!

神奈川県。


横浜市内に本社を置く県域テレビ局。


全国ネットのキー局ほど巨大ではない。


しかし神奈川県民にとっては、夕方のニュース、地元スポーツ、高校野球、自治体情報、昔から続くローカル番組などで妙に馴染み深い存在である。


その局には、長年ひっそりと続いている教育番組があった。


題して――。


『のびのびきょうしつ』。


主な対象は、県内の特別支援学校小学部などに通う児童。


毎回扱う内容は。


「赤いものを探してみよう」


「大きい音と小さい音を聞いてみよう」


「右と左へ身体を動かしてみよう」


「紙を折ってみよう」


「順番に並んでみよう」


実に素朴。


非常にゆっくり。


一般の大人が何となく見ると、


「ずいぶん簡単な番組だな」


と思ってしまう。


だが。


それは。


わざとだった。


言葉を短く。


一度に出す指示は一つ。


同じことを何度か繰り返す。


大きな絵。


実物。


分かりやすい色。


失敗しても急かさない。


答えが出なくても待つ。


「できる子を見せる番組」ではない。


「やってみようと思える番組」。


それが『のびのびきょうしつ』だった。


番組の顔は二人。


一人。


名前はない。


番組ではただ。


「お姉さん」


と呼ばれている。


三十歳前後。


柔らかな顔立ち。


淡い色のブラウス。


膝丈スカート。


優しいメイク。


優しい声。


優しい笑顔。


子どもが失敗すれば、


「大丈夫だよ」


子どもが迷えば、


「ゆっくりでいいよ」


子どもが答えを間違えれば、


「そう思ったんだね。じゃあ、もう一回見てみようか」


まさに。


教育番組のお姉さん。


そしてもう一人。


パンダくん。


丸い頭。


黒い耳。


少し大きなお腹。


着ぐるみ。


しゃべる。


非常によくしゃべる。


そして。


少し。


生意気。


「そんなのぼく知ってるよ!」


と言って。


間違える。


「ぼく一人でできるよ!」


と言って。


失敗する。


「お姉さん、そんなことも知らないの?」


と言った五秒後。


本人も知らない。


頭は。


あまり良くない。


しかし。


悪意。


ゼロ。


むしろ。


パンダくんが先に間違える。


パンダくんが先に失敗する。


だから。


番組を見ている子どもたちは。


「あ、間違えてもいいんだ」


と思える。


実は。


かなり計算されたキャラクターだった。


そんな『のびのびきょうしつ』から。


未就学児向け戦隊ヒロインユニット。


ぽかぽかトリオ


へ出演依頼。


白浜麻衣。


宮沢萌音。


藤原詩織。


三人。


新橋ヒロ室。


遥室長。


嬉しそう。


「これ、絶対三人に合うよ」


麻衣。


「有名な番組なんですか?」


遥。


「神奈川ではね」


萌音。


「私、見たことないです」


「萌音ちゃん埼玉だもんね」


詩織。


「わたしもぉ」


「詩織ちゃんは?」


「国立市」


東京都国立市。


神奈川県に比較的近い。


しかし。


県域放送。


県境。


越えない。


遥。


「そりゃ知らないか」


そこで。


神奈川県民ヒロインへ聞き込み。


まず。


麻衣。


平塚美波。


「美波さん、『のびのびきょうしつ』って知ってます?」


美波。


「おぉ」


即答。


「出るんだ?」


「はい」


「いいじゃん」


「そんなに有名なんですか?」


「まあ神奈川県民なら知ってる奴多いべ」


「どんな番組です?」


美波。


少し考える。


「人畜無害」


麻衣。


「……褒めてます?」


「褒めてる褒めてる」


「本当に?」


「あんたらぽかぽかトリオには最も相応しいんじゃねーの。平和だし、子ども向けだし、誰も傷つかねえし」


「それは……ありがとうございます」


「パンダくんによろしく言っといて」


「お知り合いなんですか?」


「知らねえよ」


次。


詩織。


水無瀬澪。


「澪ちゃぁん」


「何?」


「『のびのびきょうしつ』って知ってるぅ?」


「知ってるよ」


「どんな番組?」


澪。


詩織を見る。


一秒。


二秒。


「詩織さん、パンダくんと相性良さそう」


詩織。


ぱあっ。


「ほんとぉ?」


「うん」


「どうして?」


澪。


平坦。


「かなり話合うと思う」


「楽しみぃ」


「よかったね」


詩織。


にこにこ。


澪。


無表情。


意味。


世間知らず。


天然。


ちょっとドジ。


対するパンダ。


知ったかぶり。


単純。


ちょっと頭が弱い。


要するに。


同類。


だが。


詩織。


一切気づかない。


「澪ちゃん、パンダくんのこと詳しいんだねぇ」


「まあ、そういうことでいいと思う」


詩織はさらに。


普段から仲のいい白石陽菜へ。


「陽菜ちゃぁん」


「はい」


「『のびのびきょうしつ』知ってる?」


陽菜。


「あ」


頷く。


「学校をお休みした時に見たことありますよ」


「ほんと?」


「はい」


「どんな感じ?」


陽菜。


上品に。


「とても優しい番組だったと思います」


「優しい?」


「子どもに早く答えを出させるのではなくて、一緒にゆっくり考えていく感じで」


「へぇ~」


「できる、できないを競わせないところも素敵だと思いました」


詩織。


感心。


「陽菜ちゃん、ちゃんと見てるねぇ」


そして。


思い出す。


「澪ちゃんからねぇ、“パンダくんと私、相性良さそう”って言われたんだけど」


陽菜。


「…………」


少し。


困る。


「あのパンダくんと?」


「うん」


陽菜。


眉。


ほんの少し。


動く。


「どうしてだろう……」


何となく。


分かる。


でも。


詩織本人へは。


言えない。


詩織。


「可愛いからかなぁ?」


陽菜。


微笑む。


「……きっと、そうですね」


優しい。


萌音。


南部沙羅。


「沙羅、『のびのびきょうしつ』って知ってる?」


「のびのびきょうしつ?」


数秒。


「ああ!」


思い出した。


「あのパンダ、たまにムカつくんだよね」


「教育番組のパンダにムカつかないでよ」


「だって毎回“ぼく知ってるよ!”って偉そうなのに、ほぼ間違えるじゃん!」


「そういう役なんでしょ」


「分かってるけど!」


そして。


沙羅。


想像。


「最後、あの『のびのび体操』やるの?」


「そうみたい」


沙羅。


一瞬。


ぽかぽかトリオ三人が。


ゆっくり。


腕。


上。


左右。


想像。


次の瞬間。


「あははははは!」


大爆笑。


萌音。


「そんな笑う?」


「だって三人があれやるんでしょ? ちょっとマジウケるんですけど~!」


「失礼だなぁ」


「でも似合う! 絶対似合う!」


ともあれ。


収録日。


県域テレビ局。


ぽかぽかトリオ。


到着。


まず。


出演者挨拶。


お姉さんの楽屋。


コンコン。


麻衣。


「失礼します」


扉。


開く。


三人。


止まる。


確かに。


映像で事前確認した。


あの。


優しい。


お姉さん。


だった。


顔。


柔らかい。


メイク。


清楚。


衣装。


淡いブルーのブラウス。


ベージュ系スカート。


ところが。


椅子。


深く腰掛け。


脚。


組む。


片手。


スマートフォン。


もう片方。


タバコ。


話し方。


完全に。


ギャル。


「うん。収録終わったら迎え来て」


三人。


「…………」


「時間? 予定通りテキトーに終わるっしょ」


麻衣。


瞬き。


萌音。


麻衣を見る。


詩織。


ただ。


困惑。


「晩ご飯? イタリアンがいい」


少し。


吸う。


「昨日和食だったじゃん」


間。


顔。


少し険しくなる。


「いや、今晩は絶対無理だから」


三人。


さらに。


気まずい。


「明日朝早いし。マジ無理。そこは諦めて」


詩織。


小声。


「何が無理なんだろぉ」


萌音。


「聞かなくていい」


そこで。


お姉さん。


三人に気づく。


「あ」


電話。


「じゃ後で」


切る。


タバコ。


灰皿。


「今日のゲスト?」


三人。


「はい!」


「あぁ。よろしくね」


麻衣。


「よろしくお願いします」


萌音。


「よろしくお願いします」


詩織。


「よろしくお願いしまぁす」


お姉さん。


軽く。


「あいよ」


麻衣。


真面目。


質問。


「今日の収録で、注意した方がいいことってありますか?」


「注意?」


「子どもたちとの接し方とか、番組ならではのこととか」


お姉さん。


少し。


考える。


「別にないよ」


麻衣。


「ないですか?」


「あんたら普段から子ども相手でしょ?」


「はい」


「そのままやればいいじゃん」


「はい」


そして。


ため息。


「こんなギャラ安い番組、テキトーにやっときゃいいのよ」


三人。


「…………」


さらに。


「どうせ誰も見てないし」


三人。


「…………」


詩織。


完全。


ショック。


事前映像。


あんなに。


優しかった。


次。


パンダくん。


その。


中の人。


スーツアクター。


三十代半ば。


短髪。


爽やか。


スポーツマン風。


「おっ!」


三人を見る。


「ぽかぽかトリオの皆さんですよね!」


三人。


「はい!」


「よろしくお願いします!」


握手。


こちら。


非常に。


感じがいい。


「今日結構パンダくんと絡むんで、先に注意点だけ説明しますね」


麻衣。


「お願いします!」


男性。


着ぐるみの頭。


持つ。


「まず、この人、正面しかほぼ見えてません」


詩織。


「この人?」


「パンダくん」


「あ」


「左右狭いです。後ろほぼゼロです」


萌音。


「そんなに?」


「なので後ろから急に肩叩かないでください」


「はい」


「物渡す時は、必ず一回正面で見せてください」


「子どもが急に抱きついてきても、慌てて剥がさず、僕が対応できない時はスタッフへ合図します」


「足元に小さい物置かないでください」


「僕が転んだ時は」


三人。


集中。


「本当に転んでる時と、演技で転んでる時があります」


萌音。


「見分け方あります?」


「ないです」


「えっ」


男性。


笑う。


「その時は雰囲気で」


麻衣。


「難しいですね」


「僕もたまに分かりません」


「本人なのに?」


笑い。


そこから。


世間話。


男性。


「うちの子も皆さん見てますよ」


三人。


「えっ?」


「もうすぐ二歳なんですけど」


麻衣。


「二歳!」


「最近ようやく三人のこと認識し始めて」


「本当ですか!」


「麻衣さん出ると身体動かします」


麻衣。


嬉しい。


「萌音さんが風船持つとテレビの前まで行きます」


萌音。


嬉しい。


「詩織さん歌うと静かになります」


詩織。


目。


潤む。


「うれしいぃ……」


完全。


感激。


そこで。


萌音。


少し小声。


「あの」


「はい」


「お姉さんって……」


男性。


表情。


ほとんど変わらない。


一言。


「あのお姉さん、プロ意識が強いよ」


三人。


「?」


「プロ意識?」


「うん」


それだけ。


いよいよ。


収録。


今回のテーマ。


『みて・きいて・つくって・うごいてみよう!』


ぽかぽかトリオ。


三人の得意分野。


全部。


入れる。


最初。


音。


次。


工作。


次。


身体。


最後。


体操。


参加児童。


数名。


スタッフ。


事前に。


子どもたち一人ひとりの注意点。


名前。


得意なこと。


苦手なこと。


突然大きな音が苦手な子。


初対面だと少し緊張する子。


言葉での返答に時間がかかる子。


それぞれ。


情報。


確認。


そこで。


麻衣。


気づく。


お姉さん。


さっきまで。


スマホ。


タバコ。


だった。


なのに。


台本。


見ている。


しかも。


子どもの名前。


メモ。


特徴。


全部。


細かい。


ディレクター。


「○○くん、今日は少し緊張してるみたいです」


お姉さん。


即答。


「じゃあ最初はこっちから質問振らない方がいいね」


「そうですね」


「自分から入ってきたら拾う」


「お願いします」


麻衣。


見る。


お姉さん。


さらに。


「△△ちゃん、急に触られるの苦手なんだよね?」


スタッフ。


「はい」


「じゃ私から手は出さない」


「お願いします」


「□□くんは?」


「好きな音が鳴ると前へ出ることがあります」


「じゃカメラ三、少し広めにしておいた方がいいんじゃない?」


ディレクター。


「あ、そうですね」


麻衣。


目。


少し。


変わる。


さっき。


「テキトーにやっときゃいい」


と言っていた人。


なのに。


子どもの情報。


全部。


頭に入れている。


AD。


「本番五秒前!」


お姉さん。


立つ。


さっきまでの顔。


まだ。


普通。


五。


四。


三。


二。


赤ランプ。


点灯。


瞬間。


変わった。


目。


柔らかい。


口元。


笑う。


肩。


力。


抜ける。


声。


一段。


明るい。


「みなさん、こんにちは~!」


麻衣。


一瞬。


本当に。


別人かと思った。


「今日ものびのび、いろんなことに挑戦してみましょうね」


パンダくん。


「ぼくは全部できるよ!」


お姉さん。


「本当かなぁ?」


「本当だよ!」


「じゃあ今日は、パンダくんにも頑張ってもらいましょう」


間。


絶妙。


子ども。


笑う。


そして。


さっき話題になった。


緊張している男の子。


お姉さん。


見ている。


でも。


絶対。


いきなり名前を呼ばない。


隣の子へ。


先に話を振る。


男の子。


様子。


見ている。


少し。


笑う。


お姉さん。


まだ。


待つ。


そして。


男の子が。


自分から。


パンダを見る。


指。


お姉さん。


その瞬間。


拾う。


「パンダくん、気になる?」


男の子。


小さく。


頷く。


「かわいいね」


それだけ。


追わない。


麻衣。


思う。


上手い。


ゲスト紹介。


「今日は、とっても素敵なお姉さんたちが遊びに来てくれました」


三人。


登場。


麻衣。


「体操のお姉さん、麻衣です!」


萌音。


「工作のお姉さん、萌音です!」


詩織。


「歌のお姉さん、詩織ですぅ」


パンダ。


詩織。


見る。


「詩織お姉さん、ぼくと似てるね!」


詩織。


素直。


「ほんとぉ?」


「うん!」


「うれしいぃ」


麻衣。


萌音。


目。


合わせる。


水無瀬澪。


恐るべし。


最初。


「音を聞いてみよう」。


詩織。


鈴。


チリン。


「どんな音かなぁ?」


子ども。


「高い!」


「そうだねぇ」


太鼓。


ドン。


パンダ。


「高い!」


お姉さん。


笑う。


「パンダくん、もう一回よーく聞いてみよう」


ドン。


「…………」


「低い!」


「そうだね」


パンダ。


「最初から分かってたよ」


お姉さん。


「はいはい」


子ども。


笑う。


次。


工作。


萌音。


紙コップ。


シール。


小さな材料。


簡単な手作り楽器。


萌音。


「好きな色使っていいよ」


子どもたち。


作る。


女の子。


シール。


剥がれない。


お姉さん。


横。


しゃがむ。


手。


出さない。


「ちょっと難しいね」


女の子。


続ける。


「ここ、指で押さえてみようか」


待つ。


女の子。


できる。


お姉さん。


「あ、取れたね」


笑う。


それだけ。


過剰。


褒めない。


別の男の子。


突然。


紙コップ。


床。


落とす。


お姉さん。


反射的に。


拾わない。


本人。


見ている。


男の子。


自分で拾う。


「ありがとう」


麻衣。


気づく。


全部、子どもが自分でできる余白を残している。


突然。


一人。


席。


立つ。


本来。


台本。


想定外。


スタッフ。


一瞬。


緊張。


しかし。


お姉さん。


全く。


顔。


変わらない。


「ちょっと歩きたくなったかな」


柔らかい。


カメラへ。


「みんなそれぞれのペースで作ってみようね」


進行。


止めない。


子ども。


少し歩く。


スタッフ。


安全だけ確保。


しばらく。


戻る。


お姉さん。


何事もなかったように。


「おかえり」


それだけ。


麻衣。


かなり。


驚いている。


次。


体操。


麻衣。


「大きい音がしたら、大きく伸びるよ!」


ドン!


両手。


上。


「小さい音なら小さく!」


トン。


しゃがむ。


パンダ。


ドン!


伸びる。


伸びる。


伸びすぎ。


後ろ。


ゴロン。


麻衣。


「パンダくん!」


パンダ。


床。


「今のは芝居!」


萌音。


笑う。


見分け方はない。


その直後。


AD。


「はいカット!」


赤ランプ。


消える。


お姉さん。


瞬間。


「あっつ……」


顔。


元。


スタッフ。


「水です」


「ありがと」


ごく。


スマホ。


確認。


「既読ついてんじゃん」


詩織。


ぽかん。


数秒前まで。


「みんなのペースでいいんだよ」


今。


「既読ついてんじゃん」


同一人物。


理解不能。


ところが。


お姉さん。


スタッフへ。


「さっき○○くん、いい感じになってきてるから、次質問一本振っていいと思う」


ディレクター。


「はい」


「でも二択で」


「分かりました」


「あと、さっき立った子。次の体操入ったら多分自然に参加すると思うから、無理に席戻さなくていい」


「了解です」


そして。


スマホ。


「彼氏、着いたら連絡してって言ってるのに」


麻衣。


思う。


切り替えが怖い。


AD。


「再開しまーす!」


お姉さん。


スマホ。


置く。


二秒。


背筋。


顔。


声。


全部。


戻る。


赤ランプ。


「それじゃあ今度は、みんなで歌ってみましょう!」


麻衣。


その時。


完全に。


分かった。


パンダくんの中の男性。


「あのお姉さん、プロ意識が強いよ」


あれ。


皮肉。


ではない。


本気。


だった。


彼女は。


決して。


仕事そのものを神聖視しているわけではない。


ギャラ。


安い。


と愚痴る。


早く帰りたい。


彼氏。


会いたい。


タバコ。


吸う。


言葉遣い。


荒い。


だが。


本番へ持ち込まない。


一切。


子どもへ。


ぶつけない。


「こっちは仕事なんだから早くして」


という空気。


ゼロ。


カメラが回っている時だけではない。


本番直前。


子どもの状態。


覚える。


スタッフへ。


確認。


立ち位置。


安全。


確認。


その上で。


画面上。


何もしていないように。


自然。


完璧。


次。


詩織。


歌。


パンダ。


「ぼくも歌なら何でも歌えるよ!」


詩織。


「ほんとぉ?」


「演歌!」


「歌えるぅ」


「民謡!」


「歌えるよぉ」


「ロック!」


「歌えるぅ」


パンダ。


考える。


「パンダの歌!」


詩織。


考える。


「知らないぃ」


パンダ。


「ぼくも知らない!」


二人。


「えへへ」


麻衣。


「…………」


萌音。


「…………」


お姉さん。


完璧な笑顔。


「二人、とっても気が合ったみたいですね」


麻衣。


思う。


本当に気が合っている。


澪。


失礼。


だが。


正しい。


歌。


途中。


参加児童。


一人。


違う歌詞。


大きな声。


詩織。


一瞬。


そちらを見る。


お姉さん。


すぐ。


笑顔。


「素敵な歌になったね」


その一言。


「間違い」


にしない。


詩織。


合わせる。


少し。


即興。


歌。


戻す。


お姉さん。


頷く。


麻衣。


また。


感心。


予定外。


全て。


子ども側の失敗に見せない。


お姉さん。


自分で。


受ける。


最後。


恒例。


のびのび体操。


お姉さん。


「それでは最後は、みんなでのびのび体操です!」


曲。


神奈川県民。


耳。


馴染み。


他県組。


初体験。


麻衣。


一回見ただけ。


ほぼ完璧。


両手。


上。


「のびのび~!」


左右。


「ゆらゆら~!」


しゃがむ。


立つ。


深呼吸。


パンダ。


一人。


逆。


麻衣。


「パンダくん、反対だよ!」


パンダ。


「ぼくの右はこっち!」


「それ左!」


「じゃあテレビが反対なんだよ!」


お姉さん。


笑顔。


「テレビのせいにしないの」


子ども。


爆笑。


そして。


詩織。


パンダ。


同じ方向。


麻衣。


「詩織さんも逆です!」


「えっ?」


パンダ。


「詩織お姉さん、こっちだよ!」


「ほんとだぁ!」


麻衣。


「二人で間違えないでください!」


萌音。


笑う。


お姉さん。


笑う。


子ども。


笑う。


最後。


みんな。


両手。


大きく。


「のびのびー!」


ディレクター。


「はい!」


一瞬。


間。


「OKです! お疲れさまでした!」


赤ランプ。


消える。


お姉さん。


「お疲れー」


一秒。


戻る。


スマホ。


見る。


「来てるわ」


バッグ。


持つ。


コート。


着る。


その時。


スタッフ。


「あ、お姉さん」


「何?」


「さっき□□ちゃんのところ、助かりました」


「ああ。別に」


「予定よりかなり巻けました」


「巻くために急かしたらこの番組の意味ないでしょ」


麻衣。


聞く。


お姉さん。


さらっと。


「こっちが待つ番組なんだから、待てばいいのよ」


言い方。


ぶっきらぼう。


でも。


内容。


極めて。


真っ当。


そして。


三人へ。


「今日ありがと」


三人。


「ありがとうございました!」


「三人とも上手かったよ」


麻衣。


「ありがとうございます」


萌音。


「ありがとうございました」


詩織。


「ありがとうございましたぁ」


お姉さん。


時計。


見る。


「じゃ、お先。彼氏待ってるから」


足早。


去る。


スタッフ。


「お疲れさまでしたー!」


姿。


消える。


詩織。


「…………」


萌音。


「行っちゃったね」


麻衣。


笑う。


「すごい人でした」


萌音。


「うん」


詩織。


「え?」


麻衣。


「本番、完璧でした」


「子どものこともちゃんと見てました」


「それに、カメラが止まってる時も、次にどう接するか考えてた」


萌音。


頷く。


「私、社会勉強になったなぁ」


「普段どんな感じの人かと、仕事ができるかって、別なんだね」


麻衣。


「私も勉強になりました」


詩織。


まだ。


混乱。


「でもぉ……」


「はい?」


「あんなに優しいお姉さんが?」


萌音。


「うん」


「楽屋だとあんな感じでぇ?」


「そう」


「でも子どもにはすごく優しくてぇ?」


「そう」


詩織。


眉。


下がる。


「どっちが本当のお姉さんなのぉ?」


麻衣。


少し。


考える。


「両方なんじゃないですか?」


「両方?」


「仕事の時は、ちゃんと子どもたちが安心できるお姉さんになる」


「でもぉ、普段は?」


萌音。


笑う。


「普段は普段なんじゃない?」


詩織。


「…………」


理解。


していない。


そこへ。


パンダくん。


頭。


外した。


スーツアクター。


「お疲れさまでした!」


三人。


「お疲れさまでした!」


麻衣。


男性。


見る。


「分かりました」


「何が?」


「“あのお姉さん、プロ意識が強い”って意味」


男性。


笑う。


「でしょ?」


麻衣。


「すごかったです」


「うん」


男性。


少しだけ。


真面目。


「あの人ね、何年やっても、子どもの前で機嫌悪い顔したこと一回もないんですよ」


麻衣。


「一回も?」


「僕が知ってる限りは」


萌音。


「すごい」


「寝不足でも、プライベートで揉めてても、直前まで局に文句言ってても」


「文句は言うんですね」


「めちゃくちゃ言います」


笑い。


「でも本番始まったら絶対持ち込まない」


麻衣。


静か。


聞く。


「プロですよ」


そして。


男性。


笑う。


「ちなみに、うちの子には、お姉さんの楽屋の姿は見せたくないです」


三人。


吹き出す。


詩織。


「何でぇ?」


男性。


麻衣と萌音。


見る。


「……まあ、いつか分かります」


詩織。


「?」


帰り。


局舎。


出る。


夕方。


三人。


歩く。


麻衣。


少し。


考えている。


萌音。


「麻衣、静かだね」


「うん」


「何考えてるの?」


麻衣。


「先生になったら、毎日元気な日ばかりじゃないんだろうなって」


萌音。


聞く。


「嫌なことあった日も」


「眠い日も」


「ちょっと落ち込んでる日も」


「子どもの前では安心できる先生でいないといけないんだなって」


萌音。


「お姉さん見て?」


「うん」


「意外なところから勉強したね」


「本当に」


詩織。


横。


にこにこ。


「パンダくん、楽しかったぁ」


二人。


見る。


萌音。


「そっちなんだ」


「澪ちゃんの言った通りだったよぉ」


麻衣。


「相性良かったですね」


「すっごく話合ったぁ」


萌音。


「うん」


詩織。


嬉しそう。


「澪ちゃん、見る目あるねぇ」


麻衣。


萌音。


「…………」


詩織。


「?」


本人だけ。


最後まで。


水無瀬澪に。


頭の弱いパンダくんと同類認定されていたことに気づかなかった。


数週間後。


放送。


神奈川県。


テレビ。


優しい音楽。


お姉さん。


満面。


笑顔。


「みなさん、こんにちは~!」


パンダ。


「ぼくは何でもできるよ!」


麻衣。


踊る。


萌音。


作る。


詩織。


歌う。


子どもたち。


笑う。


最後。


全員。


「のびのびー!」


番組。


終了。


神奈川県民。


「あ、ぽかぽかトリオ出てたんだ」


東京都国立市。


詩織の知人。


そもそも。


放送されていない。


全国。


ほとんど。


誰も知らない。


だが。


それでいい。


派手な番組ではない。


全国的な人気番組でもない。


予算だって。


お姉さん曰く。


安い。


それでも。


必要としている子どもたちへ。


毎回。


毎回。


「ゆっくりでいい」


「間違えてもいい」


「やってみよう」


と伝えている。


そして。


画面の中。


いつもの。


優しいお姉さん。


その数時間後。


彼女が彼氏とイタリアンを食べながら。


「今日もパンダがアホだった」


などと話していたかどうかは。


ぽかぽかトリオの三人には。


知る由もなかった。


ただし。


白浜麻衣だけは。


以後。


『のびのびきょうしつ』を見るたびに。


少し。


姿勢を正す。


画面の向こう。


柔らかく笑うお姉さんを見ると。


思うのだ。


優しい人だから、優しいお姉さんができるとは限らない。


けれど、子どもの前で優しいお姉さんであり続けることも、立派なプロの仕事なのだ。


そして。


隣で見ていた詩織。


テレビ。


パンダくん。


指差す。


「あっ、わたしのお友達ぃ」


麻衣。


「お友達になったんですか?」


「うん!」


萌音。


横。


小声。


「やっぱり澪、正しかったね」


麻衣。


堪えきれず。


笑った。

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