パンフレットだけ株主総会!?――水の都でエビ!カニ! ぽかぽかトリオ大垣公演、昭和な専務パパまで踊った日
岐阜県大垣市。
水の都。
豊かな地下水。
街を流れる水路。
夏になれば、冷たい水に浮かぶ涼しげな水まんじゅう。
そして、かつて松尾芭蕉が長い旅を結んだ『奥の細道』の結びの地。
西美濃の中心都市として栄え、歴史と水と人の暮らしが近い距離で重なり合う街である。
そして、この世界の大垣にはもう一つ。
全国を走る物流の象徴がある。
濃尾運輸。
跳ねるカンガルーのマークを大きく掲げたトラック。
北海道から九州まで。
高速道路。
国道。
工業団地。
物流センター。
街の配送拠点。
全国各地でその姿を見ることができる大手総合物流企業だ。
特に東海地方での存在感は圧倒的。
企業間物流。
倉庫。
長距離輸送。
工場物流。
全国の産業と暮らしを、目立たないところから動かしている。
強豪社会人野球部も持つ。
そして。
戦隊ヒロインプロジェクトが掲げる、
健全な青少年育成。
地域振興。
地域の安全。
災害時支援。
そうした理念にも賛同。
地方公演の機材輸送。
イベント用資材。
災害支援物資。
全国を股にかけるヒロインたちの活動を、物流の側から支えてきた。
そんな濃尾運輸のお膝元。
大垣市民ホール。
朝。
正面玄関。
大きな看板。
『濃尾運輸プレゼンツ ぽかぽかトリオとあそぼう! 水の都おおがき・にこにこステージ』
水色。
黄色。
ピンク。
丸文字。
風船。
虹。
音符。
動物。
花。
三人のお姉さんの大きな笑顔。
会場には、既に小さな子どもを連れた家族が次々と集まっていた。
「麻衣お姉さんいるかな?」
「詩織お姉さんの歌聞く!」
「風船作る!」
朝から。
大人気。
ぽかぽかトリオ。
全国各地の幼稚園。
保育園。
児童館。
ショッピングモール。
自治体イベント。
子ども向けフェス。
どこへ行っても呼ばれる。
体操のお姉さん。
白浜麻衣。
工作のお姉さん。
宮沢萌音。
歌のお姉さん。
藤原詩織。
三人とも。
品行方正。
子どもに優しい。
スタッフにも丁寧。
遅刻しない。
悪ノリしない。
酒で揉めない。
そして。
三人揃うと。
姉妹のように仲が良い。
ただし。
その姉妹関係には一つ重大な欠陥があった。
最年長。
藤原詩織。
長身。
北欧系クオーターの整った顔立ち。
父は世界的指揮者。
歌えば天使のような声。
見た目だけなら、誰が見ても三人の長女。
なのに。
控室。
「麻衣ちゃぁん……」
麻衣、
「はい?」
詩織、
「名札どこぉ?」
麻衣、
「胸についてます」
詩織、
「……あったぁ」
萌音、
「朝から飛ばしてるね」
詩織、
「だって緊張してるんだもん」
麻衣、
「いつもの公演ですよ」
「でも大垣初めてぇ」
「大丈夫です」
麻衣は笑う。
麻衣。
三人の最年少。
小柄。
童顔。
私服なら中学生に間違えられることすらある。
和歌山県在住。
ダンスが得意。
異名。
紀州の舞姫。
そして。
本気で幼稚園教諭を目指している。
三人の中では。
圧倒的に。
一番しっかり者。
萌音はその中間。
埼玉県飯能市出身。
北欧童話の世界をイメージした大型テーマパークでアルバイト。
手先が器用。
バルーンアート。
工作。
細かな作業。
全部得意。
詩織、
「萌音ちゃぁん、お水どこぉ?」
萌音、
「詩織さんの左」
「こっち?」
「逆」
「こっちぃ?」
「それ」
「あったぁ」
麻衣、
「本当に最年長ですか?」
「最年長だよぉ」
そこへ。
控室のドア。
ガチャ。
「お疲れさまー!」
一人の少女。
伊吹真白。
大垣出身。
戦隊ヒロイン最年少組。
麻衣とは同い年。
顔立ちは色白で儚げ。
少し陰のある、薄幸の美少女風。
ぱっと見れば。
重い荷物など持たせてはいけなさそう。
ところが。
仕事。
大型トラックドライバー。
濃尾運輸。
毎日。
大型車。
荷物。
物流現場。
結果。
上半身は細身。
しかし腰から下。
どっしり。
安定。
強い。
戦闘になっても押し負けにくい。
見た目とのギャップが激しい。
萌音、
「真白ちゃん!」
麻衣、
「今日は出ないんですよね?」
真白。
胸を張る。
「今日は演者やないよ。会社側の手伝いやよ」
濃尾運輸グループのスタッフジャンパー。
社員証。
無線。
クリップボード。
完全に仕事モード。
詩織、
「真白ちゃん、会社の人だぁ」
真白、
「会社員やでね」
その一言。
妙にリアル。
真白は搬入された荷物を見る。
萌音用。
風船。
工作材料。
麻衣用。
運動用品。
詩織用。
音響関係。
真白。
「この箱、上に積んだらあかんよ」
スタッフ、
「はい」
「帰りに先に出すやつは、こっち置いといた方がええね」
「了解です」
萌音。
感心。
「真白ちゃん、急にプロだね」
「急にやないって。本職やって」
麻衣、
「格好いいです」
真白。
ちょっと照れる。
そして。
テーブル。
公演パンフレット。
真白、
「これ見た?」
萌音、
「見た」
表紙。
ぽかぽかトリオ。
三人。
満面の笑顔。
水色の背景。
雲。
虹。
ハート。
子ども向けの丸文字。
ページ。
「麻衣お姉さんと元気に踊ろう!」
「萌音お姉さんと楽しく作ろう!」
「詩織お姉さんと一緒に歌おう!」
さらに。
親子向け案内。
トイレ。
休憩。
写真撮影。
全部かわいい。
そして。
次のページ。
突然。
濃紺。
三人、
「…………」
写真。
七三分け。
銀縁眼鏡。
仕立ての良いスーツ。
真っ白なカッターシャツ。
高級そうなネクタイ。
真顔。
肩書き。
**濃尾ロジスティクス株式会社
代表取締役専務 伊吹正隆**
真白の父。
その横。
「保護者の皆様へ」
びっしり。
文字。
萌音、
「ここだけ株主総会みたい」
麻衣、
「すごく丁寧な文章ですね」
詩織、
「いっぱい書いてあるねぇ……」
真白、
「読んだ?」
三人、
「…………」
真白、
「読んどらんやろ?」
麻衣、
「最初は読みました」
「最初は?」
萌音、
「“総合物流企業としての社会的使命”のあたりまでは」
「そこ結構最初やよ」
詩織、
「写真はちゃんと見たよぉ」
真白、
「文章読んで!」
パンフレット。
そこには。
こう書かれていた。
本日は「濃尾運輸プレゼンツ ぽかぽかトリオとあそぼう! 水の都おおがき・にこにこステージ」にご来場賜り、誠にありがとうございます。
濃尾運輸グループは、総合物流企業として、人々の暮らしと産業を支える物流ネットワークの安定的な維持・発展を社会的使命の一つと認識し、安全・安心を最優先とした輸送品質の向上に努めております。
また、持続可能な社会の実現に向け、環境負荷の低減、物流効率化、地域社会との共生、次世代を担う人材の育成など、SDGsの理念にも配慮した各種取り組みを推進しております。
とりわけ、未来を担う子どもたちが心身ともに健やかに成長し、自ら考え、他者を思いやり、社会の一員として豊かな人生を歩むことのできる環境づくりは、企業としても大切な社会的責任であると考えております。
このたび弊社グループは、健全な青少年育成、地域社会の安全・安心、地域文化の振興を活動理念に掲げる戦隊ヒロインプロジェクトの趣旨に深く賛同し、その活動の一環である「ぽかぽかトリオ」大垣公演へ特別協賛させていただく運びとなりました。
歌、運動、創作活動などを通じ、お子様方が自由に身体を動かし、自ら考え、表現し、何より心から「楽しい」と感じていただくことが、未来へ向けた健やかな成長の一助となれば、これに勝る喜びはございません。
本日の公演が、お子様ならびに保護者の皆様にとりまして、温かく心に残るひとときとなりますことを祈念申し上げますとともに、今後とも濃尾運輸グループの事業活動ならびに地域社会への取り組みに、ご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。
末筆ながら、ご来場いただきました皆様のご健勝と、お子様方の健やかなご成長を心よりお祈り申し上げ、ご挨拶とさせていただきます。
麻衣、
「立派ですね」
萌音、
「立派なんだけどね」
反対ページ。
黄色。
ピンク。
巨大な文字。
「みんなでげんきにおどろう!」
萌音、
「落差がすごい」
真白、
「お父さん、“かなり柔らかく書いた”って言っとったよ」
三人、
「…………」
麻衣、
「これで?」
真白、
「これで」
その時。
ノック。
全員。
振り向く。
「失礼いたします」
本人。
伊吹正隆。
パンフレットの写真が。
歩いてきた。
萌音、小声。
「本当に写真のままだ」
詩織、
「パンフレットから出てきたぁ」
真白、
「聞こえるって」
正隆。
七三分け。
銀縁眼鏡。
濃紺の仕立ての良いスーツ。
白いシャツ。
高級ネクタイ。
磨かれた革靴。
完全に。
昭和の取締役。
しかし。
表情。
穏やか。
三人へ。
深々。
「白浜さん、宮沢さん、藤原さん。本日は遠路、大垣までお越しいただき、誠にありがとうございます」
三人、
「こちらこそありがとうございます!」
「午前、午後とも、多くのお子様方が皆様のステージを楽しみにしております。本日はどうか、よろしくお願いいたします」
また。
深々。
麻衣、
「精一杯頑張ります!」
萌音、
「よろしくお願いします」
詩織、
「よろしくお願いしまぁす」
真白。
父を見る。
「お父さん、固いって」
正隆、
「何がだ?」
「全部」
「普通に挨拶しただけだが」
「普通の挨拶で“遠路お越しいただき誠に”から入らんよ」
正隆。
少し考える。
「そうか?」
真白、
「そうやよ」
麻衣。
笑いを堪える。
午前。
第一公演。
場内。
満員。
小さな子ども。
保護者。
祖父母。
会場スタッフ。
濃尾運輸の社員。
開演。
明るい音楽。
麻衣。
飛び出す。
「大垣のみんなー! こんにちはー!」
子どもたち。
「こんにちはー!」
「元気ー!?」
「げんきー!」
麻衣。
笑顔。
「今日はいっぱい身体動かすよー!」
まずは。
体操。
腕。
上。
横。
ジャンプ。
足踏み。
簡単。
でも。
麻衣がやると。
美しい。
紀州の舞姫。
さすが。
動き。
大きい。
切れ。
いい。
しかし。
子どもに完璧を求めない。
右。
左。
逆。
勝手に回る。
途中でしゃがむ。
一人。
なぜかジャンプだけ延々。
麻衣。
全部。
笑顔。
「いいよー!」
「いっぱい動けてるねー!」
前列。
三歳くらい。
全く違う踊り。
麻衣。
「それもかっこいい!」
母親。
笑う。
次。
萌音。
「こんにちはー!」
「こんにちはー!」
細い風船。
ぷー。
長い。
くる。
ひねる。
子ども。
「なにー?」
萌音、
「何になるかな?」
くる。
くる。
犬。
「わあ!」
次。
花。
次。
剣。
拍手。
そして。
簡単工作。
紙。
シール。
色。
子ども。
思い思い。
萌音、
「お手本と同じじゃなくていいからねー。好きなの作ってね」
袖。
真白。
スタッフ姿。
子どもの作品を見る。
車。
「お」
どう見ても。
トラック。
真白。
ちょっと嬉しい。
続いて。
歌。
藤原詩織。
ステージ中央。
さっきまで。
「緊張するぅ」
と言っていた女性。
マイク。
音。
一瞬。
空気。
変わる。
澄んだ声。
柔らかい。
優しい。
高音。
伸びる。
子ども向けの歌。
季節の歌。
みんなで歌える歌。
小さな子どもも。
つられて声を出す。
最後。
詩織。
「みんな、ありがとぉ~!」
拍手。
袖。
戻る。
「麻衣ちゃぁん」
「何ですか?」
「お水ぅ」
「そこです」
「あったぁ」
真白、
「舞台上と舞台裏で別人やな」
萌音、
「いつものこと」
そして。
最後。
全員参加。
小さな子どもたちにはお馴染み。
エビとカニという二種類の海の生き物をモチーフに。
両手をチョキ。
横へ。
前へ。
身体いっぱい跳ねる。
小さな子から。
大人まで。
すぐ真似できる。
保育の現場では定番中の定番。
愉快で。
覚えやすく。
老若男女関係なし。
麻衣、
「最後はお父さんもお母さんも一緒に踊りまーす!」
音楽。
麻衣。
「エビ!」
子ども。
「エビ!」
萌音。
「カニ!」
「カニ!」
詩織。
歌いながら。
「エビ~!」
「エビ!」
麻衣。
「カニ!」
「カニ!」
客席。
立つ。
父。
母。
祖母。
祖父。
みんな。
チョキ。
踊る。
真白。
スタッフなのに。
後方。
普通に踊る。
「エビ!」
「カニ!」
そして。
スポンサー席。
伊吹正隆。
座っている。
真白。
発見。
「お父さーん!」
正隆。
聞こえないふり。
「お父さんも踊りゃあ!」
首。
横。
拒否。
真白。
「えー!」
正隆。
拍手だけ。
麻衣。
「最後ー!」
「エビ!」
「エビ!」
「カニ!」
「カニ!」
第一公演。
大成功。
控室。
真白、
「お父さん、何で踊らんかったの?」
正隆、
「私は協賛企業の責任者として来ているんだ」
「責任者は踊ったらあかんの?」
「そういう問題ではない」
「恥ずかしかっただけやろ」
正隆。
沈黙。
真白、
「あ、図星」
「真白」
「はいはい」
午後。
第二公演。
また。
満員。
一回目。
大成功。
二回目。
さらに。
子ども。
元気。
麻衣、
「こんにちはー!」
「こんにちはー!」
一回目より。
声。
デカい。
麻衣。
笑う。
「元気すぎー!」
体操。
ジャンプ。
工作。
午後。
自由度。
高い。
萌音。
男の子。
「これ何作ったの?」
「トラック!」
真白。
舞台袖。
反応。
「おっ!」
男の子。
「カンガルーもいる!」
真白、
「ええやん!」
最後列。
正隆。
聞こえた。
少し。
胸張る。
歌。
詩織。
午後も。
完璧。
ただし。
舞台袖。
また。
「お水ぅ」
麻衣、
「そこです」
同じ。
そして。
最後。
また。
あの曲。
麻衣。
「みんなー! 最後は一緒に踊るよー!」
子ども。
歓声。
音楽。
「エビ!」
「エビ!」
「カニ!」
「カニ!」
会場。
総立ち。
真白。
また踊る。
スポンサー席。
伊吹正隆。
座る。
一回目と同じ。
はずだった。
前方。
幼い女の子。
正隆を見る。
指。
「おじちゃんも!」
正隆、
「…………」
女の子。
両手。
チョキ。
「エビ!」
正隆、
「…………」
真白。
振り返る。
父。
見る。
顔。
にやり。
「お父さん」
正隆。
目。
逸らす。
「私は――」
女の子。
「エビ!」
周囲。
笑う。
真白、
「もう諦めゃあ」
正隆。
ため息。
立つ。
濃紺スーツ。
白シャツ。
高級ネクタイ。
七三分け。
銀縁眼鏡。
腕。
ゆっくり。
チョキ。
小さい声。
「……エビ」
真白、
「聞こえん!」
正隆、
「真白」
子ども。
「エビー!」
正隆。
観念。
腕。
少し大きく。
「エビ!」
拍手。
次。
ステージ。
萌音。
「カニ!」
会場。
「カニ!」
正隆。
チョキ。
「カニ!」
真白。
大笑い。
「踊っとるやん!」
正隆、
「うるさい」
でも。
笑っている。
麻衣。
正隆も見えている。
さらに。
煽る。
「もう一回いきまーす!」
正隆。
一瞬。
「まだあるのか」
真白、
「あるよ」
「エビ!」
「エビ!」
「カニ!」
「カニ!」
子ども。
保護者。
スタッフ。
戦隊ヒロイン。
物流会社専務。
全部。
同じ。
チョキ。
同じ。
笑顔。
第二公演。
大歓声。
終演。
控室。
三人。
椅子。
麻衣、
「楽しかったー!」
萌音、
「二回目すごかったね」
詩織、
「いっぱい歌ったぁ……」
麻衣、
「お疲れさまです」
詩織、
「もう動けなぁい」
萌音、
「さっきまで踊ってたでしょ」
ノック。
三人。
姿勢。
良くなる。
伊吹正隆。
入る。
そして。
深々。
「本日は素敵なステージを、本当にありがとうございました」
三人。
立つ。
「こちらこそありがとうございました!」
正隆、
「午前、午後ともに多くのお子様、保護者の皆様に喜んでいただき、協賛企業として大変嬉しく思っております」
少し。
声。
柔らかい。
「また、一人の大垣市民としても、素晴らしい時間をありがとうございました」
麻衣、
「こちらこそ!」
萌音、
「本当に楽しかったです」
詩織、
「ありがとうございましたぁ」
真白。
横。
「お父さんも楽しんどったやん」
正隆、
「……」
真白。
両手。
チョキ。
「エビ!」
正隆、
「真白」
「カニ!」
「真白」
麻衣。
笑う。
萌音。
笑う。
詩織。
笑う。
正隆。
諦める。
「……二回目は仕方なかったんだ」
真白、
「何が仕方なかったの」
「子どもに言われたからだ」
「子どもに弱いんやね」
正隆、
「悪いか」
真白。
一瞬。
そして。
笑う。
「別に」
正隆。
三人を見る。
「またぜひ、大垣へお越しください」
深々。
そして。
「それでは、若い皆さんでごゆっくり」
退室。
萌音。
扉。
見る。
「優しいお父さんだね」
真白、
「固いけどね」
詩織、
「エビも踊るしぃ」
真白、
「あれはかなり珍しいよ」
少しして。
真白。
大きな袋。
テーブル。
「ほんなら反省会しよまい!」
中。
大垣名物。
まず。
輪中の箱ずし。
水と共に暮らしてきた西美濃の輪中地域に伝わる郷土の味。
酢飯。
具。
箱へ詰め。
押す。
四角く。
昔ながら。
素朴。
でも。
しっかり。
真白、
「昔からこういうの食べるんやよ」
麻衣。
一口。
「おいしい!」
萌音、
「押し寿司みたいで食べやすいね」
次。
水まんじゅう。
水都・大垣。
夏の象徴。
透明感。
つるり。
冷たい。
中。
餡。
詩織。
一口。
目。
丸い。
「つるつるぅ……!」
麻衣、
「詩織さん、感想が子どもですよ」
「だってつるつるなんだもん」
次。
大垣ラムネ。
冷たい瓶。
ビー玉。
大垣の水。
爽やかな炭酸。
詩織。
開ける。
「…………」
力。
「できなぁい」
麻衣、
「貸してください」
ポン。
「はい」
詩織、
「ありがとぉ」
真白、
「麻衣と同い年やのに、完全に面倒見てもろとるな」
麻衣、
「いつものことです」
萌音、
「詩織さんが一番年上なんだけどね」
詩織、
「わたしだってお姉さんだよぉ」
三人。
沈黙。
詩織、
「何で黙るのぉ!」
四人。
大笑い。
そして。
反省会。
麻衣、
「午前は少し緊張してる子が多かったですね」
萌音、
「午後は工作が自由すぎた」
真白、
「トラック作った子ええなぁ」
麻衣、
「そこですか?」
「そこ大事やよ」
詩織、
「歌は二回ともいっぱい歌ってくれたぁ」
萌音、
「最後のダンス、一回目より二回目の方がすごかったね」
真白。
ニヤニヤ。
「お父さんおったでね」
麻衣、
「正隆さん、ちゃんとエビとカニやってましたね」
真白、
「あんなお父さん初めて見たわ」
詩織、
「可愛かったぁ」
真白、
「本人には言わん方がええよ」
萌音、
「何で?」
「多分二度と踊らんくなる」
麻衣、
「じゃあ秘密ですね」
そこから。
仕事。
終わり。
普通のガールズトーク。
萌音。
飯能のテーマパーク。
「この前、子どもが作った風船の犬を“ライオン”って言い張ってね」
麻衣、
「いいですね」
詩織、
「ライオンだったんだよぉ」
萌音、
「たぶんね」
麻衣。
幼稚園教諭。
「最近また実習の勉強増えました」
真白、
「先生なるんやろ?」
「はい」
「麻衣ならええ先生になると思うよ」
麻衣、
「ありがとうございます」
真白。
自分。
トラック。
「明後日は朝早いんやよ」
萌音、
「何時?」
「四時半」
三人、
「早っ!」
真白、
「物流やでね」
詩織、
「寝坊せんの?」
真白、
「詩織さんにだけは言われたない」
爆笑。
詩織、
「何でぇ?」
さらに。
家族。
仕事。
公演。
好きな食べ物。
最近あったこと。
他愛のない話。
酒。
ない。
無茶。
ない。
トラブル。
ない。
誰かが騒動。
起こさない。
遥室長が見たら。
きっと。
「こういうのでいいんだよ」
と言う。
けちのんが見たら。
経費精算の心配すらない。
品行方正。
四人。
水まんじゅう。
三つ目。
詩織。
麻衣、
「詩織さん、それ三個目です」
「いっぱい歌ったからぁ」
萌音、
「今日はいいんじゃない?」
真白、
「ええよ。大垣来たんやで、腹いっぱい食べてきゃあ」
詩織、
「わぁい!」
麻衣、
「甘やかす人がまた増えた……」
窓。
外。
夕方。
大垣。
水の都。
旅の結びの街。
物流の街。
そして。
今日。
そこへ。
ぽかぽかトリオが来た。
敵。
いない。
怪人。
いない。
戦闘。
ない。
救出作戦。
ない。
ただ。
歌った。
踊った。
作った。
笑った。
何百人もの子どもが笑った。
保護者も笑った。
スタッフも笑った。
そして。
昭和の取締役みたいな専務まで。
最後には。
両手をチョキにして。
「エビ!」
「カニ!」
と叫んだ。
それでいい。
戦隊ヒロインの仕事は。
悪と戦うことだけではない。
誰かを笑顔にする。
一緒に身体を動かす。
楽しい思い出を作る。
子どもが、
「また来てね」
と言って帰る。
それだって。
立派なヒロイン活動なのだから。
『濃尾運輸プレゼンツ ぽかぽかトリオとあそぼう! 水の都おおがき・にこにこステージ』
午前。
午後。
二回公演。
ともに。
大成功。
そして。
週明け。
濃尾ロジスティクス。
役員会議。
伊吹正隆専務。
いつもの七三分け。
銀縁眼鏡。
濃紺スーツ。
資料。
冷静。
「続きまして、次世代育成に係る地域貢献活動の実施結果についてご報告申し上げます」
真面目。
完璧。
誰が見ても。
立派な役員。
ただし。
会議室の外。
たまたま通りかかった真白だけは知っている。
この男が。
二日前。
何百人もの親子の前で。
両手をチョキにしながら。
結構大きな声で。
「エビ!」
「カニ!」
とやっていたことを。
真白。
扉の向こう。
小声。
「ふふっ」
正隆。
会議室から。
「……真白、そこにいるのか?」
真白。
「おらんよー!」
正隆、
「いるじゃないか!」
大垣の水のように。
穏やかで。
少しだけ可笑しい。
そんな一日だった。




